チェーザレ  破壊の創造者

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チェーザレ 1—破壊の創造者 (1)
惣領 冬実
講談社 (2006/10/23)

これはすごい。すごすぎる!


 
この作品、週刊モーニングに連載されていて、同誌は毎週かささず読んではいるのですが、実はこの「チェーザレ」という作品については、少女マンガっぽい絵柄と暗い画面のため、あまり興味がわかず、大変申し訳ないですが、ぶっちゃけ1回も読んだことがなかったわけです。
ところが、イタリアの旅から帰ってきて、
「わー、うらやましい。私も最近、『チェーザレ』読んでて、フィレンツェに行きたい気持ちが高まってて。」
という某女史の話を聞いて、あらためてこの作品がルネッサンス期のイタリアを描いた作品だということを思い出して、買ってみました。
そしたら、「すごい」のなんの。
このお話、マキャヴェッリ「君主論」のモデルにもなったと言われるチェーザレ・ボルジアが、16歳のときピサの大学に通っているところから始まります。チェーザレは、父親ロドリーゴ・ボルジア(ローマ教皇アレクサンデル6世)の威光に本人の才能も加わり、8歳で教皇庁書記長、16歳でスペインのパンプローナの司教になってる人ですが。
加えて脇を固める登場人物も、上述のマキャヴェッリやロレンツォ・デ・メディチのほか、コロンブス、レオナルド・ダ・ヴィンチ、メディチ家をフィレンツェから追い出したサヴォナローラなど、当時の超有名人が(チョイ役も含めて)、多数登場。
同時代の有名人ではミケランジェロだけがまだ(3巻までで)登場していないので、主人公の「アンジェロ・ダ・カノッサ」が後のミケランジェロなのではないか?というような見方もWikipediaで紹介されてます。
ちなみに、チェーザレは大学で「法学」(教会法、市民法)を履修。
(なぜ、チェーザレが「法学」を学ぶ必要があったのか?という解説も、3巻の付録についてます。)
この作品の特徴:とにかく考証にかける努力が半端でない。
例えば、当時、システィーナ礼拝堂は、まだミケランジェロが天井画を描く前で、その前は星の絵が描いてあったということは伝えられてますが、それを(ペルジーノの他の絵画を参考にしたりして)復元していたり。現存する建物から、当時はなかったはずのメディチの紋章をはずしたり、その後のバロックの影響がある部分を当時の様式に書き換えるなど。
小説で考証をきちんとしているものはいくらでもあるかも知れませんが、「絵」にするとなるとごまかしがきかない。映画でも考証はしますが、数十億円予算を取れる映画と、連載しているマンガとでは、当然、かけられるコストも違ってきます。
誰もそんなことは求めていないので、そのへんはテキトーにすればいいという考え方もあったでしょうが、作者の惣領冬実氏と監修の原基晶氏は、当時のピサ大学の資料など、イタリア語の一次情報にあたりながら作品を作り上げているのがすごい。
(というか、「間違いがあるといけないから考証」ではなく、おそらく、そのプロセスが「好き」でないとできないはず。)
これはもう、「マンガ」というよりは講談社の「文化事業」として位置づけたほうがいいかも知れない。
そもそも週刊誌に連載するのがムリがあるとしか思えないアプローチなので、実際、連載も毎週ではなく、思いついたようにトビトビに連載されてます。人間関係もストーリーも複雑なので、週刊誌で読むよりは、人物相関図などを見ながら単行本を一気にまとめて読むほうがオススメです。
単行本には、参考文献や用語解説だけで3ページ、その他当時の社会状況などの解説(文章)が10ページくらい付録で付いてます。
今までの「マンガ」の単行本で、1冊に参考文献が3ページも描いてあるものって、ありましたっけ?(私は記憶無し。「商事法務の論文か」って感じであります。)
(ではまた。)

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3 thoughts on “チェーザレ  破壊の創造者

  1. 某女史ですw
    この漫画の凝りっぷりを気に入っていただけて嬉しいです。こういう作り方をしているので、なかなか話がすすまないんですね。週刊誌の連載で読むのには不向きな作品だと思います。
    チェーザレは、文献によって描かれ方が全く異なるので、
    (塩野七生氏の本からは特別な愛情を感じるものの”勉強嫌いの運動馬鹿”みたいに書いていますし)ずいぶん美化されているような気がしますが。
    いずれにしても、私がまだうら若き頃に『君主論』で出会って以来、長年の想い人であった彼が、こんな美しい姿で世の中に出てきてくれて嬉しいです。

  2. 私もこのマンガはコミックで読んでいます。非常に読み応えがあり、先生ご指摘の通り時代考証が小説のようでありながら、絵も描いてしまうというところが、このマンガの凄さ。私にとって、マンガとは知らない世界を教えてくれる案内役でありましが、まさに久々の傑作。
    考えてみると、西洋の歴史をマンガにするのはチューザレ以外だとエロイカ、エカチェリーナの池田さん依頼?
    女性の特権なのでしょうか(少女マンガというジャンルの中では沢山あるのかもしれませんが、不案内なのでご容赦ください)。 男性マンガ家は、戦国時代と中国の歴史がすきですからね。

  3. >「マンガ」の単行本で1冊に参考文献が3ページも描いてあるもの
    昔の諸星大二郎