政治家への資金提供(?)とベンチャー企業のvaluation

  • Facebook
  • Twitter
  • はてなブックマーク
  • Delicious
  • Evernote
  • Tumblr

2006年10月27日付、朝日新聞の「SBI、自民・小林氏側に3億数千万円の資金 国税指摘」という記事から。
http://www.asahi.com/national/update/1027/TKY200610270244.html

 東京国税局から三十数億円の所得隠しを指摘された総合金融グループの持ち株会社「SBIホールディングス」(東京都港区)が、同社の運営する投資ファンドの株取引にからみ、初当選前の自民党の小林温参議院議員側に約3億数千万円の資金を提供したとの指摘を受けていたことが関係者の話で分かった。国税局は、投資を装った利益供与だったとして、寄付金と認定した模様だ。
 関係者によると、小林氏が社長を務めていたインターネット関連会社は00年4月設立。SBI社が運営する投資ファンド「ソフトバンク・インターネットテクノロジー・ファンド」が同年9月、小林氏の会社の株式を約3億5000万円で取得し、同年12月には小林氏が個人で保有する同社株を3億数千万円で購入したとされる。
 国税局は小林氏が保有していた株の購入について、(1)公認決定の時期に近い(2)購入時点で同社の事業は行き詰まっており、3億数千万円もの高額で購入するのは不自然——などの点から、実質的にはSBI社から小林氏側への寄付金だったと認定した模様だ。
(中略)
 〈SBIホールディングスの話〉 株購入当時、(小林氏が)議員になる意図を有していたとの認識は全くない。これまでも政治家への資金提供を行った事実は一切なく、今後も予定はない。

本件が、実際に有力な立候補予定者への資金提供を意図したものだったのか、それとも純粋な投資だったのかどうかは、もちろん私が知るよしもありませんが、以下、一般論として。
税務当局から見て「不自然」というだけで寄付金にされても困る
上記の記事だと、株式の何%を3億数千万円で購入したのかがよくわかりませんが、2000年のネットバブル当時だと、利益が出てなきゃ実績もないネットベンチャーが数十億円のvaluationで投資を受けるなどというのは日常茶飯事。(・・・というか、その中でも、SBIさんは、当時、大型のファンドを立ち上げ、最も「積極的」な感じで投資をされていた一社であったというのは、みなさんのご記憶に新しいところかと思います。)
一方、東京国税局が「(2)購入時点で同社の事業は行き詰まっており、3億数千万円もの高額で購入するのは不自然」というところの、「事業は行き詰まっており」という部分の認定についてですが。
ベンチャー投資において、単に「赤字であった」とか「その後、会社がつぶれた」というだけで、「寄付金だ!」と言われても、ベンチャー投資の実務家のみなさんはたいへん困るわけです。
今はまだ利益が出ていなかったり、将来どうなるかわからないから「ベンチャー」なのでありまして、特に、創業間もないシード段階の企業が、「赤字だから不自然」とか「投資した後に破綻したじゃないか」と言われましても・・・。
Valuationというのは、経済的にはDCF(Discounted Cash Flow)、つまり、その企業が将来的に産み出すキャッシュの現在価値、を中心として価値が決まってくるはずです。
一方で、特に、税務当局の方は、企業価値(株価)の評価というと、「時価純資産」とか「類似業種比準(純資産、利益、配当等のマルチプル)」的な感覚しかお持ちでなく・・・をベースとしてお持ちでらっしゃるので、「将来の予想キャッシュフローを (1+r)nで割って現在価値を出すので」てなことを申し上げても「何じゃそりゃ」という感じとしかとらえてもらえないでしょうし、寄付金かどうかを争っている時に、疑われてる本人がいくらそんなこと力説しても、「煙に巻こうとしている」と思われるのがオチ。
今後の投資実務はどうすればいいのか
そういう場合に重要なのは、一つにはやはり、「独立性のある第三者の評価」じゃないでしょうか。
(ファンドのGPとして、善管注意義務上、投資する価格を妥当とする根拠を自らきちっと考える必要があるというのは当然とした、その上で、ですが。)
投資を実行する前に、そうした第三者の評価を参考に意思決定した、というエビデンスがあれば、寄付金認定されるリスクも、かなり減るんじゃないかと思いますし、なんであれば、不服審判、裁判などで争っても勝てる可能性はかなり高まるのではないかと思います。
投資したベンチャー企業がその後ツブれたからといって、いくらなんでも、今後は、全部が全部、寄付金認定されるということにはならんでしょうから、これからのベンチャーキャピタルの実務において、すべての案件で必ず第三者の評価を取れ・・・というのも現実的ではないかも知れません。
ただ、政治家に立候補しそうな人が関係者にいる場合など、純粋な投資以外のインセンティブが存在する外観がある場合には、必ず、独立した第三者の評価を取得せよ、といった内規や慣習は作っておいたほうがいいんじゃないでしょうか。
また、上記記事のSBIホールディングスさんのお話として、「株購入当時、(小林氏が)議員になる意図を有していたとの認識は全くない。」とのこと。それでも、寄付金認定されたということは、東京国税局側には「ホントに知らなかった」とは理解してもらえなかったということでしょう。
投資契約の際のベンチャー企業側の「表明と保証」において、「反社会勢力の株主もいないし、そういったところとつきあいも無い」といった条項を入れるのは通例になっているかと思いますが、今後はそういった条項の他に、「政治家に立候補する予定はない」といった項目も付け加える必要があるかも・・・。(苦笑)
今、ベンチャーへの投資は再び加熱期に入っております。まだ利益はおろか実績もあまり出てない、どー見てもイケてなさそうなビジネスモデル会社に、すごいvaluationが付いてるのを見るにつけ、「バブル期か!」とツッコミを入れたくなる今日この頃。
日本は、(増えつつあるとは言え)まだまだベンチャー企業を始めようという元気のある人は、(シリコンバレーなどに比べると)少ないんですが、金融資産だけはあふれるほど存在するため、どうしても需給バランス上、ベンチャー企業の価格は高くなりがちであります。そうなると、取引価格が、前述のDCF的な理論価格すら超えることも頻発しえます。
「需給バランス」や「価格交渉」というのは、資本主義の根幹である市場メカニズムそのものでありますので、そこで決定される価格がDCF等から計算される理論価格を上回っているからといって、たちどころにそれが否定されるべきではないと思います。GoogleやYahoo!も、「会計士等がvaluationした株価に従って投資したから生まれた」わけではないはず。
しかしながら、そういった土壌においては、寄付金認定されるリスクは基本的に高いわけですから、ベンチャー投資を盛り立てていくためにも、今後、そのへんのリスクについても十分、お気を付けあそばされますよう、お願い申し上げます。<(_ _)>
(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

5 thoughts on “政治家への資金提供(?)とベンチャー企業のvaluation

  1. はじめまして
    突然のコメント失礼いたします。。
    いつも大変勉強になります。
    今回の記事をみて、ホリエモン出馬の前に、
    IT企業から政治の世界へ行った人の話があったんだ〜
    とビックリしました!
    ちょうどITバブルの時期だったとの事で、
    バリュエーション(企業価値)が、高くなることもありえる話と言うのは理解できました♪
    そして、あまりにも高いと思われるのであれば、(結果論ですが・・)
    適正な価格について、第三者の意見が大事とも思いました。
    あと、前のバブルの反省が、あまり活かされていなかったのかな〜?
    と残念にも思いました。
    活用できない土地でも、将来値上がりすんだからみたいな判断をして、
    土地を買っていたと記憶していますので。。
    最近、日本版SOX法だコンプライアンスだのと騒がれてるようですが、
    改めて、会社を守るためにしなくてはいけないことを、
    ちゃんとやらなくてはいけないよなと思いました。(当然のお話ですね。。)
    ところで、質問があります。
    大株主になると、少数株主を排除する方法ってあるのでしょうか?
    ホントずうずうしくてすいませんが、ご回答頂けたら嬉しいです♪
    よろしくお願いします。
    長々すいませんです。

  2. >すごいvaluationが付いているのを見るにつけ、「バブル期か!」とツッコミを入れたくなる今日この頃。
    mixiのことですか?

  3. 、、、と、さすがアルファーブロガー!
    素晴らしい擁護です!感動した!
    、、、と褒め称えたい気持ちでいっぱいなんですが・・・
    先ずはコレをご覧あれ!
    インターネット関連会社は00年4月設立。SBI社が運営する投資ファンド「ソフトバンク・インターネットテクノロジー・ファンド」が同年9月、小林氏の会社の株式を約3億5000万円で取得し、同年12月には小林氏が個人で保有する同社株を3億数千万円で購入したとされる。
    http://www.asahi.com/national/update/1027/TKY200610270244.html
    (3)そして、SBIの投資・経営戦略の中における資本政策に基づいて、平成12年9月、SBIへの第三者割当実施及び株式譲渡(12月譲渡実施)の契約をしました。神奈川県連が候補者公募を決めたのは10月に前職が公認申請を急遽辞退することになったからです。
    (4)したがって、論理的に考えても、SBIが投資時に小林に対する資金援助の意思を有していたはずがありません。
    http://kobayashiyutaka.blog46.fc2.com/blog-entry-277.html
    要するに、
    10月に前職が公認申請を急遽辞退することになり
    2000年12月
    に小林氏が個人で保有する同社株を3億数千万円の譲渡が実施されたわけですね。
    しかしですね、、、
    2000年11月30日
    に既に小林温氏(36)は自民党参院選候補者
    に正式に決定してたんですね。(w
    [2000年12月1日 神奈川新聞]
    小林氏擁立へ

  4. 4649さん、
    >大株主になると、少数株主を排除する方法ってあるのでしょうか?
    以前書いたエントリ「株主を追い出す(スクイーズ・アウト)」
    http://www.tez.com/blog/archives/000034.html
    に、それっぽいことをまとめてあります。このほかに、フジテレビによるニッポン放送の子会社化や、先日のボーダフォンの買収でソフトバンクさんがお使いになった、産業活力再生特別措置法の金銭による株式交換、というような手もあるかと思いますが、そのエントリを書いた後、法律もガンガン変わってますし、少数株主の権利をどう考えるかと言うのはコーポレートガバナンス上、重要なお話(→トラブルの可能性大)なので、具体的に何か実行されるんだとしましたら、弁護士さん等にご相談されることをお勧めします。
    キムチ好き好きさん、
    リンクのご紹介、どうもありがとうございます。
    本文にも書かせていただきましたとおり、私、この件の実態が利益供与なのか投資なのかはわかりませんので、擁護も非難もしておりませんので、念のため。
    (公開企業への投資が寄付金認定されるリスクはさすがにちょっと考えにくいですが)、未公開の「税務上の評価とDCF的評価が大きく乖離する」ベンチャー企業への投資については、寄付金認定のリスクがあるんだなあ、と、あらためて気づかされたので、それについて書かせていただいた次第です。
    (ではでは。)

  5. 磯崎さん、
    さっそくのお返事ありがとうございます!
    嬉しいですー♪良く分かりました。
    で、弁護士さん等までは・・
    なので、一人スクイーズ・アウトしまーす。。
    詳細?は、僕のブログで紹介させて頂きます。
    それでは