公証人シリーズその5「やっぱり重要なGDP浮揚策かも」

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やはり、isologueを読んで頂いているみなさん、起業に興味がある方が多いんでしょうか、この「公証人」「起業コスト」シリーズ、おかげさまで過去最高ペースのアクセスをいただいてます。
(ちなみに、私、公証人さんに恨みがあるわけでも何でもなくて、ただ、「非常にめずらしい業態」なので、どんなことになっているのか、ビジネスモデルやガバナンス論の観点から知的好奇心がそそられているだけです。念のため。)
minoriさんよりまたコメントいただきました。

あと、キャリア組(判事・検察)の公証人さんの世界には「経済合同」というギルドがあります。

それは存じませんでした。ありがとうございます。
ということで、Webや新聞記事を調べてみました。
読売・朝日・毎日・産経・日経各紙を調べると、「公証人合同役場」というキーワードの記事は約30年間でたったの23件。しかも、ほとんどが「(地方の)公証人合同役場が○○村で相談会を開催」といったネタで、ネガティブな記事は2001年3月の読売新聞の記事1つだけ。
新聞社は検察と仲良くしないと商売にならないので、「よほどのこと」がないと記事にできないんでしょうね。
この記事が非常によくまとめてらっしゃいますので、引用させていただきますと、

公証人10人が申告漏れ 全員「判事・検事OB」 経費計5000万円水増し
遺言状などの公正証書を作成する公証人約十人が、東京国税局の税務調査を受け、一九九八年までの三年間に総額約五千万円の所得の申告漏れを指摘されていたことが十五日、明らかになった。公証人は、法務大臣が任命する国の公務員で、申告漏れを指摘されたのは、全員が裁判官と検察官のOBだった。(中略)
 申告漏れを指摘された約十人は、東京都内の公証役場で仕事をしている公証人。全員が司法試験に合格後、裁判官や検察官を約三十年務め、地裁所長や地検検事正の経験者がほとんどだった。申告漏れ額は、一人当たり約四百万円から約六百万円で、いずれも修正申告し、加算税を含めた追徴税の納付に応じている。
 関係者によると、これらの公証人は、所得の申告に際し、高級レストランで妻と二人で個人的に食事をした代金や、家族旅行の費用などについて、公正証書を作成するための顧客との懇談・交際費として計上したり、遺言状作成のための出張旅費などとして申告していた。中には、後輩の地検検事正らとのゴルフ代も経費計上していた悪質なケースもあったという。

と、「よほどのこと」があったわけですが、

 公証人は税法上、遺言状や公正証書などの作成手数料から、公証役場の事務所賃借料や事務職員の人件費などの経費を差し引いた所得を個人で申告する個人事業主。

ということで、やっぱり「公務員」であり、かつ、税務上は個人事業主でらっしゃるわけですね。

手数料は公証人手数料令という政令で決められており、手数料収入は毎月と、毎年ごとに管轄の法務局に公証事務一覧月(年)表として報告する。
 このため、公証人の手数料収入はガラス張りで、所得を少なくするには、経費を水増しするしかない。
 公証人法は、法務局や法務局支局単位に公証人を置くと規定しており、法務省によると、昨年十二月現在、全国で五百四十二人(定員六百八十五人)。このうち、裁判官出身者が百六十人、検察官出身者が二百二十七人。残る百五十五人は「特任」と呼ばれる元裁判所書記官や元法務・検察事務官ら。一九九九年の公証人一人平均の手数料収入は三千二百九十八万円。

法務省の統計DBの中のExcelシート
http://www.moj.go.jp/TOUKEI/DB/minji03.xls
によると、平成14年の設立登記は、株式会社15,622件有限会社68,990件で、合計84,612件
定款認証の手数料1件5万円をかけると、42.3億円(一人当たり約780万円)。
収入の約2割を占めているということのようです。
「収入」ということは、ここから公証人役場の賃料とか事務員さんのお給料が引かれるわけでしょうから、やはり定款認証がなくなると、正味の所得としては結構痛そうですね。
さらに、同日の社会面の記事では、より詳しい分析が行われています。

公証人申告漏れ 判事・検事OBが独占システム 高収入、再配分で“保証”
 ◆元書記官らは除外
 公証役場の場所によって差がある公証人の所得の均衡を図るため、「経済合同」という“所得再配分システム”が存在することが分かった。日本公証人連合会では、「質の高いサービスを全国どこでも提供するため」と説明するが、再配分のグループは、所得が多い元裁判官と元検察官だけで組まれており、関係者の間からは、「退官後の所得確保のためではないか」との指摘や、「競争のない排他的なギルドの世界そのもの」などという批判も出ている。〈関連記事1面〉
 同連合会などによると、収入の半分を“上納”する東京の「五割合同」、全収入を平等に再配分する大阪の「十割合同」など、再配分の割合は都道府県ごとに決められている。
 東京の経済合同には、都内四十五役場、百八人の公証人が参加。経理事務を行う「東京公証人合同役場」が置かれ、各役場から上がってくる収入から、合同役場の事務経費などを差し引き、その残額を各公証人に均等に配分している。

法律上でいくと、これは「組合契約」になるんでしょうかね?

(中略) しかし、経済合同は収入の多い元裁判官や元検察官だけで組まれているのが実情だ。収入の低い地域に配置されている元裁判所書記官や元法務・検察事務官ら「特任」の公証人は、広域で経済合同を構成しているが、「やっと生活できる程度」(ある特任公証人)で、元裁判官や元検察官だけが“高額配分”していることに根強い不満がある。
 経済合同は、定年間近の裁判官や検察官に“転職”を勧める際にも都合がいい。大阪公証人会幹部は「大阪の場合、100%合同なので、検察官を辞めた後、どこへ行けと言われても不満が出ない。所得に格差があると、『もう少し検察官をやっていたい』ということになるので、人事配置の面ではデメリットだ」と、本音を明かした。法務省民事局も、「公証人の自主性にゆだねられていることだが、必要に応じて経済合同を行うことは好ましい」との立場だ。
 これに対し、内部からも「働いても働かなくても収入があるという感覚は、自由主義経済の中では通用しない」という自戒の弁も聞かれる。さらに、公証人の任用制度見直しを進めている政府の規制改革委員会の委員長代理、鈴木良男・旭リサーチセンター社長は、「公証人の能力は、間違いない公正証書を作ることで、はやる役場とはやらない役場が出て当然。経済合同などというのは、ギルドの思想そのものであり、忙しい役場ではサービス低下をもたらす」と、厳しく批判した。(中略)

一応、規制改革の検討の対象にはなったことがあるみたいですね。その後、どうなったんでしょうか?

◆国税「申告内容ひどい」と調査
 「公証人の世界はまさに『聖域』。調査したくても、できなかった」。ある国税局関係者は語る。これまで公証人の税務調査に踏み切れなかったのは、検察の存在があるからだ。
 マルサ(査察部)が摘発する脱税事件は、検察が告発の受け手となる。そのため、国税当局は検察との関係を最優先に考えてきた。
 しかし、九八年に東京地検特捜部が摘発した「大蔵接待汚職事件」に際し、この関係が一時、崩れた。
 国税の一部幹部には旧大蔵省(現財務省)の官僚が就いている。事件に関連して、参考人として特捜部に呼ばれた旧大蔵官僚の扱いなどをめぐり、国税当局に不満が噴出したのだ。
 「もう、聖域はない。公証人の税務調査を行う」。国税幹部の指示だった。

うーん。「そっちがやるならこっちも」という論理なわけですね。(笑)
やはり、ガバナンスの基本はあまり仲よくさせずに相互に監視させあう、ということでしょうか。

 公務員という立場にありながら、一部の公証人については、経費で落とすために片っ端から領収書を集めているとの情報もあった。国税関係者は「元裁判官や元検察官とは思えない目に余る申告状況があった」と明かす。
 九八年には、元新潟地検検事正が、親族の相続税の申告漏れをめぐるトラブルに際し、検事正名の抗議文を税務署署長あてに送付していたことも発覚したが、今回の税務調査の過程でも、かつて検事正を務めた公証人から、“圧力”めいたこともあったという。

この記事を書いたあとに、読売新聞さん、「圧力」や取材させてもらえないなどのイヤガラセは受けたりしなかったんでしょうか?、とちょっと心配になりますが。
公証人というのはこの記事によると180億円程度の市場規模しかない「ニッチな」ビジネスですので、多少のことだったら放っておかれるかと思いますが、定款認証を無くして年間42億円の公証人さんの収入(+33億円の印紙代)を削るだけで起業がより(例えば年間10%、10000社くらい)活性化するとしたら、将来、GDPが1兆円単位で変わってくるかも知れませんからね。これはやっぱり、「よほどのこと」なんじゃないでしょうか。
「民間ビジネス」だったら「既得権益」を法改正で削るのは問題かもしれませんが、「公務員」を名乗られるからには、(もし定款認証を無くした方がホントに日本の発展のためになるのであれば)、「公の利益」を最優先していただくべきかも知れません。
(ではまた。)

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