会計参与制度はビジネスとして成り立つのか?

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この会計参与という制度も、「絶句・・・コメントが思いつきません」という感じで、今までコメントしていませんでしたが、他の方のblog等を読ませていただいているうちに頭がだんだん整理されて来ました。
本日はこの会計参与制度が(法律的にはともかく)経済的に成り立つのかという点について考えてみたいと思います。
会計参与とは
今の段階で考えられている会計参与とは、次のような会社法上の「機関」です。
・公認会計士や税理士等のみが会計参与になれる
・会計参与は、会社または子会社の取締役、執行役、監査役、会計監査人または支配人その他の使用人を兼ねることができない
・株主総会で選任し、任期や報酬等については、取締役と同様の規律に従う
・計算書類を作成し、株主総会において説明義務を負い、計算書類作成に必要な権限を有する
・会社および第三者に対する責任について、社外取締役と同様の責任を負う。
税理士マーケットの法的な構造
まず税理士の仕事をビジネスとして考えた場合の構造ですが、税理士法では、

(税理士業務の制限)
第五十二条  税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない。

となっています。この「税理士業務」とは何かというと、

(税理士の業務)
第二条
 税理士は、他人の求めに応じ、租税(略)に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする。
一  税務代理(税務官公署(税関官署を除くものとし、国税不服審判所を含むものとする。以下同じ。)に対する租税に関する法令若しくは行政不服審査法 (昭和三十七年法律第百六十号)の規定に基づく申告、申請、請求若しくは不服申立て(これらに準ずるものとして政令で定める行為を含むものとし、酒税法 (昭和二十八年法律第六号)第二章 の規定に係る申告、申請及び不服申立てを除くものとする。以下「申告等」という。)につき、又は当該申告等若しくは税務官公署の調査若しくは処分に関し税務官公署に対してする主張若しくは陳述につき、代理し、又は代行すること(次号の税務書類の作成にとどまるものを除く。)をいう。)
二  税務書類の作成(税務官公署に対する申告等に係る申告書、申請書、請求書、不服申立書その他租税に関する法令の規定に基づき、作成し、かつ、税務官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他の人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。第三十四条において同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下同じ。)で財務省令で定めるもの(以下「申告書等」という。)を作成することをいう。)
三  税務相談(税務官公署に対する申告等、第一号に規定する主張若しくは陳述又は申告書等の作成に関し、租税の課税標準等(国税通則法 (昭和三十七年法律第六十六号)第二条第六号 イからヘまでに掲げる事項及び地方税に係るこれらに相当するものをいう。以下同じ。)の計算に関する事項について相談に応ずることをいう。)

の3つの業務と定義されています。
先の第52条をよく読んでいただくと、「”業として”行ってはならない」とは書いていないので、「税務代理」や「税務書類」の作成はもちろん「税務相談」についても、たとえ「一回きり」「タダ」であっても行ってはならない、ということになります。
これは、極めて「強い」規定で、この3業務に関しては税理士の絶対的な「独占」を定めているわけです。
比較として、弁護士法における同様の規定を見てみても、

(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条  弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)
第七十三条  何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によつて、その権利の実行をすることを業とすることができない。

というように、「金目当てや商売としては」弁護士業務をやっちゃいけないよ、とは書いてありますが、「タダでやるのでもダメ」とまでは言ってません。
つまり、借金問題でモメている知り合いを親切で仲裁してあげたり、一回だけ知り合いの借金の回収を代行してあげてちょっとお礼をもらったりするのは、別にかまわないわけです。
これに対して、税理士業務の場合には、たとえ、親切で知り合いの税金の相談に乗ってあげる、とか、知り合いの会社の節税の方法の相談に「タダ」でのってあげたとしても税理士法違反、ということになります。(・・・・・・・・・というのが、税理士会の見解です。)
「記帳代行」マーケット
もうひとつ、税理士法第2条の規定として、前述の第1項の他に、

2  税理士は、前項に規定する業務(以下「税理士業務」という。)のほか、税理士の名称を用いて、他人の求めに応じ、税理士業務に付随して、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を業として行うことができる。(以下略)

とあります。
この「記帳代行」については法律で税理士が独占を約束された業務ではないということですが、実際、戦後、税理士法ができて以降、昔はこの「帳簿の付け方がよくわからないので代わりにお願いします」というニーズは、かなり大きかったのではないかと思います。
ところが、この業務は税理士以外が行ってかまわないため、最近では、激安で帳簿をつけてくれる(税理士でない)業者もたくさんこの「市場」に参入してきました。
従来、税理士さんにお願いすると3万円とか5万円とかかかっていた業務が、1万円以下で処理できてしまう、ということになると、当然、税理士業務の収益性は圧迫されてきます。
日本の会社は3月決算が多いなどで、税務申告業務等は季節変動が極めて大きいため、月次で安定的に収入がある記帳代行業務があってはじめて、ビジネスとして季節的なバランスがとれるのではないかと思います。月次の収入がほとんどなくて、申告シーズンだけに業務が集中し、そのピークにあわせた設備投資や人員確保をしなくてはならないとなると、事業として成り立たない、ということなんでしょうね。(よく存じませんが・・・。)
また、以前はコンピュータで帳簿を作成しようとすると、何百万円もする会計専用のマシンが必要でしたので、一般の企業が帳簿作成をコンピュータ処理しようとすると大きな障壁がありましたが、最近のパソコン用会計ソフトは(「ERP」を名乗るくらい)10万円前後でも非常に出来がよくなってきてますので、かなり誰でも(転記ミスや貸借が合わないということもなしに)帳簿を付けられるようになってきてしまったわけです。
つまり、経済学的に考えると、税理士の仕事も、確実に「デジタル」によるコンバージェンス(代替・浸食)が進んできている、という状況かと思います。
会計参与制度は、こうした「税理士ビジネス・マーケットの変遷」という視点から考えた場合、「新たな独占(寡占)領域を設定」し、「月次の収入を増加させうる」制度だ、ということが言えるんじゃないかと思います。
監査論の立場から見た会社法制の現代化
JICPAジャーナルの6月号で、「会計法制の現代化に関する要綱試案をめぐって」という座談会が載っているのですが、その中で青山学院大学経営学部の監査論の八田進二教授が、

一連の会計法制の改革の流れを見ている限り、非常に残念ではありますが、どうも監査論といいますか、監査の理論的な枠組みという視点、もっと具体的にいうならば、会社のモニタリングシステムといった大前提に関わる議論が十分にされていないのではないかと思われます。少なくとも近時の一連の商法改正において監査論の研究者とか学者が参画したということを耳にしておりません

とおっしゃってます。
そう言われてあらためて考えてみると、確かに、監査論の立場から見た場合、会計参与制度によって、なぜ企業の財務諸表の質が向上するのか、という理論付けは難しいような気がします。
会計参与は、なぜ財務諸表の信頼性を高められるのか?
会計参与は「作る側」であって、「検証する側」ではないので、会計参与は明らかに「独立した第三者」による財務諸表の質の向上とは違いますね。
委員会等設置会社でいうと、計算書類を作成するよう指定された執行役(商法特例法第21条の26)に相当する役目ということでしょうか。
取締役や監査役などからは独立しているので、運用によっては「内部監査部門」的な位置づけは可能かも知れませんが。
また、法律論としてはそれでいいとして、「ビジネス」として見た場合、「これで月にいくらくらいの収入になって、どのくらいのリスクと手間があるのか」というのが重要ですよね。
ニーズ(裏返せば何をもって計算書類の質を高めるかという根拠)別に考えてみると:
まず「計算書類を作成する特命社外取締役」(社外CFO)としての高度なニーズと考えた場合、月に50万円でも70万円でもニーズはあるかも知れないですね。ただし、上場企業の経理経験者など、計算書類がちゃんと作れる人は税理士や会計士以外にも世の中にいっぱいいるわけで、何も資格で制限しなくていいような気がします。
「監査」「内部監査」としてのニーズで考えた場合には、作業量としては年間最低でも200〜300万円くらいかかるボリュームがあるのではないかと思います。つまり、ちゃんと銀行や取引先に「確認状」なども送付したり、内部統制状況が正確な財務諸表を作成できる状態になっているのかどうか、というようなところまでチェックするというイメージですが。
「監査マニュアル」って、最低でも厚さ10cmくらいにはなるので、そういう項目をひととおり調べるだけでもすごい手間がかかります。
しかし、これだけのニーズがあるなら、そもそも会計参与ではなく、本当の公認会計士による監査にしちゃったほうがいいですよね?
会計参与は「作る側」の人間なので、「独立性」がありません。「自分で作った財務諸表」をいくら自分で「正しい」と言ってみても信用力には限界があるわけで。
次に「レビュー」程度のニーズがあるとした場合には、作業量から考えた必要人件費は、(少なくとも)100万円から200万円でしょうか。
これも「作る」人じゃなくて、「独立性のある人」がやったほうがより信用は高まるのではないかと思います。
また、「そもそもちゃんと財務諸表が作れないので、正しい会計基準でちゃんと作って」という(レベルがあまり高くない)ニーズだとすると、月に数万円程度のフィーを得るのがせいぜいではないかと思います。
こうなると逆に、会計参与を受ける側として、その程度のフィーで、単なる記帳代行に比べてはるかに大きい法的な責任とリスクを背負い込んでしまっていいのかという供給者側の問題が生じると思います。
手続きを省略してコストを安くすることはいくらでも可能でしょうけど、「確認」や「現金等の実査」もしないで、「この財務諸表はOK」と言えるのでしょうか?
この会計参与制度、「供給曲線」と「需要曲線」がちゃんとクロスしないような気もします。
世界的にも類を見ない「機関」なので、今後のグローバル化の流れの中で、どういう議論になっていくのかについても・・・興味深いですね。
(ではまた。)
(ご参考)
会計参与報告書
http://krp.web.infoseek.co.jp/mt/archives/000206.html
報告書利用者の視点から、制度について言及されてます。
会計参与?
http://krp.web.infoseek.co.jp/mt/archives/000148.html
中小企業に「会計参与」 税理士台頭に警戒感も
http://koh.cocolog-nifty.com/blog/2004/08/819.html
kohさんが紹介されていた、公認会計士協会の
「会計プロフェッションのあるべき姿と今後の対応(中間報告)」
http://www.jicpa.or.jp/technical_topics_reports/999/999-20040115-02-02.pdf
も、公認会計士・税理士間の縄張り争いの考え方についてよくまとまっていると思います。

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会計参与制度はビジネスとして成り立つのか?” への4件のコメント

  1. 会計参与が笑われた

    isologueさんのところの、
    「お笑い会計参与制度」
    笑われちゃってますね。
    会社法の機関設計からしたら、
    そもそもこんなものはいりません。
    ですから学者の先生方も困ってしまいます。
    全ての原因はこの一文が示しています。
    >要は、公認会計士協会と税理士荻..

  2. ひらけ!けっさん!!

    沖縄に特化するのは,いわゆるランチェスター弱者の(失礼!)戦略というやつ?