ネット投資家の参入による「新しい生態系」

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マクロミルのネット証券取引調査
本日の朝日新聞朝刊12面に「ネット株長者、道険し」という、マクロミルさんの調査による調査結果が載ってました。(以下、磯崎による要約。)

調査は20歳以上の5千人を対象にインターネット上で実施。
「ネット証券を利用している」と答えた人は全体の18.5%で
ネット以外の手段で株式を入手したとする15.1%を上回った。
現在株式を保有していない人のうち43.2%が株式投資に「興味がある」
その理由としては「インターネットなどで手軽に取引できそう」が68.4%で首位。
年代別のネット証券利用者は男性60代が29.8%で首位。
女性では50代の19.6%が最も多く、シニア世代へ浸透。
保有株式が「値上がりした」とする人は25.0%
「値下がりした」は52.3%

分母がネット利用者とはいえ、18.5%がネット証券を利用しているというのは驚きです。
ネット証券大手6社の口座数は、だいたい1社20万人〜50万人程度。相当程度重複があると考えられますが、市場全体で200万人としても、インターネット白書2004による日本のインターネット人口6,284万4千人(2004年2月末時点)との比率から比べると3%程度のはず。18.5%という数字は非常に高いですね。そもそも株に興味がある人が回答してるんでしょうね。同様に、「現在株式を保有していない人のうち43.2%が株式投資に興味がある」というのもかなり多めの数字でしょう。
年代別で3割が60代というのもすごいですね。実際のオンライン証券利用者の分布とはちょっとずれてる気がします。「時間に余裕のある」方が回答されたのかも知れません。
とすると、「値上がりした」25%、「値下がりした」52.3%というのも、全体のパフォーマンスの傾向を示しているのかどうか。当ブログにもみなさんからコメントもいただいてますが、ベンチマークをどうするかでパフォーマンスの評価も変わってきますので、普通のアンケートで聞くのは難しそうですね。少なくともインデックスに対しての上下の話ではないでしょうし、いつ投資したのか等、いろんな要因がからみますので。
株式投資のリスクは縮小したか
週刊ダイヤモンド今週号(2005/2/5号)の山崎元氏のコラム、「株式投資のリスクは縮小したのだろうか」(P63)によると、以下の通り、国内株のリスク(ボラティリティ)はかなり下がっているようです。
株以外の専門家の方のお話でも、最近は先進国のあらゆる市場でスプレッドが小さくなっているようで、そういう意味ではmake senceですね。(以下、磯崎による要約。)

山崎氏は、投資の初心者向けに株式投資のリスクを説明する場合、「投資信託のようによく分散投資されていれば、一年間で最悪三割の損がメド」「数銘柄程度の分散投資であれば、四割くらいの損がメド」と説明してきた。
最悪というのは、平均から2標準偏差マイナスを想定。

TOPIXは歴史的にはリスクが17〜22%くらい。
バブル崩壊前後のデータを含めると20%超。
厚生年金基金連合会の基本ポートフォリオは、国内株式について24%と大きめに推計。

ところが、日立製作所のRiskscopeという分析ソフトの最近のデータだと、TOPIXの推定リスクがやや長期のデータを含む週次モデルで11.85%、最近のデータが中心の日次モデルで推計したものだと、なんと9.56%まで下がってる。

原因として考えられるのは、一つは現在の東証1部の平均PERが20倍前後と納得しやすい水準で、業績も安定してきたこと。
もう一つは、デイトレーダー的な個人投資家の厚みが増したという要素が考えられる。リスクの推計を行っているプロのあいだでは、ネット投資家の参加が多い銘柄と少ない銘柄では値動きの癖、ひいてはリスクの大きさが違うことが指摘されており、これをどう分析に取り込むかが研究テーマになっている。

ちなみに、Riskscopeの週次モデルによる個別銘柄の推定リスクだと、
トヨタ自動車:21.9%
UFJ銀行:32.7%
であり、分散投資よりはリスクが高いが、従来の一銘柄のリスクより小さい。
トヨタ、セブンイレブン、武田薬品工業、3社の1000株づつのポートフォリオだと、15.8%。

山崎氏自身は、ホントに長期的にリスクが低下しているのかにはまだ懐疑的。

(山崎氏、いつの間にか肩書きが「楽天証券経済研究所客員研究員」になってらっしゃいます。)
さて、もしネット投資家の参加により株のボラティリティが下がっているという仮説が本当だとしたら、私が昨日申し上げた「ネット投資家は資本市場の”潤滑油”の役割を果たしているのではないか」というのもあたっていることになり、ネット投資家の行動は、マーケットに対しても、十分、貢献していることになります。
現実の市場の運営を考える際に最も重要なことの一つは「流動性(liquidity)をいかに供給するか」ということですからね。
東京証券取引所は、ニューヨーク証券取引所の「スペシャリスト(よくテレビでNYSE場内に立っているのがうつってる、自己ポジで流動性を供給している業者たち)」や、ナスダックのマーケットメイカー等のように、「制度」として流動性を供給するしくみがない純粋なオークション市場で、伝統的には証券会社の自己ポジションの売買が主な流動性の供給主体となってましたので、(もちろん全体としてはだいたいうまく機能していたわけですが)、細かい部分を拡大してみると、「歪み」が大きいところも、ちょこちょこあったのかも知れませんね。
例え話で恐縮ですが、今まで「大型の肉食獣」しかいなかった世界に「アリさん」達が入ってきて、肉食獣が興味を示さなかったものや その食べ残しも、アリさんがきれいにかたずけてくれる新しい生態系ができあがった、みたいな。
昔、伊藤穣一さんが、
「人類は地球上で一番成功している生きものの一つだが、世界中のアリの体積を足すと、全人類の体積の合計を上回る。つまり、アリの『戦略』は、それはそれで生物として成功しているともいえる。」
というような趣旨のことをおっしゃってました。
アリさんは「分散ネットワーク型」の行動をするので、「おいおいどっちいくんだよ」みたいな方向に歩いていっちゃう(一見無駄な)行動をするアリさんもいるわけですが、そういうあらぬ方向に行ったアリさんが、肉食獣からは見えない岩の陰で思わぬ「大物」を見つけて、仲間に知らせたりするわけです。
一匹のアリさんに注目すると、必ずしも合理的な行動をしてないし、そのアリさんが必ずオイシイ思いをできるとは限らないわけですが、「上長の命令で一糸乱れぬ行進をする」のではなく、各自バラバラに(一見無駄な)行動もするところがアリさんのいいところだし、戦略的に優れているところかも知れません。
(本日はこれにて。)

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