47thさんから「会社法下の転換社債(「区分法」と「一括法」)」についてトラックバックをいただきました。
「誰も入ったことのない洞窟」を一人で探検するのは心細いので、ツッコミ大歓迎であります。
「対価の適正性」については、法的には有利発行規制という歯止めが一つあるわけですが、より実態的なレベルの話としては価格決定のプロセス、特に「独立当事者取引」(arm’s length transaction)であったかどうかが重視されます。
(中略)
SOの場合(特に経営陣に対するSOの場合)には、利益相反(自己取引)の要素が否定できません。いわゆる「お手盛り」と言われる話ですが、法的には、その歯止めとして「内容」について株主による承認が求められているわけですが、これにはいくつかの限界があります。
ここで一言。会社法下の転換社債(転換社債の新株予約権部分には価値は無いのか?)にも書きましたが、会社法になってからは、SO(ストックオプション)の量が労働の対価として適切(「特に有利」でない)なら、株主総会決議は不要という解釈になりました。
(追記5/30:すみません、ここは47thさんは総会による『枠』の承認のことをおっしゃってて、私は新株予約権の個別の決議のことを考えていたので、話がかみ合っていませんでした。申し訳ありません。コメント欄ご参照。)
となると、ストックオプションを発行するのを株主総会決議にかけるというのは、「念のため」ということで許されるのか、「労働の対価を考慮しても『特に有利な発行』ということだから、従業員等に『寄付』をする、ということなのか?」ということで、ストックオプション自体の価額算定のややこしさともあいまって、現場は非常に混乱してるのではないかと思います。
中でも大きな問題の一つとして、株式の分散所有構造から生じる「集合行為問題」あるいは「合理的な無関心」と言われる問題があります。個々の株主にとっては、例えば総会に付議されたSOの発行条件を検討して、それが適切かどうかを判断するための情報収集・分析のコストを費やすことは必ずしも合理的ではありません。
オプションの評価は、現金報酬の額とは違って、評価モデルの確定やボラティリティなどの追加情報の入手が必要となり、余計に情報収集・分析のコストは大きくなります。
厳密に考えると、SOの会計的なコスト認識は株主の承認の後にはなりますが、会社が過去に付与したSOについて一定の合理的なオプション評価モデルを利用した評価を示すことによって、株主の情報収集・分析コストを現金報酬と同様のレベルに近づける効果は得られるでしょう。
この意味において、SOの費用認識は、経営陣への報酬の「歯止め」を実効的にすることに役立つことになると思われるのですが、CBをはじめとした第三者との交渉の末に発行条件が決定されるファイナンス目的のオプションの場合には、この趣旨は必ずしも当てはまるものではありません。
(中略)
ただ、SOについては、そもそも対価が金銭的なものではないので、一定の「評価」をかませた数字を会計的に計上するということが「必須」ですが、CBのようなファイナンス目的のオプションについては、発行時点で対価としてのキャッシュが流入していますので、特に会社側で「評価」というプロセスをかませなくても、これまでのどれだけの額のファイナンスがなされたのか新規金融債権者は知り得ます。
(中略)
従って、仮にSOにとっては「評価」に基づく数字を提示することが必要だとしても(※)、そのことから直接にファイナンス目的のオプションの発行について、対価として流入した額以外に、あるいは、それよりも、会社による「評価」の入った数字を計上することが望ましいということにはならないのではないでしょうか?
ということで、47thさんは、ストックオプションと違ってCBの場合には、(社債部分と新株予約権部分がゴッチャとはいえ)、「独立当事者(間)取引」(arm’s length transaction)であったので、新株予約権部分をあえて区分して表示する必要はないんじゃないか?というお考えと読めます。
しかし、これはちょっとおかしいですね。
というのも、「転換社債」の要件を会計上満たさない新株予約権付社債(昔の商法の分離型・非分離型のワラント債など)については、会計上「区分法」が強制され、オプションバリューの部分を表示しないといけないことになっているからです。
「転換社債でない新株予約権付社債」も「独立当事者間取引」として発行されることがほとんどのはずで、会計基準は「arm’s lengthで流入した資金については新株予約権の価額を分離しなくていい」とは考えてないわけです。(それが、まさに「セカンドインパクト」を引き起こした原因だったわけで。)
つまり、会社法による大きな転換は「オプションの公正価額は算定できるのが前提」ということであり、今や(この5月以降)、新株予約権の価額を会計上計上しなくていいのは、「転換社債」の要件を満たす場合だけであって、数学っぽく書くと、下図のように、(特に公開企業の場合)この部分だけが唯一の「特異点」になっているように思えます。

しかも、この特異点は「外部からは観測できない事象の地平線(ブラックホール)の内側」にある特異点ですね。
「費用ゼロ」の資金調達のインセンティブ
ワラント債市場が一夜にして消滅した「セカンドインパクト」の原因を考えてみると、(節税の機会を放棄してまで)「金利コストゼロ(または非常に小さい額)」で資金調達できるというのは、会社の財務担当者にとっては極めて強いインセンティブを持つものだ、ということが言えるのではないかと思います。
(会計上の「見え方」ではなく「実態」を考えてみれば、区分法を採用して社債発行差金償却を費用計上し、キャッシュアウトを減らした方が得なはずで、ここは会計上費用計上した額が永遠に費用計上できない(従業員にとっての)税制適格ストックオプションとは大きく異なるところ。)
会社で一番、財務面での技術的チェックを行う能力があるのは通常、財務部門だと思いますが、その財務部門が「ま、表面上はどこにも出てこないから、多少、株主にしわ寄せが行ってもしゃーないか。金利コストが下がれば我々の手柄になるし。」と判断してCBの発行条件を決める可能性がある場合に、その条件は、本当に「独立当事者間取引だから心配ない」と考えていいんでしょうか?
金利上昇局面でも違和感ないか?
今までは金利がべらぼうに低い局面でしたので、仮に新株予約権の公正価額がちゃんと金利の削減額とほぼ一致しているとするならば、新株予約権の価額もさほど大きなものにならなかったはずです。
しかし、今後金利が急上昇したりして、新株予約権の価額が転換社債の価額のかなりの部分(例えば4割とか)を占める場合でも、それを金利コストとして開示しないというのは、みなさん違和感ないんでしょうか?(ストックオプションの費用は認識されるのに・・・。)
誰がチェックしてるのか?
こうした価額の妥当性については、開示するしないに関わらず、取締役の善管注意義務上当然、チェックする必要があると考えられます。
ただし、見るからにとんでもない条件でMSCBが発行されてるのを見ると、そういう善管注意義務がどこまでちゃんと果たされているのか、大きな疑問を感じざるを得ないですよね?実際、一般の投資家の方が最も株主と経営陣の利益相反の疑義を感じてらっしゃるのが転換社債の部分ではないかと思うわけです。(金額が数百億円単位だったりと巨額なこともあり。)
「独立当事者間取引だからOKっしょ?」とはとても言いにくい雰囲気。
実際、こうしたCBの発行の実務においては、オプション価額の妥当性について「見ているようで誰も見ていない」状況が発生しているのではないかとも思われます。
つまり、CBを引受ける証券会社は、弁護士さんからの「適法である」という意見書がないと発行は行わないはずですが、弁護士さんは「我々はオプションバリュー計算の専門家ではないので」ということで、そこの部分についてはコミットはしないはず。経営陣が「適法であると考えている」という内容の意見書を弁護士に対して出すのでしょうけれど、経営陣が直接、金融工学的計算をできるケースはほとんどないでしょうし、金融工学の専門家の知り合いすらいないのが普通だと思いますので、証券会社が連れてきた金融工学がわかる「第三者」の算定書を取るか、または「独立当事者間取引だから価額は適切に決まるはず」というような理由で、そういった算定書すら取らないで判断しているのが実態ではないかと思います。つまり、「意見書の堂々巡り状態」ですね。
もちろん、「まじめ」にやってらっしゃる企業さんもあるのでしょうけど、「開示もされないんだから、そんなややこしいことを考える必要ないじゃん?」ということで、そのへんがあまり深く考えられないのが今までの実務だったんじゃないでしょうか。
また、従来は、そもそもそういうオプションの公正価額を算定できる人がどこにいるかさえ知られていなかったので、実務上は、それを計算しなかったとしても「著しく注意義務を欠いた」とは判断されなかったかも知れません。
しかし、(良くも悪くも)ストックオプション会計が始まっちゃった今、(区分法を採用するかどうかにかかわらず)、CBにおいてもそういう「オプションバリューの公正な価額が、削減できる金利コストと見合っているか」を考慮することは、取締役の善管注意義務上、欠くべからざるものになった、と考えておく必要があるのではないでしょうか?
もし転換社債に区分法が強制されたら・・・
そして、もし仮に、転換社債にも区分法が強制される(か、または公正な価額について注記くらいは義務づけられるような)ことになったとしたら、その「公正な価額」の算定方法については会計監査人によるチェックが入ることになりますし、一般の投資家の目にもふれることになります。
「特異点」を「事象の地平線」に取り囲まれた外からは見えないものとして取り扱うのか、注記で開示して「裸の特異点」として扱うのか、そもそも他の新株予約権の取扱いと同じにして「特異点」で無くすべきなのか。
この問題は、一般の企業人から見ると、まさに「相対論」と同じくらいややこしいこの問題に映ると思いますが、ややこしいから考えなくていいかどうかは微妙。
ライブドア事件で、ホリエモンは「違法である可能性が高い」と明示的に宮内被告から聞かされていたのか、聞かされていなかったが違法であると判断する注意義務があったのか、それともそこまでの義務は無かったという判決になるのか。
もし、「会計の専門家でない経営者に、そこまでの注意義務は無かった」とされるのであれば、全国の取締役のみなさんはかなり枕を高くして眠れると思いますが、ホリエモンが「有罪」ということになるのであれば、上述の転換社債の問題も(たとえそれがMSCBでなくても)、取締役のみなさんには大いに関連することになる可能性大ではないかと思います。
(続く)
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