モバイルSUICAを早速使ってみた

先週土曜日(28日)から始まったモバイルSUICA。
MovileSuica.jpg

携帯も902iに変えて、
p902i.jpg
さっそく使ってみました。
ICカード同士の干渉
2年半くらい携帯を変えてなくて、そろそろあちこち壊れてきたとか、物欲にかられた、ということもありますが、考えたことの一つに「ICカードの干渉」ということがあります。
最近では、ビルの入退室も非接触型のICカードが増えて、そういうカードとかSUICAとかを定期入れに入れてゲートを通ろうとすると、うまく読めなくて毎回「ピピピッ」と引っかかって腹立たしい思いをしてる方も多いかと。
SUICAとかEdyとかのFelica系は、携帯電話の中にしまってしまえば、干渉しなくなるはず。
設定の複雑さは?
機種変更に小一時間かかるので、その間にJRのホームページで「仮登録」を実行。(膨大な登録項目を、全部 携帯から打ち込むのは、コギャルならともかく、おじさんにはつらい。)機種変更後、早速SUICAのアプリをダウンロードして、SUICAが使えるようにしてみました。
しかしなんと、モバイルSUICAが使えるようになるまで、3つもiアプリをダウンロードしなければならないのであります。(携帯なので、アプリケーションのサイズが限定されるからか?一つのアプリから他のアプリを呼ぶ、とかできないんでしたっけ?)
これは、すくなくともうちの親(70歳代)には、複雑すぎて使えないことは間違いなし。
ビックカメラのポイントカードもFelica対応に
ビックカメラで購入したのですが、ビックのポイントカードも携帯の中に収まりました。
こちらは、携帯の設定自体はかんたん。ただ、既存のカードからポイントを移すのに、書類をたくさん書かないといけなくて、そこは面倒くさい。
Edyってどうよ?
今まで、Edyって、記念品でもらったりはするけど、持ち歩くのも面倒だったわけですが、こうして携帯で1本化できれば、使う機会も増えるかも知れませんね。
改札を通過
さて、いよいよ改札を通過。
パスワードや携帯のメールアドレスなど、ログインにたくさん文字を打ち込まないといけないので、改札を通る手前で毎回パスワードを入れたりしないといけないとしたら悲劇だと思ったのですが・・・そんなことはなかったのでご安心を。ただ、改札にかざすだけで通れます。
グリーン券の購入は?
最近は、グリーン券もSUICAに入るようになって、ホームで駅員さんが販売せずに、券売機に行列して買わないといけなくなったので、それがオンラインで買えるところも魅力だと思ったのですが・・・・グリーン券購入のメニューを開くと、「乗車駅(を入れろ)」と出てきます。券売機と違ってSUICA氏は今自分がどこにいるかはわからないわけですね。
しかも、(考えてみれば当然ですが)、湘南新宿ラインなど、車両がSUICA対応している路線の駅名しか出てきません。
電源が切れていても使えるのか?
電車の中でいろいろ新機種をいじくっていたら、途中で電池が切れて、「もしかして、電池が切れてると改札を出られない?!」という不吉な予感。しかし、携帯の電源が入って無くても、無事改札は通れました。(ほっ。)
今までのカードのSUICAと同様、ゲート側からの電波のエネルギーだけでチップが駆動する、ということですね。
−−−
で、家に到着して気づいたこと。
我が家は、FOMAだとアンテナが圏外と1・2本の間をふらふらしていて、電波が入らないんだった・・・。_| ̄|○
(おしまい)

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トラフィック急増、ご愛読多謝

某新聞社さんの取材用の談話室みたいなところで取材を受けていたら、隣の席が急に騒がしくなって、「オヤジがね・・・」とかいう声が聞こえて来たのでふと見ると、山本譲二(氏)だった。「新曲のサビはね、♪〜」とかワンフレーズ歌ったりしてサービス満点で取材を受けてらっしゃいました。
芸能界でもかなり「大御所」の領域に達してらっしゃると思いますが、個別の新聞社さんにもセールスプロモーションに行かれるんですね。ご苦労様です。
−−−
さて、今回の「ホリエモン・ショック」で、おかげさまで、昨年の3月に匹敵する数の方々に見に来ていただいております。ありがとうございます。とは言え、ピークで1日5万ページビュー(PV)弱くらいですので、1日20万PVといわれる「真鍋かをりブログ」には遠く及びませんが。(笑)
ただ、私のような一般人には、20万PVというのは遠い世界かと思ってたのですが、先日、同じく通常は数万PV/日のブログを書かれている某氏からひさびさにお電話いただきまして、「テレビに出演したときに、『ブログを書いてまして』『私のブログにもありますが』とか、3回くらい『ブログ』と唱えると、トラフィックが20万PVくらいに跳ね上がるよ。」と教えていただきました。
なるほど〜。(今度機会があったらやってみよう。)
読者層ですが、前回、昨年春のときには、同じPVでもかなりコメント欄が荒れたんですが、今回は、おかげさまで、ネガティブな書き込みは基本的にゼロ。日本では「検察の捜査が入った=悪人」という観念になりがちということもあり、良くも悪くも「ホリエモンがいいか悪いか」というような議論にならなかった、という事件の性質もあるのかと思いますが。
というわけで、ピーク時には瞬間風速で世界7031位(Alexaベース)のトラフィック・ランクにまで到達しましたので、登頂記念にここにグラフを貼らせていただきます。
(7031)20060121alexa.png
こうなると、恐ろしいことに、日本で年間数億円の広告収入がある商業ネットサイトのトラフィックにも近づいてくるわけで、「オレにも1億円くらい貰えんもんだろうか」という考えも頭をよぎるわけですが、ただご案内の通りAdSenseなどいわゆる「(ロング)テール型」の広告だけだと、せいぜい数十万円程度の収入にしかならないはず。日本第4位(世界で20位台)のトラフィックを持つライブドアですら、広告収入は数億円程度だったそうですので、やっぱり、トラフィックも大事だけど、それをどう収益に結びつけるかという「ビジネスモデル」のほうがもっと大事なんでしょうね。
ではまた。

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ライブドアの価値(オプションバリュー等の観点から)

前回のエントリでは、ライブドアの純資産価値的または清算価値的な観点からの価値を考えてみましたが、ライブドアの大きな特性の一つとして、「株式の一単元が非常に小さく、1株百数十円から売買できる」ということがあるかと思います。
もちろん、1株だけだと証券会社に支払う手数料の方が高くなっちゃうでしょうし、99年の証券自由化前の対面の証券会社だったら(もしかしたら今でも)迷惑がられて非常にイヤーな顔をされたかも知れませんが、オンライン証券会社で気兼ねなく百円だけの買い物ができるようになったのも、ここ5年で日本の証券市場が大きく変わったところではないかと思います。
さて、ライブドアのような知名度が高い会社が事件に巻き込まれているときに1単元が小さいと、前回書いたような会社全体のファンダメンタルな観点から見た「マクロなストラクチャー」と違って、「マイクロストラクチャー」的な効果がいろいろ強く出てきます。ニュートン力学では、ボールがまっすぐ転がるのが当たり前と思っていたものが、ミクロな世界に入ると量子力学的に位置や速度がボヤけた世界になるのと同じでしょうか。(ちゃうちゃう。)
「需給」という観点から理解すると、「100円でなら記念に買ってみたい」というような人が買い注文を出すことで、(売買高はともかく)値は付く可能性が非常に高まります。
「オプションバリュー」という観点からも、(上場廃止寸前のボロ株などによく見られる現象ですが)、「価格変動をする可能性(ボラティリティ、σ)」によるバリューが、会社の純資産といった「イントリンジックな([intrinsic]、本源的な、実体のある)」価値より高まってくるわけですね。
image001.gif
100円近辺で1日に10円も株価が動けば、すごいボラティリティで儲けのチャンスもあるわけですので、これにオプションバリューを認めるというのも、非常に経済合理的な話ではあります。
前回のエントリではどちらかというと悲観的な観点から純資産または清算価値[上図の青い線]の観点から考えてみましたが、粉飾決算の疑いがあるということは、需給による価格の不確実性のみならず、開示された純資産の(イントリンジックな)額についても不確実性が発生するわけで、(市場として全く望ましい姿ではないですが)、経済学的にはオプションバリュー計算式的な観点からの「実態」が出てしまうことになります。(上図の紫色の線でバリューが示されるイメージ。)
「株主総会出席権(券)」として
ライブドアの株主は、今、約20万人いるそうですが、「記念に一株くらい残しておこうか」とか、「株主総会で役員を糾弾してやる」とか、「応援したい」とか、「ホリエモンが挨拶に来るかも」とか、今まで株主でなかった人が「紛糾する株主総会を見てみたい」ということで、1株くらい買っておこうか、というニーズは結構ありそうです。
株主が、あと10万人増えて30万人になって、うち3万人株主総会に来るとすると、もうホテルの宴会場とかで入るところは無いはずなので、東京ドームくらいでしか株主総会が開催できなくなると思いますが。(笑)
ライブドアさん、昨年の中頃までは、登記上の本店が新宿区歌舞伎町になってたんですが、今見たら六本木ヒルズに移ってました。
現行商法ですと、招集地に関する規定が、

第二百三十三条  総会ハ定款ニ別段ノ定アル場合ヲ除クノ外本店ノ所在地又ハ之ニ隣接スル地ニ之ヲ招集スルコトヲ要ス

となってまして、(定款に定めてない限り)、港区本店だと文京区の東京ドームは使えないはず。新宿区なら文京区はお隣だったんですが・・・。(追記:ライブドアは、定款で全国どこでも株主総会を開催できるようにしたようです。コメント欄参照。)
4月からの会社法では、招集地に関する規定が削除されてますので、新社長の取締役選任などのために臨時株主総会を開催するのは4月以降と大胆な予測をしてみたりして。
(または、ホテルの宴会場等で、会場に入りきれない株主が、会場周辺で怒号を飛ばす、という姿か。)
いずれにしても、信託銀行の証券代行部さん等の想像を超えた前代未聞の株主総会になる可能性は、かなり高いかと思います。
もし、東京ドームとか同様のクラスで「歴史的なイベント」が行われるとしたら、その入場券が113円(本日終値)というのは、めちゃくちゃ安いですね。
マスコミの方々なども、各部・各番組などで1株づつ買うんじゃないでしょうか?
(ではまた。)

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ライブドアの価値はどのくらいあるのか?(単体編)

25日は7日ぶりにライブドアの株価が付いて、終値も137円となりましたが、さて、ライブドアの株価は、どの辺で下げ止まるのでしょうか?
まずは、ライブドアの単体の貸借対照表(B/S)をビジュアライズしてみると、以下の通り、ライブドアの特性がよくわかるかと思います。
image001.gif
「営業っぽさ」がほとんどない
まず驚かされるのは、BSの右っかわは、ほとんど負債がなくて、資本金と資本準備金のみ。
まだライブドアさんは破綻したわけでもないので縁起でもないことを言うようですが、仮に今後破綻したとしたら、上場企業としては過去最高の自己資本比率での(負債の比率が極端に少ない)破綻、ということになるんじゃないでしょうか。
これは、増資や転換社債の転換、株式交換等による「ファイナンス」的活動の結果です。左っかわの資産を見てみても、現預金、短期貸付金、関係会社株式、関係会社長期貸付金等、「ファイナンス的」資産がほとんどを占めてまして、普通の会社に見られる「売掛金」とか「買掛金」といった営業っぽい項目は、全体のうちのほんのわずか。固定資産などの営業用の設備も微々たるものです。
利益剰余金も、まだ27億円程度で総資産の1.5%程度に過ぎません。
結果として、(やはり)ライブドア(単体)というのは、web制作やポータルやブログ等の「ネット」の会社というよりは、「ホールディングカンパニー」「投資会社」というのが、数字から見た実態かと思います。
ほんとに1,800億円あるのか?
報道では、「外資ファンドがライブドア買収に乗り出した」というような記事もあり、根拠として、「ライブドアの純資産は1,800億円くらいあるから、発行済株式総数10億株で割ると、180円くらいの価値はあるので、それ以下なら買い時」てなことが言われています。
が、ちょっと待っていただくと、今回、ライブドアには粉飾の容疑もかかっているわけで、まず、「純資産が1,800億円ある」という前提自体を疑ってかかる必要があるのは言うまでもありません。
もちろん、「生きている(「継続企業の前提」がある)」企業の場合には、企業価値はPERとかDCFとか、将来生み出すキャッシュフローを前提とした見方ではかられるわけですが、「24」に出てくるテロリスト風に言って「you’re a dead man.」、日本風?に言って「おまえはすでに死んでいる」という状態だと考えると、企業価値は純資産からさらに清算コスト(資産の処分価格と帳簿価格の差額などを含む)を差し引いた額にしかなりません。
企業が破綻するたびに「実質、債務超過だった!」てなことが報道されるわけですが、「生きていることを前提とした」値段と「死体」の値段では、当然、価格は変わってきます。(企業会計は、「継続企業の前提」のもとに作成されているのであって、「死ぬ」ことを前提にした数字は、「過度な保守的な会計処理」ということになりますので、死んで帳簿価格と違うのは、ある意味あたりまえです。)
以下、主立った項目を見ていきますと、
現預金
さすがに、会計監査で現金実査や預金の残高確認は行っているとすれば、昨年9月末時点の資産価値(純資産価値じゃなく)は、456億円くらいはありそうです。が、
貸付金
他の資産、短期貸付金(277億円)や関係会社長期貸付金(373億円)などは、実態のない企業や投資事業組合などに貸し出されているものだとすると、回収可能性(ほんとに返してもらえるのかどうか)が大きく問題になりそうですね。
関係会社株式
関係会社株式(501億円)のうち、株式交換で手に入れた会社のものは、おそらく相手の簿価純資産の価額でB/Sに載っていると思われますので、普通なら、それ以上の価格で売れるはずです。ただし、今回、実態のない会社や実質債務超過の会社をたくさん買収している可能性がありますので、そういうものは帳簿に記載された価格では処分できない(というか、ほとんど価値ゼロ)の可能性も。
弥生はキャッシュフローがストロングな感じがしますが(よく存じませんが)、セシールなどは少なくとも2004年12月期までは100億円近い赤字を出していた会社のようですし、買った価格で売れるんでしょうか。(まだ、詳細は見てません。)
偶発債務
で、今後、フジテレビをはじめとしたいろんな企業・個人から訴訟を受けることになりそうです。
フジテレビの出資が450億円で、ちょうど昨年9月末のキャッシュと同じくらいですから、フジテレビが訴訟で勝つ可能性が高まるほど→ライブドアの実質純資産は減って→その分またフジテレビの保有する株式の価値も目減りして損失も膨らむので→ライブドアの支払う賠償額は大きくなる・・・ということで、他の株式交換で株式を取得された会社の方々(投資事業組合に株式を買い取ってもらった方々はともかく、交換後ロックアップをかけられたなどで、まだライブドア株を処分されてなかった方々がいたとしたら)も、「だまされた」と訴訟して勝ったら・・・めぼしい資産(≒純資産→株価)はほとんど無くなってしまいそうですよね。
((気が向けば)続く。)

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リーガル・リサーチ(LEGAL RESEARCH)第二版

おそれ多くも、日本評論社さんの「リーガル・リサーチ(LEGAL RESEARCH)第二版」に、isologueを載せていただきました。
regal_research.jpg
日本評論社
いしかわ まりこ、村井 のり子、藤井 康子(著)
(監修) 指宿 信 夏井 高人、井田 良、山野目 章夫

46ページに「インターネット上のリソース」のブログ編として引用していただいてます。
toshi先生のブログ(ビジネス法務の部屋)から始まって、11ほどブログが紹介されています。が、「なぜ、あのブログが載ってないの?」というものもいくつかあって、私のブログなんぞを載せていただくのは恐縮であります。
ネットだけでなくリアルの情報源も含めて、リーガル・リサーチの方法やリソースについてまとめてらっしゃいます。
ご参考まで。

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今夜

複数のマスコミさんからの情報によると、大きな動きがあるようですね。

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フジテレビのデューデリジェンスの責任

先日、知り合いのファンドの責任者の方から電話がかかってきて、
「いやー、昨年磯崎さんの話を聞いておいてよかった。うちのファンドは磯崎さんのおかげで救われたよ。」
とのこと。
以前の記事に書いたとおり、昨年3月頃にライブドアの開示資料の分析をしたところ、かなり「普通とは違う」取引をしてことが明らかだったので、「こうしたことが、仮に”違法”と判断されることになった場合には、ライブドア株のバリューがクラッシュするリスクもありますよ」という話をしたところ、「それまではかなり頻繁にライブドア株を売買していたのだが、その話を聞いて、その後一切手を出さなかったので助かったよ。」とのことです。
(投資はすべてそうですが)、これもあくまで結果論の話でありまして、このままライブドアが摘発されなかったら昨年3月から12月末まででライブドアの株価は倍増していたわけで、逆に大きな機会損失になったかも知れないわけですが、ともあれ、「役に立った」と言っていただくことは、コンサルタントの何よりの喜びであります。
フジテレビのデューデリジェンス
ブログの読者の方には、「そんな情報があるなら、なんでその時にブログに書かんのじゃい!」とお叱りを受けるかも知れませんが、当然、開示資料だけから「確実に違法」ということがわかるわけもないので(今ですら、まだ判決が出たわけでもないです)、違法性があることを前提にブログを書くわけにもいきませんでしたのでご容赦ください。
(しかたがないので、昨年4月下旬に「1級デューデリジェンス士過去問題例」と、わかる人にはわかる形で問題提起させてもらいました。)
(というわけで、私のことはご容赦いただくとして)、私が密かに期待していたのは、フジテレビがライブドアとの和解で出資をするときのデューデリジェンスの作業で、もしかして一波乱あるんじゃないか、ということ。
以前のエントリでもふれたように、開示されている資料からも、ライブドアというのは売り上げや利益の大半をITではなく「ファイナンス」関連で計上しており、また、投資事業組合や営業投資有価証券の名目で「グルグル」させている可能性は見て取れたわけで、ライブドアの財務デューデリを行う方は、当然、この点も深く追求してしかるべきだったかと思われます。
もちろん、適正意見の監査報告書がついた財務諸表に対してケチを付けるなんてことは普通では考えなくてもいいでしょう。しかし、友好的な資本提携ならともかく、フジテレビさんは直前まで「ライブドアは違法性のある行為(時間外取引の件)を行う企業」ということを公言していたわけですから、通常のデューデリより、さらに懐疑的になってしかるべきだった、とは言えるかと思います。
一方で、通常のデューデリ作業で今回報道されているようなからくりまで解き明かせる可能性というのは極めて低いことも確か。
ただ、監査法人も「違法」との確証を得られなくても「意見差し控え」とか会計監査人を辞任するとかの行為に出れば、世間に対して「ライブドア、なんか怪しそう」というワーニングにはなったのと同様、ここでフジテレビさんが、「デューデリの結果、出資によって当社の企業価値を損なうことにならないという確証が得られなかった」というような理由で、出資を取りやめたら、ライブドアにはかなりの打撃となったことは間違いありません。
ただ、あの時の状況では、それをやると「人質」になっているニッポン放送株の救出が困難になったわけで、たとえライブドア株によって損失が出る可能性を認識していたとしても、これ以上の混乱が起こることを回避し、ニッポン放送株の取得コストを高めに設定したと考えれば、経営判断としては許される範囲だったかと思います。一般の企業だったら間違いなくそうでしょう。
私自身は「放送事業の公共性」というのがいまいちピンと来ないので、どちらでもいいんですが、世間の人は、「公共性の高い」(とご自分でおっしゃる)放送事業を営むフジテレビさんがライブドアに出資するというのは、法的責任はともかく道義的な責任としてどうだったのか、という疑問があるかも知れませんが。
では、また。

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ライブドア問題は「日本のエンロン事件」になるか?

監査法人の責任
前回のエントリに関して「ぬえ」さんからコメントいただきました。

ところで今回は監査法人にあんまり注目が集まっていないような気がしますが、そのへんはちょっと不思議です。

ですよねえ。
私もちょっと不思議に思っていたのですが、一昨日あたりからマスコミ各社の方々から、今回の監査法人についてどう思うか?というご質問をいただきはじめました。
「粉飾に協力してたんでしょうか?」というようなご質問も受けるんですが・・・んなことわかるわけないですよね。(粉飾かどうかもまだ判決が出たわけじゃないのに。)
「全く気付かなかった」か
「うすうす気付いてはいたがあえて触れなかった」か
「気付いていたが、適正だと判断した」か
「不適正と判断したが黙っていた」か
のどれかということになりますが、
売上に占める金額も非常に大きいので、これを全く気づかなかったとしたら監査法人としてはまずいですし、気付いていて触れないのは論外。「取引内容は理解していたがこれを適正だと判断した」というのは、今回の場合、かなり「クリエイティブ」な考え方ですよね。
つまり、詰め将棋的に考えて、どう転んでも今回の場合、監査法人さんの責任問題というのはキビシそうな気はいたしますが・・・・その辺は、今後の捜査や報道でわかってくることかと思いますので、このへんで。
波及効果
本当に報道されているように、ライブドアさんがSPV(というか投資事業組合)を関与させて決算を水増ししたのだとしたら、そういう意味では米国のエンロン事件に非常に似ていると言えます。
今回ご担当の監査法人さんは、パートナー数12名(ホームページによる)の中堅監査法人でしたので、売上に占めるライブドア関連会社からの報酬の比率も非常に高かったはず。これも、アーサー・アンダーセンのケースと同じ「経済的独立性」の話なのかも知れません。
いずれにせよ、あまり目新しい論点ではない、ということですね。
一方で、エンロンのケースと大きく違うのは、アンダーセンがたった1件の事件をきっかけに(真面目にやってた人を含め)世界数万人の組織が崩壊してしまったのに対し、今回は仮に監査法人さんが積極的に関与していたにしても、(トバッチリを食う人や企業には申し訳ないですが)、その影響は小さそうだ、というところでしょうか。
ライブドアさんが取った(という)手法も、「他の企業も結構やってる手法」ではなく極めて独自性が高いものじゃないかと予想しますので、そういう意味でも社会全体への影響は非常に小さいのではないかと想像します。
「小さい」といっても金額ベースで株式全体の時価総額の数%程度の影響(数兆円)にはなるかも知れませんが。ト○タさんとか新○鐵さんとかがもしこんなことをやってたのだとしたら、日本市場の信頼は確実に大崩壊するでしょうけど、この株高・景気回復トレンドの時に開示やコーポレートガバナンスに一石を投じるというのは、資産価値が実態から大きく乖離するバブルを牽制する意味でも、非常に費用対効果が高かったかと思います。
今後の世論の流れが、「企業価値の向上を追求することが”悪”なのではなく、コーポレートガバナンスが効いていないことが”悪”なのだ」という方向に行ってくれると、健全でいいんですけどね。
−−−
ちなみに、昨年11月の終わりに、知り合いの某氏から、「ライブドア担当の監査法人の代表社員○○さんと千葉でゴルフするんだけど、磯崎さんも来ない?」とお誘いをいただいたのですが、私は昨年3月にちょっと前に書いたエントリのような分析をしていたので、「ライブドアのBSに出資金勘定がありますけど、この出資先のファンドはライブドアさんが事実上コントロールしたりしてません?」とか「営業投資有価証券の売却を売上に立てたりしてません?」というようなことを聞きたくて聞きたくてしょうがなくなってゴルフどころじゃないと思ったので、「えー、その日はちょっと用がありまして〜」という感じでパスさせていただきました。
お会いしてたら、今回の一連のブログの記事も書くのがはばかられたと思いますので、お会いしなくてよかったかも知れませんね。:-)
(ではまた。)

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ライブドア事件は「時価総額追求の終焉」か?

「ライブドアがこんなことになったことで、時価総額を追求する経営というのも疑問視されてくるんじゃないですかね〜」
てなことをテレビでおっしゃる方が非常に多いわけですが。
・・・んなわけないですわね。
これだけ資金がジャブついているわけで、この資金は間違いなく、(多少のでこぼこはあるにしても)、資本市場、特に時価総額を押し上げる態度を示す経営者やファンドの元に流れ込むに決まっています。
どのくらい資金がジャブついているか、というのを示すエピソードで「なるほど〜」と思ったのが、先日、米国東海岸にIRに行かれた方の話。
「IRの訪問先が、オーソドックスな投資顧問に加えて、ヘッジファンドがかなりの割合を占めていた。金が集まりすぎて、彼らもshortしている余裕が無く、long buyerになってきている様子がよく分かる。」
とのこと。(金が集まりすぎてショートしてる余裕がない、というのが最高に笑えました。)
日本だけでも、個人金融資産1400億円兆円の半分は(極めて低利の)「預貯金」として眠っており、

kakei_200509.jpg
出所:資金循環の日米比較:2005年3Q(日本銀行調査統計局)

これらは高齢層にかなりの部分が蓄積されているわけですが、今後、団塊のおじさま・おばさまが退職されて時間的余裕ができたら、(そんなに、ジャブジャブ消費する世代の人たちでもないと思いますし、かといってじっとおとなしくしてるタイプでも、「年金だけでそれ以上のお金は望まないよ」ということもなさそうですし、再就職先がふんだんにある、というわけでもなさそうなので)、持ってるお金のそこそこの部分が「投資」に向かう、と考えるのが自然。
そうした初心者の高齢の方がどんどん市場に参加してくることになるとすると、当然、「だまされる方が悪いんじゃー」という「自己責任論」よりは、「理解度に応じたわかりやすい説明をする」という「適合性原則」的な考え方や「預かった資産は最大限の努力をして運用します」という「受託者責任」的な考え方はますます強くなるはず。証券会社だけでなく、発行体である企業側の開示の責任の強化や、収益獲得・企業価値向上のための努力は、より求められこそすれ、減ることはないかと思います。(で、「投資サービス法制定」ってなことになるわけですが。)
つまり、今回の事件の影響による中長期的な方向性は、「コーポレートガバナンス、内部統制、コンプライアンスなどの強化」という流れであって、企業経営者の責任を軽減する「企業価値向上てなノリはもうちょっと控えめにしておきましょうよ」という流れはありえないと思います。
(ではまた。)

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「会計のルールの穴」についての若干の補足

昨日のエントリで、

誤解を恐れずに大胆なことを言えば、「会計に『ルールの穴』なんか無い

と申しましたが、やはり誤解されるとヤなので(笑)、もうちょっと言葉を付け足しておきます。
「穴」というにはデカすぎる
会計というのは、昨日申し上げたように「明文化された公的なルール」で定まっている部分はごく一部な体系であるわけですから、「穴」と言えば全部が穴みたいなもんで。阿蘇山のカルデラを「穴」と呼ばないのと同じで、これも「穴」とは呼ばないんじゃないかと。
(追記:つまり、「漏れることはありえない」という意味ではありません。)
「時間外取引で1/3超を取得する」のと同じノリで、「どこにも悪いとは書いてないじゃないですか」という論理は会計の場合には通用しない(ハズ)、ということが一点。
会計で重要なのは「全体からの視点」
また、特に今回のことについて言えば、会社が行った処理が公正妥当なのかどうかをチェックするべき監査法人は、個々の取引(投資事業組合に出資するのがOKか?投資事業組合が自社株を取得するのがいいのか?等)を見るだけでなく、「取引全体の(経済的)意図」を見なければいけないハズだ、というのも一点。
報道されているように、投資事業組合を3つも経由して自社株を取得するというのは、経済的観点からは明らかに不自然なわけで、「なぜそうした形態を取る必要があるのか?」について担当者に聞きただし、もし「この組合は当社の管理下にないんで、よくわからないんですよ〜(へらへら)」てな答えが返ってきたら、(影響の大きさもあり)「意見」を差し控えることも検討すべきだったかと思います。

監査人は、職業的専門家としての正当な注意を払い、懐疑心を保持して監査を行わなければならない。(監査基準 第二 一般基準 3)

監査人は、重要な監査手続を実施できなかったことにより、自己の意見を形成するに足る合理的な基礎を得られないときには、意見を表明してはならない。(監査基準 第四 報告基準 一基本原則 4)

会計は「細かい」か?
一方で、会計には一見、非常に「おおざっぱ」に見える側面もあります。
私が社会人になってすぐのころ、監査法人出身の会計士の上司に言われて大変びっくりしたのは、「監査(会計)では、例えば、在庫の額が10億円違ってても構わないんだよ。」と言う言葉。
「えーっ!?そんな、バカな。」と言うと、
「例えば、在庫が1,500億円あって利益が2,000億円、自己資本が5,000億円ある会社なら、10億円在庫が違っていても、重要性の原則的に考えて全体の純資産や利益の額への影響は微々たるもんだろう?会計士の仕事は、帳簿を1円まで合わせることじゃなくて、あくまで全体として財務諸表が適正かどうかを見ることなんだ。」
というお話でした。
(もちろん、監査の実施プロセスでは1円単位のチェックを積み重ねていって、その合計として全体への影響が判断されるということです。)
「天網恢々疎にして漏らさず」という言葉がありますが、会計や監査(の理想像)というのは、「穴」はあるように見えても「漏れない」ということなのかなあ、と思いました。
本日の日経新聞朝刊の報道で、ライブドアの不正売却は「80億円」と出てましたが、これはライブドアの利益額や自己資本額に対して、重要性がある・ない、という小さなレベルの金額ではないわけです。個々の取引の一般論で見ると白か黒か迷う事象であっても、これが、決算を水増しするという意図の元に行われたのだとしたら、明らかに「黒」。「ルールの穴」ではなく、「ルール違反」かと思います。
会計(士)の判断の性質
昨日、「報道がホントだとしたら、会計士100人が100人、NOと言うであろう取引だ」というようなお話をしました。47thさんのエントリで、

この場合に、投資組合持分の取得価額100と売却額の200の差額を資本剰余金として計上しないといけないというのは、会計士の方100人に聞いて、どのぐらいの方がそうだと仰るんでしょう?

という疑問を呈されてらっしゃいますが、会計士は一つの取引だけ切り出されて一般論で「どう?」と聞かれても、前述のとおり実際には、「いい」とも「悪い」とも言えないものなわけです。あくまで、監査報告書を出す出さないの権限を持って監査をして、会社の取引の全体像をつかんだ上で、「いい」か「悪い」かがはじめて判断できる、ものになります。
同じく47th氏いわく、

ただ、法律家というのは、司法試験受験の過程で憲法の考え方を相当にたたき込まれるせいか、本能的に国家権力がフリーハンドを持つことに強い警戒感を持っているので、「粉飾」という概念が事実上捜査機関に大きな裁量を与えてしまうんじゃないかということもまた非常に気になるわけです。

私もこの事件がはじまったころには一瞬その危惧は感じたのですが、「検察が入って処理に粉飾の容疑がかかっている状況で、『あれは正しい処理だった』と主張する会計士は確実にゼロだと思われますので(笑)」と冗談めかして申し上げたのは、「会計士がみんな気が小さくてビビるやつばかりだから」というよりは、「検察によって(一般論ではなく、通常は会計監査の権限が及ばない他社なども含めた)取引の全容が解明される」ことによって、具体的なケースについての「いい」「悪い」の判断がしやすくなるから、という側面の方が強いかと思います。
(ご参考まで)

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