日本の現行制度下では「買収防衛策」は必然的に「保身」に見えてしまうんじゃないか?

  • Facebook
  • Twitter
  • はてなブックマーク
  • Delicious
  • Evernote
  • Tumblr

マスコミでは、「買収防衛策=経営陣の保身だ」的な報道が行われがちですが、実際、日本の会社法や上場規定(適時開示規則)、その他明文化されていない指導等を踏まえて「買収防衛策」を導入しようとすると、「買収防衛策」が「保身」を意図していなくても「保身」に見えてしまうんじゃないでしょうか?というお話。
一般の方のみならず、マスコミの記者の方や機関投資家等の方、学者の方々も、実務上、具体的にどのようなプロセスや制限の下で上場企業が買収防衛策を導入しているか必ずしもよくご存じないと思いますので、(私もすべてを知っているというわけではないのですが)、私が見聞きした導入実務の実態について書いておきたいと思います。
(以下、長文。)


そもそも「買収防衛策」という用語を使うべきではない!
いわゆる「買収防衛策」ですが、この名称がまずもって「保身」丸出しですよね?
goo辞書で「防衛」という語を引いてみると、

ぼうえい ばうゑい【防衛】
(他からの攻撃を)ふせぎまもること。
「祖国を—する」
三省堂提供「大辞林 第二版」より

とあります。
「防衛」という言葉はつまりは「保身」そのもののことなのであります。
普通「防衛」という場合、例えばもし仮に中国が日本に武力を行使して攻め入ろうとしたときに、日本は防衛力というツールを使って「交渉」して、より有利な条件を引き出して、結果的に中国の支配下に入るという選択肢があるでしょうか
無いわけです。
つまり、「防衛」というのは、「どんなことをしても絶対的に相手の侵攻を排除する」語感を持っているわけです。
これに対して、企業が用いるいわゆる「買収防衛策」は、単なる交渉上のツールであって、相手がフェアな価格や方法で自社を買いたいというのであれば、当然、買収に応じなければなりません。
「買収防衛」は、日本語としておかしいわけです。
「防衛」という用語も「物価上昇に対する生活防衛策」みたいな使われ方はしますから、もしこれが、「企業価値防衛策」といった名前であれば、まだ意味は正しく伝わると思うわけです。
でも、「買収防衛策」と言ったら、どう聞いても「買収を防衛する策」にしか聞こえないですよね?
先日、英語でビジネスが相当ちゃんとできる方が、米国人に「買収防衛策導入」のことを説明する際に、「to set up the rule of defense of …」というような言い回しをしているのを見て、「(あちゃー)」と思いました。
この方は、買収防衛策が「保身」を図るものではなく「企業価値を高めるために使われる」ということを十分よく理解しているにも関わらず、やはり日ごろから「防衛策」「防衛策」と日本語で言っていると、「defense」が口をついちゃうわけです。
例えば、日本人記者が外国人投資家に買収防衛策について質問したり、外国の機関投資家が日本市場を調査したり、外国人に対して日本人が通訳するたびに、おそらく、相当程度「defense」という訳語が使われているんじゃないでしょうか。(当然、「Shareholder Rights Plan」等と言った方がきれいだと思いますが、なにせ日本語が「買収防衛策」ですから、「誤訳」とまで言えないと思いますし。実際、「poison pill defense」といった使われ方もすると思いますが、現在でも、経営者自らが平時に「poison pill」とか 「defense」といった用語を使うでしょうか?)
こうした積み重ねが行われると、(細部を良く見れば、投資家保護のためにかなりいろいろ配慮されている面もあるにも関わらず)、「日本の市場は閉鎖的だ」という印象を増長する結果になってしまっているのではないかと思います。
「たかが言葉」じゃなくて、何とか「買収防衛策」という用語を使わないで、日本市場の企業価値向上が図れるような制度にしないといかんのではないかと思います。
 
「買収防衛策」という用語を使わなくて済むか?
「じゃあ、『買収防衛策』という用語を使わなきゃいいじゃん?」と思いますよね?
ところが、そうはいかないわけです。
なぜなら、証券取引所が出している適時開示ガイドブックに、

買収防衛策の導入に係る開示資料の表題には、「買収防衛策」という文字を入れてください。
(東京証券取引所 会社情報適時開示ガイドブック[資料編]第5版 2-26ページ)

とあるので。
保身なんて意図していなくても、プレスリリースの冒頭に「保身しますよ」と書かないといけないわけです。
もちろん、こうした適時開示の注釈の趣旨はごもっともなところはあります。
買収防衛策導入初期には、「ライツプラン」とか「企業価値向上策」とだけタイトルが付けられていたリリースもありましたが、「ライツプラン」とか「企業価値向上策」と言われても、投資家もなんのこっちゃよくわからない。そういう言葉や概念自体が普及してないんですから。
そういう「美辞麗句」で投資家がごまかされないようにするために、「実態はいわゆる『買収防衛策』なんだよ」、というのを明確にするということは重要です。
しかしながら、前述の通り、「買収防衛策」という日本語も、あるべき姿を表していません
適時開示ガイドブックの説明書きを変えればいいかというと、そう簡単でもなさそう。
そもそもこれは有価証券上場規程の第442条(買収防衛策の導入に係る尊重事項)

買収防衛策の導入に係る尊重事項)
第442条 上場会社は、買収防衛策を導入(買収防衛策としての新株又は新株予約権の発行決議を行う等買収防衛策の具体的内容を決定することをいう。)する場合は、次の各号に掲げる事項を尊重するものとする。(以下略)

に関するものなので、上場規定を変更しない限り、「買収防衛策」という用語をまったくリリースの中で使わなくていいですよ、ということにはなりにくいんじゃないでしょうか。
とりあえず、プレスリリースのタイトルに「買収防衛策」とはいれずとも、

本プランは、世間で言うところの(有価証券上場規程第442条の)いわゆる『買収防衛策』に相当するものですが、買収防衛策という用語は、当社に対する買収に対して、頑なにこれを排除するといった誤解を投資家のみなさまに与えかねないため、以下、本プランを「○○○○○○策」と呼ばせていただきます。

といった説明書きを入れるのでもOK、といった対応にしていただく必要があるのではないかと思います。
そうしないと、リリースを見た第一印象からして「保身」にしか見えません。
アメリカの証券取引所の規定で、「買収防衛策」のプレスリリースの際に、「poison pill defense planといった文言をプレスリリースの表題に入れてください。」といった規定があるでしょうか?

みなさん、「Shareholder Rights Plan」といった用語で説明されているのではないかと思います。
 
わかりにくい会社法上の「買収防衛策」
さて、かわって会社法から見た「買収防衛策」の話。
ご案内の通り、会社法では「買収防衛策」という用語は直接にはでてきません。
しかし、会社法施行規則第127条において、以下の通り、事業報告において、「株式会社の財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針」を開示しなければならないこととしています。

(株式会社の支配に関する基本方針)
第百二十七条  株式会社が当該株式会社の財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針(以下この条において「基本方針」という。)を定めている場合には、次に掲げる事項を事業報告の内容としなければならない。
一  基本方針の内容
二  次に掲げる取組みの具体的な内容
イ 当該株式会社の財産の有効な活用、適切な企業集団の形成その他の基本方針の実現に資する特別な取組み
ロ 基本方針に照らして不適切な者によって当該株式会社の財務及び事業の方針の決定が支配されることを防止するための取組み
三  前号の取組みの次に掲げる要件への該当性に関する当該株式会社の取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の判断及びその判断に係る理由(当該理由が社外役員の存否に関する事項のみである場合における当該事項を除く。)
イ 当該取組みが基本方針に沿うものであること。
ロ 当該取組みが当該株式会社の株主の共同の利益を損なうものではないこと。
ハ 当該取組みが当該株式会社の会社役員の地位の維持を目的とするものではないこと。

(また、監査役等の監査報告でも、「財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針」についてコメントすることになってます。)
この「株式会社の財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針」というのが、いわゆる「買収防衛策」のこととされておりまして、適時開示のプレスリリースにおいても、かなりの会社は、この会社法施行規則第127条の1項、2項、3項といった構成に沿って、開示をしているわけです。
プレスリリースで書いたことと事業報告で書く内容が異なるというのもわかりづらいので、それは仕方のない面がありますし、「合理的」です。
また、「株式会社の財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針」と言われても、株主や投資家にしてみれば、「何のこっちゃ??」でありましょう。
「何のこっちゃ??」だからこそ、適時開示の規則においては、「買収防衛策の導入に係る開示資料の表題には、「買収防衛策」という文字を入れてください。」なわけです。
なんかわけのわからないことをぶつぶつ言っているやつというのはアヤシイわけで、「保身」に見えてしまうという原因のひとつは、このややこしいプレスリリースにあるかと思います。
「買収防衛策」と会社法上の「財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針」は微妙に異なる
しかしながら、「株式会社の財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針」と、「(あるべき)買収防衛策」というのが完全に同じものかと言うと、そうではないわけです。
本当に「買収防衛策」を株主のために使いたい企業が素直にIRするなら、「このプランは、株主のみなさまに高く株式を売却していただけるようにするためのものです」といったことを書きたいところです。
(「高く」というのはさすがにマズいなら、「適切な価格で」とか「不当に安い価格で売却せざるを得なくなることがないよう」とか。)
不思議の国のM&A—世界の常識日本の非常識

不思議の国のM&A—世界の常識日本の非常識
牧野 洋
日本経済新聞出版社
売り上げランキング: 24435

で牧野氏が述べられていたように、M&Aで最も大切なものは「価格」です。このため、「買収防衛策」のリリースは「価格」を前面に出した説明にすべきだし、真面目に「買収防衛策」導入を考えている企業ならそうしたいところなわけです。
ところが、実際に各社の「買収防衛策」のプレスリリースを見ていただければおわかりのとおり、このリリースは極めてボリュームが多く、しかも非常に技術的で難しい内容のものになっています。
会社法施行規則を策定された方々はきっと、「別にオレは、プレスリリースにまで会社法施行規則第127条を適用してくれなんて言った覚えは全く無いよ!」とおっしゃるでしょう。
しかし、こんなややこしい文書を、2パターン作るなんてことは、実務ではちょっとイヤなわけです。
確かに、理論的にわざわざ2パターン作ることが不可能というわけではないかも知れない。しかし、平たく言うとそのためには時間と「リーガルフィー」がかかるわけです。1パターンで済むところをプレスリリースと事業報告にわけて2パターン作って数百万円コストが増加するなら、1パターンにしておくのが合理的。
法律の専門家の方は、「法令や規則に定めの無いことなら、徹底的に争えばいいじゃん?」とおっしゃるかも知れませんが、買収防衛策を導入する企業は、特に「保身」しようなんて考えずに真面目に企業のためを思っていても、買収防衛策に関わる複雑な制度や法令を全部理解しているわけではない。弁護士さんや証券取引所さんに「みなさん、こういった書き方をされてます。」と言われたら、それを論破するなんてのは並大抵のことではなく、普通は「はあ、そうですか。」としか言えないでしょう。
一般の上場企業の経営者や担当者が理解できないというだけなら、「買収防衛策を導入しようというなら、もっとよく勉強しろ!」ということになるかも知れませんが、会社法や金融商品取引法に相当精通されている弁護士さんですら、買収防衛策の専門家でない方だと、買収防衛策に関わる法令や裁判例について、非常に「ありりっ?」というような理解をされているケースをいくつも見かけます。
買収防衛策に関することは法律の専門家でもまだ一般によく理解されているものとはいいがたいのに、経営者にまで、複雑な法令や規則を細かく理解させる必要があるでしょうか?
別の例でいえば、例えば、会社がユーロ市場で債券を発行しよう、といった場合に、社長が適用される外国の法律や日本の法令との関係や学説などまで、深く理解している必要があるでしょうか?
社長が理解すべきなのは、それが財務的にどの程度のインパクトを与えて、結果としてその調達が株主のためになるのかどうか、といった大局的なことだけで、細かいことは専門家の意見を求めればいいだけでしょう。
同様に、「買収防衛策」においても、経営者が理解すべきなのは「保身には使わない」ということや、特別委員が本当に客観的に当社の事業を理解してフェアな判断を下してくれる人か?といった大局的なことだけで、細かい法令等まで知っている必要は必ずしも無いのではないでしょうか?
ともあれ、こういった様々な要因によって、プレスリリース(及び事業報告)の記述は、
「当社の財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針」
「当社の財産の有効な活用、適切な企業集団の形成その他の基本方針の実現に資する特別な取組み」
「基本方針に照らして不適切な者によって当該株式会社の財務及び事業の方針の決定が支配されることを防止するための取組み」
といった、一般人にはわけのわからない小見出しが踊ることになりがちです。
「財務及び事業の方針の決定を支配する者」とは何ぞや
そもそも「当社の財務及び事業の方針の決定を支配する者」という用語からして「何のこっちゃ?」ですよね?
会社法の「親会社」(第二条第4号)の規定は、

親会社 株式会社を子会社とする会社その他の当該株式会社の経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう。

とあり、会社法施行規則第三条2項では、

法第二条第四号に規定する法務省令で定めるものは、会社等が同号に規定する株式会社の財務及び事業の方針の決定を支配している場合における当該会社等とする。

とあるので、つまりは「当社の財務及び事業の方針の決定を支配する者」というのは、平たく言うと、会社法でいう「親会社」のことだと思われます。
「当社の財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針」
なんて回りくどい言い方をせずに、
「親会社の在り方に関する基本方針」
じゃなんでダメなんでしょうか?
会社法上の親会社は、実質支配基準だから50%超所有とは限らないし、法人以外のファンド等も含まれるから、世間の人が思い浮かべる「親会社」と「会社法上の親会社」は若干異なります。
だから、「親会社」だと誤解を招きかねない、ということでしょうか?
(それじゃあ、せっかくの会社法上の「親会社」の定義は何なの?という気もしますが。)
「買収防衛策」は、「親会社のあり方を決める」だけのものではない
「いい『買収防衛策』」が「株主が高く株を売却できるするようにするためのもの」だとすると、「親会社のあり方を決める方針」というのとは若干趣旨がズレることはお分かりいただけるかと思います。
買収防衛策は、通常、20%以上取得する者を対象としていることがほとんどなので、必ずしも50%超取得とか、実質支配を目的とするもの以外の者も対象にしているわけです。つまり、実質支配基準をもってしても、その取得者は会社法上の「親会社」にならないこともあるし、会計的な言えば、その取得者は対象企業を「連結」する必要がない場合もあるわけです。
ところが、プレスリリースのかなりのものでは、「当社の財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針」といった書き方になる。最も重要なのは、50%超取得する場合のみならず、20%から50%取得する場合も含めて「価格」のはずですが、「当社の財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針」という言いっぷりからすると、「グリーンメイラー」とか「解体型買収」等をも前面に押し出さざるを得ず、「価格」はone of themになっちゃうわけです。
(例えば、PBRやPERがそこそこ高くて、「グリーンメイラー」とか「解体型買収」に買収される可能性なんてほとんど無いよなー、と思ってる会社であっても、万が一ということもありますから、当然、そういった類型も入れておく必要があります。)
「高く売りまっせ!」という点を強調したくても、それをわかりやすく書くのと、きちんと客観的な記述にするのとするのとを両立するのは、技術的にかなり工夫する必要があるわけです。日ごろから買収防衛策について非常に深く考察していて、「オレならこう書く!」というイメージをしっかりお持ちの専門家の方ならともかく、一般的にはかなりまだ難しいはずです。
経営陣の恣意性を排除することも重要ですので、不適当な買収の例等を詳しく書こうとすればするほど、ボリュームも増えるし、わけもわからなくなってきます。
「あるべきひな形」が出来ればいいか?
プレスリリースをすっと読んでも何言ってるかさっぱりわからないのは、非常に印象が悪い。「本音は保身じゃないか?」という匂いがプンプンしてしまいます。
とはいえ、上述の通り、この複雑な法令や規則を潜り抜けてわかりやすいリリースを書こうというのは、ちょっとした技術的困難が伴いますので、リーガル能力に長けた企業ならともかく、事業を一生懸命やってる真面目な企業が、うまく説明できるとは限らないわけですね。
前述の通り、「上場企業であるからには、そうしたリーガル能力やIR能力は必須だ!それがうまく説明できないのはそもそも経営者失格。そんな会社はとっとと死ね!」とまで言ってしまうのが、社会全体にとっていいことなのかどうか。
では、こうした技術的な問題を解決した「あるべきひな形」みたいのを誰かが(例えば経済産業省さんの研究会とかが)作って公表したらそれで済むんでしょうか?
そうしたら、真面目にやっている普通の企業は喜ぶかも知れませんが、同時に「保身」を考えている企業もそれをコピペして使うだけですよね。
先日述べたとおり、結局、買収防衛策というのは「包丁」であって、おいしい料理を作ることにも使えるが、人を殺すのにも使えてしまうわけで、「料理はできるが人は殺せない包丁」というのは存在しない。いくらよさそうなリリースを出そうが、取締役なり特別委員が悪いことを考えているヤツだったら悪いことに使われてしまうわけです。
結局は、事前には、取締役なり特別委員が「包丁で人を刺すようなやつかどうか」を見極めるしかないし、事後的には、委任状闘争をしたり裁判をして「保身」を図っているに過ぎないのかどうか、プロセスを吟味してもらうしかないんではないかと思います。
「安定株主比率が高い会社」は「買収防衛策」の導入が認められないのか?
買収防衛策を導入する場合には、取引所の事前相談を受けなければなりません。
この相談で、明文化されている規定のほかにどのようなことが話し合われているかは開示されていないと思いますのでよくわからないのですが、基本は、会社が本当に真摯な目的で買収防衛策を導入しようとしているかどうかを判断されているのでしょう。
ところが、それって本当に判断できるのでしょうか?
この事前相談は、会社の担当者や経営者が直接対応することが求められると思います。
しかし、その会社の担当者や経営者には潜在的に「保身(利益相反)」の疑惑がかかっているわけですから、本人がいくら「私は保身するつもりはありません!」と言っても、まったく説得力が無いわけです。
弁護士やアドバイザーが出て行って説明しても、会社が本当に理解しているかどうかがわからないし、経営者が本心でどう思っているかの心証も得られない。
また、安定株主比率が高い場合には、取引所さんは「おたくは買収防衛策を導入する必要は無いですね。」といったご指導をされるという噂も聞きました。
一見当たり前にも聞こえますが、実は大きなお世話じゃないかと思います。
「保身」を考えている経営陣なら、安定株主比率が高ければ買収防衛策を導入する必要はないかも知れません。しかし、会社はいい潮時であれば他社に買収された方がいい場合だってあるし、安定株主だって高く売却したいわけです。
つまり、そもそも取引所さんも、(「投資家のため」といったことを口にしつつも)「買収防衛策」というのは「買収を『防衛』するための策」であって、「売却を前提とした交渉のツール」とは考えていないんじゃないでしょうか
前述のように「有価証券上場規程」に「買収『防衛』策」という用語を使っている時点で、取引所さんも、「買収防衛策」を「買収を『防衛』するための策」としか考えていないのではないのか、という気がします。
(もちろん、よく勉強されている方もいらっしゃるでしょうけど、取引所の中にも、「買収を『防衛』するための策」と思ってらっしゃる方も実は多いんではないでしょうか。)
そして、「買収防衛策」という用語を使い続ける限り、そうした「誤解」を無くしていくのは容易ではないと思います。
よく考えてみると、上場企業というのは取引所にとって「顧客」であり、100%買収というようなことになって上場廃止になったら取引所は大事な顧客を1社失うことになるわけですから、取引所も口では「投資家のため」といいつつ、本音では、上場企業に「買収」を「防衛」してもらいたいと思っているんじゃないかとも思ってしまいます。
(つまりは、企業がいくら「買収防衛策を保身に使うつもりはない」と言っても「ほんとー?」という目で見られてしまうのと同様、取引所にも投資家との潜在的な利益相反が存在しうるわけです。)
まとめ
私は、買収防衛策を導入しようとしている企業のすべてが投資家のためを第一に考えた「いい目的」のために導入しようとしているなんてことは申しません。しかし、上場企業の1割超もの会社がみんな「保身」だけを考えて買収防衛策を導入しようとしているとも思えないですし、「(いい)買収防衛策」を導入したほうがいい企業もあるはずです。
「保身」に見えてしまう理由として、現状ではまだ、上記のような実務上の制約や負担も大きいのではないか、ということが何らかのご参考になれば幸いです。
以上、長文にも関わらずご精読ありがとうございました。
(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

One thought on “日本の現行制度下では「買収防衛策」は必然的に「保身」に見えてしまうんじゃないか?

  1. はじめまして、いつも楽しく拝見させていただいております。
    東証の弁護をするつもりはありませんが、一点だけ補足させていただきますと「買収防衛策」という用語を使い始め、広く世に知らしめたのは、ご存じ「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」であります。同指針において「買収防衛策」の定義がなされたのが先で、東証の買収防衛策の定義(有価証券上場規程2条80号)はこれに沿ったものです。
    東証にいろいろと不合理なことを言われたであろうことはお察ししますが。。