ITベンチャーがテレビ局を経営するということ

要 旨
和平の糸口はやはり日枝会長?。
ITベンチャーとテレビ・ラジオ局の現場って、(意外にも)相当似てる。
テレビ局は現場のperformance measurementが比較的容易なので、「経営しやすさ」の観点からも、買収の対象としては最高かも。
(以下、本文)
日枝会長歩み寄り?
夜中にフジテレビの日枝会長が「ライブドア側の話を聞く用意がある」と発言されたとのこと。今回のフジテレビ・ニッポン放送側の対応の最大の問題点の一つは、話も聞かずに「ライブドアと組むと企業価値を損なう」としてきたことであって、これだと以前申し上げたとおり、アメリカの裁判所でも、どちらが株主のためになるのか検討不十分としてライブドア側の勝ちとなるのは確実なんじゃないかと思います。
ということで、「話を聞く」というのは、ライブドア側からいろいろ事業計画などの資料を提出させるだけさせて次なる裁判の反証の材料にしようという「陰謀」か?・・・というのは考えすぎかも知れませんが。いずれにせよ、今回、ギョーカイの方々にいろいろ聞き及ぶところによると、フジサンケイグループの誰もが非常に日枝さんを恐れているご様子ですので、この方の出方次第で「和平」か「泥沼化」かも決まる、ということでしょうね。(そういう意味では、問題解決の手法は意外にシンプルかも。)
IT系企業とテレビ局・ラジオ局とのカルチャー
みなさん、IT系企業は「今風のカルチャー」で、テレビ局やラジオ局は「旧態依然とした社風」だとお考えの方も多いんじゃないかと思いますが、(経営陣はともかく)、今回、いろんなテレビ局やラジオ局におじゃましてみて、現場の雰囲気は かなり似通っているんじゃないかと。両方とも、茶パツやジーンズのおにいさんやおねいさんが多いし。(笑)
技術系のスタッフやアート系のスタッフなど、いろんな職種の人が協調して働いているのも共通の特色かと思います。
テレビ局のマネジメント
テレビ局の経営は、(良くも悪くも)「視聴率」という極めて客観的な指標によって評価できるし、されてしまうので、経営のレイヤーから現場(若い人)への権限移譲が非常に行いやすい業態なんでしょうね。
今回、いろんな方から、この業界の取締役会や局長クラスの会議の様子を聞き及ぶ機会があったのですが、会議の間は基本的に全員「凍り付いている」らしいので。(私がどちらかというと見慣れている)社長にもバシバシとツッコミが入るベンチャー企業の取締役会とはまったく異質なようです。
逆に言うと、数ある業種の中でも、テレビ局やラジオ局ほど経営陣を総とっかえして問題なくオペレーションが継続できる業種は無いかも知れません。
確かに、これは買収対象としては最高かも。少なくとも銀行を買収するよりは、かなりうまくいきそうです。
(追記:3/12,9:30)
昨日、東京地裁の決定が出たのが、ちょうどWBSの大石さんにインタビューを受け始めようとしたところだったんですが、どなたかの「決定が出たらしいぞ!」という声を受けて、我々もどどっとテレビ局各社のモニターの前にかけつけて他のスタッフの方々といっしょに各社のモニタ画面に釘付けになって見入ってました。
「フジはこう来たかー」「うちは○○だー」等、各社の扱いについてスタッフの方々の口から漏れるコメントを聞いていると、「なるほど、そういうところやそういうところを気にしてるのかー」と、大変勉強になりました。文字通り「1秒単位」で競争してるんですね。各局の方とも、番組が始まる前後の報道フロアの様子を「戦場みたいになります」とおっしゃるところも共通してます。
テレビ局は「寡占」ですので経営のレイヤーがどこまで競争の感覚をお持ちなのかはともかく、現場のレイヤーでは、競争やスピード重視の感覚は、IT系ベンチャーを含めたあらゆる業種の中でも最も強いかも知れない、と感じました。
(非常に刺激かつ参考になりました。<(_ _)>)
(ではまた。)

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新株予約権発行差し止めの仮処分決定

ライブドアの発行差し止めが認められましたねー。
これでますます双方泥沼化なんでしょうか・・・。
今、電車の中で座らないで書いてますので、取り急ぎ。
ではまた。

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衝撃の事実!フジテレビも立会外取引していた!(ってか)

要 旨
最近、立会外取引や時間外取引自体が「悪いこと」であるという論調が見受けられるので、ちょっと。立会外取引というのは、それ自体、別に悪いことではありませんので、念のため。
(以下、本文)
以前のエントリを見た方や、雑誌の記事などで、(大胆に要約すると)、
「ニッポン放送は、ライブドアが時間外取引したのは違法だと主張しているのに、自分も銀行からニッポン放送株を取得するときに立会外取引で取得してるじゃん!」
というような趣旨のことを書かれてらっしゃるケースをいくつか拝見しました。
確かに、遡って2004年9月11日の日経新聞朝刊9面を見ると、フジテレビが12.4%の株主に躍り出たときに、立会外取引を利用したことが報道されてます。

フジテレビ、ニッポン放送株買い増し——12.4%保有第2位に、グループ基盤強化。
 フジテレビジョンは十日、自社の筆頭株主であるニッポン放送の株式四百五万株を取得したと発表した。ニッポン放送の発行済み株式数の一二・四%に相当し、村上世彰氏が出資する投資会社の一六・六%に次ぐ第二位の株主となる。フジテレビはニッポン放送への出資比率を高めて発言力を強め、グループ経営基盤の強化を狙う。
 フジテレビは同日の立ち会い外取引でみずほコーポレート銀行など国内銀行五行からニッポン放株を取得。二百億円強の取得代金は手元資金でまかなった。これにより持ち株比率は〇・〇三%から一二・四%(議決権の比率は一三・六%)へと大幅に上昇した。
 ニッポン放送はフジテレビの筆頭株主。春先にフジテレビ株の一部を売却するなどした結果、出資比率は三二・三%から二二・五%に低下した。商法上の規定により、ニッポン放送の出資比率が二五%以下に低下したことで、フジテレビはニッポン放送に対して議決権を行使できるようになったため、資本関係の強化に踏み切った。

ちなみに、フジテレビのプレスリリースでは、取得の方法については述べられてません。
ニッポン放送株式の取得に関するお知らせ
http://www.c-direct.ne.jp/japanese/uj/pdf/10104676/00026124.pdf
このフジテレビの取引ですが、これって違法性があるんでしょうか?
ライブドアのケースとの違い
そのケースがライブドアのケースと違うのは、
・取得が12.1%であり3分の1を超過していないこと
・(おそらく)発行会社であるニッポン放送に事前の通知が行われて取得したものであること
あたりかと思います。(2番目はあんまり(コントロールプレミアム等)理論的には意味が無いのかも知れませんが、実務的には、「経営陣がびっくりするかどうか」wというのは重要な要素じゃないかと。)
証券取引法第27条の2、証券取引法施行令第7条第4項では、

証券取引法第二十七条の二
その株券(中略)について有価証券報告書を提出しなければならない発行者の株券等につき、当該発行者以外の者による取引所有価証券市場外における買付け等(中略)は、公開買付けによらなければならない。ただし、次に掲げる株券等の買付け等については、この限りでない。(中略)
四 著しく少数の者から株券等の買付け等を行うものとして政令で定める場合における株券等の買付け等(当該株券等の買付け等を行う者及びその特別関係者の株券等所有割合の合計が三分の一を超えない場合に限る。)

証券取引法施行令第七条�
法第二十七条の二第一項第四号に規定する政令で定める場合は、株券等の買付け等を行う相手方の人数と、当該買付け等を行う日前六十日間に、取引所有価証券市場外において行つた当該株券等の発行者の発行する株券等の買付け等(公開買付け(同項本文に規定する公開買付けをいう。以下この節において同じ。)による買付け等並びに同項第一号及び第二号並びに次項第七号から第十号までに掲げる買付け等を除く。)の相手方(内閣府令で定めるものを除く。)の人数との合計が十名以下である場合とする。

となってますので、10名以下からで、かつ、3分の1以下の市場外での株式の取得は公開買付によらなくていいことになってます。
ですから、フジテレビの昨年9月の12%ちょいの取得は、市場外でやったとしても違法じゃないものを市場内でやっただけで、ライブドアが35%取得した(市場外でやったら違法なことを、「市場内」という解釈でやっている)のとは異なると思うんですが、いかがでしょうか。
この「3分の1規制」自体が、そもそも意味があるものなのかどうかについての格調高いお話は、47thさんのこちらのエントリーをご参照ください。
同エントリーで引用されている「ディスクロージャー・ワーキング・グループ」報告(平成15年12月9日)
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/siryou/kinyu/dai1/f-20031224_sir/03a.pdf
(P23以下参照)
(取り急ぎ。)

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ニッポン放送とイラクの地上戦

アホルダーさんからコメントいただきました。

あいかわらず磯崎さんは、ライブドアが負けるって前提で物事を考えてらっしゃるんですね!(中略)
ライブドア側が51%超の取得に成功した場合のシナリオについては一切言及されてないのは、もはや意図的としか思えません。

だって、ライブドアさんが51%超取得した時(かつ新株予約権の発行が差し止められた時)に予想される、フジサンケイグループさん側のクラウンジュエルだ従業員移籍だ、ってなドロドロした血みどろの反撃や、それに対してライブドアさん側が訴訟で対抗するってなシナリオの話を考えても気が滅入るだけじゃないですか?
ニッポン放送が新株や新株予約権を発行して対抗することも、「想定の範囲内」ではあったわけですが、「あまりにもトリッキーなやり方」だったわけで、そのシナリオを事前に想定してここで検討しても(あまり現実味がなくて)みなさん興味なかったんじゃないかと思いましたし、実際、事前には取り上げませんでした。
切込隊長氏は前回いただいたトラックバックこちらでは、「放射能で汚染されちゃった土地」等と表現されてますが、別のたとえでまいりますと、
今までは、数百キロ離れたインド洋上からトマホークをイラクに打ち込んだり、ステルス機でピンポイント爆撃していた「クリーンな戦争」だったわけですが、51%超取得した場合にやるとされていることは、「イラクに地上軍を派遣する」てなことなわけです。
イラクの人民がみんなアメリカの旗を焼いて盛り上がってる中、地上軍が「正義のためにやってきました。我々はフセインを打倒したみなさんの解放者です。」って乗り込んでいっても、(確かにそういう面もあるとは思いますが)、予想されるのは徹底的な抗戦と自爆テロによる流血の惨事の連続なわけで、それは、どう考えても双方にとって得策でないじゃないですか。「アメリカが負けると思ってるのか?」とか「おまえはフセインの味方か!」と言われてもそうではないわけですけど。
ましてや、超大国ならまだしも、今 地上軍を送り込もうとしているのは、(優秀な司令官には率いられているかも知れませんが、良くも悪くも)「ゲリラ」なわけでして。泥沼化するイラクに大量のリソースを張り付けて膠着状態になるよりは、ここはとっとと撤退して、また、あちこちでもっと小さな(千億円規模でなく百億円とかの規模の)火柱をドンドコ打ち上げる方が、適切な戦略なんじゃないかと思います。
「ジパング」
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じゃないですけど、もし太平洋戦争時代にタイムスリップしたら、日本のためにも、戦況がまだ悪くならないイケイケのうちにアメリカと早期講和に持ち込むことをオススメしませんか?(出来るなら、ですが。戦勝ムードに国中が酔ってる中で、そんなことを提言するのは極めて難しいわけです。)
というか、このブログは、そうした戦略の善し悪しを論評するブログというよりは、個々の戦術やら航空機のスペックやら最新軍事技術等について客観的に考える「兵器・軍事技術ヲタク系」(笑)的なブログなわけでして、あまり客観的にコメントできないこととか、「もし車にダイナマイトを積んだやつが自爆テロで突入してきたらどうするか」といったローテクな話は、ちょっと遠慮させていただいております。悪しからず。
よろしくお願いいたします。<(_ _)>

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ライブドアの今後の展開と3月末決算

昨日のエントリーに隊長氏からトラックバックいただきました。
そうですか。さすがというか、大変ですねー。がんばってください。(にっこり)
さて、ライブドアさんは9月末決算ですので、3月末は中間期末になります。
今、マスコミさんも「誰が何%取ると株主総会で○○できる権利があり」みたいな法務っぽい分析が中心ですし、本ブログでもそんなんばっかりやってきたわけですが、たまには財務的な検討もしてみたいと思います。
ライブドアの現在の取得総額と平均単価は?
まず、平成17年2月8日に発表された、ライブドア本体が普通取引で行っていた買い集めが1,756,760株(発行済株式総数の5.4%)で、これはおそらく、直前のTOB価格5,950円近辺で購入されているはず。(一部はかなり以前から保有していたので、ホントはもうちょっと安いと思いますが。)
一方、時間外取引によって、株式会社ライブドア・パートナーズが購入した9,720,270株(同29.6%)は、6,050円+αで購入されているはず。(合計同35%)
その後10%を市場で買い増していって現在45%超と報道されているわけですが、株価推移からすると、その追加分の平均取得単価は7,000円くらいでしょうか。
image001.gif
そうすると、後掲の表のように、現在の取得平均単価は6,200円程度になってるはずです。
現在、もう850億円以上買ってることになるんですね。
大手企業や機関投資家等の動向
さて、TOBも終わって上場廃止の可能性も高まってきたわけですので、当然、株価は下がっていく可能性がありますが、ライブドアさんは継続して買っていくことを表明してます。一方、トヨタさんや機関投資家などの一部は、株価が高止まりしていることを受けてTOBには応募しなかったわけですが、もし上場廃止の可能性が高くなり、株価が5,950円を切ってくるようだと、逆に立場上売らざるを得ないかと。
フジテレビさんも、現在は「市場では買いません」と言ってますが、株価5,950円以下で購入するのであれば、TOBに応じてくれた株主さんへの義理も立ちますので、買ってくる可能性はあるかと思います。(ただし、「市場では買いません」とおっしゃってるので、市場外で買うんでしょうね。)
もちろん、ライブドアさんが「5,950円でいいから買ってくれ」と言えば、フジテレビさんも断る理由はないんじゃないかと思うわけですが。
会計上の処理と評価損
会計上は、上場株式は時価評価して評価差額を資本の部に計上しますが、子会社または関係会社株式は取得原価をもって貸借対照表評価額になります。また、3月末でライブドアさんの持株比率が50%を越せば連結、越さないと今回の場合、(役員も送り込んでいないので支配力基準で考えても)連結ではなく持分法適用。つまり、ライブドアさんが主張している「長期に保有する」という立場を取れば、原則として評価損は表面化しないかと思います。
ただし、仮処分が認められずフジテレビさんが3月末までに大量に新株予約権を行使してくれば、関連会社株式でもない「その他有価証券」となり、評価損がドーンと資本の部に計上される可能性もあります。
ライブドアさんは、昨年の中間の決算短信は5月20日に、半期報告書は6月30日に提出されてます。3月末までは子会社または関連会社に該当したが、5月から6月にかけて、ライブドアがニッポン放送株を手放す動きがあった場合またはフジテレビが新株予約権を大量に行使してきた場合、監査法人さんとしては、子会社または関連会社として評価損を計上しないようにするのか、評価損を計上するのかを、どう判断されるんでしょうか。
5月20日(未監査)には関係会社(または子会社)として評価損を計上していなかったのに、6月30日の半期報告書(または次の四半期報告書)では大量の評価損が計上されたりしたら、それはちょっとまずいですよね。
ちなみに、この新株予約権は”MS”(行使価格修正条項付)予約権ですので、4月1日以降は、価格が下落すればその分安く新株を購入できるわけです。フジテレビさんが、3月末までにはライブドアさんが50%を超えない程度に新株予約権を行使するにとどめ、公開廃止をにらんで株価が下がる中、6月末に向けた決算作業の最中に大量の新株を発行してきた場合、ライブドアさんの経理部門は連結にするのか評価損出すのか、上を下への大騒ぎになったりしたら、他人事ながら かわいそうですね。
ライブドアの評価損の想定
以下、(従業員も総反対している状況では、提携もあったもんではなく長期保有は難しいという仮定のもとで)、会計はおいといて実質的な評価損のお話。
仮に、前述の想定の通りの単価で購入してきているとすると、株価がTOB価格の5,950円まで下がってきた場合には、ライブドアさんの評価損は35億円弱。
ただし、上場廃止になるのにTOBがかかる前の価格水準(5,000円程度)までしか下がらないというのも理論上はヘンですよね。仮に5,000円とすると、評価損は166億円
堀江社長は「想定内」かも知れませんが、株主はちょっとびっくりする数字ですよね。
image003.gif
(黄色部分は仮定または予想値。)
(追記9:08、浮動株の量にもよりますね。浮動株がほとんどもう残っておらず、ある程度大口のものは市場外で取引され、市場に出ているものは残らずライブドアさんがすくっていくのであれば、価格はあまり下がらないような気もします。また、3月末で、価格操作があったのなかったのというケンカになるんでしょうか。)
(追記3/11,1:27、ライブドア45%超というのは議決権ベースの数字でしたので、取得株式数ベースに図と本文を修正しました。)
もちろん、フジテレビさん側にも評価損は発生しうるわけですが、フジテレビの昨年9月末の連結純資産は5,056億円。ライブドアの昨年9月末連結純資産が536億円であることや、平均取得単価がフジテレビさんの方が低いことから考えれば、当然、ライブドアさんが食らうインパクトの方がはるかにでかい。(もちろんCBが今時点でどこまで転換されているかにもよりますが・・・ほとんど転換されていたら、それはそれで怖い。)
切込隊長さんは「あるいは。」とおっしゃりつつも、泥沼化を危惧されてらっしゃるようですが、仮にニッポン放送がライブドアの連結や持分法の対象とならず、大量の評価損が計上されるようなことになった場合、ライブドアさんとしては持ちこたえるのはかなり厳しそうかと。
そういった状況で、フジテレビさんが「5,950円で買います」と持ちかけて、ライブドアさんがこれを蹴り、後に160億円もの損を(仮に)出したりしたら、「想定内です」「株主のためにやってます」という説明がしきれるのかなあ。130億円くらい損失を回避できるチャンスがあったのに回避しなかったとなると、代表訴訟のリスクも高まると思いますし。
35億円程度の損であれば、今回のこれだけの話題性を考えれば、いつも通り「広告費として十分ペイしました」「当社が資本市場に投げかけた意味は大きかったと思います」みたいなノリで切り抜けられるかも知れませんが、160億円もの損となってくると、どうなんでしょうか。
(ではまた。)

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鹿内家はニッポン放送株を取り戻せるのか?

んー、無理なんじゃないですかねえ・・・。
以下の問題については、まさに有価証券法等の法律をちゃんと勉強している方の領域であって、判例も山ほどあるんじゃないかと思いますので、私なんぞがコメントするとボロが出るんじゃないかと思いますが、ちょっと考えをまとめて見ましたので、変なところがあればどなたかツッコんでいただければ幸いです。
株券の善意取得
株券は、

商法第二百五条�
 株券ノ占有者ハ之ヲ適法ノ所持人ト推定ス

ということで、持ってる人=占有者(今回の場合大和証券SMBC)をちゃんとした持ち主だと思っていいよ、ということになっており、

商法第二百二十九条
 小切手法第二十一条ノ規定ハ株券ニ之ヲ準用ス

小切手法第二十一条  事由ノ何タルヲ問ハズ小切手ノ占有ヲ失ヒタル者アル場合ニ於テ其ノ小切手ヲ取得シタル所持人ハ小切手ガ持参人払式ノモノナルトキ又ハ裏書シ得ベキモノニシテ其ノ所持人ガ第十九条ノ規定ニ依リ権利ヲ証明スルトキハ之ヲ返還スル義務ヲ負フコトナシ但シ悪意又ハ重大ナル過失ニ因リ之ヲ取得シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ

同第十九条  裏書シ得ベキ小切手ノ占有者ガ裏書ノ連続ニ依リ其ノ権利ヲ証明スルトキハ之ヲ適法ノ所持人ト看做ス最後ノ裏書ガ白地式ナル場合ト雖モ亦同ジ抹消シタル裏書ハ此ノ関係ニ於テハ之ヲ記載セザルモノト看做ス白地式裏書ニ次デ他ノ裏書アルトキハ其ノ裏書ヲ為シタル者ハ白地式裏書ニ因リテ小切手ヲ取得シタルモノト看做ス

と、「善意取得」が認められます。
つまり、今回の場合、大和証券SMBCからフジテレビに、
「鹿内家からこんな要求が来てますが、当社は弁護士にも相談してこれこれのスキームで取得しており、適法な取得と考えております」
てな説明が行われていた場合、フジテレビさんに「悪意又ハ重大ナル過失」があったと立証するのはかなり難しいんじゃないですかと思うんですが、どうでしょうか。
裏書はどうなってる?
株券の裏書制度は、かなり前の商法ですでに廃止されているようなので、裏書の連続性等は法律上の意味は無いのではないかと思いますが、(にも関わらず株券には必ず裏書欄がありますが)、念のため、今回の場合、どうなっているのかちょっと考えてみますと・・・
今回、(おそらく、鹿内家から大和証券SMBCに実質的に株式が譲渡されたことを伏せるため?、またはその他の何らかの理由によって)、信託受益権をかませた(極めて不自然な形式による)譲渡が行われています。
このような方法を採った理由として考えられるのは、やはり株券の所有者が変わったよということを大量保有報告書や株主名簿等で開示したくなかったということでしょうから、そうだとすると、名義は、
鹿内家→信託銀行→大和証券SMBC
ではなく、
鹿内家→大和証券SMBC
に「直に」変わってるんじゃないかと思いますし、裏書も同様になっているんじゃないでしょうか。
(いずれにせよ、それがどう影響するという話ではないと思いますが。)
スキームのおさらい(概要)
以前のエントリーでも触れましたが、今回の譲渡がどのような条件で行われたのかを考えてみましょう。
鹿内氏は、まず昨年5月に株券を信託し、日経新聞さんの報道等によるとそれとほぼ同時に信託受益権が大和証券SMBCに譲渡されたということのようです。つまり、
image002.gif
という感じで直接鹿内家がニッポン放送株を保有していたものを、
image004.gif
といった感じで信託設定し、
image006.gif
と、この信託受益権を鹿内家から大和さんに譲渡して、
image008.gif
と、この信託を解除して、大和証券SMBCさんが(生の)ニッポン放送株式を1月4日に手に入れた、ということだったのではないかと思います。
このため、今回のスキームについては、
・いつ信託受益権が譲渡されたのか
・議決権は誰が行使できることになっていたのか?
・信託受益権は誰が解除できることになっていたのか?
・いくらで(いつ時点の株価で)対価が計算されることになっていたのか?
などが疑問点として上がってくると思います。
いつ信託受益権が譲渡されたのか?
これは、報道されているとおり、昨年の5月ごろに譲渡されたんでしょうね。
鹿内家がコストをかけて信託設定して、そのまま信託受益権を保有している意味がないと思いますので。
議決権は誰が行使できることになっていたのか?
もし、信託受益者である大和証券SMBCが議決権も行使できる契約になっていたとすると、鹿内氏は、昨年信託受益権が譲渡された時点で、持株が減った旨を大量保有報告書で開示しないといけなかったんじゃないでしょうか。(未確認)
ということは、前述の図のように、(経済的な)受益権は大和証券に譲渡するが、議決権は鹿内氏に残しておいたんじゃないでしょうか?
信託は誰が解除できることになっていたのか?
ここがポイントの一つじゃないかと思います。
仮に、受益者である大和証券SMBCさんが単独で信託受益権を解除できるとすると、TOBが具体化してきたのは今年に入ってからでしょうから、去年の中頃に信託受益権を譲渡しておいて、それを解除した日付がTOB開始と近かったからといって、それを「インサイダー取引だ」というのはちょっと無理があるんじゃないかと思います。
逆に、大和証券SMBCと鹿内さんとの譲渡契約の中で、「信託の解除については、双方が合意した時に行う」というような条項が定められていた場合、(大和さんがインサイダー取引になるかどうかはともかく)、「TOBがもうすぐ始まることを知らせずに、信託契約の解除に同意させられたのはズルい」と鹿内さんが思っても無理はないかなあという気もします。
いつ時点の株価で対価が計算されることになっていたのか?
前項とも関連しますが、いつ時点の株価で信託受益権譲渡の対価が計算されることになっていたのか?というのは重要なポイントじゃないかと思います。
昨年の5月に、その時点での株価で譲渡することにしましょう、ということで話が付いていたのであれば、今さら「TOBの価格の方が高かったじゃないか!」というのも、おかしな話ではないかと思いますが、
もし、「両者で合意した信託受益権の解除の日の株価で対価を支払いましょう」または「解除した日の株価で昨年払った分の差額を精算しましょう」というような取り決めになっていたとしたら、1月4日の株価で精算するのかTOBが始まってから最終的な精算を行うのかでは、約2割(数十億円)も鹿内家が受け取る金額が変わってくるわけですから、鹿内氏が怒るのも無理はないかも知れないですね。
(インサイダー取引に該当するかどうかは別として。)
鹿内氏が出した差し止めの申請が東京地裁に数日で却下されているところを見ると、譲渡が適正に行われていないという根拠は非常に乏しかったんじゃないかとも(しろうとながら)想像いたします。もしそうだとすると、株券がフジテレビさん側にわたってしまえば、それを取り返すとか、それでライブドア+鹿内家軍団でいっしょになって議決権を行使しようというのはかなり難しいかと。
一方で、大和さんがTOBの価格と鹿内家に渡した価格の差額について損害賠償義務を負うかどうかというのは、信託受益権の譲渡契約書の書きっぷりにもよるんじゃないかと思いますが、どうでしょうか。
鹿内家は何がしたいのか?
ただ、TOBとの価格差が不満なのであれば、TOBが始まったときに、「おい、ちょっと待てよ」言えばよかったような気がします。なぜ、TOB終了の前日になって、株式の返還を要求してきたのかというと、やはり堀江社長のおっしゃる「怨念」のせいで、TOBの成立をちょっとカクランしようということだったのでしょうか。それとも、東京地裁に蹴られたので、戦術を変更する準備をしてたら、たまたまギリギリのこの日になっちゃったということでしょうか。
(なぞはいろいろ残りますが、本日はこれにて。)
(追記)
大和証券さんのプレスリリースが出ました。(kantさん、なみたけさん、ありがとうございます。)
株式会社ニッポン放送株式取得の経緯について 3/08/05 大和証券SMBC
http://www.daiwa.jp/press/050308-a.cfm
おっしゃってることはだいたい、上記の図解のとおりではないかと思います。

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ニッポンの社外取締役

47thさんが、社外取締役の実証研究や理論的モデルについて紹介されてます。
それによると

社外取締役について積極的に導入し、それに対する多くの研究もあるアメリカですら、「社外取締役の存在が企業のガバナンスを向上させる」という命題は、実証的研究という意味では、自明とは言い難い、ということです。

と、されつつも、

ただ、実証研究でサポートされていないということや、理論的モデルにおいて問題を抱えているということだけで、全てが語り尽くされていると考えることも、また早計です。
実際、実務で触れていると、「社外の人が入るとなると、説明資料なども丁寧に作らなければいけないし、そこで気づいていなかったことに気づくこともある」「社外の人たちの顔に泥を塗ってはいけないと思うと、判断が慎重になる」「社内の人間では取り上げにくいことが話題に上るようになった」といったような、非常に主観的・感覚的なものですが、社外取締役制度の導入に対するポジティブな評価を聞くことが多いように思います。

とのことです。
実際、理論的(?)に考えてみても、純粋に取締役会が会社を監督してきた(取締役に対する訴訟も多い)米国と、戦後、監査役制度と取締役会によるミックス型のガバナンスをとってきた日本とでは、社外取締役の意味はまったく違うんじゃないでしょうか。
ボケもツッコミも両方こなします(ツッコまないと外部からツッコまれる)というアメリカの取締役会に対し、日本で取締役会=ボケてばっかり、監査役(会)=ツッコミ担当(だがツッコむことは皆無に近い)という中に外部の風が吹き込むのとでは、まったく意味合いが違うように思えます。
委員会等設置会社(要社外取締役)に移行した会社の方々のアンケートでも、「やらない方がよかった」という会社は皆無に近くて、かなり「やってよかった」という感触が多いようです。47thさんおっしゃるように、やはり「内輪の論理だけで完結できなくなった」ということが大きいようですね。
(追記)
・・・と思ったら、本日の日経一面にソニーの経営陣刷新の話が。

社外役員 変革促す時代に(9面)
中谷巌UFJ総研理事長、小林陽太郎富士ゼロックス会長、カルロス・ゴーン日産自動車社長、宮内義彦オリックス会長ら有力メンバーをそろえ、「内輪の論理」は通用しない。

とあります。
要は、単に制度上「社外」の要件を満たすかどうかじゃなくて、「どこまで執行メンバーにツッコメるか」、がポイントでしょう。統計処理するなると、単に制度上の社外の要件を満たすかどうかで、カルロス・ゴーンも社長の昔からの友達も同列に処理されてしまうでしょうから、どこまで「強力な」メンバーなのかは考慮されないのでは。
補足トリビア:
新会社法で、「委員会等設置会社」は「等」が取れて、「委員会設置会社」という名称になる方向らしいですね。取れると聞いて初めて「そういえば”等”って何だったんだろう?」って方が99.9999%だと思いますが。
(ではまた。)

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鹿内家がニッポン放送株の返還を要求

Edge of the Round Tableさんにトラックバックで教えていただきましたが、以前のisologueでも取り上げた、鹿内家から大和証券SMBCへのニッポン放送株(の信託受益権)の譲渡ですが、鹿内家から大和証券SMBCへ、同株式を返還しろと要求があったようです。
(Edge of the Round Tableさん、ありがとうございました。)
NHK「ニッポン放送株の返還を要求」
http://www3.nhk.or.jp/news/2005/03/06/d20050306000010.html

関係者によりますと、鹿内氏らは、この信託受益権の買い取りにあたって、大和証券SMBCは、フジテレビが公開買い付けを行うことを知りながら告げなかったほか、投資家への情報開示も不適切だったなど法律に違反している疑いもあるとしています。このため鹿内氏らは、違法行為があった場合には、契約の解除ができるという規定に基づき、大和証券SMBCに売却した株式の返還を求めているほか、フジテレビに対しても、大和証券SMBCから株式の買い取りを行わないよう求めています。また大和証券SMBCが公開買い付けに応じた場合には、フジテレビに対しても株式の返還を請求するなど法的措置も辞さないとしています。フジテレビは、7日までに目標としていたニッポン放送株の25%を超える取得がほぼ確実になっていますが、この中には、大和証券SMBCの8%分も含まれているため、今回の問題の展開によっては、フジテレビの株の取得にも影響が出そうです。ニッポン放送株を巡るこうした一連の問題について、大和証券SMBCは、いっさい違法性は無いとしています。

いやー、すごいことになってきましたねー。
売買契約書の中身がわからないので何とも言えませんが、ほんとに昨年の前半に信託受益権の売買が行われていたんだったら、フジテレビがTOBするかどうかは、さすがにまだ明確には定まってなかったでしょうから、説明義務やインサイダーの観点で大和さんに違法性があったと立証するのは難しそうな気もしますが、
一方で、1月4日に信託を解除して、株式が大和さんにわたるまでは大量保有報告書が提出されなかったということは、議決権は鹿内家が保有していたということでしょうから、大和さんが一方的に信託を解除できる条件だったのか、鹿内家側の合意も無いと信託を解除できない取り決めだったのかで、何か変わってくる部分があるでしょうか?
いずれにせよ、このスキーム、譲渡の方法としては極めてヤヤコシイことをしているわけで(税務上の都合か優雅なリタイアメント生活なのかわかりませんが、ロンドンにも移住されてますし)、こういうスキームを採ることについての鹿内家側のメリットが、今ひとつよくわからなかったんですよね。
誰かが何を隠したかったのか?
なぜ、フジテレビでなく大和証券SMBCに売却したのか?
売買金額は、いつの時点の株価で、いつ支払われる契約だったのか?
大和さんが1月4日に取得して1月7日にニッポン放送株取得を発表したのもナゾ。
証券会社なので、その時点での報告義務は無いような気がしますし、TOBが見えてきていた時期でしょうから、影響を最小化するには、もっと後に発表したほうがよかったんじゃないかと思いますが。
何か、当初想定していた予定外のできごとがあったのかも知れませんね。
(取り急ぎ。)

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サッカーと社外取締役(その2)

「観察の観察の観察」さんから、前回のエントリー「サッカーと社外取締役」で、社外取締役をサッカーの審判に例えた点について、またトラックバックいただきました。
週末なのに、お騒がせしてすみません。

うーん、このたとえはちょっとムリがあります(^ ^;)
「社外取締役」は「審判」ではないです。
だって基本的にはどちらか一社の利益のために働くわけですから。

例えば、監査法人も、その会社から報酬をもらってその会社のために会計監査をするわけですが、「その会社のため」というのは、「その経営陣や従業員のため」ではなく、「その会社の株主のため」なわけです。
(社外)取締役は監査するだけ(ツッコミ専門)でなく取締役会で決議もする(ノリツッコミ(?)もやる)ため、ちょっとわかりにくくなりますが、基本的には「経営陣や従業員のため」に働いているわけではなく、「株主のため」に働くので同じことじゃないかと思います。
(HPの例を引くまでもなく社長をもパフォーマンスが上がらないと判断したらクビにしたりもする、文字通り「監督」でもあるわけですから、そういう意味では、草サッカーで監督が審判も兼務している姿に近い面もありますが・・・まあ、たとえ話で限界がありますのでご勘弁を。
<(_ _)>)
今の日本の現状を考えて、「社長と懇意にしてる怪しげなコンサルタントのおっさん」みたいな人を想像してしまうと、「そんな人が審判のわけないじゃん」という気がしてしまうと思いますが、純粋に株主のために活動する理想的なエージェントを想像していただけるとありがたいです。
「フォレストヒルズ」さんにもコメントいただきましたが、そうなるためには、もうちょっと取締役が訴えられるかもという緊迫感がないとダメかも知れませんね。それも、今回のライブドアの件や、UFJ vs 三井住友戦などで、ずいぶん意識は変わってきたんじゃないかと信じたいですが・・・。

市場における審判は司法や公正取引委員会や金融庁や、、と専門家でないのでこのくらいしか出てきませんが中立な立場で監視する機関がありますので、上記のようなまったく審判がいない状態ではないでしょう。

司法や金融庁は、法令に沿っているかどうか(適法性)を判断するには向いてますけど、そもそもは「どっちが株主にとって得か」を判断する役目の方々ではないと思うわけです。
今回の話を含め、もし純粋な法律解釈だけで決着が付くような話であれば、それは裁判所も判断しやすいと思いますが、(今回の場合についても、ちゃんとニッポン放送側の弁護士さんも頭をしぼってスキームを考えたんでしょうから、そんな単純な話のわけないわけで)、ちゃんと株主の立場に立って判断したかというような意思決定の「プロセス」まで深く検討しないと判断が付かないようなときに、(上記のような理想的な意味での)社外取締役というのは、一つの判断の要素になってきうるとは思います。
(ではまた。)

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サッカーと社外取締役

「観察の観察の観察」さんにトラックバックいただきました。(その1その2

「社外取締役が重要」という論旨は賛成なのですが、

ニッポン放送が勝つにしても負けるにしても、レブロンの判決のように、「社外取締役の検討が十分でなかったから”×”」というように、社外取締役の役割に言及してほしいなあ、ということです。
もちろん、社外取締役が今回の仮処分の結論導出の中心的要素になるということは、まだちょっと無理っぽいですが、以前も申し上げたとおり、そういう「ニュアンス」がちょろっとでも入っていれば、日本の資本市場にはプラスになるんじゃないかなあ、ということです。

というのは
ナシ
でしょう。
社外取締役が常識の社会ならともかく、それじゃあタダの「後出しじゃんけん」です。

とのこと。
私の説明不足で「社外取締役の数が多い方が勝ち」というように取られてしまったのかとも思いますが、そうではなくて、ニッポン放送の買収対抗策に対して仮処分するかどうかを裁判所が検討する際に、ニッポン放送の対抗策が「脅威」に対抗する合理性のあるものであったのか経営陣の保身に過ぎないのかを判断するには、一つには社外取締役の位置づけが重要だろう、そこを今回裁判所はどう判断するのか知らん?ということを言いたかったわけです。

なるほど、ニッポン放送の決定についてのみ、社外取締役のチェックが効いていたかどうかを問題にするということでしょうか。それならばフェアな判断基準の一つとしてもいいのかもしれません。
(中略)
逆に社外取締役のチェックを「アリバイ」にされるという逆作用も考えられます。社外からきたといっても、日本人はすぐに取り込まれますから。

そのリスクはありますね。
ただ、今後のM&Aが頻発する社会では、誰かが、その敵対的買収が株主にとって「いい」買収なのか「悪い」買収なのかを判断しないといけない。経営の内情を詳しくわからない裁判官が全部それを処理するわけにはいかない。
とすると、やはり社外取締役を拡充する方向しか無いんじゃないかと考えるんですが、どうでしょうか?
ゴルフや草サッカーからプロのサッカーへ
「観察の観察の観察」さんは、スポーツがご専門とお見受けしましたので、スポーツに例えさせていただきますと、
例えば、サッカーで「今のはファールだ」「いや、たまたまパスをカットしようとして足を出したら、そっちがつまずいただけだ」というようなトラブルが発生した場合、もしその場に審判がいなくて紛糾し、いちいち試合が中断して「スポーツ紛争調停所」みたいなところに駆け込んで、「こうだったんですけど、どっちが悪いっすか」みたいなことを聞きに行くというのは、聞かれた方も困ると思うんですよね。
今までの日本の社会は、ゴルフのように審判がいなくてもかなりうまくいく「紳士のスポーツ」のノリだったわけです。いまだに、紳士に囲まれて仕事をしている企業さんは「外部の審判」の必要性はピンと来てないでしょう。しかし、今後、M&Aや株主代表訴訟が頻発して、体が激しくぶつかるサッカーのような様相に変わっていった場合、「その場」に審判がいないと絶対うまくいかないと思うわけです。
もちろん、サッカーと同じく、「あの審判、ぜってーあっちに有利な判定ばっかしてるぜ」てなことは(人間がやることですから)起こりうるわけですが、少なくともグラウンドに審判がいないよりはましかと。
しかも、上場会社は「草サッカー」じゃなくて「プロ」なわけですから、控えの選手に「じゃ、君、主審やっといて」てなノリで内輪のだれかが審判をやるのではなく、「ちゃんとした審判」を「よそから」連れて来た方がいいんじゃないかと思うわけです。
「これからのプロのサッカーの試合には、どちらかのチームに肩入れしないプロの審判が必要だよ、」
「まずはそういう独立性の高い審判がジャッジして、それでも問題がある場合にはこっちに来てちょうだい、」
「当方はちゃんとした審判がちゃんとよく見てジャッジした結果は尊重しますよ。だけど、どっちかに肩入れしてる審判だったり、いいかげんな審判だったら、こっちが判断しますよ」
というような方向性が見える判断を裁判所が出したらかっこいいのになあ、と思った次第です。
(ではでは。)

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