外資による買収、租税条約

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昨日の日経新聞から。

合併対価に外国株・現金、外資主導の再編容易に——法制審方針。
2004/06/06 日本経済新聞 朝刊1面
 法相の諮問機関である法制審議会は企業合併の際、相手先の株主に渡す対価として、新たに外国株式を含めた他社株式、社債、現金を充てることを認める方針を固めた。企業の再編を促すため、日本経団連や米国が求めているもので、外国企業にとっても日本企業を合併・買収(M&A)しやすくなる。法務省が来年の通常国会に提出する会社法案に盛り込み、二〇〇七年中の施行を目指す。(中略)
 新制度は、法制審の会社法部会が秋にまとめる会社法案の要綱案に明記し、来年二月をめどに法相に答申する。

つまり、「買う側」の外国企業は「カネ」で買う以外に、自分で印刷した自社の「株券」を「カレンシー」として使って日本の会社を買うことができる、ということです。
これによって日本の会社が買いやすくなれば、需給バランスから会社の価格もつりあがる要因となる可能性があります。例えば、IT系のマーケットの例をあげると、今だと「売却先としては○フトバンクか○天か○イブドアくらいかなあ」というように売り先が数社に限られてしまうところが、海外の企業も候補に上ってくる可能性があるということ。(ただし当然、相手が欲しがるような会社であれば、ですが。)
また、日本の企業に売却(合併)するのと違って、まだまだ「言葉の壁」が交渉のネックになるかも知れません。気の効いた仲介者がいればいいとも言えますが、やはり一般的には、会社の魅力を最も上手に伝えられるのはその会社の社長だし、株主を一番まとめられるのも社長だし、社長自身が交渉の経過を直接理解できれば、話も早い。
しかし、2007年というのはずいぶんと先の話ですなあ。それまでは、外国企業との合併、売却は別のスキームで対応する必要があります。(今でもできないわけではないので、本当に欲しがられれば手はあります。)

(続き)
 外国企業が日本企業を傘下に収める場合、日本に設立した子会社が日本企業と合併する「三角合併」といわれる方式が一般的。だが、相手先企業の株主に存続会社の株式を与えなければならないため、存続会社の経営権を完全に握ることができない。
(中略)
 合併対価への現金の使用については現在、株式を交付する際に、株式だけでは調整不可能な部分を現金で渡す「合併交付金」が認められている。新制度では、消滅会社の株主に金銭のみを支給する「キャッシュアウト・マージャー」といわれる合併も選択可能になるため、潤沢な資金を持つ外国企業にとって、日本企業のM&Aが容易になる。

もう一つ、対内投資にフィナンシャルな要因で影響を与える可能性のある事象について。

本日 日本経済新聞朝刊13面「今週の予定」
7日(月)大安
租税条約の改正交渉
対オランダ、東京で。投資促進と租税回避防止が目的。
欧州各国との改正交渉の第一弾。

租税条約の関係で、オランダにある投資用のvehicleから投資されるケースは多いです。例えば、新生銀行(旧日本長期信用銀行)に投資した「New LTCB Partners CV」とかもそう。CVというのは、オランダ法上のLimited Partnershipです。
(以上)
以下、ご参考記事、URL:
株主を追い出す(スクイーズ・アウト)
https://www.tez.com/blog/archives/000034.html
課税方式別に見た事業体(パススルー型・ハイブリッド型)の取り扱い(KPMG税理士法人)
(↑web上のコンテンツとしては、かなり詳しく書かれてらっしゃいます。)
http://www.kpmg.or.jp/tax/newsletter/s04_04_19.html
日米租税条約(新条約)の署名について(平成15年11月 財務省)
http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/sy151107.htm
所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国との間の条約(和文)
http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/sy151107a1.pdf
(同英文)
http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/sy151107a2.pdf
2004/01/28 日本経済新聞 夕刊18面

旺文社逆転敗訴、租税回避いたちごっこ——相次ぐ新手法、国税庁の対策後手
(中略)
 消費者金融の旧「ディックファイナンス」、米証券大手「モルガン・スタンレー」の両グループは、商法の「匿名組合」契約を結んだオランダの関連会社から事業資金を調達し、収益を同国に送金。匿名組合の分配金には日本で課税できないという日蘭租税条約の規定を利用し、課税を逃れていたことが、一昨年から昨年にかけ判明した。
(中略)
 ただ、租税回避行為は違法ではなく、企業側が裁判で争うことも少なくない。国税庁は租税条約や法令の改正で“抜け穴”を事前にふさぐ作業も進めているが、新手のスキームの後追いになっているのが実情だ。

「外国税額控除制度の改正に関する提言」
2003年9月 社団法人日本貿易会経理委員会、KPMGジャパン税務グループ
(注:国際的な税金の「取り合い」と今後の提言が、非常にわかりやすくまとまってます。)
http://www.jftc.or.jp/proposals/2003/2003_09_18a_details.pdf
http://www.kpmg.or.jp/tax/newsletter/pdf/gaikokuzei.pdf

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2 thoughts on “外資による買収、租税条約

  1. 合併対価として現金交付が可能に — 法制審が方針固める

    2004/06/06 日経速報ニュース
     法相の諮問機関である法制審議会は企業合併の際、相手先の株主に渡す
    対価として、新たに外国株式を含めた他社株式、社債、現金を充てることを認める方針を固めた。
     法務省が来年の通常国会に提出する会社法案に盛り込み、二〇〇…

  2. 株式交換の多様化

    磯崎哲也さんのblog「外資による買収、租税条約」ですでに取り上げられていますが、親会社株を使った株式交換制度や現金株式交換制度を認める商法改正が、2006年度施行の方向で進んでおり、その場合、外国企業が日本企業を買収する際の手法が多様化することになる…