書評:「変わる会計、変わる日本経済」 石川純治著 日本評論社

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「週刊経営財務」の2010年6月21日(No.2971)号に掲載していたただいた駒澤大学経済学部 石川純治教授のご著書「変わる会計、変わる日本経済」著 日本評論社

 

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石川 純治
日本評論社
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おすすめ度の平均: 5.0

5 会計批判として、
引き続き秀作

 

に関する書評です。
(3ヶ月弱経ちましたので、そろそろWebにも載せさせていただきます。)

 

石川教授については、このブログでも何度かご紹介させていただきましたが、表層的な会計の規則を負うのではなく、「会計の本質」とは何かを考えてらっしゃるところが非常に引きつけられるところではないかと思いますし、そういう本質を考える能力や態度というのは、まさに今後のIFRS時代に必要とされるものじゃないかと思っております。

 

以下、掲載した書評を引用いたします。

 

 財務や会計に関わる仕事をしている人は、制度や税制の改正や制定など、毎年ものすごい量の情報の洪水にさらされている。このため、ともすれば、会計基準や税法の変更を表面的に理解するだけで、「そもそもそうした変化がなぜ発生しているのか?」という「本質」についてまで考えが及ばない人が多いかも知れない。職業会計人の端くれである私の経験からも、日々の業務や情報のキャッチアップに追われて、そうなりがちであることは理解できる。

 「私は今後もずっと、事務的・機械的な会計の仕事しかする気はない」という人は、直接仕事に役に立たなそうな「本質」まで考える必要もないと思われるかも知れない。しかし残念なことに、恐らく今後の10年20年で、日本における会計関連の業務は、事務的・機械的な業務ほど非常に困難な地位に追いやられることになる可能性が高いのだ。

 実際、米国ではすでに「オフショアリング」といわれる現象が起こっている。会計処理や税務申告などのかなりの部分が労働力の安いインドで処理されているし、今後も100万人単位の「簿記係・会計事務・監査事務」関連の労働が米国から流出するとする研究もある。

 「言葉の壁があるので、日本ではそう急にオフショアリングは進まない」と高を括っている人も多いだろう。しかし、すでに日本でも、顧客情報や会計情報のインプットなどの業務が大連など海外の大規模センターに流出し、日本語が必ずしも得意でない現地従業員によって処理し始められている事実に注目した方がいい。

 途上国の労働力との競争だけではない。情報通信分野では急速な革新革新が発生しており、抽象的な判断が要求されないものから次第に「ネット(クラウド)」に雇用が流出していくのは確実である。

 税理士業務など法律で独占が認められている業務すら安泰とは言えない。経済や経営の中核となる会計や財務の業務が非効率では、日本企業の国際競争力が落ちてしまうからだ。長期的にはそうした職業の障壁も経済原理によって徐々に浸食されていくことは間違いない。

 そうした社会では、単に規定を機械的に当てはめる業務の価値は下がり、「本質」を踏まえて高度な思考をできる人材以外の生き残りは困難になってくるだろう。

 本書「変わる会計、変わる日本経済」は、石川純治教授が書かれた前書「変わる社会、変わる会計」の続編である。具体的な時事のテーマが取り上げられて、17のトピックにまとめている。これらのトピックは一つ一つが独立しており、どこから読んでも構わない。

 堅い学術書と異なり、読者を飽きさせない文体で書かれているので、専門家だけでなく、会計にあまりなじみの無い一般の学生や社会人も気軽に読むことができると思われる。

 しかし、本書はそうした時事のテーマを取り上げるだけでなく、会計がそれにどのように関わっているかを解説し、しかも、単なる会計基準の表層的な説明に停まらず、その現象の背後にある社会の変化やモノの考え方の変化などの「本質」を洞察している。

 本書で紹介されているトピックをいくつかご紹介したい。

 冒頭のトピックの1と2では、大手銀行と保険会社の決算を取り上げ、「包括主義」や「時価会計」といった論点の解説をしている。また、トピック4ではサブプライム問題と会計の関連、トピック10では伊勢丹・三越の経営統合と「負ののれん」といった点の解説も行われている。

 そしてもちろん、旧長銀裁判事件判決における「公正な会計慣行」の考え方や、IFRS(国際会計基準)の世界への浸透についての動きなど、会計の根幹に関わる部分についても見解が述べられている。

 読者は本書を通じて、 「企業会計原則」中心だった戦後の日本の会計が、「会計ビッグバン」を経て国際的に調和化(ハーモナイゼーション)され、現在、国際的統合化(コンバージェンス)の時代に差しかかっている。読者は本書を通じて、こうした変化の背後に、「実物」の位置付けが低下して「金融」の力が強まるという、経済の大きなうねりを感じ取ることができるに違いない。

 前述のとおり、日本においても、財務・会計に関わる仕事を取り巻く環境が今後大きく変化することは間違いない。今後、会計や財務の分野において、途上国や情報通信技術と競争して日本で働く人が勝てる領域はどこか?と考えると、前例のない激しい変化の中でも適切な行動を選択できる高度な判断能力というものが、その一つになることは明白だろう。本書を通じて、そうした「本質」を考える能力を養っていただければ幸いである。

 

(以上)

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One thought on “書評:「変わる会計、変わる日本経済」 石川純治著 日本評論社

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