TBSの例に学ぶ「買収防衛策は機能するか?」

さて、TBSさんは、今年の5月18日に買収防衛策を導入されてらっしゃるわけですが、これは機能するんでしょうか?(47thさんのエントリを拝見すると、「(bear hugなど、敵対的な買収手法が戦略的に用いられる新しいフェーズでは)、単なる形だけの買収防衛「策」は、それほど大きな意味合いを持ちません。」とのことではありますが。今回に限らず一般的な敵対的買収のケースを考えた場合に。)
そのプレスリリースによると、下記の通り、「検討開始事由」に該当する場合には、買収防衛策を発動することができる、ということになってます。

(1) 新株予約権プラン
当社の事前対応を経ることなく突如として下記「検討開始事由」に該当する行為を行う場合、または事前対応の結果等により濫用的買収者であると判断される者が当該行為を行う場合等、当社の企業価値の毀損・減殺防止の必要性がある場合には、当社取締役会は、当社の企業価値の毀損・減殺防止のため必要かつ相当と認められる範囲において、下記新株予約権プランの発動を決定することができます。
・ 当社が発行者である株券等(証券取引法第27条の2第1項に定義される)について公開買付けにかかる公開買付開始公告がなされた場合。
・ 公開買付けの手続によることなく、特定の者(本件新株予約権を保有する者を除く)またはそのグループ(当社の株券等(同法第27条の23第1項に定義される。以下同じ)の保有者(同法第27条の23第1項に規定する者をいい、同条第3項により保有者とみなされる者を含む)およびその共同保有者(同条第5項に規定する共同保有者をいい、同条第6項により共同保有者とみなされる者を含む)をいう)による当社の株券等にかかる株券等保有割合(同条第4項に規定する株券等保有割合をいう)が20%を超えたことにつき、公表された場合または当社が知った場合。

ところが、今回は楽天グループが15.46%(10月12日現在)を保有、村上ファンドも7%超を保有していると伝えられています。
・・・足したらトリガー条件の20%超えるけど、足さないと超えないわけですね。
上記のプランでは、証券取引法の第27条の23で大量保有報告書を提出する義務がある場合と全く同じ文言で株券等保有割合を計算する際のグループに含める者を定義しているわけです。
法律とまったく同じなので概念的にはわかりやすく、一見きれいなようですが、法律と買収防衛では目的が違うわけで。実際今回のような、「同じ六本木ヒルズだし、考え方も似てそう。だけど、共同戦線を組むことを合意しているという証拠が無い!」というようなアタックを受けると、刀を振り上げても振り下ろせない、ということになっちゃいます。
三木谷社長も「村上ファンドから購入する予定は無い」とおっしゃってるようですが、「予定がある」と言ったら前述の定義に当てはまってしまう可能性があるので、(たとえ、両社長の間に「あうんの呼吸」があるにしても)、ここはいくら訊かれても「無い」というでしょう。
どういう規定のしかたが考えられるか?
というわけで、買収防衛策発動のトリガー条件は、上記に追加して(例えば)、
「(一定期間内に)株券等保有割合が5%を超える者が新たに複数現れた場合、それらの者を共同保有者とみなした場合に検討開始事由に該当する場合を含む。(ただし、濫用的買収や当社の企業価値の毀損・減殺を招く行為を他の者と共同して行わないことが明らかであるとして、企業価値評価特別委員会が認めた者を除く。)」
というような条項を入れておく必要があるんではないでしょうか。
(そういう条項が入った買収防衛策を導入した会社ってありましたっけ?)
これだと、善意で5%超を取得する投資家も、他社の巻き添えを食らって希薄化を受ける可能性があるとして、裁判所の決定で差し止めを食らう可能性が増えるでしょうか?
また、経営者側の恣意性が高まらないかどうか、とか、「ちょっと買うと会社側にお伺いを立てないといけない買いにくい株」として株価にも悪影響を与えないかどうか、などについても、よく検討が必要かと思います。
5%超をたまたま買った者が、後から16%買う奴があらわれて巻き添えを食うのもまずい。5%超を買ったのが例えば「電通です」、というなら「無害」と判断しやすいでしょうけど、「ケイマン諸島籍の○○○○・エル・ピー」というようなところが大量保有報告書を提出して、あくまで「純投資です」と主張された場合にどうすんのか。
「一定期間内に5%超を取得した者が複数現れた場合、それらの者を共同保有者とみなした場合に検討開始事由に該当する場合、10%超を保有する株主に対して発動する。」というような感じにするんでしょうか。
会社の規模にもよりますね。TBSの5%超を買おうなんてのはシャレではできませんのでいいかも知れませんが、例えば時価総額100億円未満の会社だと、5%では低すぎるかも知れません。
ただ、いずれにせよ、一般に「こいつら明らかにグルじゃん!(でも証拠は無い)」というような人たちが19.5%づつ買ったような場合に防衛できないのでは、買収防衛策の意味がないかと。
さすがに、4.5%×5者、というようなのはちょっと連携を取るのが難しくなってくると思いますし(相手がどう動くかの不確実性が高まると、「あうん」ではなく、もうちょっと明示的な約束が必要になるが、そうすると大量保有報告書が必要になるし、共同保有者の要件にも合致する可能性が出てくるし)、大量保有報告書が出るという意味でも、5%超を一つのハードルにするのはイイと思うんですが。
買収防衛策の目的の一つは、「企業価値の毀損を招きません」ということについての「挙証責任」を買収者側に転換させることだと考えられますので、「グルじゃない」ということについて防戦側が挙証しろというのでは、つらい。
そこのところ、よろしくお願いいたします。>買収防衛策のスキームを考えてらっしゃるみなさま。
(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

TBS株、楽天の大量保有報告書が出た

楽天さんの株式会社東京放送(9401、EDINETコード:681001)についての大量保有報告書が出ています。
取得は、楽天さん本体ではなく、「楽天ストラテジックパートナーズ株式会社」(以下「RSP」といいます)という5月27日設立の会社と、「楽天メディア・インベストメント株式会社」(以下「RMI」といいます)という10月7日に設立されたばっかりの会社で取得してます。(デジャヴーw)
取得は、下のグラフのように、8月14日以前からちょっとづつ取得し始めて9月2日を最後に3週間ほど間を開けた後、9月21日から再び買いはじめてます。
図の「RSP(内)」と書いてある薄青紫色の部分が、取得単価の書いていない取引所等で取得したもの、「(外)」と書いてあるのが、市場外などで取得した部分。
ご覧のとおり、かなり市場外の取引で取得されてますね。(RMIのはすべて市場外。)

株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令
第一号様式 (記載上の注意)
(11)当該株券等の発行者の発行する株券等に関する最近60日間の取得又は処分の状況
e「単価」欄には、(中略)ただし、有価証券市場内における売買取引又は店頭売買有価証券の店頭売買取引によって取得し、又は処分した場合には、この欄の記載を要しない。

rakuten_TBS20051012.GIF
TBSさんの買収防衛策の過去エントリは、こちらをご参照ください。
https://www.tez.com/blog/archives/000453.html
(取り急ぎ)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

改めて村上ファンドのノーアクションレターを読んでみる

昨日(再び)紹介させていただいた「エヌエヌエフイー・マック・ジャパン・アクティブ・シェアホルダーファンド・エル・ピー」と「MAC2000投資事業組合」(以下「村上ファンド」と呼ばせていただきます)の、平成14年7月15日付、金融庁総務企画局市場課長宛の法令適用事前確認と、同9月6日の回答(ノーアクションレター?)について、見てみたいと思います。
主な論点は2つ。
1.ファンドは株式を「共有」しているわけだから、ファンド全体として短期の売買益を上場会社に返還する必要はないかどうか。
2.株式買取請求権が「売付け等」に該当するかどうか。
保有割合をファンドとしてとらえるのかどうか
村上ファンドさんの問い合わせの論点その1は、ファンド(民法上の任意組合やケイマン諸島のexempted limited partnership)」は、「法人格」がなく、財産は組合員の「共有」なので、10%以上持っていても「主要株主」にはあたらないんじゃないか?、ということです。

(略)任意組合の保有する株式は、組合員全員がこれを共有するものであって、各組合員は、主要株主について、「自己又は他人(仮設人を含む。)の名義をもつて総株主の議決権の百分の十以上の議決権(取得又は保有の様態その他の事情を勘案して内閣府令で定めるものを除く。)を保有している株主」と定めており、同法第27条の23第4項、第5項と異なり、共同保有者の保有する株式数を加算する旨の規定は存在しません。また、議決権の共同行使の合意がある場合には、同条第4項、第5項では合意の当事者の株式数を加算することになりますが、同法第163条には、そのような定めはありません。
したがって、任意組合として発行会社の総株主の議決嫌悪百分の十以上の議決権を保有することになっても、任意組合の総株主の議決権に対する議決権の保有割合に各組合員の任意組合に対する出資割合(株式の共有割合)を乗じたものを当該各組合員の係る同法第163条の主要株主該当性の計算に用いるものと解すべきであり、照会者MAC2000事態には、同条は適用されないものと思慮いたします。

これに対する金融庁総務企画局市場課長の回答は、

取得した株式を契約に基づき構成員が共有していることから、株主は各々の構成員であり、議決権は各構成員が共有持分に応じて保有するものであると考える。

とあります。一見、「それでいいですよ」と言っていると読めますが。
問題の163条(特定有価証券の売買に関する報告書の提出)の規定を見てみますと、

第百六十三条  第二条第一項第四号、第五号の二又は第六号に掲げる有価証券(政令で定めるものを除く。)で証券取引所に上場されているもの、店頭売買有価証券又は取扱有価証券に該当するものその他の政令で定める有価証券の発行者(以下この条から第百六十六条までにおいて「上場会社等」という。)の役員及び主要株主(自己又は他人(仮設人を含む。)の名義をもつて総株主の議決権(第三十二条第五項に規定する議決権をいう。)の百分の十以上の議決権(取得又は保有の態様その他の事情を勘案して内閣府令で定めるものを除く。)を保有している株主をいう。以下この条から第百六十六条までにおいて同じ。)は、自己の計算において当該上場会社等の同項第四号、第五号の二若しくは第六号に掲げる有価証券(政令で定めるものを除く。)その他の政令で定める有価証券(以下この条から第百六十六条までにおいて「特定有価証券」という。)又は当該上場会社等の特定有価証券に係るオプションを表示する同項第十号の二に掲げる有価証券その他の政令で定める有価証券(以下この項において「関連有価証券」という。)に係る買付け等(特定有価証券又は関連有価証券(以下この条から第百六十六条までにおいて「特定有価証券等」という。)の買付けその他の取引で政令で定めるものをいう。以下この条及び次条において同じ。)又は売付け等(特定有価証券等の売付けその他の取引で政令で定めるものをいう。以下この条から第百六十五条までにおいて同じ。)をした場合(当該役員又は主要株主が委託者又は受益者である信託の受託者が当該上場会社等の特定有価証券等に係る買付け等又は売付け等をする場合であつて内閣府令で定める場合を含む。以下この条及び次条において同じ。)においては、内閣府令で定めるところにより、その売買その他の取引(以下この項及び次条において「売買等」という。)に関する報告書を売買等があつた日の属する月の翌月十五日までに、内閣総理大臣に提出しなければならない。ただし、買付け等又は売付け等の態様その他の事情を勘案して内閣府令で定める場合については、この限りでない。 (以下略)

となってます。(下線部が「主要株主」の定義。)
これに対して、村上ファンドさんが対比させている大量保有報告書に関する証券取引法第27条の23第4項、第5項の規定では、「共同保有者(仲間)はまとめてカウントしなさいよ」ということになってます。

証券取引法第27条の23第4項、第5項
4  第一項の「株券等保有割合」とは、株券等の保有者(同項に規定する保有者をいう。以下この章において同じ。)の保有(前項各号に規定する権限を有する場合を含む。以下この章において同じ。)に係る当該株券等(その保有の態様その他の事情を勘案して内閣府令で定めるものを除く。以下この項において同じ。)の数(株券については株式の数を、その他のものについては内閣府令で定めるところにより株式に換算した数をいう。以下この章において同じ。)の合計から当該株券等の発行者である会社が発行者である株券等のうち、第百六十一条の二第一項に規定する信用取引その他内閣府令で定める取引の方法により譲渡したことにより、引渡義務を有するものの数を控除した数(以下この章において「保有株券等の数」という。)に当該会社が発行者である株券等に係る共同保有者の保有株券等の数を加算した数(以下この章において「保有株券等の総数」という。)を、当該会社の発行済株式の総数に当該保有者及び共同保有者の保有する当該株券等(株券その他の内閣府令で定める有価証券を除く。)の数を加算した数で除して得た割合をいう。
5  前項の「共同保有者」とは、株券等の保有者が、当該株券等の発行者である会社が発行者である株券等の他の保有者と共同して当該株券等を取得し、若しくは譲渡し、又は当該会社の株主としての議決権その他の権利を行使することを合意している場合における当該他の保有者をいう

この163条の「主要株主」の定義は、「以下この条から第百六十六条までにおいて同じ。」ということなので、163条の「報告義務」だけでなく、
第164条:役員又は主要株主の不当利得返還
第165条:役員又は主要株主の禁止行為
第166条:会社関係者の禁止行為(インサイダー取引規制)
にも当てはまることになります。
ということは、ファンドの株式保有比率が何十%になろうが(大量保有報告書の提出義務はあるものの)、6ヶ月以内に売却しても売買益を返還しなくていいし(164条)、ファンドは「主要株主」に当たらないとしたら、「村上ファンドが株主になった」という未公開情報をつかんで、その会社の株を売買してもインサイダー取引規制には引っかからないということでしょうか。(166条。さすがにこれは、同条2項4号のバスケット条項に引っかかってくる気はしますが。)
法律の建て付けとして、大量保有報告書の方に「共同保有者」が入っていて、163条以下には入ってないというのはどういう趣旨なんでしょうか?(単なる揃え忘れ?)
金融庁さんの回答も、よく見ると、「議決権は各構成員が共有持分に応じて保有するものであると考える。」と消極的に(村上ファンドの問い合わせをなぞる形で)書いてあるだけで、「163条で定義される主要株主には該当しない」とか「短期売買規制には引っかかりませんよ」とは書いてないですね。他の回答は、もっと積極的に「〜は、処分の対象とされることはない。」というような書き方をしています。
法律上は主要株主に該当するとは読めないから仕方なく消極的に認める、実態を見て処分を下す可能性も無くはないよ、というようなニュアンスなんでしょうか。
「売付け等」とは何か
もう一つの論点は、「売付け等」に、どこまでが含まれるか。
村上ファンドさんの問い合わせには、以下の通り記載されています。

売買報告書に記載すべき「売付け等」について
 証券取引法第163条に基づき売買報告書に記載すべき「売付け等」については、同条第1項、同法施行令第27条の6及び上場会社証券売買令第1条の4において定義されているところ、その定義は限定列挙であると解すべきであり、ToSTNeTを利用する売付けを含む取引所有価証券市場における売付け、取引上有価証券市場外における売付け、発行会社以外の者による公開買付けに対する売付け及び発行会社による公開買付けに対する売付けは、いずれも、「売付け等」に該当する一方、有償減資又は有償法定準備金減少に応じること、合併、株式交換、株式移転又は会社分割に応じること及び配当金の受領は、いずれも、「売付け等」に該当しないものと思料いたします。また、商法に基づく株式買取請求権(略)の行使については、形式上は「売付け等」に該当すると解する余地があるものの、株式買取請求権の行使時期には制約があり(略)、保有期間を6月超とすることができない場合もあることから、利益提供義務を課すのは不当であり(証券取引法第166条によるインサイダー取引規制でさえ、同条第6項第3号により、商法上の株式買取請求権の行使については適用除外とされています)、同法第163条の「売付け等」には該当しないものと思料いたします。

これに対する金融庁さんの回答は、

(株式買取請求権)を行使することに伴う売付けは、証券取引法第163条第1項に規定する「売付け等」に該当し、同項に規定する報告書を提出する必要があると考える。

となっていて、「NO」ということですね。
問い合わせの最初の方で、

照会者ら(注:村上ファンド)の行う取引においては、発行会社の総株主の議決権の百分の十以上の議決権を保有するに至った場合であっても、投資目的で、当該発行会社の株式の売買を行うことが予定されており、買付けを行った株式についての投資回収方法としては、ToSTNeTを利用する売付けを含む取引所有価証券市場における売付けのほか、取引上有価証券市場外における売付け、発行会社以外の者による公開買付けに対する売付け、発行会社による公開買付けに対する売付け、有償減資又は有償法定準備金減少に応じること、合併、株式交換、株式移転又は会社分割に応じること、商法上の株式買取請求権の行使、配当金の受領等があります。

と書いてあります。つまり、この論点2は、投資の資金回収(EXIT)の方法ごとの法令の適用の可能性について訊いているわけですが、このうち、
・ 商法上の株式買取請求権の行使
については、金融庁は明示的に「ダメ(該当する)」と回答してるわけです。
・ ToSTNeTを利用する売付けを含む取引所有価証券市場における売付け
・ 取引上有価証券市場外における売付け
・ 発行会社以外の者による公開買付けに対する売付け
・ 発行会社による公開買付けに対する売付け
は、明らかに「売付け」に該当するだろうと村上ファンドも認めており、一方、
・ 有償減資又は有償法定準備金減少に応じること
・ 合併、株式交換、株式移転又は会社分割に応じること
・ 配当金の受領
については、「売付け等には該当しない」という村上ファンド側の意見に、金融庁側は答えていません。このへんは、スキームの組みようや交渉の持って行きようによっては、グリーンメーラー的行為が可能になるからかも知れませんね。
会社法施行による状況の変化についても注目。
(本日はこれにて。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

短期売買差益規制のノー・アクション・レターはいずこ?

某新聞社さんからお問い合わせいただいて気づきましたが、
今年の2月15日に「ニッポン放送株について(ライブドアと大和証券と村上ファンド)」で、ご紹介した47thさんのエントリ

ところで、ファンドといえば、トリビアを一つ。
普通の主要株主は6か月以内の売買で差益を得ると、会社に差益の返還請求権が発生するのですが・・・なんと、組合(パートナーシップ)形式ファンドの場合は、10%の判定は背後の投資家単位でやるということで、ファンドがいくら持っていても、それだけでは短期売買差益の問題は出ないんですよねぇ・・・
実は、これについては、Mファンド自身が、金融庁からノー・アクション・レターをとっていたりしますが・・・(照会と回答。まあ、これは会社に売り付けをしようとした時に短期売買差益規制が確認しないことを確認しようとしたようですが・・・)。

における、金融庁さんへのリンク
照会:http://www.fsa.go.jp/hourei/houreij/kaitou/032/032_01a.pdf
回答:http://www.fsa.go.jp/hourei/houreij/kaitou/032/032_01b.pdf
が、リンク切れになってますね。
まさに今、村上ファンドさんが短期売買差益規制に引っかかるかどうか(投資顧問業者1社として考えられるのか、投資組合への出資者1人1人のシェアで考えられるのか、も含め)、が非常にホットな状況なわけですが・・・・。
金融庁さんに抗議が行ったりしてリンクからはずされたんでしょうか?
それとも単に、ページのURLが変更になっただけ、とか?

証券取引法第百六十四条  上場会社等の役員又は主要株主がその職務又は地位により取得した秘密を不当に利用することを防止するため、その者が当該上場会社等の特定有価証券等について、自己の計算においてそれに係る買付け等をした後六月以内に売付け等をし、又は売付け等をした後六月以内に買付け等をして利益を得た場合においては、当該上場会社等は、その利益を上場会社等に提供すべきことを請求することができる。

(追記:10/12、8:33)
KOHさん、Swindさんに教えていただきました。単に、リンク先が変わっていただけのようです。
照会:http://www.fsa.go.jp/common/noact/kaitou/032/032_01a.pdf
(「照会者は、本照会における紹介者名並びに照会及び回答内容が公表されることに同意いたします。」と、ちゃんと書かれてましたので、文句がいくわけないですね。)
回答:http://www.fsa.go.jp/common/noact/kaitou/032/032_01b.pdf
ノーアクションレターの照会・回答の全体はこちら。(少なっ。)
http://www.fsa.go.jp/common/noact/kaitou/index.html
どうもありがとうございました。>KOHさん、Swindさん
(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

DESのヒネリ技?(その2)会社法編

昨日の現行商法におけるDESでのヒネリ技の研究に続き、新会社法(平成18年4月以降)におけるDES(債務の株式化、デット・エクイティ・スワップ [Debt Equity Swap])について。
検査役等の証明が不要に
会社法では、ほとんどのケースのDES(金銭債権の現物出資)は、検査役(または弁護士・公認会計士・税理士等)の証明が不要になります。事後設立(現商法第246条1項、有限会社法40条3項)は、すべて証明は不要になります。

(第三款 金銭以外の財産の出資)第二百七条第9項
前各項の規定は、次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める事項については、適用しない。(中略)
五 現物出資財産が株式会社に対する金銭債権(弁済期が到来しているものに限る。)であって、当該金銭債権について定められた第百九十九条第一項第三号の価額が当該金銭債権に係る負債の帳簿価額を超えない場合 当該金銭債権についての現物出資財産の価額

「弁済期が到来しているものに限る。」ですから、通常は「しこってる」債権の現物出資に限られるわけです。ただ、これを使えば、すべての現物出資は証明不要ということにもなり得ますね。
(1) まず、(不動産でもなんでも)、会社との売買契約を結んで会社に売却。売買契約では適当な弁済期限を設定し、対価は未払い(金銭債権)とする。
(2) 会社は弁済期限まで未払金を支払わない。
(3) 弁済期を過ぎたらDES(金銭債権の現物出資)を行う。
これを「悪用」して、現物の価格を不当に高く付けて債務超過を解消したような場合には当然まずいわけですが、適正な価格で売買した代金を現物出資した場合に、上記の規定に対する潜脱行為とされるでしょうか?
もしそれが潜脱行為にならないのだったら、この現物出資の証明の規定が残っている意味って何でしょうか?「現物出資の価額は時価以下としなければならない」と規定するだけでいいんじゃないかと思いますが。
自己株式の処分によるDES
昨日は、合併による自己株式の取得について考えましたが、本日は、譲渡制限の買取請求権で、自己株式を発生させられるかどうかについて検討。
つまり、まずDESに使う種類株式を(安く)発行し、それをまた同額で買い取って自己株式とし、それを今度は高い株価で処分してDESを行うということが可能かどうかについて。

(反対株主の株式買取請求)
第百十六条 次の各号に掲げる場合には、反対株主は、株式会社に対し、自己の有する当該各号に定める株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。
一 その発行する全部の株式の内容として第百七条第一項第一号に掲げる事項についての定めを設ける定款の変更をする場合 全部の株式
二ある種類の株式の内容として第百八条第一項第四号又は第七号に掲げる事項についての定めを設ける定款の変更をする場合 第百十一条第二項各号に規定する株式
(本項、以下略)
2 前項に規定する「反対株主」とは、次の各号に掲げる場合における当該各号に定める株主をいう。
一 前項各号の行為をするために株主総会(種類株主総会を含む。)の決議を要する場合 次に掲げる株主
イ 当該株主総会に先立って当該行為に反対する旨を当該株式会社に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該行為に反対した株主(当該株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)
ロ 当該株主総会において議決権を行使することができない株主
二 前号に規定する場合以外の場合すべての株主
3 第一項各号の行為をしようとする株式会社は、当該行為が効力を生ずる日(以下この条及び次条において「効力発生日」という。)の二十日前までに、同項各号に定める株式の株主に対し、当該行為をする旨を通知しなければならない。(以下略)

譲渡制限がついていない種類株式について譲渡制限を付けようというときには、種類株主総会の決議を経なければなりません。

第百十一条 (1項、略)
2 種類株式発行会社がある種類の株式の内容として第百八条第一項第四号又は第七号に掲げる事項についての定款の定めを設ける場合には、当該定款の変更は、次に掲げる種類株主を構成員とする種類株主総会(当該種類株主に係る株式の種類が二以上ある場合にあっては、当該二以上の株式の種類別に区分された種類株主を構成員とする各種類株主総会。以下この条において同じ。)の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。
一当該種類の株式の種類株主
(以下略)

で、その決議は以下の「特殊決議」であることが必要です。

(種類株主総会の決議)
第三百二十四条(1普通決議、2特別決議、略)
3 前二項の規定にかかわらず、次に掲げる種類株主総会の決議は、当該種類株主総会において議決権を行使することができる株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)であって、当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。
一 第百十一条第二項の種類株主総会(ある種類の株式の内容として第百八条第一項第四号に掲げる事項についての定款の定めを設ける場合に限る。)
二 (略)

このため、
(1) まず、DESに用いるのと同様の内容の優先株式を第三者割当により(誰か適当な人に対して)発行。(ただし、この種類株式には当初譲渡制限は付いていない。また、譲渡制限に関する変更については[ついても]、議決権を持たないことを規定。さらに、この種類株式の募集については種類株主総会の決議を要しない旨も規定。[199条4項])
(2) 会社は、(DESの日程の20日以上前までに)、この種類株式に譲渡制限を付ける定款変更株主総会および種類株主総会(全員議決権が無い場合も?)を開催。譲渡制限を設ける。
(3) 種類株主に譲渡制限が付く旨を通知。
(4) 種類株主は買取請求権を行使。
(5) 譲渡制限の効力発生日(DESの実行予定日かそれ以前を設定)以降、種類株式の対価(発行価額と同額で数百万円程度)を支払う。(自己株式が発生。)
(6) 支払日と同日にDESを実行。自己資本が数億円以上増加。
という手続きを想定してみます。(下図)
image001.gif
種類株式の発行価額
まず、「下ごしらえ」として、(1)〜(5)の自己株式の仕込みが必要なわけですが、この種類株式(優先株式)は、いくらで発行して、いくらで買い戻せばいいでしょうか?
私は、DESの金額にかかわらず、だいたい850万円以下でいくらでも安くていいんじゃないかと思います。
850万円というのは、増資の最低登録免許税3万円=新株発行の払込み額の2分の1(法445条2項)×0.7%、となる払込み額が、方程式を解くと8,571,428.57…円となるので、それ以上増資額を安くしてもコスト削減にならないため。
発行会社、種類株式の初回引受人の適法性
まず、この種類株式を引き受けてすぐ買取請求をするという一見怪しげな行為は、法律上、大丈夫でしょうか?
「資本金を増額したのにすぐに買取請求することで、資本充実の原則を破った」、と言われるとイヤなのですが、そのために、DESの実行と自己株式の買い取りを同日にしてみました。(同日でなくても、基本的には関係者の了承がとれて、DESの日取りが決まってから譲渡制限を付けるわけですから、資本充実の原則を冒すことにもならない気がします。)
種類株式の初回引受人の税務上の問題
また、実際の条件によりますが、特に債務超過会社などの場合、(DES予定債権者が求める残余財産分配権や優先配当権など、多少いい条件が付いていても)、種類株式の「時価」はタダ同然ということが多いはず。DESをはじめとする再生計画が実行されてはじめて債務超過が解消(改善)される、ということになるのが通常ですので。
つまり、「安い値段のモノを安い価格で買って、また同じ値段で売り戻す」だけですから、寄付金認定等の問題は発生しないんじゃないかと思います。(・・・が、どうでしょうか。)
この後すぐに、何億円、何十億円という(額面の)債権と交換される株が、数十万円でやりとりされるのは違和感があるかも知れませんが、その引き受ける人も額面が何十億円の債権を数十万円で売ってやると言われても買わないでしょうし、売る方も売らないでしょうから、経済実体上、不合理な取引ではないと思います。
債権者、発行会社の税務上の問題
直前に数十万円で取引された種類株式を、額面数十億円の債権と引き換えにDESするというのは、債権者として寄付金になるとか、発行会社で受贈益になるとかいうことになるでしょうか?・・・必ずしもならないですよね。経済実態は、第三者割当増資と同じですから、非常に内容の悪い種類株式ではなく、将来、企業の業績が回復したら十分メリットのある内容になっていれば、合理的な経済取引と言えるかと思います。
確かに登録免許税が安くなったり外形標準課税の対象にならなかったりするわけですが、もともと未公開で債務超過(または債務超過寸前)のような会社の資本金が何十億円、という方が実態からしてヘンなわけで、「資本金が数千万円」といった見かけにとどめるのは、課税を回避する以外の合理的な理由があると思います。
税務署も、「DESして増えすぎた資本金を減資しても、ちゃんと株主総会で減資等の決議された事実があれば、まあいいでしょう」と、決議や登記は、それなりに尊重していただける対応をしていただいているようですので。
募集事項の記載
会社法では、自己株式の処分も新株発行といっしょに統一的に規定されることになりました。

(募集事項の決定)
第百九十九条 株式会社は、その発行する株式又はその処分する自己株式を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集株式(当該募集に応じてこれらの株式の引受けの申込みをした者に対して割り当てる株式をいう。以下この節において同じ。)について次に掲げる事項を定めなければならない。
(一 募集株式の種類及び数、二 払込金額、三 現物出資、四 払込み等の期日又はその期間、略)
五 株式を発行するときは、増加する資本金及び資本準備金に関する事項
2 前項各号に掲げる事項(以下この節において「募集事項」という。)の決定は、株主総会の決議によらなければならない。
(3 有利発行、略)
4 種類株式発行会社において、第一項第一号の募集株式の種類が譲渡制限株式であるときは、当該種類の株式に関する募集事項の決定は、当該種類の株式を引き受ける者の募集について当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めがある場合を除き、当該種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。

商法では、新株発行か自己株式の処分かは条文が違ったわけですが、会社法では、この決議をするときに、まだ自己株式を取得してないとしても、同じ決議をしておけばいいわけです。ただし、上記「五」号の、「株式を発行するときには」資本金及び資本準備金について決めておかないといけないのですが、
そもそも会社法では、株式募集を取締役会等に権限委譲できるので、このへんもフレキシブルに行けそうですね。

(募集事項の決定の委任)
第二百条 前条第二項及び第四項の規定にかかわらず、株主総会においては、その決議によって、募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に委任することができる。この場合においては、その委任に基づいて募集事項の決定をすることができる募集株式の数の上限及び払込金額の下限を定めなければならない。(中略)
4 種類株式発行会社において、第一項の募集株式の種類が譲渡制限株式であるときは、当該種類の株式に関する募集事項の決定の委任は、当該種類の株式について前条第四項の定款の定めがある場合を除き、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。

(本日はこれにて。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

DESの登録免許税倹約法?

企業再生ではよくDES(債務の株式化、デット・エクイティ・スワップ [Debt Equity Swap])が使われます。
中堅・中小企業がDESを使った再生を行うケースも増えているんじゃないかと思いますが、そんな中で、昨日スキームを検討していて思いついた話。(まだ未検証の部分を含みますことをご了承ください。)
image001.gif
問題はDESを行うと、ドーンと資本金が増えて、多額の登録免許税がかかってしまう点。例えば、5億円DESをすると、新株の発行ですので2分の1しか繰り入れないとしても資本金が2.5億円増加。登録免許税(増加した資本の金額の1,000分の7 =0.7%)だけで175万円。20億円のDESだと1,400万円、200億円だと1.4億円にもなります。。(上図の(2))
さらに、中堅・中小企業の場合、資本金が1億円を超すと外形標準課税の対象にもなってくることもあり、増資した後にわざわざ減資することも。登録免許税分だけ全く意味のないコストになってしまうわけです。(上図の(3))
「DES額の35ベーシス分くらいほっとけ」、という見方もできるかも知れませんが、DESをするような企業というのは、1円でも経費節約しなきゃいけないモードになっていることが多いわけで、100万円とか1000万円でも、おろそかにはできないかと。
案その1:新設法人に債権を現物出資
そこで、合併を使う手段を一つ思いついたわけです。
image002.gif
まず、新設法人を設立して、そこにDESしたい債権を現物出資します。(上図(2))
現物出資の対価は、要項を適当に定めた優先株等の種類株式を想定します。
DESの実務では、ご案内の通り通常、債務の額面の額をもって出資額とします。(券面額説) 出資される企業側からすれば、5億円債務があったのが資本に振り替わるわけですから、いずれにせよ資本の部が5億円増加するという意味では5億円の価値があると言って間違いないわけですが。
一方で、債権者の側から見ると、DESが必要なような企業に対する債権の価値が、額面分もあるわけはない。回収可能性や将来返済される可能性のあるキャッシュフローの現在価値として考えれば、額面よりはるかに小さい金額でしか評価できないのが通常です。
ということは、上記の新設法人に現物出資する際の額は、(資本充実の原則で)、額面よりはるかに小さい金額で出資せざるを得ません。
まったく同じ債権の現物出資なのに、債務を直接負っている会社でDESするのと、他の企業に現物出資するのとで、まったく額が異なるというところが面白いかと。
また、この違いのせいで、合併で債権債務が「混同」すると、消滅して「益」が出ます。(この部分は資本剰余金である「合併差益」ではなく、利益剰余金ですよね?・・・ということで、繰越欠損金と相殺されます。)
ちなみに、合併時に増加する資本金をゼロとすれば、被合併会社である新設法人の純資産だけ合併差益(資本準備金)にすればよくて、資本増加に対する登録免許税はかかりません。
冒頭の例より、債権額面の35ベーシスだけコストが抑えられるわけですが、一方で、法人の新設の登録免許税や定款認証費用など40万円前後がかかったり、合併の登記費用などがかかるので、2億円程度のDESの場合には、あまり合併を使ってコストの節約ということにはならないかも知れませんが、それ以上の規模だと、メリットは大きくなってくると思います。
また、DESをやるような会社は、債権者の債務切り捨てなど「痛み」を伴うので、説得や調整がただですら大変なので、こうした「ややこしい」話を殺気立った中でうまく説明できるかどうかもよく考える必要があるかと思います。
ただ、DESをするような会社は、100万円でも節約しなければいけない状況になっているはずなので、他の与件が同じなら一番コストが安くなるスキームを採用すべきという話は説得力を持つかも知れませんね。
また、会社法施行後は、DESの際の現物出資の額の証明は(帳簿価格以下であれば)不要になるので、別会社に現物出資をして必要になる証明のための報酬のコストも考慮する必要があります。
(追記[メモ]10/10 16:39:利益出すだけなら、現物出資の額を小さくすればいいだけかも知れないですね。差額は受贈益?資本金の増加額はゼロにはできませんが。)
案その2:利益は出したくないケース
前項のスキームでは、債権の額面と出資額の差額が「利益剰余金」になるケースでしたが、再生計画によっては、利益を出したくないケースもあるかと思います。(追記[メモ]:10/10 16:39、古い繰越欠損金が使い切れずに税務上expireする場合はともかく、通常は利益が順調に立ち上がる計画なら、資本剰余金にしたほうが得なはず。)
つまり、債務超過はいやなので自己資本は増額させたいが、資本金が増えると登録免許税などのコストがかかるし、利益剰余金が増えると税務の問題が出てくるという場合には、資本剰余金を増加させるということになります。
以前、「インボイスの転換社債と自己株式(第2回)」でも触れましたが、実質的には同じ増資でも、「新株を発行する」のと「自己株式を処分する」のでは、会計処理が異なってきます。
新株発行の場合には、半分までしか資本準備金に繰り入れられませんでしたが、自己株式を処分して資金調達する場合には、自己株式の簿価と処分額の差額は「自己株式処分差益」として、「その他資本剰余金」になりましたよね。資本準備金と違って、取り崩すのに債権者保護手続も必要でなく、配当可能利益にも算入できるという、非常に使いやすくて、しかも税額に影響を与えない自己資本の増強策になります。
適当な自己株式があればいいのですが、実際、DESを行うような企業は配当可能利益が無いことがほとんどで、「買い受け」によって自己株式を準備しておく、というのは難しいはず。
以前から持っている自己株式がある場合もあるでしょうけど、DESに応じる債権者のニーズに合った種類株式として設計する必要があるはずで、普通株式を持っていてもダメです。
そこで、また合併を使ったらどうか、というアイデアですが。
image003.gif

(注:会計上、自己株式[薄紫]の表示は資本の部のマイナスだが、便宜上、資産側に記載してます。)

上記の通り、前項と同様、新設法人を設立します。設立時、または設立してすぐに第三者割当増資により、DESに用いる優先株を発行します。
この後に合併契約書を締結するわけですが、ここで優先株主は合併に反対し、買取請求権を行使するというところがアイデアですが。これで、配当可能利益がない会社でも自己株式がもてます。
合併契約書には、この新設法人が保有する自己株式(優先株式)にも、存続会社の同様の内容の優先株式を割り当てる、と書いておきます。これで、合併により優先株式の自己株式が生まれることになるんじゃないかと思ったんですが。
被合併会社がその会社の株式を保有していた場合に、それに合併新株を割り当てていいかどうかという点については、企業会計基準適用指針5号「自己株式及び法定準備金の取崩等に関する会計基準適用指針(その2)」42にも、「被合併会社の保有する当該会社の自己株式に合併新株を割り当てることについての可否についても、商法上明文の規定はないが、一般に可能であると解されているようである。」という記述があり、可能という解釈のようですが、
はたして、被合併会社が保有している被合併会社の自己株式に対して、合併新株を割り当てていいのかどうか。前記の割り当てが許されるなら、割り当ててダメという理由もなさそうな気がしますが。
さらに、来年4月からの「会社法」だと、第749条(株式会社が存続する吸収合併契約)1項3号には、

前号に規定する場合には、吸収合併消滅株式会社の株主(吸収合併消滅株式会社及び吸収合併存続株式会社を除く。)又は吸収合併消滅持分会社の社員(吸収合併存続株式会社を除く。)に対する同号の金銭等の割当てに関する事項

とありまして、カッコの中は、どうも合併による自己株式の発生を認めないための規定にも見えます。いずれにせよ、来年4月以降は使えなくなるかも。ここまで読んでいただいておいてなんではありますが、譲渡制限の決議をして買取請求権を発生させるなどして自己株式を発生させる方法の方がいいかも知れないですね。
いずれにせよ、簿価と時価の差額等を「資本剰余金とする方法」と「利益剰余金とする方法」の両方を持っていれば、再生計画において、法人税を考慮しても、柔軟なキャッシュフローの設計ができるかと思います。
会社法以降のDES等については、また今度。とりあえず本日はこんなところで。
(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

村上ファンドはなぜ阪神株を持ったまま2ヶ月「海底に潜伏」していたか?

朝起きたら、先日ご紹介した「議決権制限株式を利用した買収防衛策」の論文を書かれた法務省民事局付検事 葉玉匡美氏(ご本人ですよね?)から直接コメントいただきました。恐縮です。
こちらこそ、よろしくお願いいたします。<(_ _)>
−−−
さて、昨日のエントリで、村上ファンド(株式会社MACアセットマネジメント)が提出した大量保有報告書には、15日に株式及び転換社債を取得した旨の記載があり、「最近60日間の取得または処分の状況」には他の記載がなかったので、14日までの時点で取得していた残りの8.99%分(30,888,000株)については、その2ヶ月以上前にすでに取得して、その後約2ヶ月間「機関停止」して「海底に密かに沈んで」いたことになる、ということについて書かせていただきました。
では、なぜこの期間、一切売買をしなかったのか。
昨日も申し上げたとおり、証券会社や投資顧問業者は、証券取引法27条の26第1項で、10%を超えなければ5%を超えても3ヶ月ごとの報告でいいわけですが、ただ、証券取引法27条の26第1項をもうちょっとよく見てみると、

証券会社、銀行その他の内閣府令で定める者(第三項に規定する基準日を内閣総理大臣に届け出た者に限る。)が保有する株券等で当該株券等の発行者である会社の事業活動を支配することを保有の目的としないもの(株券等保有割合が内閣府令で定める数を超えた場合及び保有の態様その他の事情を勘案して内閣府令で定める場合を除く。)又は国、地方公共団体その他の内閣府令で定める者(第三項に規定する基準日を内閣総理大臣に届け出た者に限る。)が保有する株券等(以下この条において「特例対象株券等」という。)に係る大量保有報告書は、第二十七条の二十三第一項本文の規定にかかわらず、株券等保有割合が初めて百分の五を超えることとなつた基準日における当該株券等の保有状況に関する事項で内閣府令で定めるものを記載したものを、内閣府令で定めるところにより、当該基準日の属する月の翌月十五日までに、内閣総理大臣に提出しなければならない。

と、「事業活動を支配することを保有の目的としない」場合のみ特例を認めて報告義務をゆるめることになってます。
今回、阪神電鉄にいろいろ提案しているのは、既に「事業活動を支配することを保有の目的」としていると考えられますが、もし、間をおかずに、株券等保有割合ゼロから一気に3分の超まで連続して買っていったとしたら、「はじめから、(単なる投資ではなく)支配が目的で買ってたんじゃないの?」ということになり、もっと早く、5%を超えた段階で報告しないと、法令違反とみなされる可能性が高かったんじゃないかと思います。
「だから、約2ヶ月以上間をおいた」、というのは考えすぎでしょうか?
もちろん、ホントに、(例えば西武鉄道の方に動きがあったら、そっちに資金をつぎ込もうと思って)様子を見ていたのかも知れませんが。
加えて、もし仮に、村上ファンドが(例えば)8月の中旬ごろに「9月の連休を挟んで一気に買い増して3分の1を取得し、会社にいろいろ要求を突きつけるぞ」と「目的を変更」したとしたら、その時点で5%超である8.99%程度を保有していたわけですから、その「気が変わった」時点で本来は報告しないといけない、ということになるはずですが、そうした報告が出ていないということは、9月15日(またはそれ以降)に突如、支配目的に変更する気になって怒濤のごとく買い増しを始めた、ということ・・・なんでしょうね。
hanshin_baibaidaka_S.jpg
(↑クリックで拡大。出所:NIKKEI NET 総合企業情報株価サーチ
そうした点を踏まえてチャートを見てみますと、7月の頭ごろに、ちょっとだけ売買高と株価が膨らんでるところがありますが、この程度売買高があって30万株程度であれば、さほど影響なく買えたかも知れません。
(追記:11:04)
もし、村上ファンドの「基準日」が、仮に3、6、9、12月末だとすると、7月15日までに大量保有報告書が出ていないとしたら、6月末までには5%未満しか保有していなかったことになります。
また、繰り返しになりますが、7月18日以降になると、26日に提出された大量保有報告書の「最近60日間の取得または処分の状況」に載ってくるはずですから、17日前までに8.99%まで買い増したことになります。

第一号様式「記載上の注意」
(11) 当該株券等の発行者の発行する株券等に関する最近60日間の取得又は処分の状況
a 報告義務が発生した日の60日前の日の翌日以後、報告義務が発生した日までの間の株券等の取得又は処分の状況について記載すること。(以下略)

(追記、以上)
問題は、15日以降の怒濤の買い増しなわけですが、15日の前、数日間にわたって売買高が急に膨らんでいる点が注目されますね。
報告の特例が認められないもう一つケースとして、「保有の態様その他の事情を勘案して」というのが内閣府令の第13条にありますが、

(保有の態様その他の事情を勘案し特例対象株券等から除外される場合)
第十三条  法第二十七条の二十六第一項 に規定する内閣府令で定める場合は、証券会社等に証券会社等でない共同保有者がいる場合において、当該共同保有者に証券会社等である共同保有者がいないものとみなして計算した当該共同保有者の株券等保有割合が百分の一を超える場合とする。

ということで、特例を認められた「証券会社等」でない共同保有者がちょっと持っている場合にはアウト、ということになるわけです。
浮動株比率とかをよく見ていないのですが、5営業日で3分の1まで買い進むというのは、どんな株でも結構大変なはず。
こういう場合、可能であれば、「オレ、15日までは動けないから、ちょっと代わりに買っておいて」と、玉を仕込んでくれる仲間がいると便利なわけですが、そういう「仲間」がもし仮にいたとして、27条の23第5項の、

前項の「共同保有者」とは、株券等の保有者が、当該株券等の発行者である会社が発行者である株券等の他の保有者と共同して当該株券等を取得し、若しくは譲渡し、又は当該会社の株主としての議決権その他の権利を行使することを合意している場合における当該他の保有者をいう。

という定義に該当するかどうか。該当した場合には、27条の23第4項で、その分も加算して比率を計算しないといけないわけですが。
加えて、今回、転換社債の一部は市場外で買っていらっしゃるようですが、それは「当日」買うことが決まったのか、それとも、「以前」から交渉していたものなのか。交渉していたとしたら、それは、「支配を目的に買い増しをしよう」と決めた(目的変更があった)からなのかどうか・・・。
・・・いずれにせよ、そういう「目的」とか「合意」とかいうのは、何か紙でも残っていない限り、第三者が立証するのは非常に難しそうではあります。
(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

阪神電鉄株における村上ファンドの海面急浮上戦法

ニッポン放送のときは、大量保有報告書をわざわざ東証とか霞が関あたりまで閲覧に行かないといけなかったわけですが、(このあたりのエントリーをご参照)、この10月3日より、めでたくインターネットのEDINETでも閲覧可能になりました。

注:
http://info.edinet.go.jp/EdiHtml/main.htm
で、「有価証券報告書の閲覧」のボタンをクリック、「EDINETコード検索」で阪神電気鉄道株式会社のEDINETコード「611018」を入力、阪神のページを表示し、「発行者以外の提出書類および関連書類」のラジオボタンをクリックすると出てきます。

さて、お手軽に入手できるようになった この大量保有報告書から数字をピックアップすると、村上ファンド(株式会社MACアセットマネジメント)の持株数(潜在株式数を含む)の推移は以下の通り。
hanshin_murakami_share.GIF

注:
10%、33%のラインは、村上ファンドが報告する株券等保有割合の分母から計算した比率(大ざっぱなもの)。10月1日に株式交換で発行済株式数が増加したほか、村上ファンドが取得した潜在株式分を加算しているので、若干右上がりの線になってます。

9月15日に「株券等保有割合」が14.89%を超えて報告義務が発生したとして26日に大量保有報告が出ているわけです。(同日に、株券1,877,000株を市場で取得、転換社債を21,623,762株分を、市場と市場外[おそらく]で取得。)
では、その前日の14日には5%を超えていなかったかというとそうではなくて、8.99%分(30,888,000株)の株式を保有しているわけです。ところが、これをいつ何株づつ取得したかは「最近60日間の取得または処分の状況」にも取引の記録はありません。
ニッポン放送のときの復習になりますが、村上ファンドさんのような投資顧問業者をはじめ、銀行、証券等は、証券取引法27条の26第1項で、3ヶ月ごとの基準日に締めて、そのときに5%を超えていたらはじめて翌月の15日までに報告しなければならないことになるわけです。
ただし、10%を超えるとこの例外は適用されないので、「5日」(ただし休日を除く。証券取引法施行令14条の5参照)以内に報告をしないといけません。(法27条の23、株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令11条、12条参照。)
つまり、村上ファンドさんは、10%ギリギリまで取得した後、60日間「機関停止」して海底に密かに沈んで沈黙、9月の3連休×2回を使って報告義務を最大に引き延ばして26日(11日も後)に報告して突如海面に浮上してきているわけですね。
報告を行った26日には図の通り、時すでに遅し、3分の1超を取得した後、ということになってます。

(「沈黙の艦隊」の海江田艦長もびっくりの「操艦」。)
ちなみに(当然というか)、15日から取得した転換社債の転換も26日から行使請求しはじめてます。
(今回、阪神百貨店の株式交換があったので、データを見る前は、株式交換を使って33%越えを達成したのかとも想像したのですが、そうではなく、それ以前から33%は超えていたようですね。百貨店の33%超を取得してないと、阪神電鉄側の持株比率が33%未満から33%超に跳ね上がることはないので、もともとちょっと難しかった・・・。)
こうも見事に連休明けに報告していることから考えると、これは偶然ではなく、この連休から逆算して15日に10%超を超えているとしか思えないですね。
教訓:上場企業の方は、大型飛び石連休にご注意。
ファンドに特例を認める必要はあるのか?
ニッポン放送のときにも思ったんですが、立法論として、こうしたファンド=投資顧問業者に特例を認める必要はあるんでしょうか?
村上ファンドさんはもちろん法令に沿って行動されてらっしゃるので、それを非難するわけではないんですが、上場企業の側からすれば「こうした株主」にこそ、できるだけ早く報告をしてもらいたいところじゃないですか。
証券会社等は、大量の株式を扱って事務が繁雑なので報告が大変でしょ?、というのが特例を付けた理由だと思いますが、たまたま小型株の5%超を取得しちゃったそこらへんのオッサンより、証券会社等のプロの方がバックオフィスの体制がしっかりしてるに決まっているわけですし、システム的にデイリーに持株比率が把握できてないなんてことはありえない。今どき、Excelでも計算できるわけですし、提出も電子的に行えるわけで。
証券会社や投資顧問業者も、素直に5%を超したら5日以内に報告するよう法改正、ということにならないんでしょうか?
(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

信託業法やら会社法やらでのビークル(vehicle)の選択肢について

47thさんの「事業信託制度の目的は?」を拝読。
日経新聞の「企業の事業信託制度を創設・政府、2007年にも」という記事、

政府は企業が一部の事業を他社に信託して運営を委ねる「事業信託」の仕組みを2007年にも設ける方針だ。企業は特定の事業のリスクを分離できるほか、不振事業を他社に預けて再建することも可能になる。医薬品や先端技術開発など多額の費用がかかりリスクを伴う事業分野の展開や、同業他社に競争力で劣る生産部門の再生に役立つとみている。

を受けて、

・・・ということなんですが、「特定の事業リスクの分離」や「不振事業の再建」は、別に株式会社を使った子会社化やJV化でも可能だと思うんですが・・・

ということで、私も第一印象としてはまったく同様の感想でありました。
ただ、従来、「資産」しか信託できなかったものを「負債」も信託できるようにするというのは自由度が大きく広がりますので、信託を使ったスキームが拡大するかも知れませんね。(棒読み。)
信託の歴史
信託をちゃんと勉強されている方々から、
「信託」は、西洋では十字軍に出征する時に財産を預けて以来の歴史がある「民間由来」の非常にフレキシビリティが高いものであったのに対し、「法人」は東インド会社など、当初「特許」として国から与えられる制度だったので、その責任は厳しく考える考え方が根付いている。コーポレートガバナンスにおいて、「会社は株主のものである」という(法人擬制説的な)考えもこうした歴史によるもの。
・・・というようなウンチクを伺うと、素直に「なるほどー」と関心してしまいますが、そう考えてみると、日本の「信託」と「法人」の位置づけは真逆というか、法人の方が「軽」くて、信託の方が「重い」ビークルになっちゃってるわけですね。
先日、某大学の商法の先生と証券化に詳しいろじゃあさんに、焼肉屋で、日本における証券化の歴史のお話を伺ってた時に、
「証券化を行う際には、権利義務を他のビークルに移してパッケージ化すればいいだけで、それに対してコーポレートガバナンス的な仕組みを付ける必要は何もなかった。(信託でも何でもよかった。)」
というような話を伺って、これも目からウロコだったのですが、実際にはTMK(特定目的会社)のような「重い」ビークルができあがってしまったとのこと。
コーポレートガバナンスだとか社外取締役とか、日本に海外の議論を持ってきても、ピンと来る人が少ないのも、「生態系の歴史」がそもそも違ったからと考えれば、妙に納得。
「オーストラリア大陸は有袋類中心に発達して、トラやオオカミが座るはずのポジションにフクロオオカミが座っていた」わけで。日本は、「コアラとかカンガルーとかが集まってマッタリと平和に暮らしていた」ところに、現在、肉食を含む「ほ乳類」がドカドカ押し寄せてきているわけであります。有袋類と違って、政府に既存のビジネスの生態系を守ろうという気持ちはまったく無いはずですので、実務としては、「コアラが犬にガブガブ食い殺された後の生態系」を想像しながら仕事をしなければならないわけですが、なかなかそれはカオス的で予測が付けづらい大変なことであります。
選択肢は多いのがいいのかどうか
今月号の「月刊監査役」でも、早稲田大学の上村達男教授が、「新会社法に見る類型論の廃棄」という刺激的なタイトルの論文で、「新会社法、やたらごちゃごちゃして、わけがわからなくなっている。いくつかの会社の類型を示してやればいいのに、やたら自由度を増やしやがって。有限会社法を廃止する必要も全くなかった。」というような趣旨のことをおっしゃってます。(手元に同誌がなくてうろ覚えで書いてますので、すみません。)
私はもともと経済学的なモノの考え方を教え込まれているので、選択肢が増えて制度間の競争原理が働くことは基本的に好きです。「ややこしい」と何かと評判の悪い会社法についても、基本的に選択肢が増えるのはいいんじゃないかと思っております。(ただ、有限会社が無くなってできなくなることがあるなど、会社法には選択肢を狭める要素もあるので、そこが気にくわないんですが。)
しかし、法人や組合や信託といった、社会の基礎中の基礎のインフラにおいて、「カオス」的状況を作り出すのは、全体の経済効率を損ねる可能性はないでしょうか。
「コアラ」レベルまでならともかく、「コアラがユーカリの葉を食ってウンチしてそれを分解する微生物や虫がいて」というところまで考えると、「コアラが犬にガブガブ食われた」後に生態系がどうなるかというのを予測するのはカオス的で難しいかも知れません。
しかし大胆に予測してみると、マクロ的に見て、あまり影響は無いかも知れないと思ってます。
例えば不動産ファンドで、「有限会社には会社更生法の適用はなかったが、新会社法で株式会社を使って会社更生法を使われると担保権の行使がぶっとんじゃうから、代わりにLLCを使おうか」てな議論が行われているのを見るにつけ、「制度がごろごろ変わるのも大変じゃのー」という気になるわけですが、そうしたディールが弁護士さん等のチェック無しで実行されるわけではないわけで、実際に採用されたスキームで、ボロボロと法的な問題が後から発覚するてなことになるとも思えません。要は、チェックする弁護士さんが大変になり、弁護士さんのフィーが(少なくとも一時的に)膨らむということではないかと思います。
かように、「選択肢の増加」は、「考えられる組み合わせの数」を圧倒的に増やすので、その「解読」のコストを一時的に上げるのは間違いないところ。一方で、一度 最適な組み合わせが判明すると、それが「デファクト・スタンダード」(みんなで渡れば怖くない)として、急速にそれに収斂されていくんじゃないかと思います。そう考えれば、結果として、中期的なマーケット全体のリーガル・コストはそれほど上昇しないはずです。
一方、こうした収斂のスピードよりも、判例などの蓄積を含めた制度変更による複雑さの上昇スピードの要因の方が継続してでかい、ということになると、リーガル・コストは上昇していくことになります。(コアラのウンチを食う虫が絶滅するというような波及効果の方がでかい場合。)
いずれにせよ、世の中で、複雑なものが複雑なまま存在し続ける現象は見たことがないので、最終的には(人間が理解しやすい)何らかのシンプルな形に落ち着いていくんじゃないかと想像されます。
上村先生のお話を経済学的に解釈すると、「そういうデファクト・スタンダードに落ち着くなら、最初から、デジュレ的にそれを類型化して示してやる方が効率的では?」ということになるかも知れません。
法律の世界では、技術革新がIT分野などに比べてそれほど無いとすると、一部の頭のいい方がデジュレ的にそういうスタンダードを示すのがいいのかも知れません。一方、世の中自体が複雑化しているので、ごく一部の人だけが立法の過程で国民のすべてのニーズを汲み取るのは無理だから、なるべく自由度を高め、選択肢を増やしておいた方がいいとも考えられます。
(でも、さすがに「会計参与」はいらない気がしますが・・・。)
私は、ダウンサイドリスク(複雑化が高まることによるリーガル・コスト増)はさほど大きくないと想定されるのに対し、アップサイドについてはいろいろ期待できるので、基本的に(はじめは意味がないように思えるし、多少ややこしくても)、自由度を高くしていく方がいいんじゃないかという期待をしております。
「同じもの」が必要か
47thさん曰く;

あとは、会社ではなく「信託」なんでということで、会計上、連結のときの取り扱いを変えることができる(リスクの高い事業や不振事業を簿価で連結から外せる?)とか、税法上の取り扱い(パス・スルー)を狙うという途はあるのかも知れませんが・・・個人的には、実質的なリスクや経済的利益の所在が同じものについて会計や税法上の取り扱いが異なる(制度間arbitrageを認める)というのは、合理性があるのか?もあるところです。

税務的(政策的)にはともかく、会計的には「実質的なリスクや経済的利益の所在が同じもの」は、同様の会計処理をすべきです。
ただ、(実際の法案も無いので何とも言えませんが)、「全く同じ」にはならず「ちょっと違うところがある」ものができあがるんじゃないでしょうか。(おなかに袋があるとか。)
何かがちょっと違えば、利用価値も出てくるかと思います。
「通常であれば有限会社(YK)が営業者になって匿名組合契約でいいと思っていたところが、海外投資家の課税の関係でTMKを使うことになった」というような事例に遭遇すると、「選択肢があってよかったね」という気持ちになるわけであります。
「信託」というのは、上述の通りあまりに日本でのインフラがない(理解しているプレイヤーも少ない)ので、結局、フィードバックがかかって、似たようなことができる法人や組合を使うスキームが発達して、信託は発達しない可能性が高いんじゃないかと個人的には思っております。・・・が、ただそれでも、選択肢は多い方がよろしいかと。
(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

財政構造改革と預金課税論(その2)

「財政構造改革と預金課税論(再び)」に、結構コメント、トラックバックいただきましたので、それに対する返信をば。
まずは「いい国作ろう!「怒りのぶろぐ」」さんの、「経済学は難しい10」から。

似た話で、isologueの磯崎氏が02年に雑誌に寄せた記事(isologue −by 磯崎哲也事務所 Tetsuya Isozaki & Associates: 財政構造改革と預金課税論(再び))で、「現金・預貯金への課税論」というマイナス金利政策を出していましたが、これはもっと前から深尾光洋慶応大教授が出していた案と同じである。ゲゼルのスタンプ紙幣とか?何とかと似たような理屈らしい。この政策実施については現実的な問題が多いとする経済学者が結構多いように思われるので、「最終兵器」的な手段なのではないかと思われる。磯崎氏は残念であろうが、実施には相当の障壁が存在すると考えた方がいいのではないか、と。

深尾教授案との違い
私の案は「預金だけ」に課税するアイデアですが、深尾先生の(講談社現代新書「日本破綻」における)案はもっと大規模なもので、国債や現金(紙幣)にも課税するので、かなり違います。
現金は捕捉が非常に難しいのでどうするかというと、おっしゃるとおり「ゲゼル紙幣」という一定期間しか有効でない紙幣を使うというアイデアです。(常識的に考えて、そんな、毎年紙幣を交換するなんてことが実務上できるわけありませんよね。)
私のは「預金だけ」に課税するわけで、もっとシンプルなお話です。
タンス預金へのシフトは起こるか?
なぜ深尾先生が現金にまで課税されようと考えられたかというと、おそらく、預金だけに課税すると、みんな現金として引き下ろしてタンス預金にして課税を回避されてしまうから、とお考えになったからではないかと思います。
ところが、実際には現金への課税というのはどうでもいいはずなんですね。
まず第一に、タンス預金というのはリスク&コストが意外に高い。タンス預金といっても実際には札束をタンスに入れるわけじゃなくて、金庫にしまわないと危なくてしょうがないわけですが、自宅に金庫を持ってたり銀行の貸金庫を借りてる人ってそんなにいないわけですし、例えば、税率(≒実質マイナス金利)0.2%として500万円をタンス預金にすれば、年間1万円課税されなくて済むわけですが、月2,000円の貸金庫を借りたら年間2.4万円かかるし、金庫も激安のもので3万円台程度から。もちろん泥棒に入られたら500万円全部がパー。
第二に、現金というのは、手元に置いておくと、つい使っちゃうモノなわけです。
1980年代前半までの消費者金融業者は、お客が20万円借りたいと言ってきても100万円無理矢理貸していたわけですが(と大手消費者金融の方がおっしゃってましたが)、20万円しか使う予定のない人でも必ず100万円全部使っちゃって、また追加で借りに来ることになったそうで。タンス預金が増加すれば、消費拡大にもつながるんじゃないかと思います。
第三に、タンス預金は金利も付かないわけです。深尾先生の案と違って国債にはこの税をかけないことにすれば、国債やMRFなど、わずかだけど金利が付く代替商品はいくらでもあるから、実際にはタンス預金を選択するのは合理的ではないわけです。
国債までマイナス金利にすると、それこそ国債大暴落ということになりかねないので、私の案ではそんな過激なことは提唱いたしませんです。
増税しないで済むのか?(「究極の選択」)
「実施には相当の障壁が存在すると考えた方がいいのではないか、と。」とのことですが、当たり前ですね。増税がうれしい人がいるわけないので。
ただ、常識的に考えれば、政府がジャブジャブ借金をして国民の代わりに投資や消費をするという構造が永遠に続くわけはないので、いつかは何らかの形で増税しなければならない。その場合に、家計の預金の量は消費のざっくり2倍程度として、同じ税額を得るのに、消費税を1%上げるのがいいか、預金に0.5%課税されるのがいいか、ということです。
預金というのは、普通の人はあまり持ってなくて、お金持ちのところに集まっているわけです。例えば年収400万円の人が預金200万円を持っているとして、400万円のうち300万円に消費税が1%よけいにかかるとしたら3万円。預金200万円に0.5%かかるとしたら1万円。相対的に庶民には優しい税じゃないかと思います。
おまけに、消費は(特に庶民は)一定量せざるを得ないものなわけですが、預金税は自分で勉強して国債を買ったり投信を買ったりすれば一切課税されないわけで、工夫の余地があるわけです。
−−−
次に、「Let’s Blow!毒吐き@てっく」さんの、「預金税? 勘弁してよ、そんなもん」より。

・・・あかん、あかんって!!
そりは富裕税への道ですだ・・・
あーたみたいな影響力のある人が、寝た子を起こしちゃダメだっての
日本の銀行へのstickiness・・・・・んなもん、ありませんってば

「あーたみたいな影響力のある人」って私σ(^-^;)のことでしょうか?ありまへんがな、そんな影響力。(笑)
「日本の銀行へのstickiness・・・・・んなもん、ありませんってば」っておっしゃいますが、なぜ(最近すっかり喉元を過ぎた感がありますが)、あれだけ銀行への信用不安がささやかれていたのに預金がどんどん流出して他の資産に移っていかなかったのか。
ペイオフ解禁で さすがにちょっと減ったようですが、それでも家計の預金だけで、まだ780兆円もあるんですよ。個人金融資産の実に54.5%が預金。単純一人あたり平均額×4として4人家族なら約2,500万円の預金があるはずですが・・・・2,500万円預金があるお宅ってあまり見かけないですよね? 100万円とか300万円程度の預金がある家庭か、数億円、数十億円預金があるお宅か、に二極分化しているんじゃないかと。Techさんは「仮に1億円の資産を持っていたら、毎年180万円の税金が取られるってことになるのよ」と心配されてるので、後者のカテゴリに属されるのではないかと思いますが。
100万円しか預金のない人は、0.2%のマイナス金利でも年間2000円。たいした影響はないわけです。
日本ではすでに資産(ストック)のかなりの部分に対して課税されている
そもそも、資産に対する課税というのは、フローに所得税をかけられた残りのストックにさらに課税をするので二重課税性が強いわけです。先日のエントリでの跡田先生にいただいたコメントも、「デフレに対する利得としてなら」ということで理論付けされてました。
ところが、日本にはすでに、この「フローにのみ課税すべきである」という理屈からするとおかしい「固定資産税」があるわけで、日本でも資産の大半にはすでに「富裕税」がかかっている状態だと認識すべきかと思います。相続税についても、同様の二重課税性があります。
私は、銀行や企業のBSを改善するためにも、資本市場を発達させるためにも、残された資産のうち、国債や投信や株式や現金には税を「かけるべきではない」というまったく逆の話をさせていただいているので、「富裕税への道ですだ」と申されましても〜・・・。
−−−
HSKI’sさんの「税の取り様はいろいろある話」より。

長い目で見るとあまりよくない気がします。たぶん「stickiness」よりは「無関心」の側面が強く出るのではないかと。

「無関心」のコスト
私は、むしろ逆に(というかおっしゃるとおりというか)、預金税というのは、「無関心」に対する税金として考えているわけです。
預金や郵便貯金にお金を預けていれば、何も考えなくても元本保証で利息がついてくる。そうすると、「その先」でそのお金がどう運用されているかについてはまったく関心が無くて済むわけです。
もし、国民が自分で金融資産の運用を考えたら、グリーンピアみたいな客が入らない宿泊施設に投資しようなんてことは考えないでしょうし、国債を自分で持てば、国の借金が今どういう状態にあるのか、明日暴落しないかどうかということにも関心が向くでしょう。
企業の株式を持てば、産業や企業の業績がどうなっているかにも目が向く。そういう個人投資家が増えれば、企業の側にもそれがプレッシャーとして伝わってコーポレートガバナンスもブラッシュアップされてくるはずです。
預金というのは、そういうことを一切考えずに、いざとなれば国が保証してくれる「何も考えなくてもいい」金融資産であり、そういう資金が大量に銀行に流れ込んでいる構造が不良債権問題を生み、それに(結局)公的資金が投入され、その解決にすさまじい時間を要した大きな原因の一つになったわけです。
現代社会では、資金が何にどう投資されているかというのは非常に重要なお話で、バブル崩壊は、そうした資金配分を一部の官僚や銀行員に押しつけていた構造のツケが回ってきたということだとも言えます。景気はなんとか上向いて来ましたが、実は、この構造は全く変わっていない。
そういう「諸悪の根源の無関心」に対して課税するというのは、非常に「いいこと」なんじゃないかと思います。
どのくらいの税率をかければシフトが起こると思います?
私も、「長期的に」ストックに対する課税であるこの税をかけるのはよくないと思いますが、ただ、この構造が解消するのにどのくらいの時間がかかるのか?
1400兆円の個人金融資産のうち、約55%が預金なわけですが、これが35%まで下がるとして20%(280兆円)の資金が預金からでていくわけですが、これが10年で達成できるとしても年間約30兆円もの資金が資本市場に流入するわけです。(回転数を考えると売買高はもっと大きくなりますから、株式市場なんか、すごいことになりそうです。)
おそらく、そんなにウマいこと構造転換は進まないんじゃないでしょうか。0.数パーセント程度のマイナス金利になっても、まったく預金は減らなかったりして。その場合には、税率をジワジワあげていけばいいわけですが、みなさんとしては、何%くらいまで上げれば預金から10年で280兆円の資金を流出させられると思いますか?0.1%?0.5%?それとも2%くらい?
私、そこに最大の興味があります。
投信なんかだと数%くらいのコストを平気で払っているので、意外に2%くらい課税しないと預金流出ははじまらないかも知れないですね。
yokin_gensho.JPG
いずれにせよ、その国民の「無関心」には多大なコストがかかるわけで、そのコストは無関心な度合いに応じて負担していただきましょう、ということです。
−−−
さて、最後に小飼弾氏の404 Blog Not Found「最後に素朴な疑問-マイナス金利下でのNPV」より。
「預金税が導入されると、実効金利はマイナスとなります。この場合、NPV(現在価値)はどのように定めるのでしょう?」
「実効金利」はマイナスではない
コーポレートDCFで現在価値を計算する際に使うのはWACC(加重平均資本コスト)ですし、NPVの計算にリスクフリーレートを使う場合にも、通常、預金でなく国債のレートが用いられることが多いと思います。
今回は、預金の金利は実質マイナスになることを想定してますが、個人であっても国債等他の運用方法が残ることを想定してますので、検討する投資対象の代替案となるリスクフリーな運用の金利がマイナスになるというわけではないです。
NPVは計算できますのでご安心を。
(実は)企業預金には課税しないことを想定
また、実はこの預金税は、企業の預金には課税しないことを想定しています。(もし仮にこの税が本当に検討されることになると「企業優遇だ!」とかいう話がどーせ出てくるでしょうけど)、理論上は企業は個人と違って資本効率を最大化するために預金量は最小にしているはずだし、実際に個人の預金量に比べればマクロの総額も小さい。また、個人より「合理的」に行動する(はず)なので、企業の預金に課税したら、どどっとまとまったお金が資金流出する可能性があるので、経済活動にもよろしくないことが想定されます。
預金から引き落とす段階で企業の預金には課税しないことにするか、または、それがテクニカルに難しいということがもしあれば、いったんは個人・法人の全預金に一律に課税しておいて、利息に対する源泉税と同じく、法人税の額から税額控除できるようにすれば実質は課税されないのと同じになります。
(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。