転換社債(CB)を用いた”新”資金調達スキーム

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松井証券さんのwebを見ていたら、(ちょっと前のになりますが)、12月10日のプレスリリースでこんなスキームが載ってました。

松井証券とUBS証券による資金調達と販売に関する新スキームの導入について
松井証券は、UBS証券会社と協力して、従来から行われている株式の公募・売出しとは異なる資金調達と販売に関する新たなスキームを導入します。
新スキームの概要としては、まず新株等の発行による資金調達を行う企業がある場合、UBSが全額買受けることを条件に、当該企業は第三者割当転換社債型新株予約権付社債(CB)を発行し、資金調達を行います。次に、UBSは、投資家のニーズや当該企業の株式の需給関係等を考慮しながら、買受けたCBを段階的に株式に転換していきます。この転換された株式は、一定期間(販売予定株数がなくなる日まで)、当社を通じて個人投資家(当社顧客)に販売されます。その際、当社顧客による当該株式の購入価格(株価)は、基本的には購入日の終値から数%ディスカウントされた価格になります。

(UBS側はプレスリリースが見あたりません。)
非常におもしろいですね! どうやるんでしょうね、これ。
プレーンなCBを使う方法
一つには、プレーンな(転換価額修正条項などややこしい条件がついていない)CBを引き受けるのと前後して、引受側が当該株式をショートして(売って)おく手が考えられます。
転換価額の設定については、例えば、「○月○日〜○月○日のVWAP(加重平均株価)の95%」等と発行条件で決めておいて、その間に平均して売れば、引受側は5%の鞘が抜けます。
現在、CBには金利が付かないケースがほとんどですが、投資家がショートするためのコスト(逆日歩等)が発生するときにはそれをカバーするくらいのクーポンを設定。クーポンを付けなくて済むのであれば、発行体のPLインパクトもありません。
ただ、引受側にしてみると、実質的に株式に転換するまでの期間、資金を貸し付けてるのと同じなわけで、発行体側は表面的な発行コストが削減できるからこのスキームを採用するのでしょうし、(調達金額にもよりますが)、引受側にとってはあまりうまみがないかも知れません。
MSCBを使う方法
もう一つの手として、MSCBを使う手が考えられます。
以前お伝えしたインボイスさんの資金調達でも、MSCB(転換価格修正条項付きの転換社債)を発行し、Merrill Lynch Internationalさんが全額を引き受けてました。
(ご参考:https://www.tez.com/blog/archives/000189.html
この方法は、やはりインボイスさんがその後採用した「ストックオプション(新株予約権)」による資金調達を行うのと違って、会社が調達する資金の額が証券発行時に確定します。しかし、CBが発行されてから株式に転換されるまでの株価の変動リスクを誰かが負わないといけません。
インボイスのMSCBのように、(例えば)、

本新株予約権の各行使請求の効力発生日(以下「修正日」という。)の○○証券取引所における当社普通株式の普通取引の終値の94%に相当する金額の1円未満の端数を切り上げた金額(以下「修正日価額」という。)が、当該修正日の直前に有効な転換価額を1円以上上回る場合又は下回る場合には、転換価額は、当該修正日以降、当該修正日価額に修正される。

というような条件を付けると、引き受ける側のUBSまたは松井証券さんとしては株価の変動リスクを負わなくてすみます。例えば94%で取得して97%で売れば、両社合計で3%の鞘が抜けることになります。(ついでに、上方への転換価額修正条件を付けなければ株価が上がった場合にはその分丸儲け。)
ただし、これだと、CB発行後に株価が下がった場合に、発行される株式数が増えますので、発行体の既存株主は相対的にdiluteします。つまり、株式に転換されるまでのリスクは既存株主が負担するということになります。(あまり既存の株主に不利な条件だと、臨時株主総会決議が必要ではないか、という話にもなって面倒かも。)
おそらく、UBSさん松井証券さんが組まれるということは、資金やマーケットリスク・リターンの部分については主としてUBSさんが負担・享受し、松井証券さんは、(立会外分売などと同様)、通常の株式売買手数料より厚めの手数料収入が得られるという役割分担ではないでしょうか。
とすると、やはり、MSCBを使って、
「リスクの少ない発行体の場合にはマイルドな条件のMSCBを利用」(上方にも転換価額修正条項がついているとか、下限が高いところに設定されていて、それ以下への価格変動リスクは引き受け側が負うとか。)
「リスクが大きい発行体の場合にはよりキツい条件のMSCBを利用」
など、発行体の状況を勘案して条件を決定した方が、引受側(特にUBSさん?)にとっては「やりがいのある」スキームかも知れません。
UBSさん単体でもできそうなもんですが、機関投資家にはめ込むのはそれなりに手間がかかりますし、市場で消化する場合には株式の処分によるマーケットインパクトによって既存の株主に損失を与える可能性があるわけで、「オンライン証券の巨大な消化能力」を使うということにより発行体にも納得していただきやすいところがこのスキームのミソかも知れません。

これにより当社顧客は、従来の株式の公募・売出しと異なり、その時々の株価動向を見極めながら自分の好きなタイミングで当該株式を時価よりも低い価格で購入することができるようになります。加えて、購入決定から売却可能となるまで1週間程度を要する従来の株式の公募・売出しと異なり、新スキームでは購入日翌日からの売却が可能となりますので、価格変動リスクを大幅に軽減できます。なお、当スキームの導入により、これまで機関投資家しか参加できなかったブロックトレードに個人投資家も参加できるようになります。

(「自分の好きなタイミングで」と書いてありますね・・・。)
ネット証券の顧客にとっては、非常にいいお話ではないかと思います。

流通市場においては、平成11年10月の手数料自由化以降、手数料の安いオンライン証券が出現したことで、証券会社間での競争が促進され、現在は個人株式売買代金の8割以上がオンライン経由の取引となる等、市場構造の変革が行われてきました。それにより、株式取引における個人投資家の利便性は格段に高まったと考えます。

一方、発行市場においては、依然として一部の証券会社の寡占状態にあり、流通市場で繰り広げられているような証券会社間の本格的な競争は行われてきませんでした。このように競争がない市場では、業者側(証券会社)の意向が強く反映され、発行体企業や個人投資家の利便性は大きく損なわれてきたと考えています。

株式公開の時には主幹事の証券会社さんが公開準備や審査等に非常に多くの手間とコストをかけるわけですが、それもこれも、公開後のこうした資金調達でのフィーを得ようという部分も多分にあるはず。ブロッカレッジだけでなく「引受」についても、総合証券さんの利益がオンライン証券によって「クリームスキミング」されるという構図ですね。

今回、外資系証券のUBS証券とオンライン専業証券の松井証券が協力することで、発行市場の現状に風穴を開け、業者側ではなく、発行体企業や個人投資家にとって真に使い勝手の良い市場にしていきたいと考えています。

大賛成ですね。
(以上、内容についてはすべて私個人の意見であり、法令等をベースにしてはいるものの「想像」の部分を多分に含んでおります。正確なスキームの詳細については、当該企業さんにおたずねください。)
(ではまた。)

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3 thoughts on “転換社債(CB)を用いた”新”資金調達スキーム

  1. ろいやー頭の体操†資金調達の「新」スキーム(その1)

    いつも拝見させていただいているIsologue – by 磯崎哲也事務所の最近のエントリー「転換社債(CB)を用いた”新”資金調達スキーム」で、松井証券がUBS証券と協力して導入した「資金調達と販売に関する新スキーム」(松井証券プレスリリースより)が採り上げられていました。

  2. 松井証券が個人投資家に販売する際、50人以上への同一条件での勧誘ということで「公募売出し」にならないのでしょうか。松井は毎日販売するたびに有価証券公募売出し目論見書を作成するのでしょうか?現実には考えられないと思いますが、法的にはどうなんでしょうか?

  3. フォーサイドのMSCBについて雑感

    『本文』 『解説資料』 という発表が今日ありました。 何かあるとは思ってましたが、CBとは…とガッカリしそうになったんですが、この一連の発表された文章を読んでいると、まあ悪くないのでは?と思いました。 現時点では、MSCBということでの簡易な手続き、安価…