週刊isologue(第73号)未公開会社の資金調達と募集のあるべき姿

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週刊isologue(イソログ)
                     2010.08.23(第73号)
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■未公開会社の資金調達と募集のあるべき姿
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先日、日本証券業協会から「新規公開前に行われる不適切な自己募集を規制するための『有価証券の引受け等に関する規則』等の一部改正について(案)」という文書が公開されました。

その変更案の内容は、平たく言うと
未公開株詐欺を防ぐために、未公開の段階で個人株主向けに募集をした会社は原則として上場できない
というものでしたが、これは詐欺の抑止効果も期待できない上、未公開会社の資金調達を著しく阻害することにもなると、多くの批判が行われました。

〆切の今年7月1日までに370件ものパブコメが集まり、協会は翌7月2日に、7月20日に予定していたこの規則の施行を延期するとともに、この案の取扱い等についてあらためて議論をすることになりました。
(協会のプレスリリースはこちら。)

 

しかし、この規制については協会が公式にまだ「完全にやめます」と決定したわけではないようですから、問題がこれで終わった訳ではありません。
この改正案に反対のパブコメを送っていただいた方も、まだ安心していただいては困るわけです。

 

この改正案は、未公開株詐欺を減らそうと知恵を絞った結果出て来たものだと思いますし、未公開株詐欺が存在するという問題はまだ無くなっていません。

そして、今回のような多くの人の反対を招く改正案が俎上に登ったということは、未公開会社の株式による資金調達の実態が(証券のプロ中のプロであるはずの日本証券業協会の方々にすら)知られていない、ということがあると思います。

これは、決して日本証券業協会の方々を非難したりイヤミを言っているというわけではありません。
そのくらい、日本では未公開株式に関する実情が知られていないということだと思うのです。

このため、今週は、日本の未公開会社の資金調達の現状と、日本の今後を考えて、未公開会社の資金調達をどう考えていけばいいのか、ということについて整理してみたいと思います。

 

■協会の改正案についての現状

本日時点で協会のホームページに開示されている本改正案の最新の情報は、こちら(pdf)の7月20日の会長記者会見のやりとりのようです。

以下、該当するところをピックアップしてご紹介しておきます。

 

(記者)
ご説明いただいた「新規公開前に行われる自己募集を抑制するための『有価証券の引受け等に関する規則』等の一部改正(案)」の取扱いについては、いろいろと意見をいただいて改めて検討するということだが、例えば、見送りを含めてということなのか、今後どのように検討されていくのかを詳しく教えて欲しい。

(前 会長)
振り込め詐欺の被害は、銀行の窓口等々の監視も強くなり、被害総額も減少傾向にあるということで、非常に効果を発揮していると聞いているが、その代わりに、未公開株を使った詐欺がかなり増えており、消費者庁や金融庁や証券会社等にクレームや問い合わせが来ている。
この状況を打破するためには何をやったらよいのかということで、今までも本協会では、コールセンターの設置などいろいろな形で取り組んできた。それでも中々減少していないという中で、パブリック・コメントを求めてルール化しようとした。しかしながら、ルールにあまり詳しく書いた場合には、それを利用して詐欺が行われるという「いたちごっこ」のようなものになってしまう。
証券会社や公開しようとしている会社、エンジェル投資家等々から意見が来ているので、白紙撤回ということではなく、これらの意見を精査し、議論しながらルール化できるものはルール化していきたいと考えている。期限としては、まだ議論が済んでいないので、しばらくかかると思うが、何らかの答えが出せるように議論していきたい。

ということで、「白紙撤回ではない」、とおっしゃっています。

金融庁や証券会社等に(聞くところによると消費者庁等にも)問い合わせやクレームが来ているということは、潜在的に、「未上場株の募集を規制しろ」という潜在圧力は高いということになります。

(ちなみに「前 会長」というのは、「前の会長」という意味ではなく「前」という名字の日本証券業協会の7月からの新会長でいらっしゃいます。)

 

(記者)
先ほどの「新規公開前に行われる自己募集を抑制するための『有価証券の引受け等に関する規則』等の一部改正(案)」の取扱いについて、具体的にどのような形で議論を行うのか。今回の改正案を取りまとめたときのように専門家の部会で議論していくのか、自主規制会議で議論するのか。また、できるだけ早くということであると思うが、目途があれば教えて欲しい。

(前 会長)
このパブリック・コメントは数百件きており、いろいろなところから寄せられているので検討するのに時間がかかるというのはご承知いただきたい。
発行会社の問題もあれば、それに投資をしている方々の問題もある。いろいろな方から意見が来ているので、どのような形で議論していくのがよいのかということを含め、未公開株による詐欺を防止するにはどうしたらよいかということを念頭において、関係当局とも相談をしながら、何ができるかということを考えていきたい。ルール化しなくても抑止できるのであれば、一番よいと思う。どういう形でどのような方と議論をすればよいのかということを含めて検討している段階であり、拙速に結論を出すということではなく、本当に実のあるものにしていきたいと思っている。

上記では、何らかのルールを必ず作るということもおっしゃってませんし、拙速に結論を出す方針でもない実効性のあることを考えたいという真摯なスタンスが伺えますので、ちょっと安心であります。

 

(記者)
公開前の自己募集規制の件について、パブリック・コメントには何件のコメントが寄せられたのか。また、分析には時間がかかるとは思うが、現時点でわかっている範囲で構わないので反対意見と賛成意見の比率について教えていただきたい。被害拡大を防止するためにはできるだけ早く実施した方がよいと思うが、いつ頃を目途に対応するのか。

(大久保専務理事)
寄せられた意見は370件である。これは、パブリック・コメントの手続きが有効に機能しているということかと思う。いただいた意見の大半は、企業の上場に至る過程での一般個人からの出資は様々な形態もあり得るもので、その辺りが十分配慮されているのか、という疑問によるものであった。我々は当初、何らかの形でこれらの疑問に答えていくことを考えていたが、必ずしも説明が十分ではなかったということもあり、このように多数の意見をいただいたのだと思う。上場実務に絡む問題なので、一つ一つ丁寧に分析していきたいと思う。出来るだけ早く、しかし拙速は避けて対応していきたいと考えている。

以上

ここで「パブコメは370件だった」という数字が公表されています。

ここでも「一つ一つ丁寧に」「出来るだけ早く、しかし拙速は避けて対応していきたい」とのことなので、ベンチャー企業の実態に悪影響がある規制は検討されないのだろうということを期待したいところです。

 

■未公開株式募集の問題の本質

さて、そもそも、未公開企業が株式で資金調達をする場合の根本的問題は何でしょうか?

それは、

・未公開のベンチャー企業は実態がよくわからない

・株式に投資する投資家も、そのリスクがよく理解できるとは限らない

・しかも、株式を発行する未公開企業側もプロとは限らない

ということに尽きるのではないかと思います。

 

上場株式等であれば、開示そのものや財務報告に係る内部統制などに関する規制があり、開示の品質がそこそこ保たれるようになっています。

これに対して、未公開株式の場合には、これといった開示の規制もなく、また開示する体制や能力もありませんので、実態がよくわかりませんし、そのわからなさ加減は上場会社の比ではないわけです。

前述のように、(繰り返しになりますが非難やイヤミではなく)、証券のプロ中のプロである日本証券業協会の人たちにすら、未公開企業の資金調達の現状は理解してもらえていません

未上場株詐欺でも、まったく株式投資に縁もゆかりも無いというド素人が騙されるというケースもあるでしょうが、証券会社の知り合いに確認したら「よさそうだよ」と背中を押されて詐欺案件に投資をした、というケースも聞きます。

つまり、未公開企業というのが上場企業よりヒヨっ子であることが多いのは確かですが、その未公開企業が発行する未公開株は決して「上場株の入門版」ではなく「上場企業株よりはるかに難しいと考えるべきなのです。

 

金融商品の売買を行う場合の重要な原則に、「適合性の原則」があります。

一般の経済活動における取引では、売り手と買い手が対等の立場にあると考え、当事者の自由な契約によって取引をしていいよ、というのが市場経済の基本です。
しかし、金融商品のように内容ががややこしくて、売り手に対して、買い手の側の知識が劣っている「情報の非対称性」等がある場合には、売り手の方が優越的立場にありますので、こうした取引に一定の制約をかけないと買い手が不利な状況に陥るということが考えられます。

つまり、図にすると、下記の図の赤枠の中のような状態が想定されているわけです。

 
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図表1.上場株式や投信など金融商品の場合

 

しかし、ベンチャー企業の場合の状況は、こうした金融商品に関する規制の教科書的な状況より、もっとワヤクチャです。

なぜかというと、未公開企業の場合には、証券(株式)を発行する側の人間(つまりベンチャー企業の経営者等)ですら、自分の会社の中身がよくわかってない、ということすら往々にしてあるからです。

適合性の原則や詐欺の場合に問題になるのは、右下の象限の場合ですね。

 

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図表2.未上場株式の場合

 

つまり、まだ右も左もわからない「いたいけな」ベンチャー企業が、企業投資に長けた投資家に「いいようにやられてしまう」ということも考えられるわけです。(右上の象限)

また、もっとヒドい場合は、投資家も金融の知識が無いし、ベンチャー企業側も金融の知識がない、という場合が往々にしてあります。(右下の象限)
そして、(どのへんを「あるべき理解度」と設定するかにもよりますが)、日本の未公開企業の増資のかなりの部分が、右下の「売り手も買い手もよくわけがわかってない」状態にあたるのではないかと思われます。

 

このため、「本当にわかっている人でないと投資しちゃダメだ」といった規制が仮にできたとしたら、起業した人が「本当にわかってる人」に出会える可能性は、限りなく小さくなってしまうわけです。

 

■例で考える規制の問題点

こうした起業する会社の株式による資金調達に規制があった場合に、どういうことになるか、わかりやすい例で考えてみましょう。

ある若手のパン職人(A君)が、独立して店を持とうとしたとします。
担保も無いので、銀行もノンバンクもお金を貸してくれないし、そもそも職人A君自身も多額の借金を負うのは不安を感じているとします。(これは非常に真っ当な判断だと思います。)

このとき、職場の先輩(B氏)が、
「お前の腕はおれが一番よく知っている。お前ならやれる。おれが500万円出してやるよ。」
ということになったとします。

このケース、どこにも「悪さ」や「悪意」は感じないですよね?

こうしたケースというのが、日本の未公開企業の株式による投資の大半ではないかとも思えます。

しかし、規制によっては、こうした出資が認められないことにもなりかねないわけです。

 

■借入の問題点

株式での出資を考える前に、まず、銀行やノンバンクからの借入で調達する場合の問題を考えてみましょう。

 

個人保証の問題点

まず、借入というのは、社長の個人保証を付ける必要があるものがほとんどです。

株式会社は「有限責任」ですから、会社が倒産したとしても、その株主は(原則として)借金を返済する必要はないわけですが、社長が個人保証をしていた場合には、返済する必要が生じます。
個人事業として事業を行ってる場合も同様です。

個人でとても返済できる金額でなければ、個人破産するしかなくなります。

個人破産した方が、「最悪のこと」を考えるよりはマシですが、個人破産するというのもそれはそれでイヤですよね。

ですから、社長が借金の個人保証をして事業が行きずまった会社は、(破綻してはやくスッキリした方が、関係者全員のためになるとしても)なかなか踏ん切りがつかないわけです。

また、株式会社は有限責任ですから、金を貸す側から考えてみると、個人保証を付けない場合、「潰れてもまあいいか」という「モラルハザード」を十分抑止できないかも知れません。

 

無担保無保証の借入金だったらいいか?

社長の個人保証、担保、保証人等がいらない、無担保無保証型の借入だったら問題ないでしょうか?

ネットで検索するといろいろ条件のよさそうな公的な中小企業向けの融資制度も存在します。

 

もちろん、創業時から顧客がついたり、今まで自分がやってきた事業の延長線上だったりして、ほとんどリスクが無く、確実に借金の返済ができる、という事業の場合には、こうした借入をするのもいいでしょう。

しかし、誰もやったことが無いような革新的なことほど、リスクもあるわけです。

リスクがでかいからこそ、未開の領域を開拓して雇用やGDPを増やすことになる可能性も期待できるわけです。しかし、そういうリスクが高くて、キャッシュフローが安定して涌くとは限らない事業は、借入れで資金調達するのには向かないわけですね。

こうした会社が最初に手がけた事業がうまくいかず、借金の返済が滞るにいたり、新しいビジネスチャンスを思いついたとして、今度は普通であればベンチャーキャピタルなどから投資を受けられる可能性がある事業だったとします。

借金の返済が滞っているということは、「返済できる」と思って借りたのに見通しが甘かったということでもありますから、社長の計画性や先を見通す能力に疑問を持つかも知れません。

 

優先・劣後関係から考える

資金返済・分配の優先順位という観点から見てみましょう。

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図表3.資金調達(右側)と返済・分配の優先順位

 

日本でも優先株式(種類株式)によるベンチャー企業への投資が増えて来ました。

多くの場合に「残余財産分配権」への優先権が付いていることに表されるように、普通は、後から来た人の方が財産の分配権を先に欲しいくらいなわけです。

ところが、借金があってその返済が滞っているとしたら、投資した資金が、新たな事業に使われるのではなく、前の(イケてない)事業の借入金の返済に用いられるでしょうから、投資家としても無駄な感じがしてしまうでしょう。

 

つまり、無担保・無保証の借入金だと株式とほぼ同じ性質かというと、そうではないわけですね。

 

ここのところが、一部の経済学者や政治家の方もわかってらっしゃらないところではないかと思います。

つまり、

 

ベンチャーに足りないのは「資金」であって、「資金」さえ供給すれば、ベンチャー振興になるはずだ。

日本でベンチャーに勢いが無いのは、日銀が「資金」を増やさないからだ。

 

ということではないわけですね。

上記の貸借対照表の左側だけ見て「資金(預金)」には色が無い、と思ってる人も多いのですが、企業にとっては、資金をどうやって調達するかという貸借対照表の右側が非常に重要なのです。
つまり、どんな色の資金を調達するか、というのが事業の性質やリスクによって重要なわけです。

換言すれば、重要なのは資金の「量」ではなく、資金(及びそれに付随する「知恵」)の「質」なわけです。

 

もちろん、すべてのケースで借入よりも株式で資金調達した方がいい、なんてことを申し上げているわけではありません。

しかし、「無担保・無保証だから借りちゃえ!」と思って、借入金で資金調達すると、前述のようにその後のファイナンスがうまくいかないかも知れませんので念のため。

 

■調達方法別の規制

では、こうした未公開のビジネスが資金調達をする場合に、どのような方法や制限があるでしょうか?

 

借入金の場合の規制

お金を出す側の利回りから貸付金について考えてみましょう。

借入金の場合、出資法により、109.5%を超える金利を取ると違法ですが、「金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において」は、20%を超えただけで刑事罰が待っています。(出資法第5条第2項)
「業として」ということの解釈にもよりますが、先ほどの「先輩B氏」も、継続反復して貸金を行っていた場合には、「業として」に該当する可能性も出てきますし、銀行やノンバンクであれば、なおさらです。

一方、こうした創業したばかりの企業などの未公開企業は、非常にリスクが高いことも多いので、金利が20%ではとてもペイしないことが多いわけです。
(これは、貸金業法等の改正で、商工ローン業者がバタバタと破綻していることを見てもわかるかと思います。
また、シリコンバレーのベンチャーキャピタルが投資する企業のうち半分は投資した資金が戻って来ない、と言われます。)

さらに、未公開企業の方も、20%もの金利で借りて元利をちゃんと返済できるなんてことは、よっぽどうまくいった場合だけであって、基本的にこんな高利で借金をすべきではありません

結局、「貸付金・借入金(金銭消費貸借契約)」という形では、十分に(チャレンジ精神旺盛な)未公開企業の資金ニーズを満たせるとは限らないわけです。

 

借入金以外の場合の規制(総論)

日本で「ビジネスの入れ物 (vehicle)」として最もよく用いられるのは「株式会社」ですが、他にも合名会社、合資会社、合同会社(LLC)といったその他の形式の会社や、有限責任事業組合契約(LLP)といった組合、事業信託といった信託でもビジネスが行われます。

金融商品取引法では、第2条でいろいろな定義が定められていますが、この「入れ物」ごとに、規制は異なります。

  • 第1項で(「本物」の)有価証券が定められており、株式会社が発行する「株式」は、第1項の第九号に定められていますし、
  • 信託受益権は第1項の有価証券ではなく、第2項第1号で、
  • 合名会社、合資会社、合同会社については第2項第3号で、
  • 有限責任事業組合契約(LLP)といった組合や匿名組合などについては、第2項第5号で、

それぞれ定義されており、それ毎に規制が異なっています。

(本号では、以下、株式会社と集団投資スキームの場合についてだけ、考えます。)

 

株式会社(株式)の場合の規制

株式は、第三者が募集を手伝う場合には、第一種金融商品取引業である必要があります。つまり、いわゆる「証券会社」以外の第三者が株式で資金調達をするのを手伝うと違法となる可能性が出て来るわけです。

これは、昔、ブログで

「誰がベンチャーを助けてくれるの?」日本の未公開株市場の構造

ベンチャーの資金集めと証券取引法

にも書きました。
条文は証券取引法が金融商品取引法に変わる前のものですが、基本的な問題意識は同じです。

 

前述のとおり、ベンチャー企業の場合、投資家だけでなく会社自身も財務に関する知識が乏しかったりしますので、専門家が資金調達を手伝ってあげた方がうまくいくはずなのですが、「証券会社」以外が募集を手伝っているとみなされると違法なわけです。
しかも、例えば日本証券業協会の規則(店頭有価証券に関する規則)で、証券会社が取り扱える未公開株の範囲は大きく狭められていますので、前述のパン屋さんの起業のような創業したばかりの会社が、証券会社に手伝ってもらうことも不可能に近いです。(法律以前に、商売にならないので相手にしてもらえない可能性も高いです。)

ところが、会社の役員や従業員が自分で「うちに出資してくれませんか?」とお願い(自己募集)するのは、一定の規模以下の募集の場合には、基本的にベンチャー企業の負担になるような規制はありません

これは今や、株式会社を使って資金調達する大きなメリットになっています。

 

「集団投資スキーム」の場合の規制

第2項第5号の、民法上の組合、商法上の匿名組合、投資事業有限責任組合(LPS)、有限責任事業組合(LLP)等の持分等は「集団投資スキーム」と呼ばれています。

(「集団投資スキーム」「匿名組合」などというといかにもアヤシゲで悪いやつらと感じる方もいらっしゃるかも知れませんが、もちろん、いいものだってたくさんありますので念のため。)

「集団投資スキーム」の場合には、たとえ自分で資金を集める「自己募集」であっても、「第二種金融商品取引業」にならないと、募集しちゃいけないわけですね。

(金融商品取引法第二条8項)
この法律において「金融商品取引業」とは、次に掲げる行為([略]を除く。)のいずれかを業として行うことをいう。
(中略)
七  有価証券(次に掲げるものに限る。)の募集又は私募
イ〜ホ (略)
ヘ 第二項の規定により有価証券とみなされる同項第五号又は第六号に掲げる権利
ト イからヘまでに掲げるもののほか、政令で定める有価証券

 

(このへんの詳細は、今時のインディーズ映画制作と金商法(規制のおさらい編)にも書きました。)

 

出資者に「適格機関投資家」をまぜる(金商法63条)の方法が適用除外になる方法としてあるのですが、前述のような「パン屋さんを起業」みたいな場合に、出資者に「適格機関投資家」を含めるなんてことができるとは限りません。

また、第二条2項5号にあるとおり、

イ 出資者の全員が出資対象事業に関与する場合として政令で定める場合における当該出資者の権利
ロ 出資者がその出資又は拠出の額を超えて収益の配当又は出資対象事業に係る財産の分配を受けることがないことを内容とする当該出資者の権利(イに掲げる権利を除く。)

といった場合も適用除外になりますが、ロの「出資者がその出資又は拠出の額を超えて収益の配当又は出資対象事業に係る財産の分配を受けることがないことを内容とする」というのは、
「いくら儲かっても、あんたには儲けはあげないよ。(損したらかぶってね。)」
という意味ですので、そんな条件で資金が集まるわけがありません。(「ふざけてんのか!」と怒鳴られるのがオチ。)

「イ」については、金融商品取引法施行令第一条の三の二で、より詳しく定められております。

(出資対象事業に関与する場合)
第一条の三の二  法第二条第二項第五号 イに規定する政令で定める場合は、次の各号のいずれにも該当する場合とする。
一  出資対象事業(法第二条第二項第五号 に規定する出資対象事業をいう。以下この条及び次条第四号において同じ。)に係る業務執行がすべての出資者(同項第五号 に規定する出資者をいう。以下この条において同じ。)の同意を得て行われるものであること(すべての出資者の同意を要しない旨の合意がされている場合において、当該業務執行の決定についてすべての出資者が同意をするか否かの意思を表示してその執行が行われるものであることを含む。)。
二  出資者のすべてが次のいずれかに該当すること。
   イ 出資対象事業に常時従事すること。
   ロ 特に専門的な能力であつて出資対象事業の継続の上で欠くことができないものを発揮して当該出資対象事業に従事すること。

つまり、出資者「全員」が「必ず」決議をしながら事業を進めていくような場合とか、出資者「全員」がいつもその事業にベッタリ張り付いているとか、または、出資者「全員」が特殊な役割を持ってその事業に参画しているような場合には、「みなし有価証券」とはならないし、みなし有価証券でないということは、その出資を集めるのも、当然、金融商品取引業者にならなくても済みます。(「出資者がたまに口を出す」のではダメです。)

 

たとえば、有限責任事業組合契約(LLP)で事業を行おうという場合も、全員が事業にドップリ入って事業を行うような場合にはOKですが、出資者の何人かが金を出すだけの実態だとしたら、金融商品取引業の登録をしないとダメということにもなります。

 

また、昔は、個人事業や未公開の企業が創業期に、「儲かったら(例えば年利15%相当以上の利回りで)払う」という約束で、お金持ちの人などから資金を調達したもんだ、という話はよく聞きますので、(「匿名組合」という言葉は使わなくても法に当てはめると)「匿名組合」に該当する方法で資金をを調達していたケースは多かったのではないかと思います。

前述のとおり、借入の上限金利である15%を超えて来ると、資金を出す側もリスクに見合ったリターンが得られないし、調達する側も高金利はつらい。

そういったリスクとリターンの関係には、事業の議決権を資金拠出者に渡さなくて済む匿名組合というスキームはピッタリですし、(不動産ファンド等も無い時代から)なぜ商法に匿名組合という規定があったのかと考えると、そういうニーズがあったからだ、ということが推測できるかと思います。

しかし、上記のような規制ができた今、「金融商品取引業」にならないとこの自己募集もできませんので、今や、商法が本来的に想定していた匿名組合の使い方は、適法に行うことができないことがほとんどになってしまったのではないかと思います。

 

こう考えると、株式を自己募集する際に、株式会社にだけ「金融商品取引業者になれ」なんてことが言われないというのは、株式会社の非常に大きなメリットであります。

「集団投資スキームの場合と、規制がうまく整合していない」なんてことを言うと、「第二種金融商品取引業者にならないと、ベンチャー企業は株式を発行してはならない。」といった規制が導入されるかも知れませんが、そんなことになったら、経済の活力は完全に失われることになります。

 

■米国の「Regulation D」をそのまま日本に輸入すればOKか?

前述の日本証券業協会の改正案も、未公開企業が個人への募集を行ったら、まったく上場の可能性が無くなるわけではなく、

  • 有価証券届出書や有価証券報告書を提出していたとき
  • 発行者の株主、役員及びその親族並びに従業員及びその親族に対してのみ募集又は私募を行っていたとき
  • その他、協会が上記に準ずると認めたとき

といった例外事項も設定されていました。

 

しかし、有価証券届出書や有価証券報告書は公認会計士の監査も必要で、作成に数百万円から数千万円のコストがかかると考えられますし、株主や役職員や親族にお金持ちがいない人には不公平です。

ほとんどが「協会が上記に準ずると認めたとき」でクリアしようとすると、未公開企業の資金調達の現場は大混乱になりますし、詐欺を抑止する効果にも乏しいと考えらるといった批判がネット上でもたくさん出ていました。

 

適切な投資の本質は前述のとおり、「リスクを十分に理解した投資家が投資をする」ということのはずです。

 

こうした改善案として真っ先に思いつくことは、「外国の同様の規制を参考にしよう」ということではないかと思います。

ベンチャー投資がうまくいっている国の事例として、米国のSECの「Regulation D」という規制の一部を、日本に焼き直して導入しよう、ということが検討されるかも知れません。

 

この規制は、簡単に言うと、「accredited investor」に該当する人以外への募集が規制されるというものです。

日本語でイメージがわく文献としては、渡辺千賀さんのブログ:

アメリカで大手を振ってベンチャー投資できるのはお金持ちだけ
(その1)

アメリカで大手を振ってベンチャー投資できるのはお金持ちだけ
(その2)

を読むのがいいと思いますが、accredited investorは、自然人(個人)の場合、純資産が百万ドルを超えるか、直近2年間の年収が20万ドル超か、配偶者と合算の年収が30万ドルを超えるなどの条件を満たさないといけません。

ただし、他の米国人弁護士に確認しても、上記の渡辺千賀さんのブログ「(その2)」に書かれているように、実際には、accredited investorでなくても、投資のリスクやメリットを十分理解できる「sophisticated」な投資家だったら、上記のような条件を満たさなくても35人までは投資できるとあります。

Unlike Rule 505, all non-accredited investors, either alone or with a purchaser representative, must be sophisticated?that is, they must have sufficient knowledge and experience in financial and business matters to make them capable of evaluating the merits and risks of the prospective investment;

ちなみに現在米国では、この要件がさらに加重されようとしています。

ご参考記事:
http://www.thedeal.com/newsweekly/insights/silicon-valley-special/clipped-wings.php

 

こうした規制を日本にそのまま輸入したらどうなるでしょうか?

アメリカの場合、渡辺千賀さんのブログにもあるように、投資した時点でaccreditedでもsophisticatedもない投資家がいたとしても、そのせいで上場審査でハネられるということはほとんどないようです。

しかし、ご案内の通り日本の上場実務はもっとずっと「(くそ)真面目」で「厳格」です
(法令で決めるか自主規制ルールで決めるか、等にもよるでしょうが)、一度決めたルールに違反した増資を行った会社が、上場審査をすんなりパスするとは思えないわけです。

設立初期の、まだ右も左もわからない時代に、そうした規制を知らずにaccreditedでもsophisticatedもない投資家から増資を受けてしまって、それを治癒する方法も無いというのでは、未上場段階でのその後の資金調達や公開実務に、多大な混乱を招くことになることが必至だと思います。

前述の例で、はじめはせいぜい数店舗のパン屋をやるつもりだったけど、後に、上場できるようなビジネスモデルに変貌していくということだって考えられるわけですから。

 

資産や年収など、金額ベースの要件が導入されるというのも怖いです。

アメリカに倣って、純資産1億円か年収2千万円超の人でないと「accredited」でない、といった制限が付けられたらどうでしょう?

前述の例の職場の先輩B氏が例えば、 年収800万円で、親からの遺産もあって貯金が3000万円あったとして、最も実力をよく知る後輩に500万円出資してやることが、そんなに悪いことでしょうか?

アメリカと日本では、おそらく、資産が分布している年齢層や、高額所得者の割合などが大きく異なるのではないかと思います。アメリカではそれくらいの金持ちはゴロゴロしていても、日本で、ベンチャーを志そうといった若者が、そうした要件を持った人に遭遇する確率はかなり減るのではないかと思います。

前述の記事では、アメリカでもこの要件が見直されたら、資金調達のプールは5割減になってしまうのではないか、といった懸念が示されています。

 

アメリカの「sophisticated」な投資家というのは、「私は十分リスク等を理解しています」といった紙にサインするだけのようですが、これでは詐欺を抑止する効果はなさそうです。

日本では、「○年以上の株式投資の経験」といった要件が細かく定められることも考えられますが、それも意味が無いと思います。
前述のとおり、日本証券業協会の方ですら、非上場株式の実務についてお詳しいとは思えないわけですから、上場株式の投資の経験等がいくらあっても しょうがない。未上場株投資の経験がある人となると、ほとんどいなくなってしまうわけです。
また、上記の例であれば、「パン屋」というビジネスについて深く理解していることこそが、何より事業のリスクを理解することになるかも知れないわけです。

 

最後に、純資産1億円か年収2千万円超といった金額基準を設ければ、詐欺は防げるでしょうか?
日本で未公開株詐欺にあってる人は、貯金が300万円しかありませんといった人ではなく、まさにそうした資産をたくさん持っているような人なんじゃないでしょうか

 

結局、投資の本質は「事業の性質やリスクをよく理解しているか?」ということであり、未公開企業の事業の性質はバラバラであって、それを形式的な要件で定めるというのは極めて困難だし、形式的な要件が明確であれば詐欺師はそれをかいくぐり、不明確であれば投資の実務は混乱する、ということになります。

 

■日本に必要なのは、未公開株投資への規制ではなくサポートである

前述のとおり、未公開株式への投資というのはちゃんとやろうとすると極めてややこしいのですが、プロがこれに適法に関わることが非常に困難になっています。

本来、未公開株式の資金調達には、最も(上場株式よりもさらに)専門家のアドバイスが必要なのに、誰もタッチできないようになっているというのは本末転倒ではないでしょうか?

ベンチャー企業に必要なのは、(「資金」の「量」ではなく)、まさに、そうした的確なアドバイスや、交渉への援護射撃です。

例えばですが、こうした中堅中小企業の実務に関わる専門知識を持つ弁護士・税理士・公認会計士、第二種金融商品取引業や金融商品取引法63条の特例業務のベンチャーキャピタル等、できるだけ幅広い人を適格と考えて、ベンチャー企業の資金調達を大っぴらに手伝えるように(つまり「セーフハーバー」に)してやることで、日本のベンチャーの起業は活発化する可能性があるのではないでしょうか?

詐欺抑止効果には限度がありますが、専門家が企業の増資に立ち会うことが常態となれば、適正なファイナンスが実行される度合いは高まるのではないかと思います。
それぞれの職業における法律や倫理規定等とも照らし合わせる必要がありますが、いい手である可能性があるのではないかと思います。

 

(ではまた。)