弁護士の新領域?

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昨日のエントリ『「法と経済学を司法試験科目に」に大賛成!』に「3年目弁護士」さんからコメントいただきました。

私は企業法務系の大手事務所に属する弁護士(3年目)なのですが、コーポレートファイナンス論や会計の考え方がちゃんと理解できる、「企業行動を数字で理解できる弁護士」になりたいと日々思っているところです。先生の以前の記事にも「会計のわかる弁護士さんがもっといてくれたらいいのに」的な記載がありましたので、そういう弁護士になれればと思っています。
ただ一方において、「本当にそういう弁護士の活躍の場があるのか?」という疑問もあります。まわりの弁護士を見渡してみると、経済的なものの考え方ができる人はかなり少なく、それでも十分に活躍しているように見えるのです。逆に「経済的なものの考え方ができないとやれない案件」というのに、あまり出会ったことがありません。はっきりいって、企業の方が弁護士に依頼してくる時点では、論点がそれなりに整理されていて、「数字のわからない弁護士でも扱える状態」にしていただいている場合がほとんどです。せいぜい、「税務がわかれば税務訴訟ができる」「会計がわかれば、裁判の証拠書類に会計帳簿がでてきたときに便利」という程度のイメージしかありません。
そこでお聞きしたいのですが、「企業行動を数字で理解できる弁護士」が活躍できる場がどんな場なのでしょうか?会計士である先生の立場からご助言いただけるとありがたいです。


 
(ま、あまりヨソ様の業界に口を出すのもナニなのですが)、
「本当にそういう弁護士の活躍の場があるのか?」とみなさんが思ってらっしゃるからこそ、弁護士会から年3000人規模での弁護士数増加に対して反対の声が続々あがってるんでしょうね。
以下、SFの世界かも知れませんが。
「仮に」本当に弁護士数が5倍になるような未来になった場合、「現在の弁護士業の平均的な単価が保てる現在のようなタイプの仕事」の量が5倍になるかというと、たぶんならないんでしょう。また、すでにブランドを築かれた大手事務所さんの仕事が大変革を迫られるのか、というと、個人的にはあまりそうも思いません。
仮にそういう未来が来るとすると、今、日本で普通にイメージされている「弁護士」と違う活躍の場も多くなるんじゃないでしょうか。
昨日の繰り返しになりますが、世の中のビジネス領域のほとんどのことは数字的なものがわかっていた方がいい世界のハズなので、そこを避けて企業の仕事ができるというほうが、私、個人的には不思議というか、よくそういう領域を見つけてこられるなあ、と感心する次第でして。どうやったら「経済」的なことがわからないで合格者数5倍の時代でみなさん生きていかれるのかなあ?、というところを逆にお聞きしたい感じであります。:-)
例えば、アメリカのGoogleやYahoo!だと100人単位の弁護士が社内にいるそうですし、政府のスタッフにも非常に多くの弁護士資格を持つ人がいるようです。そういう人たちは日本では「サラリーマン」とか「役人」と呼ばれて弁護士というイメージではないのかも知れませんが、日本でもニーズはあるのかも知れません。
また今後、買収防衛策や独禁法など、経済的な調整が裁判所で行われるケースが増えてくると、裁判官にももっと経済学的センスのある方が増えていただかないと、おかしな判決が出るたびに企業実務界が右往左往する、という未来がやってくるのではないかと危惧します。一市民としては、ぜひ、増えていただきたいところ。
(中大ロースクールにお誘いいただいたときに、「えっ。法学部出てない人間が、ロースクールの先生やっちゃっていいんですか?」とびっくりしたんですが、最近、どこか留学中の弁護士さんのブログかなんかでお見かけしたところ[場所が思い出せないんですが]、アメリカのロースクールは、経済学部出身の教授がかなり[半分以上?]の割合でいらっしゃるとか、いらっしゃらないとか。)
おっしゃるように、今すでに弁護士さんに仕事をお願いしている企業は「論点がそれなりに整理されていて、数字のわからない弁護士でも扱える状態に」する力がある大企業等に限られると思いますが、上場企業の1000倍もの数がある未上場企業では、スタッフの量や質がまだまだ限られますので、そこまでできない会社が大多数です。ところが、昨今は、ベンチャー企業の上場にあたっては、設立のころまでさかのぼって一件一件の取引の適法性がどうのと細かいことにまでヤイノヤイノ言われます。ご案内のとおり、アメリカではWSGRのようなベンチャーに強い弁護士事務所があり、ベンチャー側も設立時からそういうところにお世話になるのは「常識」になってます。潜在的ニーズはすごくあるのではないかと思います。
また、これもSFですが、司法試験合格者自体がベンチャー企業を立ち上げるということも増えてくるんじゃないでしょうか。ホントに「法化社会」なんてものが実現したら、上場企業だけじゃなくて一般の企業も世知辛くて細かいルールについてチクチク言われるようになると思われますし、実際、「白い恋人」とか「赤福」の件というのは、そういう社会の先駆けとして血祭りにあげられている現象ではないかと思います。
ただ、そういうすべての企業が、大手事務所さんの単価で業務を依頼するというのはムリなわけで、例えば、ネットを使って自動的/半自動的に1桁2桁安い単価で法務的なサービスが受けられる、といったサービスが出現してもおかしくないと思います。
懐疑的に見ると見えてこないと思うのですが、「あるに違いない」と思ってみるといろいろ見えてくるのではないでしょうか。
一般論として、顧客との間で「情報の非対称性」が働くこうした業種においては、特定の領域で先にブランドを築き上げたところは、(当初はともかく最終的には)高めの収益性が確保できノウハウやクオリティも溜まるが、似たようなことを後追いするところは単価もとれずクオリティも確保できないという悪循環に陥る傾向が強くみられます。
つまり、「普通に」競争が行われる時代になると、真っ先にそういう「新領域」を見つけて取り組む人が勝ち組になるわけで、そういうマーケットを見つけるためにも、「経済的なセンス」が役に立つのかも知れません。
(ただ、すでにブランドを築き上げられた現在の大手事務所さんが、無理して新領域に乗り出す必要があるかというと、ないのかも知れません。)
「もっと具体的に示せ!」とおっしゃるかも知れませんが、それがわかりゃ苦労はしない、と申しますか・・・。
十年以上前、「コンサルティングファームの中期計画」なるものの策定に関わったのですが、これがなんともムナシい作業でして。こういう知識集約的な業種の場合、多額の設備投資が必要なわけでも資金調達が必要なわけでもなく、また、みなさん少なくとも一般の人よりは頭もよくてらっしゃるので、制約条件になるものが何にもない。「この領域が有望」なんてことは言ってもあたるとは限らないし、ほかの領域が有望であれば、とっととそれをやればいい話であって、事前に「こういうところが有望です」と指摘することは何の意味もないなあ・・・ある程度需要が見込まれて、意欲がある人が「やるぞ!」と思えば、そこにアラ不思議、需要が発生するという「セイ法則」が成り立つ世界なんじゃないかなあと思いました。
ご参考になるかどうかわかりませんが。
(ではまた。)

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18 thoughts on “弁護士の新領域?

  1. 金融機関勤務を経てLSの学生をしている者です。
    >ある程度需要が見込まれて、意欲がある人が「やるぞ!」と思えば、そこにアラ不思議、需要が発生する
    などの点に大いに同意します(というか、需要を作っていく、眠ってて見えないものを見つけていく、しかない)。
    それに加えて、当たり前のことながら以下の点を付記したいと思います。
    企業の側からすれば、「人を見てモノを聞いている」ので、以下を整理して相談しています。
    �(理解してもらう時間にもコストが発生する以上、)「数字のわからない弁護士でも扱える状態」にしてから相談する必要がある場合
    �数字がわかる弁護士が相手なので、手を加える必要がない場合
    �数字がわかる弁護士にしか聞けない案件の場合
    「数字のわかる弁護士」が増えれば、�の必要がなくなり、「そうでない人」は違う仕事をするようになる、というだけのことなのでしょう(しかし、「いつになることやら」と思う気持ちも良くわかりますね…)。

  2. 改めて「法曹3000人問題」を考える

     鳩山邦夫法務大臣の発言は至るところで波紋を広げておりますが、「司法試験合格者年間3000人は多すぎる」という発言も大いに問題になりました。「司法制度改革…

  3. 丁寧なご回答をいただきまして、どうもありがとうございます。色々と考えなければならない点が多いため、「なるほど!○○ということですね!ありがとうございました!」とはなりませんが、先生のご意見を参考にさせていただきます。

  4. 「会計のわかる弁護士」以上に少ないのが、「法律のわかる会計士」ですね。自分の経験からはそう断言できます。もっとも、私自身が法務系の人間(もちろん会計にはかなり疎い)なので、弁護士に甘く、会計士に辛いのかもしれません。

  5. ちょっと視点が違うかもしれませんが。
    ささやかな知見になってしまうのですけれど、欧米の業界団体のスタッフは、弁護士や会計士が多く、磯崎さんのおっしゃっている企業スタッフに大勢の弁護士がということが本当に当たり前のようです(イギリス銀行協会など)。
    政府機関で政策立案にかかわる法律家と、業界団体でロビーイングをする法律家と、流動的に立場を変えながら、さまざまな利害関係の調整機能を、専門家がになっているようですね。
    それが国民全体にとって幸福な仕組みなのかどうかはよくわかりませんが(消極にいっているわけではなくて、本当にわからないという意味で)、多様な経験と法律の知識がうまく結びついているのかなという気もします。
    いずれにしても、LSの役割は、「弁護士」(かぎかっこつき)を大量に生み出すという仕組みだけではもったいないような気がしますので、さまざまな領域で仕事のできる「実務法曹」を生み出す機関であってほしいなあと。そういう意味でも、数字がわかる法律家というのは、必要というより、当然となるのかもしれません。こちらは法律も、会計の資格もありませんが、期待しているところです。
    ピンとはずれですみません。

  6. 私が刑事事件や民事事件を通じて感じるのは
    「会計」は、事実を立体的に捉えるための3次元レーダーのようなもの
    だということです。
     法曹は、証拠から事実を立証する仕事ですが、どんな事実があるのか、どんな証拠があるのかわからないと、何から手をつけていいかわかりません。
     そんなときに会計がわかっていると、会計は数字から事実の裏側や内側を推測させてくれます。その推測が、証拠につながり、事実の立証につながると画期的な成果が生まれるます。
     会計がわかる弁護士というのは、仕分けができる弁護士という意味でも、元帳が作れる弁護士でもない。
     それは、会計を通じて事実が見える弁護士であったり、自分の考えたスキームがもたらす未来を、会計という望遠鏡を使って、のぞき見ることができる弁護士だったりするのではないでしょうか。
     そういう意味で、会計は法曹の基礎知識だと思います。

  7. 端的に会計士事務所系?(ちゅうか会計士の先生が頑張ってる)「総合」事務所とかコンサルで若手の有能な弁護士(資格保有者)を抱え込むようになるとあながちSFでもないような・・・

  8.  議論としてはわかります。問題は両刀遣いの素質を持つ人材がおそらく希少種であることでしょう。
     「数字のわからない弁護士でも扱える状態」を企業が作り出せるというのは、法務と数字のinterfaceのコストを企業が負担しているということですね?
     つまり、ある程度以上の法務に関する知識と技術が企業に内在していて、業務を外注するところまでの作業が企業側負担に於いて完結できるということでもあります。つまりこれは、企業内にinterfaceがあって、interdisciplinary approachが採用されているということでしょう。
     当然ながら、interdisciplinary approachに習熟した一団というのは希少で、それだけで価値があります。実際にはmultidisciplinary approachでお仕事していらっしゃるであろうご本人達が自覚しているかどうかは別にして、企業にとっては選抜と養成に手間暇のかかる貴重な存在であるわけです。特にmultidisciplinaryな集団の中のinterfaceの役割を果たせるinterdisciplinaryなkey personは、現状としてきわめて希少と思います。
     これが、磯崎先生が想定していらっしゃるような存在に一番近い人々であろうと思います。
     ところが、そういう事業を外注するためには、外注先が能力と忠誠度に措いて信用できることについて何らかの担保が必要です。…実績とか、実績とか。
     企業の法務部等でその種のinterface機能を持った一団がスピンオフするようなことがあれば、それは新たな系列強化をもたらすかも知れませんし、ベンチャー企業対象に新規に立ち上げることに成功すれば、これらを裏側から組織化することすら可能かも知れません。

  9. 企業では、例えば外国企業との契約などの場合、法務と数字の理解した弁護士を雇うことが多々あります。
    しかしながら、ご指摘のあったように、こうした高いレベルの弁護士は少なく、費用も相当高くなります。
    また費用は一般に時間単金での契約となりますので、企業側は経費節減の観点から、全て任せるいうよりも、
    >企業の方が弁護士に依頼してくる時点では、論点がそれなりに整理されていて、「数字のわからない弁護士でも扱える状態」にしていただいている場合がほとんどです
    となります。
    企業からしても、両方を理解している弁護士さんが増えれば、競争も生じ、単金も下げると思うのですが。

  10. みなさんコメントどうもありがとうございます!勉強になります!

  11. なんか、すごいコメント数ですが、 私は、弁護士の人には是非 簿記3級か2級はゲットして欲しいです。別に伝票を切れといっているのではありません。簿記というのは、非常に優れたシステムで、取引を複眼で、単純明快にあらわしているからです。
    これがあるから、いっぱい言葉を並べる必要もなく、的確に事象を表現できる。
    また、万国共通だから、少々英語力に乏しい人(including me )でも、仕訳を簡単な英語で書いて、数字を入れれば、相手がわかってくれるので楽。
    これさえ理解してくれれば、コミニュケーションが円滑にできます。
    ぜひぜひ簿記を勉強しませう!!!!

  12. 丁寧なコメントありがとうございました。
    さて、会計や税務に対する弁護士の関心は高いと思います。税務や会計には詳しくない私ですが、移転価格課税、ストックオプション課税等、税務・会計はホットな話題が多く、学んだリターンは大きそうというイメージがあります。
    元の「法と経済学を選択科目に」に戻りますと、コメントほとんどないですよね(笑)。リターンが小さければ投資(学習)はされませんよね。
    安念先生はジュリスト2007年5月1日15日号で「国家対市場」という論文を発表され、法曹界の反市場主義を嘆かれています。そういう環境が支配する法曹になるわけで、「法と経済学」を学ぶリターンは大きくないという感想を持っています。余談ですが、極論すると、不透明なほど「法曹」の飯の種になる余地もあるわけでして・・・
    個人的には修士(経済学)で経済学大好きなので、選択科目にあれば楽だったのにと思いますが。

  13. 具体的に「数字が分かる」必要がある弁護士の仕事として思いつくのは企業再生、倒産系の仕事ですね。M&A関係も必要になる場面も多いもしれません。しかし、それらの仕事を専門にしていない弁護士からすると、一体どんな場合に弁護士が「数字が分かる」必要があるのかは見えにくいかもしれません。
    実際のところ、企業法務系の弁護士で簿記2,3級の資格を片手間に取得している人も多いでしょうが、かといって「数字が分かる」というかというとまだまだ不十分なわけです。その意味では、私の印象ではありますが、クライアントから求められている「数字が分かる」というのは、専門的な会計知識というより(特別な事件は別にして)、むしろビジネスセンス的なものではないかという気もします。
    逆に弁護士の側からすると、どんな場合に弁護士が「数字が分かる」ことが求められるのかをお尋ねしてみたいところですね。しかし、やはりそれは弁護士の専門分野ではないわけで、クライアントが過度に期待度を持ってしまう状態にしてしまうことは弁護士にとってリスキーな面もあるような気がします。もちろんそれはビジネスチャンスにもなりうるわけですが。

  14. しかし,世にはびこる「会計・税務」というくくりは何とかなりませんかね。後者は法律であって,前者とは考え方が根本的に違うといってよいものです。22条4項だって会計をそのままみるわけでもない。複式簿記はわかれば便利だが必須ではない。この悪しきくくりが,弁護士や学生を租税法から遠ざけてしまっているように思います。

  15. 税務と会計は確かに違います。しかし、税務、特に 法人税法は、税務上の複式簿記を前提に設計されています。
    税務上の仕訳と会計上の仕訳というのがあって、その差異を埋めるために、法人税法の申告書の別表4やら5やらがある。お上が毎年作られる改正税法のすべてなんて、仕訳で説明していますしね。
    だから、法人税を理解するのに仕訳の理解は必要と思うのです。
    アメリカの税法は、税務上の複式簿記を前提にして作られていないらしいですが。

  16. 法と経済学を司法試験の選択科目に

    弁護士の新領域?
    昨日のエントリ『「法と経済学を司法試験科目に」に大賛成!』に……
    ううむ。かつて経済学をそれなりに真剣に勉強し、その後法…

  17. 弁護士です。司法修習中、検察教官から、簿記3級はとったほうがいいよ(その程度は知っておいたほうがいいよ)と言われ、修習中に素直に簿記3級をとりました。
    実際に働きだして、税務と会計の知識はこの社会での問題を分析するツール、よく見るためのメガネ(道具)だと実感しました。今年、体系的勉強と強制の契機のため、アカウンティング・スクール(AS)に社会人入学しました。
    たぶん今後、ASに入学する弁護士は増えるのではないかと踏んでいます。

  18. 昔の司法試験では、会計学も経済学も選択科目でありましたね。私が受験した頃は、確か無くなっていたと思いますが。教養選択が必修だった頃は、会計学が人気だったと聞いたことがあります。当然です。これからの時代、弁護士も差別化を狙ってアカウンティングを学ぶ人は増えるでしょうね。