ヤンクミは「反社会的勢力」か?

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大杉先生のコメントで、「ごくせん」ネタを早くやれ、というご所望がありましたので、遅ればせながら。)
金融機関のみならず、上場企業においては(上場企業でなくても)「反社会的勢力対応」が求められていて、当然のことながら「反社会的勢力」の人とはおつきあいしちゃいけないわけです。(当然ですね。)
ところが、「反社会的勢力」というのはよく考えるとあまり明確な定義がない。もちろん「明らかに反社会的勢力」な人はそれとわかるわけですが、すべての反社会的勢力の人が明らかに反社会的勢力という外観をしているわけではないからややこしい。


(反社会的勢力対応の講習などで聞くと、「最近の『フロント企業』は、提灯がぶらさがっていたりするなんてことがないのはもちろん、外資系のオフィスかと思うような非常におしゃれな受付だったりする。」とのことですので。)

どこで線引きするか?
例えば、仕事柄、芸能や興行といったことに接する某上場企業の人に聞いたところ、
「この世界、昔はモロにそっち系の人が多かったし、今は表面的にこそわからないものの、親戚や関係者がそっち系の人だという有力事務所などもいろいろ存在するから、どこまでが反社会的勢力かという線引きは非常に難しい。うちも上場企業なので反社会的勢力対応が求められているが、『ちょっとでも関係があるから反社会的勢力』ということにすると、まったく仕事にならなくなっちゃう可能性がある。
ということで、うちでは、『某代理店と直取引の口座がある企業はOK』という線引きでやっている。」
とのことです。
なーるほど。広告代理店さんというのは、広告を取次ぐだけでなく、そうした「フィルタリング」や「企業情報信用サービス」「格付機関」としての役割をも持っているということですね。
とはいえ、代理店さんも、ギョーカイ関係には強くても、当然ながら日本中の企業をデータベース化しているわけではない。
いろんな人に聞いても、「反社会的勢力データベース」といったものをCD-ROM等で売っているという話も聞かない。
「信用情報」であれば、「延滞が発生している」等の客観的事実を元にデータベース化ができるわけですが、「反社会的勢力」というのは、「あなた反社会的勢力ですよね?」と言っても認めるわけもない。誰もが金を出せば買える「反社会的勢力データベース」なるものが仮に存在するとすると、そこに記載された人が「なんでワシが反社会的勢力じゃい!」と怒鳴り込んでくること必至なので、そういうものは本質的にオープンな情報としては流通させられないんでしょうね。

企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針

http://www.moj.go.jp/KEIJI/keiji42-01.html

では、そういう情報交換を行うセンターや活動に参加して情報を収集し、各社でデータベースを構築しなさい、と言ってますが、特にリテール的な取引件数が多い企業ほど、事前のデータベースチェックによる機械的な排除は難しいので、その指針にも書いてある他の手段で対応するしかないのかなと思います。

金融機関の反社対応
ところで、また金融機関のお話ですが。
私も詳しくは存じませんが、大手の金融機関となるとさすがにかなりしっかりしたデータベースを構築しているのでしょうから、各金融機関でそれぞれどのような運用で反社会的勢力を登録しているのか、というのは非常に興味があります。
想像するに、これまた「反社会的勢力対応の態勢についての検査」もあるはずなので、万が一、反社会的勢力のスクリーニング漏れがあって事件になったときに、態勢不備で処分されないように、「こういったルール、組織で、こんなに厳格にやってますよ」と言えるような「アリバイ」を、相当保守的な観点から作っているんじゃないかなあ?と想像いたします。
前述の芸能に関連する会社さんのルールなどよりはかなり厳格で、「真っ白でなければ黒」という対応だったりするのかなあ、と。

「ヤンクミ」のケースは?
で、「ごくせん」ヤンクミ(数学教師 山口久美子=仲間由紀恵)のケースはどうだろう?と考えてみると、

  • 本人は、「一家」を継ぐつもりはなく、高校の教師をしているが、
  • 「反社会的勢力」の祖父及び反社会的組織の構成員と同居している。
  • (一般に知られるに至ってはいないが実は)、毎週、法によらず「暴力」によって問題を解決している。

といった点から、もしヤンクミと取引していたら、検査では「反社会的勢力対応の態勢不備」として処分されるんじゃないかなあ・・・と先回りして考えて、金融機関ともなれば、そもそもヤンクミと取引はしないんじゃないか、と想像します。
テレビドラマでは、(あたりまえですが)「大江戸一家」が反社会的活動をしているシーンは一切出てこないわけですが、「てつ」と「ミノル」が焼いているたこ焼きからのキャッシュフローだけでは、とても一家は養えないと思いますので、何をやっているのかよくわからない後の二人がおそらくは(「警備業法違反の警備」などの)「反社会的な活動」をしてらっしゃるんでしょうね。
(たこ焼きを焼いてるだけなら、学校に隠す必要もないので。)
もちろん、常識的に考えても「同居」はまずいでしょう。ヤンクミがおじいちゃんと二世帯住宅を建てたいということで銀行に金を借りに行ったとしても、家がアレだったらあれこれ理由を付けて貸し付けはしてもらえないんでしょうね。
問題は、ヤンクミが同居してない場合にも金融機関から「反社会的勢力」として扱われてしまうんだろうか?ということです。
本人は、反社会的活動を継ぐ気はまったくなく、(実は正当防衛等の適法な範囲を超えた「暴力」で毎回問題を解決していますが、少なくとも外観としては)まじめな学校教師をやっているわけだし、祖父が誰かというのは(名字も違うので)黙っていれば発覚する可能性は低そうです。
しかし、仮に発覚した場合には、「各社で構築するデータベース」にはその旨が記載されてしまうんでしょうか?
我々はドラマを見てヤンクミが反社会的活動をしそうな人ではないということを十分に理解しているから、「反社会的勢力」に分類されたら大きな違和感がありますが、もしあなたが銀行員だとして、借入れをしにきた女性の親や祖父が「反社会的勢力」だということを知ってしまった時には、両者には密接なつながりがある(「フロント」である可能性も高い)と判断するのもやむを得ないと考えるんじゃないでしょうか。
一方で、反社会的勢力と関係がゼロではないからといって自分も知らないうちに反社会的勢力に分類されちゃうというのも人権上どうなのかなと。ヤンクミが家を出て結婚しても一生「反社会的勢力」の烙印を押されるというのは、(少なくともヤンクミについては)非常にかわいそうだ、という感想を持たれる方も多いのではないかと思います。
自分がブラックリストに載っているかどうかを照会して訂正できるプロセスが存在する信用情報と違って、「反社会的勢力リスト」というのは、前述の通りその性質上、(おそらく)訂正の機会も与えられないんじゃないかと思いますので。
ということで、一度「反社会的勢力」と関係してしまうと、弁解の機会も与えられず、真面目な世界に戻ることが阻害されて、そっちの世界で生きて行かざるを得なくなるような「しくみ」があちこちに生まれつつあるんじゃないかと思います。

「フェアネスを確保するための方法」が「法」に独占される弊害
私は子供の頃から、いわゆる「任侠映画」というのがなぜ人気があるのかまったく理解できませんで、なぜみんな「悪い人」のことをもてはやすのだろう?と不思議に思っておりました。
そのため、いわゆるヤクザ映画というのもあまりよく見た事もなかったんですが、「ごくせん」を見て、なるほどね、と。「任侠」というのは、社会的な「フェアネス」を確保する(Non-Governmentalな)活動の一種だったんだろうな、と。
大衆は、「法に沿っているかどうか」ではなく、「フェアであること」を求めているのであり、(適法なプロセスであるかどうかはさておき)、結果として「フェアネス」が確保されることに拍手喝采を送るんだな、と。
で、(もちろん、「HERO」とか「CHANGE」とか、法の枠組みの中でフェアネスを確保しようとするドラマも存在しますが)、ヤクザ映画や「必殺仕置人」などの法的プロセスによらない解決を指向するドラマはもちろん、一見公権力を使っているように見えるが実は違法捜査(「遠山の金さん」)だったり、権限外行為(「水戸黄門」)だったりしても、「フェアさ」が貫かれることに大衆は大喜びします。
大昔は、法というのは非常に網が粗く、法だけでフェアネスを確保することが著しく困難だったので、「民間」でフェアネスを確保するしくみがいろいろ存在していたんでしょうね。
少なくとも10数年前までの日本では、民間の人も役所の人も、法というのは「重要な制約条件の一つ」ではあっても、「絶対的なもの」だとは誰も思っていなかったんじゃないでしょうか。(このへんが、「法」の絶対性が高い、ユダヤ、キリスト、イスラム社会などとは歴史的に大きく違うところなんじゃないかなと思います。)
そのため、人々はよくも悪くも「柔軟」に法を運用していたわけです。
(つまりこれは、平たく言うと法を「軽視」していたのであって、イエスが「コンプライアンス」の枠組みの中で、法解釈の硬直性を批判したのとは、かなり違うんじゃないかと思います。
「キリスト教のベースがない日本は「法化社会」になれるのか?」ご参照。)
ところが、そうした「フェアネスを確保するための民間のしくみ」は、近年、「法」に脇に追いやられて来て採算性も悪化してきたし、不当な要求の弊害も大きくなってきたので、ここ10年で一気に、「フェアネス確保の『法』による独占」=「コンプライアンス社会」「法化社会」が形成されるに至った。
しかし、今まで、裁判などの公的なプロセスで「フェアネス」を確保するというやり方に大衆は慣れてないし、裁判所が下す結論についても、(法解釈としては確かにそういう解釈もアリなのかも知れないが、と思いつつも)、「フェア」なのかなあ?と感じることも多いので、まだあまりそのプロセスを活用しようという気にもなってない。(コストもかかりそうだ。)
それよりも問題なのは、「法」というのは、それを作るプロセスがえらい大変で、もともと「日本一遅い決定プロセス」といっても過言ではないのに、衆参で「ねじれ」が発生していたりしたらもう目も当てられない。
おまけに、法が一定以上の細かさの閾値を超してしまうと、「負のフィードバック」が発生して、止めどなく細かいルールでがんじがらめになっていってしまう。
「完全」というにはほど遠いしくみにしか見えないので、こういった「法化社会」で、「フェアさ」が確保できるのかどうか、みんなが大変不安に思っている、というのが現状なんではないかと思います。
「反社会的勢力」の力を復活させろなんてことを言っているわけではまったくありませんが、どんなものでも「独占」というのは大きな弊害があるわけで、経済学的には、この「フェアネス確保」のプロセスに競争原理を持ち込むということが考えられるわけですが、なんでも一つの公的なものに一極集中しちゃう日本のことなので、「ADR」といったものが日本で大きく発達して行く気もあんまりしません。
結局、「『フェア』というのは法律に定義されてないのでよくわからん」てなことをおっしゃる法律専門家の方にがんばっていただいて、裁判によるプロセスをブラッシュアップしていくしかないんでしょうね。

(ではまた。)

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5 thoughts on “ヤンクミは「反社会的勢力」か?

  1. リクエストしておいて、御礼が遅くなってしまいましたが、ありがとうございます。
    こっちのほうじゃなくて、次のエントリーのコメ欄で実質的にこの話が盛り上がっていて、私もそうだそうだと頷いて拝見しているのですが、そこではあまり論じられていないポイントの1つとして、「法化社会論」が迷走していることが挙げられると思います。
    もともとは、社会の各所に散在する透明性の低い意思決定・紛争解決システムに替えて、法律・法律家というプレーヤーを中心とした透明性の高いシステムを作ることが、人権保護の上でも、経済的自由の実現の上でも、有益だと言うことだったと思います。
    しかし、日本人にとってけっきょく法とはアリバイにほかならず、(ここはお叱りを受けることを覚悟で書くのですが)法律家も個別の事例で上手にアリバイを作ることが期待され、またそのように振舞うことが少なくないのではないかと。
    「法」というシステムの上では、日本人は創造的になれない民族なのかもしれません。

  2. エントリーを大変興味深く読ませて頂きました。
    一応某証券で公開引受業務をやっている者なのですが、最近の上場審査における”反社チェック”の厳格化に頭を悩ます毎日を送っております。
    個人的な感想ですが、反社チェックの結果としてヤンクミのようなケースが一度問題となったら、証券の実務ベースで許容することは相当難しそうです。
    融資はよく分かりませんが、少なくともヤンクミのような人が自社や主要な取引先企業のボードメンバーにいたとしたら間違いなくその企業は取引所に上場は出来ないでしょうね…。
    一般的な手段である過去の新聞記事検索や警察等への照会では、当人が更生していたり、実はウラに深い事情があったりしても取り込む余地はほとんどないと感じています。
    ちょっと極端な例ですが、担当会社から、”新規取引を考えている会社の照会をした所、20年近く前に新聞紙面を騒がせた取締役がいることが判明したが、どのように判断すべきか”という相談を受けたことがあります。
    特にその後に問題を起こした形跡はありませんでしたが、過去に色々とあったようだし、当時の人々との関係が今はまったくないということが明確に分かる材料もない以上、取引は無理じゃないの?という意見が大勢であり、結局、取引を開始することについてはネガティブな回答を返したこともありました。
    もちろん私もヤンクミは(中の人も含めて)大好きですが、「現役(?)のその筋の人が親族や関係者にいるんだけど、彼女自身は反社ではない(反社会的な行為を行う人物ではない)」ことを明確に証明するにはどうしたらいいんでしょうね…ぜひ先生のお考えもお聞きしたいです。
    担当会社の主要な関係者にヤンクミがいたら相当頭を抱えそうです。

  3. 反社会的勢力とその周辺人に関して。(ごくせんのヤンクミとか)

    (最近思ったことについて、だらだら書いてます) 都道府県の暴力団排除条例がほぼ全国で施行されたこともあってか、ここ数カ月間にクライアントとの取引契約の締結…