「眼の誕生」と現代社会

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ツイッターのTLで見かけて、ついタイトルで衝動買いして読んだ本;

 

眼の誕生——カンブリア紀大進化の謎を解く
アンドリュー・パーカー
草思社
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結構面白かったです。

読み終わってから奥付をみると、原著が2003年、日本語版が2006年でさほど新しい本でもないので、軽いネタバレを含みますが、以下、この本を読んで考えた事を書いてみたいと思います。

 

軽いネタバレと言っても、この本は、タイトルが「出オチ」というか、結論になっております。

ご存知の通り、今から5億数千万年前の「カンブリア紀」には、三葉虫をはじめとするものすごく多様な生物が現れて「カンブリア爆発」と呼ばれているわけですが、

この本の重要な指摘の一つは、実は、生物の体内の体制の違い(34の「」)は、先カンブリア紀までに既に出来上がっており、この「爆発」は、あくまで堅い外皮という外見の「形」が多様化した現象である、という点ですね。
(体内のしくみは多数の遺伝子を必要とする複雑なしくみであるのに対し、外観は相対的に少ない遺伝子数で生み出されるので、その分、より短い期間で変異しやすい、とのこと。)

それも、一つの生物種だけでなく、地球上すべての門においてほぼ同時に、この形態の爆発的多様化が発生したとのことです。

 

結論を言ってしまうと、この変化を引き起こしたのが、「眼の登場」だった、というわけです。

つまり、それまでの生物というのは、他の生物を化学的に探知したり、そばに近づいて来た生物を食ったりと、すぐ近くにまで来ないと相手を捕食できなかったわけですが、「眼」ができると、遠く離れた生物をもターゲットにできますし、直接、そのターゲットを目指して移動もできて、餌を取る効率も飛躍的に増大するわけです。

 

「よくわからないのでガンダムで説明してくれ」というご要望に答えるとw、先カンブリア紀まではミノフスキー粒子が散布されていて遠くのものをレーダーで探知できないのでモビルスーツで接近戦をしていたわけですが、カンブリア紀に入るとニュータイプが登場して、遠くにいる敵をも察知できるようになり、戦いの様相が全く変わって来るわけですね。

 

 

さて、ここ10数年の現代社会においても、まさにカンブリア紀と同様のことが発生しているのではないかと思います。

検索エンジンやSNSなどが発達して、ついこの間まではごく限られた知り合いどおしの間でしかやりとりできなかった情報が、地球の裏まで見渡せるようになってしまいました。

こうした社会では、一見、強者が弱者を食らって、ごく少数の強者しか残らないようにも思えます。
実際、現在、アップルやフェイスブック、グーグルといった巨大な企業が、マイクロソフトやアマゾン、ヤフーといった既存の巨大企業と戦っているので、一般庶民は搾取され、勝ち組と負け組の差は広がるばかりという気もしてしまうかも知れません。

 

生物の世界でも、こうした競争の激化が発生すると、弱い種がどんどん食われて極めて少数の強い種だけが勝ち残り、格差は広がって、多様性は減少していくような気もするかも知れません。

しかし、少なくともカンブリア紀においては、逆にそれまで「門」に関わらずどれも似たような柔らかいミミズのような似た形態をしていた生物が、外皮を堅くしたり、色を周囲に溶け込みやすくしたりといった変化を短期間の間に成し遂げ、結果として、極めて多様な種類の生物が出現して「爆発」となったということですね。

 

現代の状況はカンブリア紀とまったく同じではないので、もちろん単純なアナロジーでは判断できませんし、現代の「眼」の登場によって、滅びる種(ビジネス)もたくさん現れるでしょうが、必ずしも大企業の寡占が進行してデストピアに繋がるという未来と決まった訳ではなく、新しい競争のルールを身につけたビジネスが現れて、多様性の「爆発」が発生するのかも知れないですね。

 

(ではまた。)

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