証券取引(brokerage)の未来

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NYSEがArchipelagoを買収する、と20日(日本時間21日未明)WSJで報じられ、

The New York Stock Exchange will merge with Archipelago Holdings, hastening a move to electronic trading at 212-year-old Big Board. The NYSE will own 70% of the new entity.

今度は22日(日本時間23日未明)にNasdaqがInstinetを買収するとの報道。

The Nasdaq Stock Market announced plans to buy the electronic-trading firm Instinet Group in a $1.88 billion deal.

かと思ったら、NY証券取引所の元理事ケネス・ランゴーン氏が、NY証券取引所の買収を検討しているとの報道も行われてました。
http://www.tv-tokyo.co.jp/biz/nms/days/050426/p1.htm
これらの意図するところは何でしょうか。つまり、これらは単なる「水平統合」のお話なのか、それとも川下進出を狙った「垂直統合」のお話なのか、ですが。
DMA(Direct Market Access)
今朝のモーサテで大和証券アメリカの方が解説されてましたが、米国ではDMA(Direct Market Access)という、投資家が直接、証券取引所へ電子的に発注を行う取引が拡がっているようです。現在の利用者のかなりの部分はヘッジファンドとのこと。
マーケットインパクトの回避(問題になった情報漏れによるフロントランニングの防止も含むんでしょうね)とか、複数取引所とのコンピュータによる自動取引を行うには、電子取引のインターフェイスがあった方が便利ということのようです。
NYSEだとこのへんがご参照になるかも知れません。http://www.nyse.com/about/nyseviewpoint/1094784439404.html
証券会社はなぜ必要なのか?
本日の日経朝刊でもオンライン証券4社が過去最高益と報じられてますが、この電子化されていく世の中で、顧客が直接 証券取引所に発注を出さずに、わざわざ証券会社を経由して発注する意味は何なのか?ということはよく考えておく必要があるんじゃないかと思います。
「法律や制度でそうなっているから」と言えばそれまでですが、目先の法規制やしがらみにとらわれずにもっと未来を考えた場合に、brokerageを証券会社が行う意味は何なのか?
例えばヤフオクで商品を売買するのに、わざわざ仲介業者を介して発注したりはしないわけです。東証もNYSEも、ヤフオクと同じ「オークション」。オークションというのは、取引が集まれば集まるほど取引が成立しやすくなる「外部性」が働くので、放っておくと自然独占になりやすい業態です。アメリカではEbayがダントツ1位ですが、日本だとヤフオクというように。
で、「一般の個人や法人が証券会社を介さずに証券取引所と直接取引する」のでは何がまずいのか?ということになるわけですが。昔は、証券取引所が一般の個人や法人から直接取引を受け付けるなんてことは、実務上不可能でしたが(現在でも、急増する取引件数を処理するのに苦労されてますが)、ITやインターネットの発達で、少なくとも技術的には不可能ではなくなってきています。
信用リスク管理
証券会社が必要とされる理由の一つは、顧客に対する信用供与または信用リスクの管理機能でしょう。米国のオンライン証券の初期にも、どんどん手数料が下がっていって、ディープ・ディスカウントする証券会社の収益源は、信用取引(margin trade)の金利収入でした。
証券取引所が全国の個人や法人から直接、債権を回収するというのは面倒くさそうですから、この機能は、(少なくとも発注情報をやりとりするという機能よりは)、長期的にも残りうるのかも知れません。
現在はT+3なので、決済日にちゃんと現金を振り込まれるかどうかも問題となるわけですが、前金にすれば、取引所が直接顧客と取引しても信用リスクは無いわけです。証券の場合、すべて電子化されて保振で管理されるようになれば、ネットオークションのように「カネ払ったのにモノが届かない」ということもありません。個人はともかく、大口投資家の取引のかなりの部分は、証券取引所と直で取引しても問題ないかも知れません。
発注のインターフェイス
発注のインターフェイスも差別化の要因でしょう。ただし、証券というのは取引しやすいよう極度に抽象化された存在なわけですから、自ずとその取引はシンプルです。仮に取引所とのダイレクトな取引の仕様が公開されれば、個人向けのインターフェイスも証券会社からアンバンドルされて「独立した製品」になっちゃうかも知れませんね。
条件注文などを考えると自分で発注インターフェイスソフトをインストールして管理するよりは、ASP的に証券会社が代行して行う方が、個人等のお客さんにとっては便利でしょうけど、ヘッジファンドをはじめとする大口の投資家は、自社から直接証券取引所に発注する方がいいでしょうね。
情報提供、サポート機能
情報提供機能での差別化というのもありえます。ただし、情報はネット上でタダで取れる範囲がどんどん拡がってますし、証券会社だけが握っている(インサイダーでない)情報というのも範囲が狭まってきています。
初心者のお客さんにとっては顧客サポートの違いというのは大きいですが、ヘッジファンドのようにすべてわかってるような人はもちろんダイレクトに取引しても全く問題がない。
日本だと「サラリーマン」ファンドマネジャーに対するニーズは残るんでしょうね。
ワンストップ的ニーズ
複数取引所への発注を証券会社がまとめて行うニーズがあるかと思います。(日本株に複数の取引所が必要なのかどうか、といった話はさておき。)
「金融コングロマリット」的な要素が進展すると、証券だけではなく、預金とか、保険とか、為替を統合して、「投資家のポータル」となる方向もあるでしょう。ただ、トガった個人の投資家や機関投資家は、「ワンストップ」のニーズはそれほど高くはないかも知れません。
もっと、「マス」の層を考えると重要かも知れません。
証券取引発展のフェーズの違い
こう考えてくると、アメリカと日本の証券市場のフェーズの違いは大きいですね。
日本のようにまだこれからどんどん個人等が証券取引を始めようかという市場においては、「代理店」というのは重要なチャネルのはずです。(特に、個人等のリテールの分野においては。)
しかし、アメリカのように、「やりそうな人」はみんな証券取引をやってるような飽和した市場では、当然、「代理店」の再編は不可避であり、「直取引」が増加するでしょう。
家電の販売チャネルや損保の代理店の歴史を見てもそうですよね。
−−−
証券取引所が個人と直接取引するというのは、日本だとまだ「SF」の世界ですが、経済原理として、大口取引から徐々にそうした流れになってくるのは間違いないかと思います。
法律や制度という大きな壁もありますが、そうしたものは、(特に証券の領域については)、米国が変わっていけば日本も変わるのは間違いないわけで。
(ではまた。)

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8 thoughts on “証券取引(brokerage)の未来

  1. 普通の商売でも、問屋の存在が再評価されているし、
    証券会社は株の問屋さん。
    問屋さんが巨大化するより、そこに優秀な番頭さんがいたら、
    どんどん暖簾分けしていけば、
    個人投資家に対しても、きめ細かい商いができるようになって、
    銀行一辺倒の預金が証券市場に、個人の意思が働くようになると思う。
    ただ、問屋さんが巨大化して寡占状態をつくり、
    利益が巨大問屋にプールされるだけなら、
    それに頭の悪いことばかりするなら、巨大問屋は全部なくなってもいいかも。
    かなぁ…
    それと、切込隊長が、吉本のファンドに参加しているのは驚いた。
    ニホンの企業なのに、外国でのファンドというのが、いま一つよくわからない…

  2. いやみなさん反応していないようですが(笑)、磯崎さん実に重要な指摘でございます。
    証券会社は問屋さん、であるわけですがそこにいかに社会的な含意があるかを問おうとしてるわけですね。
    問屋のような決済機能、(地味な)信用創造機能は銀行の陰に隠れがちですが実は経済に決定的な影響を与えるものと考えます。
    日本では携帯の代金も保険料の請求もクレジットカード会社が肩代わりしつつあるようです。
    同じような動きですよね、要は。
    証券取引はT+3でもっと短いわけですが。
    でもアメリカと日本のフェーズの違いは単に『金利』の差だけだったりして(笑)

  3. きっと磯崎さんは、「証券会社の社外取締役がそんなことを言うんですか〜?」って、コメントが来ることを予期されて、回答を用意し手薬煉を引いておられるに違いない。
    と、思いつつも、お馬鹿な私は敢えて、そこに突っ込んで行ったりしてしまう。。。。
     
    まあ、恐らく結論的には、各証券会社がそれぞれ色々なビジネスモデルを模索しながら変化し、生き残っていくのだろうなとは思います。

  4. 証券会社なんていらんわね。

    おはようございます。
    たびたびご紹介しております、いそろぐさんがまたまたおもしろい記事を書いておられます。
    http://www.tez.com/blog/archives/2005_04.html
    確かに証券会社の存在意義はだんだんなくなってます。
    いわゆるネット証券の業績好調をみても、要は「怪ぎ..

  5. 証券取引所がすべての個人投資家を直接の顧客に取引するとしたら、現段階の取引高でどのくらいの自己資本比率が必要になるのでしょうか。。。。。

  6. ◆市況・銘柄ニュース

    (4788サイバー・COM)
    05年3月期の連結経常利益が前の期比87%増の9億4200万円になったと発表、
    同時に5月31日現在の1株を2株に株式分割も発表。
    連日で上場来高値を更新したが、その後は利益確定売りが優勢。軟調。