モックの件から改めて振り返る、ブルドックの新株予約権の会計処理の適正性

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kawailawさん等に教えていただいて、遅ればせながら「モック」の株式併合と新株予約権発行等のリリース
http://www.moc.co.jp/ir/library/disclosure.html
を読んでみました。
感想:「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
人によっては不快感や目まいを覚える方がいらっしゃるかと思いますので、血圧の高い方、妊娠中の方などは、閲覧をお控えいただいたほうがいいかも知れません。


 
既存株主の持株比率が最終的に約30分の1になっちゃうとか、数千人の株主が1株以下になって株主としての権利を失うとかいうような話はもちろんトンデモないお話ではあるのですが、もう東証さんからも警告が出ているし報道もされているので脇に置かせていただくとして、問題は発行後。(発行できたとして)。
私が以前のエントリで、ブルドックソースさんの会計処理のときに心配したことを実行されるとしたらイヤだなあ、と思って、新株予約権のリリース
http://www.moc.co.jp/ir/library/pdf/other/07090705.pdf
を読んでみると・・・・・あった。ありました。不思議な取得条項が。

13.本新株予約権の取得の事由及び取得の条件
(1) (略)
(2) 当社は、取締役会が、発行価額と同額で本新株予約権を取得することを決議した場合は、当社取締役会で定める取得日の2週間以上前までに通知又は公告したうえで、かかる取得日に、その時点において残存する本新株予約権の全部又は一部を発行価額と同額で取得することができる。一部を取得する場合は、抽選その他の合理的な方法により行うものとする。

つまり、モックは新株予約権者から、発行額と同額(1株あたり1円)で新株予約権を取得できるわけです。
普通の投資家なら、せっかく1株あたり1円で取得した権利をみすみす取り返されるのは決して得ではないので、「2週間以上前までに通知又は公告」されたら、(行使したほうが得なら)その間に行使するはずですが、新株予約権を引受けるこのMaxi Point Investment Limitedなる会社、なにせ、資本金が「1香港ドル」で、代表者が「Jarwell Limited」。(「Limitedさん」という名字の人ではなくて、法人ということでしょう。)
はたしてどんな実態を持つ会社なのか開示資料だけからではまったくわかりません。
加えて、本日の終値(併合比率10倍をかけると)約5万円なのに対して、新株予約権の行使価格は1株あたり15,000円で、有利発行を予定しています。
(今後もこの株価が保たれるかどうかは全くわかりませんが、仮に行使価格以上の株価が続くとして)、会社が上記条項を使って発行価格で新株予約権を1株あたり1円(100株分が1個なので、1個100円)で取得し、これを仮に1株20,000円(1個200万円)で第三者に売却したとします。
この場合、ブルドックが採用したのと同じように「新株予約権の売却は損益取引である」という立場に立つと、差額の1株19,999円(1個あたり1,999,900円)は、あらふしぎ「利益」になっちゃう。
上記の取引で新株予約権を取得した人がこれを行使したら、1株35,000円で第三者割当増資をしたのと実態がまったく同じなのに、なぜか利益が計上できてしまうわけです。
仮に(あくまで仮に、ですが)、このMaxi社が持っている40万株分の新株予約権をすべて買い戻し、これを第三者に株価と行使価格の差額で売却したら、十億円単位の利益が出る(かも知れません)。
昨年は、営業段階で10億円程度の損失、最終で40億円弱の損失を出している同社ですが、仮にこれを行うとすると、一気に「黒字」になる可能性もある。(税務上の繰越欠損金も30億円くらいありますので、いくら利益が出ても、へっちゃら。)
監査法人さんの交代もリリースに載っていますが、私は存じ上げない監査法人さんですし、上記のような会計処理をダメというのかイイというのかはわかりません。
しかし、ライブドアが実質的な資本取引を利益としたのが「粉飾」として裁かれたことを考えれば、これも(仮に行われるとしたら)、一般の方には、まったく同じようなことをやってるようにしか見えないんじゃないでしょうか。
つまり、こういう、行使価格が時価より大幅に低い大量の新株予約権の売買というのは、実質的に資本取引と同等の性質を持つわけですが、必ずしも会計基準が明示的に想定していなかったのをいいことに「だから損益取引でいいんだ」・・・・という考え方はどうなの?ということです。
もちろん、ブルドックさんは「損失」として処理しているわけで、これは100歩譲れば保守主義の原則から考えて堅めに処理しました、という理屈が通らないこともないかと思います。
しかし、もし仮に(仮に、です)、モック社が上記のような一連の取引をしてそれを損益取引として利益を計上し、
「だって、(非常にちゃんとした会社である)ブルドックだって損益取引にしたじゃない!」
と主張した場合、「ブルドックの会計処理は適正だったが、モックは粉飾である」ということは言えるでしょうか?
「モックもブルドックも適正」となるのか、「ブルドックの会計処理も問題があった」ということになるのか。
ブルドックの会計処理が及ぼす悪影響というのは、理屈としては心配はしてましたが、まさかこれほど早くホントに実行する(可能性のある)会社が現れるとは思ってませんでした・・・。
大手商社さん等も出資されているようですが、既存の株主さんの誰かが差止めを行おうとするのか。(時価総額からすると、差し止めるコストもバカバカしいと感じるかも知れません。)
そもそも総会で否決されるのか。
それとも、発行は行われるが、素直に行使されて会社に資金が注入されるだけで、(既存株主が損害を受けるかどうかはさておき)、会計上の問題にはならないのか。
さて、どうなるんでしょうか。
(取り急ぎ。)

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4 thoughts on “モックの件から改めて振り返る、ブルドックの新株予約権の会計処理の適正性

  1. BLOG IT! from isologue – by 磯崎哲也事務所

    isologue – by 磯崎哲也事務所ブルドックの会計処理が及ぼす悪影響というのは、理屈としては心配はしてましたが、まさかこれほど早くホントに実行する…

  2.  モックの件が、上場会社として適切かどうかという
    問題の他に、会計上の問題があるとは知りませんでした。
    とても勉強になりました。今後どうなるのか、要注目ですね。
     ちなみに、同様のスキームは、株式会社アライブコ
    ミュニティ(ヘラクレス上場)でも行われ(株主総会
    で可決されたようです。)たようです。
     流行しなければいいのですが。

  3. 情報、どうもありがとうございます。
    「会計上の問題」は、もちろん、そういうことをされる予定がなければ「問題」ではないんですが。もし実行された場合に、「ライブドアと同じ(アウト)」になるのか「ブルドックと同じ(セーフ)」になるのか、ややこしいなあ、ということであります。
    (ではまた。)

  4. ブルドックのそこが引っ掛かっていたのです。なんかもやもやしていたのですが、今回の記事を拝見して、自分がどこを理解していなかったのかが、よく分かりましたのですっきりしました。お礼申し上げます。
    ブルドックとライブドアと、どちらもアウトということになりはしませんでしょうか。損として計上するのは適法、益として計上したら違法、とする会計慣行がどこかの国にあるのでしょうか。NYやシティではどうなのでしょう。アライブさんは知りませんでした。