書評:「不思議の国のM&A」

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不思議の国のM&A—世界の常識日本の非常識
牧野 洋
日本経済新聞出版社 (2007/08)
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著者の(元)日経新聞編集委員、牧野氏から送っていただいた本。
非常に面白く、読みごたえがある本だと思います。


 
M&Aや買収防衛策の理論を書いた本は多数出てますが、そうした本にちょっと食傷気味の方にもお勧めではないかと。そうした「理論的な」本は、(もちろんきちっと書かれていてすばらしいものが多いのですが)、わかりやすいように事例等の引用をしているにしても、「どんなヤツが何を考えて行動しているのか?」という姿が見えにくい面があるかと思います。しかしその点本書は、新聞記者の方でないとできない「取材」に基づいて、現場のプレイヤーの生の声が反映されており、一般的な読者にも非常に分かりやすく読めるのではないかと思います。
以前、佐々木俊尚氏に、「ブログがマスメディアにとっての危機になっている」といったことを書いていただきましたが(こちらをご参照)、本書のようなクオリティの情報が発信できるのであれば、ブログなんて新聞にかないっこないわけでして。
(あ、でも、牧野氏は今年の6月で日経新聞を辞められたそうですし、辞める前には本書に書かれたような情報や牧野氏の観点が必ずしも紙面からは読み取れなかったようにも思えますので、やっぱり「危機」でないとは言えないのかも知れませんが。:-)
新聞社を辞めるからヤケクソ、というわけでは決してないのでしょうけど、「え、こんなこと書いちゃっていいの?」的、「そうじゃないかとも思っていたが、やっぱりそうだったのか」的な、世の中の真相に触れる大物の方の談話がたくさん公開されているところも注目であります。
一例としては、村上ファンドの村上元代表が逮捕前の記者会見の前に、牧野氏に電話してきた内容。(・・・この本は、村上ファンド事件の控訴審でも、弁護側の証拠として提出される本になるのかも知れませんね。)
−−−
ただし、そういった「ジャーナリズム的な観点だけ」で理論が無いと申し上げているわけではなく、それどころか、この本はかなり理論的な本である、と申しあげてよろしいんじゃないかと思います。つまり、この本を読んで(少なくとも私が)スカっとしたのは、「M&A、ひいては市場の機能として最も重要なのは、『価格』である。」という主張が、最初から最後まで一貫しているところであります。
(もちろん、「特別委員会をどう組織するか」とか「取締役会の決議でいいか、株主総会の決議が必要か」といったことを検討するのも重要ですし、非常に興味深いのではありますが)、市場で最も重要なのは「価格」なのに、日本では「価格」が存在しなかったり、ないがしろにされているM&Aがいかに多いか。牧野氏は、「原点に立ち返って考えてみろ」ということを鋭く問うていらっしゃるのではないかと思います。
(ではまた。)

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3 thoughts on “書評:「不思議の国のM&A」

  1. 本屋の棚に飾ってあるので知っていましたが、どうせ…と思って手に取ることすらしませんでした。一読させていただきます。
    そういえば、極めて日本的と思われるディールが白馬の騎士の会社で行われておりました。親会社がTBOをかけながら、その子会社の投資信託がその株を買うのって、ファイヤーウォールがあるにせよ、如何なものかとおもいますけどね。
    こちらがプレスの資料
    http://www.sbigroup.co.jp/news/2007/0904_a.html
    お上への提出資料
    http://www.kabupro.jp/extract/2007/9414420070GU2KT20.doc
    勿論、法的には問題ないのでしょうけど。
    しっくりこないなぁと思うのですけど、磯崎先生から見ていかがでしょうか?

  2. 【本】不思議の国のM&A

    不思議の国のM&A—世界の常識日本の非常識
    牧野 洋 日経 2007/8
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  3. ここが変だよ、牧野洋「不思議の国のM&A」

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