監査役にはどんな要件が必要とされるのか

  • Facebook
  • Twitter
  • はてなブックマーク
  • Delicious
  • Evernote
  • Tumblr

昨日につづいて、監査役についての考察をもう一発。
Law Maniac「その、監査役を選ぶのは、誰か」より。

 私は、メディアではなく、上場各社の株をお持ちの株主さんに申し上げたい。
取締役や監査役の職務遂行に、ダイレクトにYES・NOをつきつけられるのは、株主さんだけです。
 株主総会に足を運んで質問したり、委任状によるとしても議案ごとに議決権を行使したり、株主としての責任を、積極的に果たしてください。
 その積み重ねが、会社を「良く」する原動力になります。

おっしゃるとおりですごい正論なんですが、実際問題としてはちょっとキツい面もあるかと思います。
株主総会がどう関わればいいのか?
昨日、監査役は、独立性が強く保証された「裁判官」の位置づけに非常によく似ていると申し上げたんですが、株主総会での監査役の選任ってのも「最高裁判所裁判官の国民審査」に非常にノリが似てませんか?
選挙に出かけるとき、衆議院議員に誰を選ぶかは結構新聞等をよく読んで検討する人はそこそこいらっしゃると思うんですが、そういう結構マジメな人でも、投票所に行って見ると、「ん?最高裁判所裁判官の国民審査?あー、そんなのあったっけね。よくわかんねーからテキトーで。」ということになる人が98%以上(磯崎推定)ではないかと思います。
日本の三権の一つを国民が直接審査するわけで、これって、非常に大切なことのはずですが・・・そんなもんです。
参考:最高裁判所裁判官国民審査法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO136.html
監査役に求められる「素養」
最高裁判所の裁判官というのは、司法試験も受かって司法修習や実務も経験している「プロ」なわけですから、まあそんなもんでいいかも知れません。
また、衆議院や参議院の議員になるのに試験が不要なのと同様、取締役になるのには試験は不要だと思います。新しい発想やバランス感覚なんてのは試験じゃわからないので。
ところが、裁判官になるのに試験は必要だが、監査役に試験が不要と言っていいかどうかというと、ちょっとビミョーです。
だって、監査役がチェックする必要のあることその1、「監査法人の監査の相当性」を判断しろつっても、「会計監査とはどのように行われるべきか」というのがわかってないと監査法人にツッコミの入れようがないですよね?
そのレベルって、公認会計士試験に受かれとは言わないまでも、少なくとも、試験範囲(簿記・原価計算・財務諸表論・監査論・商法・経営学・経済学・民法・税法)あたりの一通りの知識は欲しいところじゃないですか?
「○○監査法人の監査の方法および結果は、相当とは認められない。」てなことを監査役が監査報告書に書いたら、株価も大暴落だし、その監査法人の信用にまで大きく傷が付く大問題になります。生半可な会計監査の知識しか持たない人が、そんな会社を潰しかねない判断をするとしたら、非常に怖いお話で。(しかも、誰もそれを止められない!)
その2「適法性」の監査についても、司法試験に受かれとは言わないまでも、民法、会社法、手形小切手法などの商売の基礎的な法律知識をベースとして、その会社の業務に必要な法律の一通りの知識は必要ですよね。でないと、生半可な知識で「取締役の職務遂行に関して、法令若しくは定款に違反する重大な事実を認めた。」なんて言ってもらっても、これまた困っちゃいます。
これも会社を潰しかねない話なわけですから、指摘される取締役も死に物狂いで反論してくるはず。それを論破するためには、非常に高度な知識と論理構成力が必要になります。
以上は「お勉強」的なお話ですが、今度の監査役監査基準では、今まで監査役の業務の範囲からははずれるというのが通説だったその3「妥当性監査」についても監査役の監査範囲に取り込んでいます。(isologueバックナンバー、「経営判断の原則」参照)
つまり、取締役が意思決定をする際の、情報収集、シミュレーション、専門家のアドバイス等は適切に活用されているかどうか、経費の効率や投資のリスクとリターンはどうなのか等が十分かどうか、的確なバランス感覚で判断が行えることが必要になります。
これも、MBAを取れとは言わないものの、それに準ずるような一通りの知識や実務経験が必要ですよね?
つまり、監査役というのは、マジメにやろうと思えば、ものすごい知識と見識が求められる役職なわけです。
昨日のエントリーに書いたとおり、監査役としての注意義務は果たしてました、という「訴えられてもなんとか勝てるレベル」はそれほど高いレベルは必要とされません。ただし、みなさんが監査役に求められているのは、取締役を論破し、または説き伏せ、経営の変革に火をつけるようなレベルであって、それは、公認会計士や弁護士と対等に会計や法律や経営についてディスカッションできるようなレベルじゃないすか?
山口さん曰く「会計士は(少しは)変わった。今度は監査役」
確かに会計士はもともとプロとしての知識と経験はあったわけですから、あとは気合を入れて倫理観を高めればよかったかも知れません。
ただ、監査役は「やる気」だけで「変われる」でしょうか?
image002.gif
訴えられて勝てるレベルと「あるべき(?)」監査役のレベルって、ブレーキ性能に例えたら、軽自動車のドラムブレーキとBremboのディスクブレーキくらい違うかと。
brembo.jpg
(© Brembo)

Law Maniacのminoriさん曰く
「株主総会に足を運んで質問したり、委任状によるとしても議案ごとに議決権を行使したり、株主としての責任を、積極的に果たしてください。その積み重ねが、会社を「良く」する原動力になります。」
・・・って、積み重ねても原動力にならないと思うなあ。
経営陣自らが監査機能の重要性に気づくか、機関投資家や再生ファンドなどがガツーンと「監査役に弁護士と公認会計士(レベルの人)を入れろ」とか言わないと、変わらないと思うですよ。
そういうのが「本質論」であり、「感情の赴くまま、その時任せの論調」でない、「現実を踏まえた地に足のついた議論」ではありまへんでっしゃろか。
(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

3 thoughts on “監査役にはどんな要件が必要とされるのか

  1. 確かに監査役というのは、特に中小企業では無報酬での名義貸しみたいなのがよくありますが、あれって実はかなり危険ですよね。勉強すればするほどその危険さが身にしみます。
    妥当性まで判断するのははっきりいって通常難しいと思います。

  2. 監査役を働かせる為には

    監査役をマトモに働かせる一番手っ取り早くて効果的な方法は、じゃんじゃんばりばり株主代表訴訟を提起することなんじゃないかと思ってます。
    で、最近世論を気にするようになった裁判所が柔軟な判決(賠償責任までは認めないが、業務態度を非難する、など)を出すようにな.