Yomiuri Online連載第17回目 Ginzamarkets社にY Combinatorのことを聞いてきた

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Yomiuri Onlineに連載させていただいている「磯崎哲也の『起業案内』」第17回目が掲載されました。

http://www.yomiuri.co.jp/job/entrepreneurship/isozaki/20111101-OYT8T00859.htm (現在はリンク無し)

今回は「Ginzamarkets社にY Combinatorのことを聞いてきた 」。

「GinzaMetrics」というSEO(検索エンジン最適化)のための分析サービス(SaaS)を運営しているGinzamarkets社は、アメリカの有名なインキュベーター(ベンチャーの育成会社)である「Y Combinator」社から、2010年に投資を受けているので、その応募からインキュベーションまでを聞いてきました

【写真】Ginzamarkets社CEO・共同創業者のRay Grieselhuber氏と日本のカントリーマネージャーの清水 昌浩氏

こんにちは、磯崎哲也です。

先日、Ginzamarkets社の共同創業者でCEO のRay Grieselhuber氏と日本のカントリーマネージャーの清水 昌浩氏に、お会いする機会がありました。

Ginzamarkets社は「GinzaMetrics」というSEO(検索エンジン最適化)のための分析サービス(SaaS)を運営している会社です。
(注:「SaaS」は、Software as a Service=ソフトウエアをモノとして販売するのではなく、ネットワークを通じて顧客にサービスとして提供すること。)

同社は、アメリカの有名なインキュベーター(ベンチャーの育成会社)である「Y Combinator」社から、2010年に投資を受けました。

今回は、Rayさんのお話を中心に、Y Combinatorが、どのようにインキュベーションや投資をしているかを見てみましょう。

Rayさんは、なぜそんなに日本語がうまいんですか?

Ray:実は私、交換留学で富山大学で日本文学を学んでいたんです。(奥さんともそこで出会ったとのこと。)

 

なぜ富山だったんでしょう?

文部科学省が「富山大学はどうですか?」と推薦してきたんです。なぜだかは未だによくわからないですけど(笑)

 

そもそも、日本に行こうと思ったのは、どうしてだったんですか?

子供の頃「SHOGUN」という小説や映画を見て日本にあこがれたんです。日本に来て「サムライが歩いてないじゃないか!」と思いましたけどね(笑)

でも、日本文学ではなかなか食っていけないということに気付いてエンジニアに転向したんです。

 

社名にもサービスの名前にも「Ginza」という言葉が入ってますが、日本の「銀座」ですよね?なぜGinzaって名前にしたんですか?

大学卒業後はアメリカで働いていましたが、また日本に来たいと思い、日本で仕事をしていた時期があったのです。そのとき神奈川県の藤沢に住んでいて、仕事の関係で銀座にもよく行っていたんです。いろんな素晴らしいものを売っている場所ということで「Ginza」にしてみました。Ginzaという言葉は外国人にも発音しやすいんです。

サラリーマン向けのサービスだったら「Shinbashi」という名前の方がよかったかも知れないですが(笑)。

日本にいた時に、Ginzamarketsの前身の会社を日本で設立しました。その後、アメリカに会社を作り直しましたが、日本の法人もまだ残っています。オフィスは今のところ、アメリカと日本にだけあります。

 

Y Combinatorの投資を受けるまでには、どういう手続きが必要なんでしょうか?

まず、願書(application)を出すんです。願書には、どういうビジネスか、どういう市場をターゲットにする予定か等、いろいろ書く項目もあるんですが、それと別に、自社やサービスを紹介するビデオを作って送らないといけないんですね。このビデオが選考の際に非常に重視されるんです。

ビデオは、撮ったものをYouTube等にアップロードして、そのURLを願書といっしょにメールでY Combinatorに送ります。

 

実際のソフトウエアやウェブのデモも送るんですか?

ソフトウエアを送るわけじゃなくて、そのビデオの中で、ソフトやウェブの画面を使っているところを紹介します。

 

どれくらいの競争率なんでしょう?

Y Combinatorでは、毎年夏と冬、半年に一度ずつインキュベーションのプログラムをやっています。つまり、年に2回、選考があるわけです。

当社の時は、応募したのが約4,500社、そのうち面接(interview)に呼ばれたのが約200社、最終的にインキュベーションを受けられたのが63社でした。

 

すごい競争率ですね…。日本の起業も2年前からは考えられないほど盛り上がって来てますが、1つのインキュベーターに4500社も応募してくるということには、まだほど遠いと思います。

面接ではどんなことを話すんですか?

Y Combinator創業者のポール・グレアム(Paul Graham)氏は、非常に好奇心が旺盛で、話がよく飛ぶ人なんですね。面接時間は1社あたり10分しかないので、私の場合、彼の質問に答えるだけで精一杯という感じでした。私は、ポール・グレアム氏がY Combinatorをはじめる前から、「ASPの元祖」ということで、すごく尊敬していたので、大変緊張しました。

(注:「ASP」は、Application Service Provider=ネットワークを通じて顧客にサービスを提供する事業のこと。)

面接には、ユニクロで買った「ホッピー」のTシャツを着て行ったのですが、ポール・グレアム氏にそれをからかってもらえたので、それでちょっと緊張がほぐれました。

デモの実演を要求されたら合格する可能性が高い、と聞いていたものですから、「デモを見せて」と言われた時には、「これはちょっといい感触かも」と思いました。

Y Combinator は「実際にモノ(サービス等)を作れる人」「特定の業界や業種に詳しい人」を探しています。ぺらぺらとしゃべったりプレゼンがうまい人は、逆に怪しまれる、とも言われています(笑)。プレゼンはうまくなくてもいいようです。

 

その面接の部屋にはポール・グレアム氏だけがいるんですか?

いえ、他のパートナーも含めて、6人も並んでました。
すごいプレッシャーですよ(笑)

面接の後、不合格の人にはメールが送られて来て、合格の人には携帯に電話がかかってきます。面接終了後に合格者に一斉に電話するんですね。

だから、メールが来るか電話の着信音が鳴るかというので、ものすごくドキドキしながら待ってました。

 

インキュベーターにもいろいろなタイプがありますが、Y Combinator自体はオフィスや場所をベンチャーに貸し出すといったことはやっていないんですよね?

はいそうです。Y Combinatorのオフィスは、椅子も公園のベンチみたいだったりで、非常に質素です。オフィスはマウンテンビュー(シリコンバレーのMountain View)にあるので、投資を受けたベンチャーも、マウンテンビュー近辺のアパートなどをオフィスにしているというケースが多いですね。

3ヶ月間のインキュベーション期間の間、Y Combinatorがメンター(指導者、相談相手)となってくれて、オフィスに相談にいくと、投資のことや技術のことなど、いろんなことに答えてくれます。これがものすごく勉強になります。

Y Combinatorの出資額は非常に少なくて、会社に対して100万円くらい、プラス、創業者1人あたり数十万円程度です。なので、3ヶ月間のインキュベーションの期間の間、マウンテンビューの近くに住む生活費だけで結構大変なんです。(笑)

3ヶ月のインキュベーション期間の最後に「Demo Day」というイベントがあって、招待されたベンチャーキャピタルなどが、各社のDemoを見に来ます。そこで声をかけられて、次の投資の相談が行われたりするんですね。

 

Y Combinatorに応募する場合、前にすでに投資家が入っていてもいいんですか?それとも、まっさらな方がいい?

まっさらな方がいいですね。

事前に投資家が入っていたらダメということは無いんですが、入っていると、財務的(資本政策的)に次からのファイナンスがうまく組めなくなる可能性が高いと思います。

 

合格した後、投資してもらう際の株価その他の条件については、「もうちょっとこうしてほしい」といった交渉をしたりするんですか?

Y Combinatorは、交渉はダメです。「交渉する人は来ないでくれ」と、応募の要綱にも書かれています。

Y Combinatorは「Convertible Note(株式に転換する権利が付いた貸付け)」で投資をします。通常、Convertible Noteは、次回の投資でベンチャーキャピタルが投資する際の株価の何割引きで投資できるという「discount」や、次回の投資時に、最高でもいくらの株価で転換できるという「cap」が付くのですが、Y CombinatorのConvertible Noteの条件は、「次回のラウンド(Series A)の投資後に、6%の持分になるように」という決め方なんです。

必ずしも6%で固定されているわけじゃなくて、4%から10%の間ということになっているんですが、平均で6%と言われています。当社も6%でした。

(注:つまり、まずY CombinatorがConvertible Note で200万円を出資したとします。次回のラウンドの投資でベンチャーキャピタルが企業価値を2億円と評価して4000万円を投資した場合、投資後の企業価値[post-value]は2億4000万円になるわけですが、Y Combinatorが持っているConvertible Noteは、全体で6%になるように、1500万円強の時価の株に転換できるわけですね。

もちろん、Y Combinatorは、200万円の投資が1500万円の時価になって大喜びしたり、そこで売却したりするわけじゃなくて、その会社がさらに成長して、企業価値も数十億円、数百億円、数千億円と成長していくことを願っているはずです。)

 

日本では、300万円くらい投資して30%くらい投資家が取るというケースも聞くんですが、どう思われますか?

それは多過ぎでしょう!その後のベンチャーキャピタルからのファイナンスとか創業者の持分とかを考えると、うまく成長できなくなると思います。6%という比率は、インキュベーターにとっても、その後のベンチャーキャピタルなどの投資家にとっても、創業者にとってもハッピーな、絶妙のバランスの比率だと思います。

 

GinzaMetricsというのは、SEOのデータ分析のサービスとのことですが、どんなサービスなんでしょうか?ユーザー企業が自分のサイトにJavaScriptなどを埋め込んで、それをもとに集計してくれる、みたいな感じですか?

そうじゃないんですね。

ユーザー企業が自分のサイトの各ページに何かスクリプトを埋め込まないといけない、といったことになると、使ってもらう障壁が非常に高くなってしまいます。

そこで、GinzaMetricsでは、そうしたデータをサイトから集計する部分はGoogle Analyticsなど、すでに存在する他のサービスにまかせて、そこからデータを自動的に引っ張ってきて、レポートを提供するというサービスの部分に徹しています。

レポートは、SEOのパフォーマンス(検索キーワードの順位やサイトへの流入数、売上高など)を知る機能や、自社サイトのページの施策状況を自動評価する機能などがあります。

SEO業務のために必要な一連の機能をもったプラットホーム的なサービスは日本にはこれまでなく、また何十万キーワード、何十万ページを分析したり管理できるものもなかったので、お客様に評価頂いています。

 

料金体系は月額19,900円から、ということなので、私のような小規模ブロガーが使うにはちょっと高いと思いますが、ユーザー層としてはどのへんを狙っているんですか?

大規模サイトや多数のサイトを抱える企業様や、グローバル展開をしている企業様を中心に使って頂ければと思っています。

実は昔は、もっと安いコースも設けていたんです。しかし、そこそこの大規模なサイトの運営者でないと、なかなかSEOの重要性や、我々のサービスのいいところを理解してくれないんですね。ということで、今の最低料金未満のコースはやめてしまいました。

日本ではまだB2B(企業向け)のネットのサービスというのがそこまで多くありませんが、ネットのB2Bのサービスの料金体系というのは不思議なところがあって、「価格が安い方が売れない」ことも多いんです。価格が安いと「質も悪いんじゃないか?」という疑念を招くからでしょうか。我々も安いコースをやめたところ、問い合わせが増えるという現象が起こりました。

 

それは面白いですね。

清水さんはカントリーマネージャーとして、日本で企業向けの営業をしているということですか?

はい。日本でも実はユーザー様が40社ほどいます。ユーザー様はグローバルで100社くらいで、アメリカと日本が多いです。他は、広くいろんな国に分布しているという感じですね。

お話を伺って、Y Combinatorのインキュベーションのイメージが非常によくわきました。

Rayさん清水さん、どうもありがとうございました!

 

(ではまた。)

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