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週刊isologue(イソログ)
2010.02.08(第45号)
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■起業を増やさナイト!
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今週は、「起業を増やさナイト!」のご紹介と、日本で起業を増やす意味について考えてみたいと思います。
現在、日本でのベンチャービジネスの起業は決して活発と言えず、ベンチャー企業の上場もここ数年、年を追って減少しています。
(昨年の新規上場は、ついに20社を切ってしまいました。)
既存の企業が変化できる範囲には残念ながら限界がありますので、新しい企業が誕生して成長しないことは、中長期的に見て日本のピンチであります。ホンダやソニーをはじめとして、現在NHKの大河ドラマ「龍馬伝」で盛り上がっている三菱グループまで、現在の日本の大企業のほとんども、元はベンチャー企業だったわけです。
そうした大企業で働くことも、もちろん立派なことではありますが、全員がそれを志向してしまうと、日本は成長していかないのであります。
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こうした状況に危機を感じて、日本テクノロジーベンチャーパートナーズ代表の村口 和孝さん、レオス・キャピタルワークスCIO(最高運用責任者)の藤野 英人さんといっしょに、来る2010年2月24日(水曜日)18時から「起業を増やさナイト」というイベントをやることになりました。
「起業を増やさナイト」
詳細・お申し込みは、以下のURLで。
http://kigyoka.com/kigyoka/public/news/news.jsp?id=1130
私個人的には、日本でももっと起業が増えて欲しいと思っておりますが、やはりリスクがあることですし、人生の少なくとも一時を賭けることですので、本来は私なんぞが積極的にお勧めすることじゃないと思っております。
資金調達がほとんど不要で、自分の好きなことで起業するのであれば、(ハッピーにやってらっしゃる方が非常に多いのに、意外に知られていないので)まだお勧めできるのですが、ベンチャーキャピタルや銀行から資金調達をして事業をするというのは、リスクもグンと高くなります。
このため、
「起業したくてしたくてしょうがない」
「起業する以外に道がない」
という人に、「考え直せないのか?」と問いただした上で、「それでもやる」というなら適切なアドバイスする、というくらいでいいのかな、と思っていました。
しかし、私も起業に関わる仕事をして10年が過ぎましたが、ふと見渡すと、起業に関して適切な情報は全く供給されていない。
もちろん、上場準備に入るといった段階になれば、証券会社、監査法人、取引所、弁護士など、いろいろな人がアドバイスをくれるようになります。しかし、これから会社を作って資金調達をしようかという段階の人に、その後、上場したり誰でも名前を知ってるような企業にまで成長したりといったところまでのシナリオの「イメージ」がうまく供給されているかというと、まったくそうではない。
10年も経ってそれに気づくとはマヌケですが、成功するベンチャーであれば、自分でそれくらいの情報は探し出すだろうと思っておりました。
しかし、最近いろんな方に聞いてみると、
「自分が起業なんかできるわけがない。」
「起業したら、借入金の保証人にさせられて、失敗したら日本では敗残者扱い。」
という、誤ったイメージが蔓延してるなあということに気づきました。
本来、起業したら成功するはずの人が、正しい情報が無いばかりに起業という選択肢を考えもしないとしたら、社会としてはすごい損失なので、改めてこれではいけないと思った次第であります。
ということで、今回のイベントは、講師をさせていただく3名が、本気で日本の現状に危機意識を感じて手弁当で集まっております。「起業を煽って金を儲けよう」ということではありませんので、念のため。(笑)
多少のことでは起業熱が燃え上がるとはとても思えない昨今の経済状況ですので、少しだけ煽っておきますと、起業が少ないという状況は、ライバルが少ないということであり、起業の大チャンス(かも知れないの)であります。
「まさか自分が起業なんて!」という方もぜひ、起業がどんなもんか覗きに来ていただければ幸いです。
■国全体では資金はダブついている
さて本題。
このメルマガでも過去何回か述べて来ましたが、日本は国全体としてベンチャー投資に出せるお金が足りない訳ではありません。
以下の図は週刊isologue第30号「資金循環から見た『この国のかたち』 」に掲載した図ですが、最近、
「この図を見て、起業を決意しました!」
という方にお会いしたので、再掲しておきます。

図表1.日本の資金循環マンダラ
(クリックで拡大。出所:日銀資金循環統計、日本郵政財務諸表等より作成)
上記の図のとおり、個人金融資産(右上の四角)だけでも日本には1400兆円もの資金があるわけです。
これに対して、日本でベンチャー企業に投資されている資金は、現在、1兆円に満たないと考えられます。
個人金融資産に比べると0.1%もない わずかな量です。
この事実を説明すると、
「たったそれだけしかベンチャーに資金が流れていないのか。
だから日本はベンチャー企業が出て来ないんだな。
じゃあもっとベンチャーに資金が流れ込むような政策にすべきだ。」
といったことをおっしゃる方がよくいるのですが、それはちょっと違います。
まずこれはベンチャー企業に限らず資金調達全般に言えることですが、資金というのは、普通のモノやサービスのように「欲しがっている人に供給すればいい」ものとはちょっと違うのです。
普通、「食べ物が無い」とか「石油が足りない」といった状況があれば、それが手に入るようにしてあげれば、世の中がうまく回るようになることが多いわけです。
しかし、新銀行東京の失敗を見ても分かるとおり、「資金が欲しい」という人に資金を供給すると大変なことになるわけです。
資金は、供給してから回収するまでがサービスなので、ちゃんと「回収の見込みが立つ」ことが大前提。
つまり、ベンチャーへの資金なら「このベンチャーに投資すれば資金が回収できそうだ」という見通しが無いと資金供給は本来行ってはいけないわけです。(法律で禁止されているという意味では[必ずしも]無く、「損する」から商売としてそもそもおかしい、という意味です。)
資金の回収の方法は、資金の種類によって違います。
融資であれば、毎月元本を少しずつ返済するとか、返済できなくなったら不動産担保を処分するとか、保証人に支払ってもらうとか。
銀行、消費者金融、リース会社、商工ローン、ヤミ金等、資金を供給するビジネスにもいろんな種類がありますが、回収のノウハウこそがそうした金融業のビジネスモデルの根幹になっていると言っても過言ではありません。
そして、ベンチャー投資の場合には、投資した資金は基本的に投資した株式の売却で回収されるわけです。
なぜかといえば、ベンチャーというのは(成功しそうなものだけに投資するにしても)必ず失敗は出るから、です。誰もやったことの無いこと、社会にイノベーションを起こすようなことをやるのがベンチャーだとすると、かなりがんばっても失敗しない方がおかしい。
このため、例えば5社に1社しか残らないような領域に投資をするとなると、最低でも株価が5倍になってくれないと、投資家は元手も回収できないわけです。
そして、投資した株式が売却できるのは、投資先の企業が上場するか、M&Aが発生して高値でその企業や株式が売却できることが条件になります。
さらに、株価というのは企業価値(株主資本価値)で決まります。
企業価値というのは、その企業がこれから生み出すキャッシュフローで決まりますから、投資した株式がキャピタルゲインを生むというのは、換言すれば、その会社が今後大きなキャッシュを生むことが期待されるような状態に成長する必要があるわけです。
つまり、そうした投資が成り立つためには、将来キャッシュを生むようになる「ベンチャー企業の卵」が必要であり、まさにそれこそが日本に不足してるものなわけです。
■必要なのは「知恵(インテリジェンス)」
一兆円という資金は、国全体からするとものすごく小さな資金ですが、ともかく、「ベンチャーの卵が不足している状態」は、資金をジャブジャブを供給しても、決してよくなりません。
例えば、土から芽を出したばかりの双葉のような創業ベンチャーにジャブジャブ水を供給しても根が腐ってしまうだけです。必要なのは、適当な時に適当な量の水を与えることであって、今までカップラーメンをすすって貧乏生活していた社長の会社の銀行口座に突然何億円もの資金が入金されても、それだけで企業が成長し始めるというもんではありません。
必要なのは資金(の量)ではなく、「知恵(インテリジェンス)」なわけです。
過去2週にわたってお伝えしてきたように、ベンチャーキャピタルの経営状況も思わしくないので、今後、ベンチャーキャピタル自身の資金調達能力が不足したり、ベンチャーキャピタルからの資金が細ったりする可能性は無きにしもあらずです。
しかし(現状では杞憂にしか思えないと思いますが)逆の心配もあります。
先述の通り、ベンチャーに必要な資金は日本全体からするとものすごく小さいので、ベンチャーブームがまた起こると、あっという間に大量の資金が流れ込んで「バブル」が発生する可能性が高いわけです。
バブルが発生するのは必ずしも悪いことではありません。
5億年以上前のカンブリア大爆発のように、一度、種が大量に増えて、環境に合わなかったものが淘汰されればいいとも言えます。
ベンチャーキャピタルなどの投資家は、投資先の会社が何社かつぶれても、一社が何十倍ものリターンになればトータルでは得をするわけですし、ベンチャーに関わった人たちも失うものがもともとあまりなければ、実はあまり損をするわけではない。
しかし、「ベンチャーなら何に投資しても儲かる」という状態は、決して「インテリジェント」ではないのはお分かりいただけるかと思います。
重要なのは投資して回収できるのか、といった判断や、そのためにどのように投資先企業に付加価値を付けて行くかというノウハウなのに、バブル下ではそういったノウハウは(必ずしも)醸成されません。
ベンチャー企業側も、資金がいくらでもある状況では(もちろん経営資源をある一点に集中させられるメリットがある場合もありますが)、営業やコスト等の経営の各方面の管理に甘さが出て、バブルが去った後の環境には耐えられないということになる可能性は高いわけです。
■日本は失敗者に冷たい国か?
最近、ツィッター等で聞いて回ったら、
「日本では会社を失敗させたら、敗残者。すべてを失う。」
「日本人は、失敗した人に冷たい。」
といった考えの人が多いようなのですが、これは大きな誤解だと思います。
経営者は会社がつぶれても(銀行の借入金の保証をしてないなど、きれいな会社のたたみ方をすれば)、そこで経営者として培ったノウハウが評価されて、「ぜひうちに来てくれ」ということになる例が、実は非常に増えています。
「そんなことはない。ベンチャーを経営した経験は、大企業では全く評価されないよ。」
といったご意見もありましたが、確かに大企業はそうでしょう。
大企業で「経営者」になれるのは入社から30年くらい働いた後でしょうから、基本的には「経営者」のノウハウが必要とされるはずもないわけで。
しかし、資金や人や技術や営業を総合的に考えてスピーディに意思決定をしなければならないベンチャーの環境で培われたセンスは、形式にこだわらない企業では引く手あまたです。
(もちろん、だからといって「失敗してもいいや」という考えのベンチャーが成功するとは思えないのですが)、私は事業に失敗してもハッピーにやっているベンチャー経営者は見たことがあっても、不幸になった人はあまり見たことが無いです。
■「ヒト」の循環も重要だ
そして、裏返せばここに日本経済の一つの大きな問題があります。
つまり、日本では、自分で会社を興さない限り、50や60の老人にならないと、なかなか「経営」を体験する機会が無いわけです。
ここで言う「経営」というのは、営業、人事、財務、技術等の様々な要素を総合的に考えて企業を運営していくことですね。
こうした状況で、今後、世界の国境の無い競争の中で戦っていくことができるでしょうか?
若い頃から「経営」をやってきた人が多数いる国と、若い人はみんな「経営」がわからない国のどちらが経済で強いと思われますか?
資本政策の回(第41号、42号)でも述べましたが、創業社長が会社をやめて次の会社に移るということは、日本ではなかなか行いにくい。
これはもちろん文化的な側面もあるでしょうけど、次の社長になれるような社長経験者が少ないことも大きな理由と考えられます。つまり、社長になれるような人材の層が薄く、流動性も極めて低い訳です。
「代わり」がいないから自分も他の社長の「代わり」になれない。
卵とニワトリです。
もし、ベンチャー成功者が次の新しいベンチャー企業の社長やベンチャーを育てる投資家になるようなことが当たり前になったら、日本も活気付くと思いませんか?
例えば。
ユニクロの柳井社長が、ユニクロを辞めて聞いたこともないようなベンチャーの社長になったとしたら、中身をあまり知らなくても、誰もがなんとかしてその企業に投資できないかと考えるんじゃないでしょうか。
また、京セラ創業者の稲盛和夫氏が、(JALとかの再生ではなく)、新しいベンチャーに投資するベンチャーファンドを作ったとしたら、その投資先には誰もが投資したがるでしょう。
稲盛氏が社外取締役になった投資先のベンチャー企業は、独力の何倍も効率よく取引先との交渉が行えるはずです。
こういう大物の経営者の先輩の推薦があれば、「ベンチャーの社長に転職してみたい」という人も増えるかも知れません。
つまり、「カネ」だけでなく「ヒト」も循環するような社会にしていかないと、ベンチャー企業が育つ環境にならないわけです。
■金や制度は短期間で用意できても「知恵」が集まるのは時間がかかる
上記のように、資本市場というのはいろんな参加者が集まって形成されている生態系(エコシステム)なので、そうした参加者が協調して働く状態は、一夜にしては形成できません。
銀行の融資であれば、銀行のトップや企画部が決めれば、あっという間に全行に命令が浸透するでしょう。しかし、資本市場から資金を供給するというのは、そうはいかないわけです。
あちこちに「卵とニワトリ」状態があるので、焦らずに一つ一つ成功例を積み上げて行かないと、バブルが発生し、クラッシュが起こり、「なんだやっぱりダメじゃないか」という失望感が広がります。そして失敗例を潰すために規制が厳しくなり、ますます身動きが取れなくなって行きます。
「貯蓄から投資」という流れは絶対間違っていないのですが、規制緩和や税制を変えれば一夜にして「新しい市場経済」ができるかというと、そうではないわけです。
新しい酒は新しい革袋に入れる必要があるのに、新しい革袋が出来るのに時間がかかるので、もどかしい。
十年、二十年かかる長期的持続的な取り組みが必要ですから、政権が変わって、まったく逆方向に社会が触れたりするとまた一からやり直し。市場は「期待」や「予想」で動いてますので、政策がコロコロ変わると、予想の立てようがなくて、投資も抑制されてしまうわけです。
ベンチャー企業をサポートするコンサルタントや税理士、弁護士なども、資本市場を支える重要な参加者です。
シリコンバレーでは、ベンチャー企業はWSGR(Wilson Sonsini Goodrich & Rosati)のようなベンチャーに強い大手の法律事務所を活用するものだという認識が浸透しているかと思いますが、日本で創業ベンチャーが大手法律事務所を使うなんて発想はほとんど無いでしょうし、実際、日本の大手法律事務所のフィーを支払えるだけのお金も無いかと思います。
ある大手法律事務所のシニアなパートナーの方が2000年ごろに、
「うちの事務所でもエクイティペイメントの規定やしくみも作ったけど、ネットバブルが崩壊して結局使わなかった。
それに我々は『目利き』ができないんだよね。」
とおっしゃってました。
つまり、現金の代わりにストックオプション等で報酬を受け取るしくみを考えていたわけです。
しかし、日本ではシリコンバレーより圧倒的にベンチャーの数も少ないし、すべてのベンチャーが成功して上場したりバイアウトされるわけではないので、クライアントからもらったストックオプションがある一定以上のボリュームたまらないと、「ポートフォリオ」として安定して収益をもたらすことにもなりません。
ポートフォリオが組めないような少ないベンチャー企業を相手にして仕事をする場合には、将来必ず成功しそうな「イケてるベンチャー」を選んで相手しないと、いくらストックオプションの書類をもらっても、タダ働きで終わってしまいます。
また、シリコンバレーのように、ベンチャーがあっという間に大企業をも倒すような巨大企業に急成長するのであれば、そのベンチャーが大企業になる前に「青田買い」しておく必要性も生まれます。そうなれば、まだ金が無さそうなベンチャー企業も親切にしてもらえる度合いが高まるはずです。
また、グーグルやヤフーといった大きなベンチャーになると、社内にも100人単位で弁護士資格のある人を雇用することになりますので、そういう意味でもいろいろ関係しておくとメリットがあることになるかも知れません。
いずれにせよ、「イケてるベンチャー」をターゲットにした方が効率はよくなるはずですが、弁護士さんにベンチャーのイケてる度がわかるとも[必ずしも]思えませんが、どうすればいいのでしょうか?
シリコンバレーでは恐らく、ベンチャーキャピタルが一種の「格付機関」として機能しているのではないかと思います。「あのVCが投資してる先はスジがいい」ということが経験上明らかであれば、誰もがそのVCの投資先の仕事をやりたがるようになるでしょう。
日本のVCは(もちろん、そうでないところもありますが)、基本的には広く浅くポートフォリオ的に投資するところが多くなってます。
そうした分散投資型のVCについては、「あのVCが投資してる先はスジがいい」という格付機関的な社会的機能は無いことになります。
■まずは起業家を増やすこと。そして成功例。
とにもかくにも、まずは「起業家の卵」を増やさないと、全てが始まりません。
投資家、経営者候補、コンサルタントや弁護士など、すべては上記に述べたような「卵とニワトリ」状態になってますので、起業が増えないとそこから脱することが出来ず、好循環に入ることが難しくなります。
つまり、起業の「キャズム」を超えることが必要なのです。
そして私は、現在一番 情報が不足しているのが、起業をする前後、または起業するということすら考えたこともない「起業家の卵」の方々ではないかと思います。
間違った起業のイメージを持っていたり、起業してみたら想像と違ったり、誤った資金調達や資本政策で本来上場できるはずの「金の卵」が「生ける屍」になってしまうのは、国家的損失もいいところ。
逆に、適切な情報が供給されることで、「もしかしたらオレ/私にも起業ってできるのかも」と思った人の中から、1千億円単位、1兆円単位の企業価値のベンチャー企業が生まれるという成功例があと何社か出れば、日本も大きく変わり始めるのではないかと思う次第です。
(ではまた。)
