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August 31, 2008

初泳ぎに挑戦

犬を泳がせようと、雨の合間を縫って、夏も終わりの長者ヶ崎海岸までやってきました

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が、結局、ビビって泳がずじまい。

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(また、トライします。)

August 29, 2008

カミナリ

いやあ、すごかった。

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事務所から、パレスホテル、AIGビル方面の空にすごい稲光が光っているので、先日購入したばかりのRICOH GX200で撮影してみましたが、やっぱり雷を撮影するのは難しい。まだ使い方もよくわかってないド素人の私が、三脚無し夜景モードのオートで無闇やたらとシャッターを押しまくって、そこそこまともに稲光が写ってたのが、この写真くらい・・・でした。

(もっと勉強します。)


バス2.0

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最近、バスでの移動が多くなってます。

このブログをお読みのエグゼクティブなビジネスマンのみなさんの移動方法はおそらく、タクシー、ハイヤー、電車等が中心で、人によってはバスなんぞ「ジジババや"負け組"の乗り物」と思ってる方もいらっしゃるかも知れません。
確かに、バスで移動しているやり手のビジネスマンというのはあまり聞かない。私も40年以上前に幼稚園に通っていた時以来、バスを使ったことはほぼゼロだった。

ところが先日、某上場企業社長と話していたら、「バス、使いまくり」「私ほど都内のバス路線に詳しい人間はいない」とおっしゃる。(上場会社の役員って、警察から「セキュリティのためハイヤーで移動してくれ」みたいな要請を受けるという話も聞きますが、バスなんか乗ってて大丈夫なんでしょうか、という話はさておき。)

そう思ってよく考えると、今まで、鉄道の線路はほぼ頭の中に入っていたが、バスがどこをどう通っているかというのはまったく知らない。都バスのホームページで路線図を見ると、ふむふむなるほど、こんなところをこういう風にバスが通っとりますかと、見慣れた東京の地図の上に「だまし絵」のように今までまったく見えていなかった絵が浮かび上がって来たような衝撃を受けたのであります。


ビジネスでバスを使う
なぜビジネスでバスが使われないかというと、

  • 渋滞にハマりそう。
  • どこを通っているかイメージがわかない。
  • いつ到着するかわからない。
  • ノロそう。

といったイメージがあるからではないかと思います。

ところが、今のバスは私が知っていた40年前のバスとは違って「インテリジェント」になっていたのであります。


まず、SUICA、PASMOが使える。
何がうざいと言って、バスに乗る時に財布を出して小銭を料金箱に入れたりおつりをもらったりするのがウザかったわけですが、今や、JRや地下鉄・私鉄に乗るのと同じく、お財布ケータイ「ぴっ」で乗れる。
こりゃあいい。

次に、いつ来るかが正確にわかる
携帯に都バスのページをブックマークしておくと、バスが今どこを走っていて、あと何分でバス停に到着するかという「バス接近情報」がリアルタイムでわかるのであります。こりゃ、ひろえるかどうかわからないタクシーよりすごい。
バスが2〜3前の停留所を通過するのを携帯で確認して建物を出ると、まるでリムジンがすっと迎えに来るようにバスが「カチカチ」と近づいて来よります。

また、鉄道と違って、普通の人が通勤する時間をはずせば、ほぼ確実に座れます

もちろんバスはちょっとノロい。しかし、都内の渋滞も解消されてきているので、時間は確実に読めるようになってきている。

バスの乗車時間自体は長くても、最近の地下鉄は、非常に大深度の地下に作られていることが多いから、地上から駅までもぐって、到着した駅からまた地上まで出てくるのにそれなりに時間がかかり、へたするとバスの方がトータルでは早かったりしますし。

地下鉄と比較した場合の最大のメリットは、移動しながらネット接続できることでしょう。多少、歩みはのろくても、情報をいろいろ収集しながら次の仕事場に向かえるわけです。

おまけに、バスは圧倒的に景色がいい
地下鉄で風景が見えないのはもちろんのこと、タクシーだと視界が非常に狭い。街の人の顔が見えない。
ところが、バス(特に後部)に乗ると、上から歩いている人が見えるんです。
世の中の人がどんな顔をして歩いているのか見られたり、「あんなところにあんな店があった」等の発見があって、楽しいこと楽しいこと。

エコなのも、もちろんであります。

おまけに、停留所で待っていると、列にならんでるおばあちゃんと、

「今日はちょっと涼しいですねえ」

なんて会話もあったりして。日頃の激務に疲れた企業戦士の方には、ほっと心安らぐほのぼのとした時間が提供されますよ。

(ご参考まで。)

August 28, 2008

本人確認義務のナゾ2(本人限定受取郵便)

ネットの金融ビジネスで口座開設するような場合等(金融に限らず、司法書士、弁護士、会計士、税理士等も関係あり)の本人確認について、「hu」さんからコメントで教えていただきました。

本人限定受取郵便によって対応可能と思います。本人確認法の改正で要件を満たさなくなっていたようですが、9月からこれに対応したサービスが始まるようです。

その日本郵便さんの「本人限定受取郵便」というのが、下記ですが、

本人限定受取郵便(特定事項伝達型)の試行実施(2008年8月7日) http://www.post.japanpost.jp/whats_new/2008/0807_02_c01.pdf

これを利用して、ネットビジネスなど非対面で本人確認が必要な事業については、これを利用すれば、免許証のコピー等を送付してもらう必要はない、ということになりますでしょうか。
そうだとすれば、新規口座開設時などの手続きのハードルが大幅に下がるので、大変画期的じゃないかと思います。
(各業界の監督官庁や業界団体の通達等で「免許証のコピーを必ず保存しろ」的なことが定められているような場合には、必ずしもそうもいかないでしょうけど。)

この日本郵便さんのサービス、まだ「試行」とのことですが、

従来の本人限定受取郵便の「基本型」及び「特例型」に加え、新たに「特定事項伝達型」を実施するものです。具体的には、名あて人本人であることを確認した上で郵便物をお渡しした後、次の本人確認情報を所定の方法により差出人に伝達するサービスです。
(1) 本人確認書類の名称、記号番号
(2) 本人確認書類に記載されている名あて人の生年月日
(3) 本人確認を行った者の氏名
(4) 本人確認書類の提示を受けた日時

とのことです。

試行規則第10条関係の情報がこれでOKということかと思いますが、書留料金+100円でこれをやってくれるとは、なんと良心的な!
ホントにこれで顧客側から免許証のコピー等の郵送が不要になって、「ネットで完結」できるとしたら、1件2000円でもニーズがある場合があるんじゃないでしょうか。

試行規則第3条は「書留郵便若しくはその取扱いにおいて引受け及び配達の記録をする郵便又はこれらに準ずるもの(以下「書留郵便等」という。)」といった書きっぷりで、必ずしも、日本郵便さんの独占事業というようには読めないので、「今晩中に本人確認しないといけない」みたいな場合には、もしかしてバイク便会社さんの新規事業なんかとしてもニーズあるんじゃないかと思います。

法令は、以下の4つを発見。

犯罪による収益の移転防止に関する法律
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H19/H19HO022.html

犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H20/H20SE020.html

犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H20/H20F10008046001.html
(「本人確認処理」についてなど)

犯罪による収益の移転防止に関する法律の規定に基づく事務の実施に関する規則
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H19/H19F30301000009.html
(「疑わしい取引」についてなど)


犯罪による収益の移転防止に関する法律第4条で定められている「本人確認義務等」や、第6条の「本人確認記録の作成義務等」には、「免許証等のコピーを保存しろ」というのは強制されてないようで、最低限、「氏名」「住居」「生年月日」等を中心とする(テキストデータ的な)情報を保存していればよさそうです。

(ご参考まで。)
 


施行規則の第三条

(本人確認方法)
第三条  犯罪による収益の移転防止に関する法律 (以下「法」という。)第四条第一項 に規定する主務省令で定める方法は、次の各号に掲げる顧客等(同項 に規定する顧客等をいい、同条第三項 の規定により顧客等とみなされる自然人(以下「みなし顧客等」という。)を含む。以下同じ。)又は代表者等(同条第二項 に規定する代表者等をいう。以下同じ。)の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める方法とする。
一  自然人である顧客等(次号に掲げる者を除く。)又は代表者等 次に掲げる方法のいずれか
イ 当該顧客等又は代表者等から本人確認書類(次条に規定する書類をいう。以下同じ。)のうち同条第一号又は第四号に定めるもの(同条第一号ロ及びトに掲げるものを除く。)の提示(当該顧客等の同条第一号ヘに掲げる書類(一を限り発行又は発給されたものを除く。ロにおいて同じ。)の代表者等からの提示を除く。)を受ける方法
ロ 当該顧客等又は代表者等から本人確認書類のうち次条第一号ロ、ヘ又はトに掲げるものの提示(同号ヘに掲げる書類の提示にあっては、当該顧客等の当該書類の代表者等からの提示に限る。)を受けるとともに、当該本人確認書類に記載されている当該顧客等又は代表者等の住居にあてて、預金通帳その他の当該顧客等又は代表者等との取引に係る文書(以下「取引関係文書」という。)を書留郵便若しくはその取扱いにおいて引受け及び配達の記録をする郵便又はこれらに準ずるもの(以下「書留郵便等」という。)により、その取扱いにおいて転送をしない郵便物又はこれに準ずるもの(以下「転送不要郵便物等」という。)として送付する方法
ハ 当該顧客等又は代表者等から本人確認書類のうち次条第一号又は第四号に定めるもの又はその写しの送付を受けて当該本人確認書類又はその写し(特定事業者(法第二条第二項 に規定する特定事業者をいう。以下同じ。)が作成した写しを含む。)を第九条の規定により本人確認記録(法第六条第一項 に規定する本人確認記録をいう。以下同じ。)に添付するとともに、当該本人確認書類又はその写しに記載されている当該顧客等又は代表者等の住居にあてて、取引関係文書を書留郵便等により、転送不要郵便物等として送付する方法
ニ その取扱いにおいて名あて人本人若しくは差出人の指定した名あて人に代わって受け取ることができる者に限り交付する郵便又はこれに準ずるもの(特定事業者に代わって住居を確認し、本人確認書類の提示を受け、並びに第十条第一項第一号、第三号(括弧書を除く。)及び第九号に掲げる事項を特定事業者に伝達する措置がとられているものに限る。)により、当該顧客等又は代表者等に対して、取引関係文書を送付する方法
ホ 当該顧客等又は代表者等から、電子署名及び認証業務に関する法律 (平成十二年法律第百二号。以下この項において「電子署名法」という。)第四条第一項 に規定する認定を受けた者が発行し、かつ、その認定に係る業務の用に供する電子証明書(当該顧客等又は代表者等の氏名、住居及び生年月日の記録のあるものに限る。)及び当該電子証明書により確認される電子署名法第二条第一項 に規定する電子署名が行われた特定取引(法第四条第一項 に規定する特定取引をいう。以下同じ。)に関する情報の送信を受ける方法
ヘ 当該顧客等又は代表者等から、電子署名に係る地方公共団体の認証業務に関する法律 (平成十四年法律第百五十三号。以下この号において「公的個人認証法」という。)第三条第六項 の規定に基づき都道府県知事が発行した電子証明書(以下この号において「公的電子証明書」という。)及び当該公的電子証明書により確認される公的個人認証法第二条第一項 に規定する電子署名が行われた特定取引に関する情報の送信を当該公的電子証明書により確認される同項 に規定する電子署名が行われた特定認証業務(電子署名法第二条第三項 に規定する特定認証業務をいう。以下この号において同じ。)の利用の申込みに関する情報の送信と同時に受ける方法(特定事業者が公的個人認証法第十七条第四項 に規定する署名検証者である場合に限る。この場合において、当該特定事業者が同条第一項 に規定する行政機関等であるときは、当該申込みに関する情報については送信を受けることを要しない。)


第十条。

(本人確認記録の記録事項)
第十条  法第六条第一項 に規定する主務省令で定める事項は、次の各号に掲げるものとする。
一  本人確認を行った者の氏名その他の当該者を特定するに足りる事項
二  本人確認記録の作成者の氏名その他の当該者を特定するに足りる事項
三  本人確認のために本人確認書類の提示を受けたときは、当該提示を受けた日付及び時刻(当該提示を受けた本人確認書類の写しを本人確認記録に添付し、本人確認記録と共に次条第一項に定める日から七年間保存する場合にあっては、日付に限る。)
四  本人確認のために本人確認書類又はその写しの送付を受けたときは、当該送付を受けた日付
五  第三条第一項第一号ロからニまで又は第三号ロに掲げる方法により本人確認を行ったときは、特定事業者が取引関係文書を送付した日付
六  第三条第五項の規定により本人確認を行ったときは、同項に規定する交付を行った日付
七  本人確認を行った取引の種類
八  本人確認を行った方法
九  本人確認のために本人確認書類の提示を受けたときは、当該本人確認書類の名称、記号番号その他の当該本人確認書類を特定するに足りる事項
十  第三条第二項の規定により顧客等又は代表者等の現在の住居又は本店若しくは主たる事務所の所在地の確認を行ったときは、当該確認の際に提示を受けた書類の名称、記号番号その他の当該書類を特定するに足りる事項
十一  第三条第三項又は第四項の規定により当該各項に規定する場所にあてて、取引関係文書を送付することにより本人確認を行ったときは、営業所の名称、所在地その他の当該場所を特定するに足りる事項及び当該場所の確認の際に提示を受けた書類の名称、記号番号その他の当該書類を特定するに足りる事項
十二  顧客等(みなし顧客等を除く。)の本人特定事項
十三  代表者等による取引のときは、当該代表者等の本人特定事項及び当該代表者等と顧客等との関係
十四  みなし顧客等について本人確認を行ったときは、当該みなし顧客等の本人特定事項、当該国等の名称その他の当該国等を特定するに足りる事項及び当該みなし顧客等と国等との関係
十五  顧客等が自己の氏名及び名称と異なる名義を取引に用いるときは、当該名義並びに顧客等が自己の氏名及び名称と異なる名義を用いる理由
十六  取引記録等(法第七条第三項 に規定する取引記録等をいう。以下同じ。)を検索するための口座番号その他の事項
十七  第五条第二項の規定により在留期間等の確認を行ったときは、同項に規定する旅券又は許可書の名称、日付、記号番号その他の当該旅券又は許可書を特定するに足りる事項
2  特定事業者は、添付資料を本人確認記録に添付するとき又は前項第三号の規定により本人確認書類の写しを本人確認記録に添付するときは、前項各号に掲げるもののうち当該添付資料又は当該本人確認書類の写しに記載がある事項については、同項の規定にかかわらず、本人確認記録に記録しないことができる。
3  特定事業者は、第一項第十二号から第十六号までに掲げる事項に変更又は追加があることを知った場合は、当該変更又は追加に係る内容を本人確認記録に付記するものとし、既に本人確認記録又は第一項第三号の規定により添付した本人確認書類の写し若しくは添付資料に記録され、又は記載されている内容(過去に行われた当該変更又は追加に係る内容を除く。)を消去してはならない。この場合において、特定事業者は、本人確認記録に付記することに代えて、変更又は追加に係る内容を別途記録し、当該記録を本人確認記録と共に保存することとすることができる。

August 27, 2008

本人確認義務のナゾ

昨日のエントリにも、
「ネットだけで店舗網をもたないとすると、貸金業者に本人確認義務があるため、免許証のコピーや申込書を郵送してもらわないといけない。」(はず)
と書いたんですが、電車内の広告を見て前から不思議に思っているのが、「DCキャッシュワン」の「ネットデ完結くん」というサービス。

「ネットで、お申し込みがすべて完了。面倒な書類手続きが、一切必要ありません。」

ということで、免許証のコピー等送らなくていいようなんですが、大丈夫なんでしょうか?
カードを自宅宛に送付すると思うので、居住の確認はできると思うのですが、本人であることの確認を免許証等で行うというのは、法令等で定められているものではなく、別の方法も可能ということなんでしたっけ?

どうやってるんだろ?

銀行や証券会社なども、こんな感じの本人確認で許されるということでしょうか??
(これが簡単にできるのであれば、本人確認義務が課せられているいろんな業種の新規顧客獲得のハードルが、ガクンと下がるかと思います。)

(本日のちょっとした疑問でした。)

(追記)
コメント欄で教えていただきましたが、「申し込み」がネットだけで完結するだけで、最終的にはやはり免許証(のコピー)等を用意しないといけないようです。
(♪ちゃんちゃん)

August 26, 2008

財務的に見たソーシャルレンディングの実現可能性

先週は、主に法令や制度面から考えてソーシャルレンディング(ソーシャルファイナンス、P2Pファイナンス)が成立するかどうかを検討し、個人的に想像していたよりはシンプルなスキームでクリアに法律関係を処理できるんじゃないか、というお話をしました。

ただし、法律的に可能であれば事業として成立するかというと、それほど世の中甘くない。ということで、ソーシャルレンディングなるものが日本で成立しうるのかどうか、ということを、今回は財務的な観点から検討してみたいと思います。


消費者金融専業者の財務諸表から推測する
まずは、一番手軽な情報源として、EDINETで消費者金融専業者大手(アイフル、アコム、武富士、プロミス)の有価証券報告書を見て、採算構造の推測の参考にしてみたいと思います。

pic2.png


上図は、消費者金融専業者の中で最もH20年3月末の営業貸付金残高が大きい、アコムの財務内容のダイジェストです。
(他の3社も含めて、Excelのシートをここに置いておきます。厳密に精査したものではありませんので、あしからず。インプットや数式の間違いなど発見された方はご指摘いただければ幸いです。)


ソーシャルレンディングの事業者は、自分のリスクで資金調達するわけでも貸倒リスクを追うわけではないので、上図の寒色系(水色、紫)の部分については、とりあえず除外して考えます。(つまり、この部分については「投資家」のリスク・リターンになります。)

一方、暖色系(クリーム色、オレンジ色)の部分については、基本的には、既存の消費者金融業者であろうがソーシャルレンディングであろうがかかって来る費用と考えられます。


資金は集まるか?
このソーシャルレンディングの事業に資金提供する人は、条件にもよりますが、少なくとも潜在的には多数いるのではないかと思います。
何せ、1500兆円もの個人金融資産がある国ですし、その5割超は超低金利の預金に預けられている。
価格自体が大きく変動する株式には関心がなくても、「表面利回り7%とか10%で貸し付けられる」といったら、「ん?」と興味を示す人も多いんじゃないかと思います。というか、私はこのサービスが始まったら、とりあえず20万円とか30万円は(当然、20口とか30口に分けて)投資してみたい。

また、人は(特に優秀な人ほど)「自分は他人より優秀だ」という方にバイアスがかかっているものです。(cf. Overconfidence effectなど)

大学教授に「あなたは平均的な大学教授より優秀だと思いますか」と質問したら、半数をはるかに上回る人が「はい」と答えるそうで。「完全に正確な判断」ができるのであれば、ちょうど半数の人が平均を上回っていると答えるはずです。(笑)
同様に、一般の人が、プロの消費者金融業者より高い審査能力を持っているとは考えにくいにも係らず、「オレなら貸し倒れない人を見つけられる」と思う人は、意外に多いかもしれません。

確かに、借り手の情報(借入れ残高、業種、年齢、家族構成、コメント等)をつぶさに見て、「貸し倒れない」方にベットするというのは、自分に「人を見る目」があるかどうかを見るゲームとしては非常に面白そうであります。


また、一人一人の人は大損するかも知れませんが、多数の人の意見の総合的結果が、専門家の意見を上回ることも多い。


「みんなの意見」は案外正しい
ジェームズ・スロウィッキー 小高 尚子
角川書店
売り上げランキング: 13555
おすすめ度の平均: 4.0
5 日本人こそ読むべき本
5 万人寄れば偉大な集合知
2 結局、何が言いたいの?
4 「みんなの意見」が、どうも納得できない人に
5 自称 玄人 の投資家の方はぜひ一読


例えば、非常に優秀なファンドマネジャーでも市場平均に勝つことは難しいですが、証券会社の個人投資家のパフォーマンスの総計を取ってみると、長期間にわたって市場のパフォーマンスを上回っていたりします。

そういう集合知的な効果が、ソーシャルレンディングにもあるかも知れない、という期待もあります。


「借りる人」がいるか
一方で、「借りる側」にとって、ソーシャルレンディングはメリットがあるでしょうか?

日本は、おそらく世界一お金が借りやすい国である(であった)と思われます。各主要な駅の駅前の雑居ビルやロードサイドには消費者金融の店舗が建ち並び、「むじんくん(自動契約機)」により、店舗の営業時間外でも機械に免許証をつっこめばお金が出て来る。

一方、ソーシャルレンディングが、ネットだけで店舗網をもたないとすると、貸金業者に本人確認義務があるため、免許証のコピーや申込書を郵送してもらわないといけない。
おまけに、貸し手がレート等の条件をオークションするとなると、口座開設はすでに済んでいても「借りたい」と思ってから1日では希望額を決まらないんじゃないでしょうか。(ZOPAやProsperなど海外の先行事例では、どのくらいの期間で借入れが決定するのか、ご存知の方がいらっしゃったら、ぜひ教えていただければ。)

つまり、「近所の消費者金融の店舗までいけば1時間後には金が借りられる」日本では、ソーシャルレンディングは借りる人にとって、「書類を送ったり、レンダーからあーだこーだ言われたり、借りるまでに時間のかかる不便でややこしいサラ金」にしか見えない可能性が高い気がします。
「ご利用は計画的に」とTVCMでさんざん繰り返すということは、逆に言えば、ニーズのある人には「計画的でない人」が多い、ということかとも思われますので。


借り手に「金利選好」はあるのか?
経済の常識がある人なら、「金利が安ければ安いほど多くの人が集まる」というのが成り立ち、金利と資金需要量は下図のような右下がりの需要曲線を描くイメージを抱いていらっしゃる方が多いのではないかと思います。

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(注:図中、「資金供給量」の部分は、「資金需要量」のほうがいいですね。)

ところが、10数年前に消費者金融業界をリサーチしていたときに、某大手消費者金融専業者の企画部の方に、「金利をもっと下げた方が、多くの優良なお客さんに来てもらえて、御社もより儲かるんじゃないですか?」と質問をぶつけてみたところ、その答えがなんと以下のようなものでビックリ。


我々も、当然、金利を安くすれば多くの優良なお客様に来ていただけるかと思って、実験してみたんです。一部上場企業の課長クラス以上の人をランダムに選んで、一方のグループには(注:具体的金利はうろ覚えですが)28%、もう一方のグループには18%でDMを出してみた。するとなんと、申し込み率は、どちらのグループもまったく同じだったんですよ。
一部上場企業の課長クラスですよ!?これ以上、「優良な顧客」がいますか?
その人たちが、金利の選好があると思えないわけです。


ということは、下図のように、消費者向けの需要曲線は、完全に垂直とは言わないまでも、かなり立った形の需要曲線になっているというイメージでしょうか。
(つまり、借入れ需要の金利弾力性は、極めて低い。)


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確かに消費者金融業界で「金利下げ競争」みたいのが起こったという記憶は無いので、「安い金利」というのが一般的に、借りる消費者の心にあまり響かないのは確かなのではないかと思います。
(それがよくわかる人ばかりなら、多重債務問題なんか起こらないはず。)

事業金融なら、金利が下がれば、黒字化する潜在的な投資プロジェクトは増加するから借入れが増えてしかるべきですが、個人向けの金融というのは、そういうのとはまったく性質が違いますからね。
(私に「無担保で4%で融資します」というDMが来たら、「相対的に安いな」とは思うけど、別に借りる気は起こらない。)

つまり、もし「仮に」同じプロフィールの人ならソーシャルレンディングの方が低い金利の資金を供給できるのだとしても、「低金利」だけを売り物に借り手をたくさん集めることは、あまりうまくいかない可能性が高い(「他の魅力」をアピールする必要がある)んじゃないでしょうか。


日本は、世界一消費者金融の競争が激しい?
他の国の事情をよく存じているわけではありませんが、テレビCMが大量に打たれ、各主要な駅前に消費者金融各社の店舗が乱立するといった状況は、世界のどの国にも存在しないんじゃないでしょうか。
貸金業への参入障壁も極めて低い。

世間の人は、「消費者金融業者は、高金利で暴利をむさぼっている」というイメージがあるかも知れませんが、日本の貸金業市場はかなり競争的であり、同じビジネスモデルで、そこから経営努力でこれ以上費用を削ることは無理なところまで来ているのではないかとも思われます。

他の金融系ネット事業の例で考えてみますと;
例えば、オンライン証券が多数設立された当時は、インターネットの普及期であっただけでなく、99年の証券手数料自由化が同時にやってきたので、既存の証券会社が規制によって売買高の1%(100ベーシス)もの手数料を取っていた市場で手数料が自由化され、一気にその10分の1の手数料でサービスを提供することができた。圧倒的な差をアピールすることができたわけです。それでも、各社は当初、黒字化に相当苦労したわけですが。

既に十分競争的な貸金業市場に新たに参入しても、そもそも金利への感度もあまりよくなさそうだとすれば、「(良質な)借りる人」を集めるのに苦労することは大いに考えられそうです。


経費率は下げられるか?
さて、こんどは供給側の話ですが。金利は下げようと思えば下げられるのでしょうか?

もう一度、消費者金融専業各社の財務内容を見てみましょう。


pic2.png


どの企業も、ここ数年、猛烈なリストラをしているようですが、販管費の営業貸付金平均残高比は各社4.2%〜7.2%程度(クリーム色部分)になっています。

海外ソーシャルレンディングでは、まず、個人の信用格付機関から格付けを取ることになっているところもあるようですが、そうすると、このコストは金利の「外書き」になってるはずです。

ところが、前述のとおり日本では海外のように個人信用の格付機関がなく、ソーシャルレンディング業者自身が審査や回収を行わなければならないとすると、その分は、借り手が負担する金利の中から捻出しないといけないわけです。(別途、「審査料」「格付け料」などの名目でコスト負担をさせても、日本では「みなし利息」として、金利に含めて考えられてしまうのはご案内の通り。
審査・格付け部門を別会社にしてもダメです。)

「無店舗だから、経費率はもっと下がるのでは?」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、逆に、あれだけCMをして、あれだけ駅前に店舗を出したからこそ、大手各社が各1兆円を超える借入れ需要を発掘できた、と言えるかと思います。

その他、督促、回収など、現在の貸金業者がやってる業務のほとんどはソーシャルファイナンスでも業者が行わなければならないとすると、残高比5%くらいの経費は見ておかないといけない、ということかと思います。

また、貸倒れは、各社、残高比で6.9%〜8.7%程度になっています。(水色部分。)
これも、投資家の利回りから引かれることになりますが、8%程度は見込んでおく必要があるのではないでしょうか。現在の、消費者金融専業大手と「同じ以上の客層」が来るかどうかは微妙かと思います。へたすると、銀行でも専業でも借りられなかった人がソーシャルレンディングに流れ込む可能性さえあります。

普通のビジネスでモノやサービスを売る難しさと違って、貸金業というのは金を貸すだけならアホでもできる。重要なのは、どうやって回収して利益を上げるか、でして。
新銀行東京など、「アホ」どころか「かなり頭がいい人」がやってらっしゃったであろうのにあんなことになっちゃったというのは、いかに、新興の会社が良質の貸出先を集めるのが難しい(「善良で返済能力があるのに貸し渋りにあって困っている中小企業」を集めようと思ったら、実際には「返済能力の無い会社」や「魑魅魍魎」が集まって来ちゃった)か、という例かと思います。


金利はいくらまで下げられるか
現在、各社とも調達コストは、単純な平残比で各社1%台と、これ以上は下げられないほどの水準で調達しています。
(紫色部分。)

つまり、(ソーシャルレンディングにおいて事業者が負担するのか、資金提供社が負担するのかはさておき)、積み上げで14%程度のコストはかかってるわけです。あと4%金利が上昇したら、この顧客層に関しては、利益が出なくなっちゃう。

世間の一部の人は、「消費者金融って、ホームレスとか引きこもりみたいな人が借りてるんでしょ?」と誤解してたりするんですが、消費者金融は、基本的に職業に就いてないと借りられないし、延べ数千万人単位の人が利用しているわけですから、利用者は「ごく普通の人」です。
最高裁判決及び貸金業法の改正で、この「ごく普通の人」への資金供給が困難になりつつあるわけです。

1%で調達したものを18%で貸したら、一見「暴利」に見えますが、前述のとおり、これは自由競争の中で決まっている金利ですから、実際にそれだけのコストや、リスクに見合ったリターンは必要なわけです。


さて、資金の出し手としては、どのくらいの利益が期待できるなら資金を出す気になるか。

私は、当初、
「今、20%で借りている人が10%くらいで借りられるのであれば、社会的意義もあるし、手数料3%+貸倒が4%が引かれて、出来上がりで年率3%くらいで回れば、やってみたいかな。」
と思っていたんですが、それはちょっとキツそうかも。

「上限金利18%で貸して、手数料5%+貸倒8%→実質利回り5%」という構図だと、資金提供側にはちょっと魅力的ですが、借り手から見て魅力があるかなあ。資金提供側も、上限金利ギリギリで貸すのは、少なくともあまり「困っている人を助ける」といった社会的意義は感じなさそうです。

10万円(1万円×10人に対して)を「遊び」で貸すのはいいかも知れないですが、貸倒れ差引後の出来上がりの利回りで1%くらいになっちゃったら、運用としてはアホくさい。ましてや、金利上昇時に市場金利を下回る実質利回りになっちゃったら、やる意味もない。
もともと、1万円を100人に対して貸し付けるというのも大変なので、100万円を運用するのも大変です。正味5%で回っても年たった5万円。
ヒマなおじいちゃんおばあちゃんの暇つぶし+おこずかい稼ぎなどにはいいかも知れないですが、「損をした老人」が何人も出て来ると、それこそ、「顔にモザイク、音声は変えてあります」でテレビ番組になっちゃう絵が目に浮かびます。


「ソーシャル」ならではの魅力を出せるか?

「夫に離婚されて、子供を育てる資金にも困っています・・・。」
といった借り手に資金が供給されて、
「その後どうですか?」
「おかげさまで、パートの仕事が見つかり、お金も返せそうです。」
とか、

「酒に溺れていたけど、一念発起して仕事を見つけたい。そのために、まずはスーツやカバンを買う金が欲しい。」
といった借り手が、
「なかなか仕事が見つからないので、昨日、ついまた断っていた酒に手を出してしまいました・・・。」
「何やってるの!」
「がんばれ!」

・・・みたいな、借り手と貸し手のコミュニケーションが行われることにより、貸倒れが大幅に減るといった効果が見られたりすると非常に面白いし、銀行や貸金業者とは違った存在意義も出て来るというもんですが。


法制度的な観点からは、「貸金業者」+「金融商品取引業」がグループ内にあるところが強いのではないか、てなことを申しましたが、こうしたコミュニケーション的な観点や、店舗コストを含む広告コスト、顧客獲得コストなどをいかに抑えるかといった観点から考えてみると、ヤフオクとかSNSとかの新規事業としてやるほうが、バッチリ親和性があるような気もします。
 


長いのでまとめ:

  • 資金調達より、良質な借り手を呼んでくる方が難しそう。
  • 日本では「みなし利息」の規制が厳しいので、表面金利の外書きで、借り手にコストを転嫁させることが困難。アップフロントで「借入れ額の3%を借り手がはらう。」といったことは、実務的に難しいはず。
  • 日本では、個人の信用格付機関がないので、事業者が審査コストを全面的に負担しなければならない。これもやはり、みなし利息の規制で、表面金利以外で借り手に負担させることは困難である。
  • 日本は、世界一、消費者金融の競争が激しいはず。一見、調達金利と貸し出し金利の差が大きくおいしい商売のようだが、すでに合理的に絞れるところは絞られていると見るべき。
  • 改正貸金業法の施行で、上限金利に厳しいキャップがかかる。今後、万が一金利が大きく上昇した時にはビジネス自体がキツくなる可能性も高い。
  • もともと、ソーシャルレンディングは、大量の資金の運用には向かない。
  • 資金供給者や借り手のコミュニケーションや駆け引きを楽しむコミュニティ的な側面など、財務的要因以外の差別化ができないと、厳しいのではないか。

(ではまた。)

August 23, 2008

「資金調達ハンドブック」ー商事法務

最近も、いろんな方の著書をたくさんいただくのですが、時間がないのと遅読なのとで、なかなかご紹介が追いついていなくて、すみません。

そんな中、本日、西村あさひ法律事務所さんから「資金調達ハンドブック」

資金調達ハンドブック
武井一浩・中山龍太郎・郡谷大輔・有吉尚哉 編著
商事法務
売り上げランキング: 40684

を送っていただきました。

中山龍太郎弁護士執筆の第3章「行使価額修正条項付新株予約権を用いた資金調達の可能性と課題―MSCBを中心に」の129ページ

(略)その意味では、行使(転換)価額を修正するという仕組みそのものは市場関係者には必ずしも目新しいものではない。にもかかわらず、MSCBが高い注目を集めたのは、転換期間、転換価額の修正頻度、修正幅、修正方向(下方のみ)において従来見られない多様な形態が現れるようになったこと(5)(以下略)

という部分の注で、

(5) こうした傾向を早い時期に明確な形で提示したのは、公認会計士の磯崎哲也氏のブログ(isologue (http://www.tez.com/blog/))である。磯崎氏は、2004年10月の段階で過去1年間に発行されたMSCBの事例200件以上について転換価額の修正頻度や限度について分析を行っている。その成果はブログ上で数回にわたって公表されている(中略)。
筆者自身、磯崎氏のブログのコメント欄や自らのブログを通じてMSCBの問題点について、さまざまな意見を交換させていただいた。本稿も、その際に自らのブログで行った検討が基礎になっている。

と、本ブログのご紹介をいただいてます。
身に余るご紹介、どうもありがとうございます。

当時の議論に加えて、オプションの評価モデルやペイオフ・ダイヤグラム、その後の日証協のMSCB規制等についても書かれてますので、参考にさせていただきたいと思います。

(ではまた。)

目次
第1章 企業の資金調達(概説)
第2章 資金調達に関する会社法の規律
第3章 行使価額修正条項付新株予約権を用いた資金調達の可能性と課題―MSCBを中心に
第4章 資金調達に関する金融商品取引法上の留意点


August 22, 2008

日本において、ソーシャルファイナンスの可能性はあるか?(4)

「日本において、ソーシャルファイナンスの可能性はあるか?」では、いろいろ小難しそうなことをあーだこーだ書いたせいか、はてなブックマーク等を拝見しても、
「かなり実現は困難なようだ」
「法律的には難しいようだ」
といったコメントを多くいただいているのですが、私が申し上げたかったことは全く逆であります。

銀行「免許」を取得してすら日本では難しいんじゃないかと思っていた事業が、貸金業+第二種金融商品取引業という、どちらも「登録」で済む、日本の金融業としてはかなり"ライト"な構成でできるかも知れないわけで。


宮崎アニメ的に表現しますと、

アスベル「泣いてるの?」
ナウシカ「うん・・・嬉しいの」

といった感じでありまして、今まで胞子を集めて城の地下500メルテから水をくみ上げて研究してもわからなかったことが、腐海の底でアハ!体験というか、「先行き問題も山積みであろうことに変わりはないけれど、『全体の大きな構造』はつかめたんではないか」というところに、一筋の光明を見た思いなのであります。

(ではまた。)

日本において、ソーシャルファイナンスの可能性はあるか?(3)

一昨日の「日本において、ソーシャルファイナンスの可能性はあるか?」に、「ホンネの資産運用セミナー」さんからもトラックバックいただきました。

(略)
もうひとつの仕組みとして私が考えたのは、参加者が組合形態のソーシャルファイナンス事業者に一旦出資して、参加者が貸し付けたい借り手ごとに優先引き当て設定をするという仕組み。私はこの分野は素人なのでこのスキームの課題は分からないのだが、どうだろうか?


「どうだろうか?」と訊かれた気がしましたので、考えてみました。

文中の「優先引き当て設定」というのがどういうものを意味するのかが具体的にはよくわからないんですが、図にすると下記のようなイメージでしょうか?

soc5.jpg

まず第1に、
(法律的な正確性はさておいてざっくり申し上げますと)、「組合」というのは、基本的にはお互いに知り合いである比較的少数の人たちが集まって何かをするのに向いているvehicleで、大人数の参加者が集まる「箱」としては向いていないんじゃないかと思います。

特に、金商法上は、500名以上の者がその持分を取得することとなる場合には「私募」でなく「公募」扱いとなりますので(金商法施行令第一条の七の二)、有価証券届出書(作るのが大変)等の提出が必要など、かなりムダに大掛かりなことになっちゃうと思われます。
(ビジネスモデル上、少なくとも、数十万人以上の人たちを集めないといけないわけですから。)

(自分用メモ:条文等をディープに見てませんが、先日の個別の匿名組合契約の場合に、個別の投資案件ごとの人数が500名未満であれば私募扱いになるのか、つまり、営業者が同じだと性質が違う持分でもすべて通算されて公募扱いになっちゃわないのかどうかについては、念のため、要確認だと思います。)


第2に、
こうした事業の持分というのは、たいていは1口がどれもすべて均一な権利を持っているという設計にするのが普通だと思います。ところが、「参加者が貸し付けたい借り手ごとに優先引き当て設定をする」というのは、出資者が決めた融資先によって分配額等が異なってくるイメージでしょうから、1つ1つの出資の権利がそれぞれ異なることになるかと思います。

組合契約の書きっぷりによっては実現は不可能ではないかも知れませんが、(例えば、ある会社の発行する株式30万株の1株1株の経済的価値が異なったら、『どんだけややこしいねん!』とツッコミが入るであろうのと同様)、法律でできるかどうかに関わらず、ややこしすぎて実務が途中で止まってしまう可能性大なんじゃないかと思います。

(具体的には、前述のとおり公募になるとして、有価証券届出書を書く場合に、既存の持分の権利の内容をどう記述するのか、とか。)

他にも、

  • 民法上の組合(任意組合)は契約だけで成立するが、出資者は無限責任を負うので怖くて出資しにくそう。
  • 有限責任事業組合(LLP)は、有限責任にできるが、共同事業的な運営をしないといけないから、顔見知りでない人同士が設立するのは事実上無理そう。
  • 投資事業有限責任組合契約(LPS)も、法律でいろいろ制約が。例えば投融資の対象を「事業者」に限っているので(投資事業有限責任組合契約に関する法律第3条)、個人向けの貸付けはできないのではないか。また、「出資一口の金額は、均一でなければならない。」第6条3項)という規程もあるので、1口を1円にして、個別の投資家毎の損益を計算してそれを分配し再出資してもらって口数を増減させる等、かなりややこしいことになりそうです。
  • 日本のビジネスの人たちは、「株式会社」には非常になれているが「組合」と言われても「何それ?」となるし、実務も株式会社を前提にしている部分も多い。 法令や業界団体の加入条件として「株式会社であること」等を義務づけていることも多いので、実務をやっていくうちにどこかでコケる可能性も高そう。

等、組合で「実業」をやるのは、いろいろ大変なことも多そうです。

・ ・・といったことをいろいろ考えると、「組合でソーシャルレンディングを」というのは、結構厳しそうなので、シンプルに株式会社でやるのがいいんじゃないかと思います。

(ご参考まで。)

August 21, 2008

日本において、ソーシャルファイナンスの可能性はあるか?(2)

昨日の、「日本において、ソーシャルファイナンスの可能性はあるか?」には、多数、コメント、ブックマーク等、ありがとうございました。

「ソーシャルレンディング・ソーシャルファイナンス情報ブログ」さんからいただいたトラックバックに、

1つ気になったのが、図示されているように、匿名組合1つに対して借り手は1人だけである必要があるのかという部分です。1対1にしたほうがいろいろわかりやすいと思いますが、特定の属性のグループに貸す匿名組合ってのも作れそうだし、そのほうがリスクは分散できるし、組合1つあたりの作成コストも下がりそうかなあと。
ちなみに全然法律わかってないので、もしかしたら法律上無理なのかもしれません。。。

とありましたが、

soc4.jpg


「法律上無理」というよりも、「ビジネスとしての面白みがなくなる」というマーケティングのお話ではないかと思います。

ある程度「属性別」にくくられたファンドにすると、結局、今世界中に大きな影響を与えている「サブプライムローンのCDO等」と同じようなものになっちゃうと思うんですね。
さらに「属性別」もやめて貸付先の分散化を究極に進めると、つまるところ「(元本保証のない)預金」と同じものになってしまいます。

結局、銀行の不良債権問題やサブプライムローン問題の何が「問題」だったのかと言えば、「投資している対象の姿がよくわからない」、つまり、お金が何に対してどのように使われているかについて、資金提供者がまったくよくわからない(「たぶん、ちゃんとした先に金を供給してるんじゃねーの?」で思考停止していた)ところが問題だった、という言い方ができると思います。

ソーシャルファイナンス、P2Pファイナンスというのは、こうした「思考停止」の一種のアンチテーゼであり、「借りている人の"顔"が(ある程度)見える」ところがウリなんじゃないかと。

「美味しんぼ」のインドのカレー編で、日本のモッタリしたカレーとインドのカレーの違いについて、栗田ゆう子が、「ガラムマサラは、スパイスの種類ごとの香りが引き立って、個性が失われて無いのよ!」てなことを言って感動する場面がありましたが、預金やCDOとP2Pファイナンスの違いも、それと同じなんじゃないかと。

日本では、「やっぱり、小麦粉でどろんとしたよくわかんないスパイスの日本風カレーが好き」という人も多いでしょうし、そういうの(「預金」)は日本中にあふれかえっているので、ウケるかどうかはさておき、「個々の借り手の"顔が見える"おもしろさ」を前面に押し出したマーケティングをやっていかないと、「預金」には勝てんのではないかと思います。

ちなみに、匿名組合組成のコストですが、匿名組合は単なる「契約」で登記等も不要ですので、(また、ちょっと確認してませんが、匿名組合の契約書は印紙税の課税文書でもなかったと思いますので)、個別の契約締結のコストは、ネットということでほとんどゼロにできるのではないかと思います。

つまり、債務者や債権をまとめても、個々の債権者・債権ごとに別々の契約にしても、あまりコストは変わらないのではないかなあ、と思います。

(注:金商法関係の法令等で紙の契約書や目論見書の交付義務等があって、電子的な記録だけではだめ、といった制約がかかってくる場合には、またちょっと話は異なってきます。
通常、匿名組合契約は倒産隔離のため案件毎に会社を設立することが多いので、匿名組合契約を行うのにコストがかかるというイメージがあるかも知れませんが、上の図では、匿名組合の営業者は1つで契約毎には変えないという形にしてありますので、個別の契約毎には、さしてコストはかからないのではないかと予想しているわけです。
この営業者自体が破綻した場合に匿名組合員の保有している債権がどうなるか、といったヤヤコしいお話は、考えておかないといけないかと思います。)

(ではまた。)

August 20, 2008

日本において、ソーシャルファイナンスの可能性はあるか?

かなり前から、「ZOPAPROSPERなどのソーシャルファイナンス(P2Pファイナンス)を日本でやったらどうかなあ?」という問い合わせをいろんな方からいただいていたので、お盆の機会に、ちょっと気合い入れて考えてみました。


■概要
(私は、実際にこれらのサービスに口座を作ったり使ってみたりしたわけではなくて、報道やサイトや法律ををさらっとみて考えてみただけのものですので、あしからず。突っ込みどころがありましたら、ご教示いただければ幸いです。)

いわゆるソーシャルファイナンスというのは、ネット上で資金を調達したい人と提供したい人の情報を仲介して、貸し手が借り手に対して直接お金を貸すような形態を指すことが多いようです。

soc1.jpg


一般には、例えば、Aさんが30万円貸してBさんが30万円借りるという1対1の取引では、Aさんが貸倒れリスクをモロに被るので、借りる人は例えば1万円の貸し手を30人集めて30万円を借りる、貸す側も50万円の資金を1万円づつ別の人に貸す事によってリスク分散が図れる、といった感じでやっていることが多いようです。

また、現在の日本のお金の流れでは、預金者が銀行にお金を貸し、銀行がノンバンクにお金を貸してノンバンクが(または銀行が直接)、消費者にローンを提供するわけですが、
預金者は0.1%といった超低金利で預金しますが、借りる側は、無担保の消費者金融だと、下がったとはいえ15%前後の高金利で借りている人も多いわけです。
これが仮に、貸す側は6%で貸して、借りる側は8%で借りられ、ソーシャルファイナンス事業者が鞘を2%抜く(貸倒れリスクはソーシャルファイナンス事業者ではなく「貸す側」が負担)、ということで済めば、貸す側は預金よりはるかに高そうな利回りで運用ができるし、借りる側は大幅に金利負担が軽減されます。

大上段に考えると、「現在の銀行の資金仲介機能をすっとばす」ことになるのではないか?てなことにもなりますが、金融にちょっとでも関わったことがある方なら、「日本でこれをやるのは難しいんじゃないの?」という気が濃厚にするはず。

日本でもいくつかすでにスキームが出現したり、ZOPAの日本進出や、SBIさんがProsperとJVを作るなどの動きがあるようですが、はたして、日本でソーシャルファイナンスという事業は可能性があるでしょうか?

以下、具体的に見て行きます。


誰が「貸す」のか
まず、日本で金融ビジネスをやる場合には、どのように「規制」と向き合うか、というデザインが非常に大事かと思います。

個人が直接、貸付けを行うスキームの場合
「P2P」というのをそのまま理解すると、「個人が個人にお金を貸す」ということになります。
ところが、本当に貸し手の個人が直接、借り手に対してお金を貸して、上記のようにリスクヘッジのために分散投資するとなると、「継続・反復して貸している」→「『業』としてこれを行っている」とみなされることになるかと思います。つまり、お金を貸す個人または法人は、「貸金業者」であって、貸金業法上の貸金業登録が必要ということになっちゃうかと思います。(貸金業法第3条)

soc2.jpg

ソーシャルファイナンスの利用者に「貸金業者登録してくれ」というのは、いくら事業者が手続きの代行をしたりしても、コストやコンプライアンス態勢等の問題から事実上不可能でしょう。


回収を業者が代行する場合
また、借り手からの元利の回収も、貸し手が直接やるというわけにはいきません。
貸しているのが個人であって、ソーシャルファイナンス事業者が回収代行をするというのであれば、ソーシャルファイナンス事業者はサービサー法上のサービサーにならないといけないということになるかと思います。

債権管理回収業に関する特別措置法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H10/H10HO126.html

(目的)
第一条  この法律は、特定金銭債権の処理が喫緊の課題となっている状況にかんがみ、許可制度を実施することにより弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)の特例として債権回収会社が業として特定金銭債権の管理及び回収を行うことができるようにするとともに、債権回収会社について必要な規制を行うことによりその業務の適正な運営の確保を図り、もって国民経済の健全な発展に資することを目的とする。


誰が資金を「預かる」か?
また、完全に「P2P」で業者は「情報の仲介」をするだけならともかく、各貸付者が直接借入者の口座にお金を振り込むなんてのは困難でしょうから、実務的には、貸し手はまず業者の銀行口座にお金を振り込み、業者が借り手の銀行口座に送金するという手続きになるかと思います。
そうなると、このソーシャルファイナンス事業者などが「出資法」に抵触する可能性を検討しないといけないかと思います。


出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(出資法)

(出資金の受入の制限)
第一条  何人も、不特定且つ多数の者に対し、後日出資の払いもどしとして出資金の全額若しくはこれをこえる金額に相当する金銭を支払うべき旨を明示し、又は暗黙のうちに示して、出資金の受入をしてはならない。

(預り金の禁止)
第二条  業として預り金をするにつき他の法律に特別の規定のある者を除く外、何人も業として預り金をしてはならない。
2  前項の「預り金」とは、不特定かつ多数の者からの金銭の受入れであつて、次に掲げるものをいう。
一  預金、貯金又は定期積金の受入れ
二  社債、借入金その他何らの名義をもつてするを問わず、前号に掲げるものと同様の経済的性質を有するもの
(以下略)


要するに、不特定多数の人から「必ず返しますよ」と元本保証してお金を調達しても、そのお金はただ積まれておいておくだけではなくて必ず運用されるわけです。お金の運用には必ずリスクがあるから、そんな約束を守るのは実は非常に大変であって、(バブル崩壊や銀行への公的資金投入の歴史を見てもわかるとおり)、リスクも大きいので、そういうのは「銀行」等として免許を得た上で厳格な監督の下でやってよね、ということかと思います。

そういう法律の趣旨だと考えると、(純粋に情報の仲介だけする場合ならともかく)、ソーシャルファイナンス事業者の口座を経由して貸付が行われる場合には、上記の出資法上の「出資金」「預り金」等に該当しないかどうか、ということが問われる可能性はあるかと思います。
(判例等を調べてないので、違ってたらご指摘ください。)

また、ソーシャルファイナンス事業者が預り金等をしているとみなされなくても、多数の貸し手から直接資金調達をしているとみなされるとしたら、今度は借り手が出資法(1条)違反になる可能性も高そうです。
借り手が個人事業者だったりしたら、「業としての預り金」(2条)になる可能性もあるのでは。

soc3.jpg


また、海外のソーシャルファイナンス業者は成約時に借り手から手数料を取っている例もあるようですが、日本では貸金業法上、なんでも「みなし利息」になっちゃうので、アップフロントで審査等の初期コストをカバーするのも難しい面があるかと思います。
(銀行から金を引き出すと手数料取られるのに、消費者金融専業者(サラ金)のATMは無料なのと同様。)


日本におけるソーシャルファイナンスの歴史
(ちょっと脇道にそれますが。)
こうした「ソーシャルファイナンス」は日本で存在しなかったわけではなく、むしろ、沖縄の「模合」をはじめとして、個人が個人に貸付けを行う活動(「金融無尽」、「講」)は、昔は全国そこかしこに存在したわけですが、「業」としてやっていたものは「相互銀行」としてオフィシャルな道を歩まされたわけです。
沖縄県民の方が酒の席で仲間と「模合」をやるのは「不特定多数」とか「業として」とは言えないかも知れませんが、ソーシャルファイナンスは「不特定多数」を相手にした「業」ですし、日本の規制の考え方としては、そういった資金仲介機能は、戦後一貫して「銀行」として規制しよう、という考え方に基づいていたかと思います。

では、IT技術が発達し、法的な環境が激変している今日において、状況は変わったのか?ということですね。


インフラストラクチャーの違い
P2Pで貸付けを行う場合に問題になることの一つは、貸す側の個人が、はじめから返済する気の無いやつ等から損害を受けるのを防止する「審査機能」を誰がどう担うか、ということかと思います。

ネットの記事を見ると、ZOPAは個人の格付けを取らせるようなことが書いてありますが、日本だとこの個人の格付けをやってる格付機関が無いかと思います。
米国では、昔から民間の個人信用情報業者が発達しているようですが、日本だと、ご案内の通り、従来、貸倒れ等していない債務者の情報(ホワイト情報)は消費者金融専業者中心の全情連だけで、ブラック情報についてもノンバンク、銀行等にDBが別れていました。改正貸金業法で、これから指定信用情報機関制度が導入されようとしている、といったところかと思います。

この改正で、今までバラバラだった個人の借入の総額が把握できるようになることは大きな前進だと思いますが、このサービスは「個人格付け」にはならないと思いますので、結局、ソーシャルファイナンスの事業者が「審査」に用いる情報の入手や処理をかなりの程度代行してやる必要があるんじゃないかと思います。(借入残高の把握、本人確認、住所確認等。)


個人のリスク許容度
証券自由化して10年経つのに、個人金融資産1500兆円に占める預金の割合(下図左側の濃いグレー部分)は、米国並みに減るどころか、逆に52%にまで増えちゃいました。


pic1.png
(出所:日本銀行 資金循環統計)

日本人は、「銀行」が大好きなんですね。

結果として、銀行や銀行からノンバンクに流れたお金の供給圧力は相当強いですから、「そこそこちゃんとした」人への資金供給は十分低い金利で行われているのが現状かと思います。(オリックスさんとか楽天さん等のVIPローンや、メガバンクの個人向けローンなど。)

つまり、はたして、こういった固定金利元本保証大好きな日本の個人が、リスクを負って「サブプライム」な方々にお金を貸す気になるかどうかですね。
「利回り5%(ただし貸倒れリスクあり)」というのは、もしかしたら、「預金よりかなり高い利回りの商品」ということで人気が出るかも知れませんが。

一方で、日本のマスコミは「ソーシャルファイナンスで損しました」という人を探して来て、顔にモザイクかけて「音声は変えてあります」で放送するのが目に見えてます。

アングロサクソンの世界なら「自己責任だろ?」で済むお話でも、日本では済まないのではないかと。特に、消費者庁もできようという昨今。
「世論」がそういったことになっていった場合に、弁護士がソーシャルファイナンス事業者を訴えたりしたら、行政も裁判所も、法令上の形式的で細かい瑕疵でもあれば、法令違反として厳しく対処せざるを得ないと思いますので、やはり、「コンプライアンス」は、この事業の最も重要な鍵の一つかと思います。


「寄付」「社会貢献」的観念があまりないこと
KIVA などでは、ソーシャルファイナンスの使われ方として、「誰からも金を借りられなかった発展途上国の個人事業者などが、P2Pで調達したお金をもとに成功しました」といった(グラミン銀行的な)ことをやっていて、なるほどそういう持ってき方もあるんだな、と思いました。

キリスト教では、「金持ちが天国に入ることはらくだが針の穴を通るより難しい」ので、「寄付」や「社会貢献」といったことが浸透しているし、「自分が出したお金が苦しんでいる人の役に立つ」というのは、必ずしも利息収入を得ることを目的にしない目的の資金提供があるかも知れません。
しかし、日本人は、マクロ的に見ると、あまりそういったことに熱心でなさそうですから、そういった方向から攻めるのも難しそうです。


事業規模
海外では「将来、ソーシャルファイナンスは金融の10%を占めるようになる」みたいな予測もあるようですが、とりあえずZOPAで会員はまだ世界中で20万人程度とのこと。

またPROSPERのトップページには、

We are an online community for lending and borrowing money, with over 780,000 members and $166,000,000 in loans funded on Prosper.

と書いてありますので、今のところ、日本円で残高180億円、一人当たり23,000円程度の残高。(上記の数字が、残高でなくて「取引量」と考えると、実態はもっと小さいかも知れません。)

仮に、残高200億円で、2%鞘を抜いたとして年商たった4億円。
今のところ、かなりショボいビジネスということになるかと思います。

多大なコンプラコストをかけて、レピュテーションリスクを冒して取り組むとなると、現在の預金770兆円の少なくとも1%(7.7兆円)程度がソーシャルファイナンスに移るような未来を予想しないと、事業としてあまり面白くなさそうです。
残高が7.7兆円で業者の鞘が2%あれば、有力事業者が3業者あるとして、1社あたり平均営業収益が500億円。これくらいの規模になれば、ちょっとした金融ビジネスという感じがしますね。


考えられるスキーム
こうした銀行の機能を代替するようなビジネスを行う場合に、ビジネスモデルを「銀行業」とするのは一見、正攻法のようですが、銀行免許を取得して金融庁の監督を受けるというのは、コンプライアンスのコストとパフォーマンスの比を考えると、ベンチャービジネスには、あまりお勧めできなさそうです。

以上の規制に関する議論をまとめる前提としては、

  • ソーシャルファイナンス事業者自身が「貸す」主体となる必要がある。
  • 貸倒れリスクを負うのが事業者ではなく資金の出し手であったとしても、信用情報へのアクセスなど、審査関連情報の処理は、事業者がかなりの部分を行う必要がある。
  • 貸付けに関する貸倒れリスク等は、事業者ではなく「資金の出し手」に負わせる。
  • 「資金の出し手」には、元本割れのリスクがあることをキチンと説明する。

ということが必要になってきそうです。

これを法的な形に落とすとすると、「みなし有価証券の私募」という形態がもっともスッキリあてはまるんではないでしょうか。(下図、ご参照。)

soc4.jpg

つまり、海外のソーシャルファイナンスのように、貸し手が借り手に直接貸付けを行うと、日本では前述の通り、出資法や貸金業法上の問題等が出てくるので、特定の個人への貸付け毎に「集団投資スキーム」を作ってその持分の募集を資金提供者に対して行う、ということです。

つまり、ソーシャルファイナンス業者は、貸金業法上の「貸金業者」及び金融商品取引法上の「第二種金融商品取引業者」としての「登録」を受けることになります。これなら、銀行免許取るよりはコンプラコストはかなり小さくて済むはず。

もちろん、資金を出してもらうにあたっては金商法に従って元本割れリスク等も、ちゃんと説明します。

前述の通り、ソーシャルファイナンス業者が一括して貸付けを行ったりDBにアクセスしたりすることが必要であるし(事実上、不特定多数の人が個人の信用情報にアクセスするのはまずいでしょうし)、有限責任性の観点からも、ソーシャルファイナンス業者が営業者となる匿名組合契約がよさそうです。

契約書も、任意組合だと他の組合員との連名が原則なので(組合員間の匿名性を保つために、二階建て組合等の複雑なことをする必要があるので)、事業者と資金提供者の相対(あいたい)契約で済む匿名組合契約の方が、ネット上の契約締結業務もフレキシブルに設計できるかも知れません。

また、「みなし有価証券の購入」ということであれば、何十回と貸付けをする資金提供者も、貸金業者登録は不要ということになるかと思います。


借金が「恥」の文化
そもそもP2Pモデルで借入をする場合、借り手にとっては自分の個人情報がどこまで第三者に開示されるか、というのが大きな問題です。へたをすると、借りる側からはソーシャルファイナンスは、「個人情報を不特定多数の人に見られる可能性のあるサラ金」にしか見えないかも知れません。
(日本人は、借金を「恥」とする人が多いと思いますので。)

「借り手の個人情報をいかに開示しないで出資者にリスクを受け持たせるか」、というバランスは、海外とはちょっと設計が異なってくるのではないかと思います。他方で、どこの誰とも全くわからない人に投資をするのでは、ネットとかP2Pならではの面白さも演出できません。

埼玉県春日部市在住 東証2部上場流通業勤務サラリーマン、35歳、大卒、自家用車保有、妻、子供小学生2人、年収400万円、消費者金融借入30万円、借家、住宅ローンなし。

等、個人名は出さないけど、借りる人のプロフィールがある程度わかる情報を出して、その人に対する貸付けを行う匿名組合に投資しませんか?という感じでしょうか。

Amazonやヤフオクのように、ユーザーレイティングを行って、

ハンドルネーム「イソピー」さんは、過去、10万円の借入を10回繰り返しているけど、どれもちゃんと完済されてます。貸付者の評価の平均「☆☆☆☆☆」
「期限までに気持ちよく返済してくれました。」
「『子供のミルク代にも困る状況だったんですが、どこの業者も貸してくれなかったので、助かりました。』という言葉をもらって、貸してよかったと思いました。」

・・・・みたいなコメントがならんで、お行儀がいい人ほどオークションで安い金利で借りられます・・・みたいな演出でしょうか。

日本じゃうまくいかなさそうな気もしますし、面白そうな気もします。
(少なくとも、サブプライムローンのように、中身が見えない二重三重のリパッケージものよりは、かなり透明感を出せるかも知れません。)


オンライン証券業者+消費者金融業者?
もう一つ、金融機関等の規制として、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」があります。

このため、金融商品取引業者(同法第2条2項20号)も貸金業者(同27条)も、本人確認義務(4条)が課せられておりますので、(外国はどうか知りませんが日本では)ネット等での申し込みだけで取引が完結するわけではなく、運転免許証のコピーや申込書などを郵送でやりとりする必要があるかと思います。
そういったことのインフラも必要。
(よく調べてませんが、「商品」の説明資料、目論見書等を1件ごとに紙で郵送しないといけない、なんて規制でもあった日には、採算やフィージビリティはかなり落ちることになりそうです。)

また、みなし有価証券の募集に係る金融商品取引業者(証券業者)としての説明義務、広告規制、その他のコンプライアンスなども、それなりにしっかりした態勢が必要になりますので、もし本当にみなし有価証券の募集というスキームが一番はまるとすると、このソーシャルファイナンスという事業は、オンライン証券会社がやるのが最もすんなり行くのかも知れません。
特に、既に数十万人単位の投資家と超円単位の預かり資産を抱えているというところが大きいかと思います。

また、業者は直接貸付けのリスクは負わないとはいえ、信用情報の照会や回収、訴訟等のノウハウは、消費者金融専業者も関与しないと厳しいかと思われます。

以上述べてまいりました通り、このソーシャルファイナンス事業は、日本ではゼロからのスタートアップベンチャーではいかにもキツそうな事業です。

上述のように、仮に「オンライン証券会社」と「消費者金融専業者」をグループ内に持つところが競争優位性があると考えると、SBIさんがProsperとJVを作られたというのも、なるほどなあ、という感じがいたします。


以上のとおり、諸外国に比べればかなりハードルは高そうですが、可能性がゼロではなさそうですし、(1500兆円という個人金融資産の量を考えれば)もしかしてもしかすると大化けするかも知れないので、夢はありそうですね。

(ご参考まで。)

August 19, 2008

明治18年の企業結合会計

「創業時の日本郵船シリーズ」の一応締めくくりとして財務編をお送りしたいと思います。

概要:

  • 「合併」だったのか?
  • 「旧会社勘定」の謎
  • 「のれん」から推察されるvaluationの不公平

-------------

日本郵船歴史博物館で買って来た「日本郵船百年史 資料」には、日本郵船設立後以来の財務諸表が載ってます。
特に注目すべきは設立時の郵便汽船三菱会社と共同運輸会社のB/Sです。
「百年も前の財務諸表をちゃんと保存しているというのは、なんと物持ちのいい会社さんだろう!」と思ったのですが、同書の解説によると、

なお本表は、本資料集の編集に際し、現在一橋大学産業経営研究所所蔵の日本郵船の明治期の会計帳簿の記録に基づいて、日本郵船株式会社稲垣純男監査役が初めて作成したものである。

とのことで、一橋大学に保存されていた資料をもとにした当時の監査役の方のご労作とのこと。


ちなみに、この稲垣氏という方、

海運業会計
海運業会計
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稲垣 純男
中央経済社
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といった著書も何冊か出されています。
(マーケットプレイスに残っていた最後の1冊を私が買っちゃったので、上記の本は現在、在庫ありません。)


「合併」だったのか?
同書の解説にも、

「創立時の資産・負債」は、明治18年9月29日の日本郵船の設立時点におけるいわば開業財産目録である。日本郵船の場合、郵便汽船三菱会社と共同運輸会社の対等合併の形態で設立され、経理上では両社の資産と負債をそのまま継承した。

とあり、郵便汽船三菱会社と共同運輸会社の結合は「合併」と説明されてますが、我々が知る会社法や商法の「合併」とはちょっとイメージが違うようです。


創立規約(合併契約書みたいなもんでしょうか)によると、

共同運輸会社ハ株主ノ議決ニ依リ其ノ社長ヨリ又三菱会社ハ其株主ヨリ両会社ノ資産ヲ以テ新ニ日本郵船会社ヲ創立候義ニ付日本郵船会社創立委員ノ間ニ協議決定スル創立スル創立規約左ノ如シ
(中略)
第七条 日本郵船会社ニ於テハ三菱会社若クハ共同運輸会社ト其他ノ者ノ間ニ取結ヒタル諸契約ハ総テ之ヲ履行スルノ責任ナキモノトス但資産授受手続中ニ明条アルモノハ此限ニアラス

とあって、今までの権利義務はすべてチャラにするとありますので、現在の合併のような「包括承継」ではなさそうですし、「両会社の資産をもって」とあるので、当事者の間では、「有機的一体の事業」をくっつけるというよりは、資産譲渡ないしは現物出資的な感覚が強かったのではないかと推測されます。
ただし、実態としては従業員や取引先などもくっついていったでしょうから、実質的には、有機的一体としての「事業」が移されたことには間違いないかと思います。


「負債」というのも、合併前の両社の負債をそのまま引き継いだものではなくて、

第五条 日本郵船会社ノ負債ハ年七歩ノ利息ヲ付シテ之ヲ五カ年ヨリ十カ年間ニ償還スルモノトス但負債証書ノ体裁其雛形ヲ具シ更ニ特許ヲ乞フヘキモノトス

とあることなどを考えると、第三者に対する負債ではなく、資産の引継ぎに際して日本郵船が三菱と共同運輸会社に延べ払いで支払う「合併交付金」のような性質のものだと想像されます。


「旧会社勘定」の謎
さて、稲垣監査役(当時)の労作である合併直前の郵便汽船三菱会社と共同運輸会社のB/Sですが、三菱側が


mitsubishi.jpg


共同運輸会社側が


kyodo_unyu.jpg


となってます。


重い船がビジネスモデルの中核を占めるので、「固定性配列法」で固定資産が上に来ていたり、あまり現在は使わない名前の勘定科目名になっていることを除けば、だいたい理解できるのではないかと思いますが、みなさんもよくわからないんじゃないかと思われる項目は、「郵便汽船三菱会社勘定」「共同運輸会社勘定」という科目ではないかと思います。


「創立規約」の第1〜3条では、

gappei_kiyaku.jpg
(出所:「日本郵船百年史 資料」)


とあって、第二条で「資本金」の額が決まり、第三条で「負債」の額が決定されてます。

第一条で資産の額が決定されているように見えますが、この創立規約が作られたのが明治18年9月25日(同29日)であり、「合併」の数日前ですから、当時の決算を想像するに、上記のB/Sに記載された実際の個別の資産の金額が、この時点で確定していたわけではありません。

今ならLAN上で本支店でデータベースを共有して、決算日後 数日で粗い決算ができるかも知れませんが、当時は、東海道線の全通が4年後の明治22年(1889年)、東京・横浜間で電話サービスが開始されたのが5年後の明治23年(1890年)といった時代ですから、全国の支店で棚卸しして帳簿を船や郵便等で送り、未着品の調整などを行う必要があったでしょうから、今のように未経過勘定などもない粗い決算でも2ヶ月から3ヶ月はかかっていたのではないかと思われます。


第四条 資産授受ニ当リ第三条に記載スル金額ニ増減ヲ生シタルトキハ其増減ノ額ハ現金ヲ以テ授受スルモノトス

と、あるので、この実際に棚卸しされた資産の額との差額を、三菱や共同運輸会社に支払ったり受け取ったりする未払金、未収金的な勘定なのかなとも思ったのですが、その後の帳簿を見ても、この支払い等が行われた形跡がない。(よく見ると第三条は、「合併交付金」のことだと思われますので、合併時の資産の明細が確定した後も、その第4条の調整は結局行われなかった、ということでしょう。)

うーん、と頭をひねってみましたが、負債・資本合計と実際の帳簿に計上する資産額との差額ですから、結局、今で言う「営業権(のれん/負ののれん)」ということになるかと思います。

よく見たら、「資料」の解説にも、この勘定の処理について説明があります。

ちなみに三菱会社の負債の部にみえる「郵便汽船三菱会社勘定」978,250円は、第1期の決算に際し「三菱会社ヨリ引継高ノ内農商務卿ノ御達ニヨリ減額」として、資産における「船舶代価」の減額に充てられた。

つまり、三菱側の資産承継にあたって発生した「負ののれん」については、農商務卿(西郷従道?)のお達しで、固定資産の船舶の金額を減額する処理にした、ということです。
結果として、船舶の簿価が約10%減少し、毎年の減価償却費(減価引除金)がその分減少することを通じて利益が多めに出る・・・つまりは負ののれんを20年償却するのと同様の効果となった、ということですね。

一方、共同運輸会社勘定のほうですが、

これに反し共同運輸会社の資産の部にみえる「共同運輸会社勘定」907,165円は、第1期決算に際し「旧共同運輸会社引継勘定」なる科目名で貸借対照表の資産の部に計上され、次期以降に繰り延べられた。そして明治26年7月の商法会社編施行後の第8期(明治26年9月)決算において「資産整理臨時損失」として費用処理されている。したがって、対等合併とはいえ、創立時点で両者の資産内容にかなりの相違が存在したことは明らかである。

ということで、こちらは償却せずにそのまま8年間、貸借対照表に残り続けました。(IFRSっぽい処理。)


「のれん」から推察されるvaluationの不公平
さて、旧三菱、旧共同運輸会社に、それぞれ100万円近い負ののれん、正ののれんが発生したということは何を意味するのでしょうか。

前述のように、この時代は粗い決算でも2〜3ヶ月前はかかっていたとすると、創立規約が作成された時点のおそらく2〜3ヶ月前の状態を元に資産額の決定が行われた、ということになるかと思います。
つまり、2〜3ヶ月間の間に、郵便汽船三菱会社では資産が100万円も増加し、共同運輸会社では資産が100万円も減少しちゃった、ということになります。

当時の100万円というのは、おそらく現在で言うところの数百億円に相当しますので、かなりハンパじゃない金額ですが、なぜこれだけの資産が増減したかというのは、つまり、この間に三菱側では利益が発生し、共同運輸会社では損失が発生していた、ということかと思います。

ダンピング合戦をしかけてきたのは共同運輸会社側なわけですが、今の感覚でいうところの月100億円近い赤字を出していた、ということだったんではないかと思います。そりゃ、なんとかしないとあきまへんわな。

こちらのサイト

渋沢栄一伝記資料 第8巻 目次詳細
http://www.shibusawa.or.jp/SH/denki/08.html

によると、明治18年(1885年)8月15日の記載として、

共同運輸会社ト三菱会社ノ角逐ハ双方多大ノ損失ヲ招キ竟ニ疲斃ノ憂ヲ生ズ。之ガ為メ政府共同運輸会社正副社長ノ更迭ヲ断行シテ局面収拾ヲ策シ、尋デ両社合併ノ外途無キヲ看取スルヤ、之ヲ両社ニ内諭ス。然ルニ三菱会社側之ヲ諒トスルモ、栄一外共同運輸会社側ノ取締役若干名ハ初メ反対ヲ唱ヘシガ、ヤガテ翻意シテ政府ノ勧諭ニ従フ。乃チ是日共同運輸会社臨時株主総会ヲ招集シ、三菱会社ト合併セル新汽船会社ノ設立ヲ決議ス。

とあります。
「双方多大ノ損失ヲ招キ」とありますが、実は、損失が発生してヤバかったのは共同運輸会社のほうで、三菱側はダンピング合戦以前よりは利益水準は落ちていたものの、まだかなりの利益率(ROA[ROEじゃなく]で年100%とか)だったんじゃないでしょうか。(総資産が600万円で2か月の利益が100万円だとして。)

ダンピング合戦後でこれだけの利益率だとすると、共同運輸会社がダンピングを仕掛ける前は「どんだけ儲けんねん!」という三菱への批判が集中したのも当然かも知れません。

一方、「合併比率」算定にあたっての事業価値評価では、上述の通り、当然のように純資産法的な考え方が採用され、三菱側には収益力を事業価値評価に結びつけるDCF法とかPER的な発想が全くなかったのか、それとも深い読みがあったのか?

もし仮に、DCF的な考え方で両社を評価したとしたら、両社の合併比率が大きく変わって、共同運輸会社もメンツ的にディールに乗れなかったかも知れません。
この「合併」によって、日本郵船は独占的な企業になったわけですから、過当競争がなくなって船の運送代金が上昇すれば、合併で持分が45%にdilutionしてもペイするという冷静な読みがあったのか?

岩崎弥太郎がこの交渉中に憤死したことを考えれば、やはり、三菱側は条件面で不利だという認識はありつつも、政府から突きつけられた合併条件を泣く泣く飲まざるを得なかった、ということなのかも知れません。

合併時のB/Sから、以上のようなことがいろいろ想像できる、というお話でした。

(ではまた。)

August 18, 2008

謎の文字クイズ

張作霖爆殺事件の時の首相「田中義一」についてWikipediaで調べたら、「他の言語」のところに何やら見慣れぬ言語が。

pic2.png


クリックしてみても、初めて見る文字でなんだかよくわからない。

pic3.png

タイ語など東南アジアの文字っぽく見えるがちょっと違うようです。

ページのソースを見ると、lang="ka"とある。
「ka」ってのも、見たことないなあ・・・と思って、ISO639の言語コード表を見てみると・・・


正解は「グルジア文字」、でした。
グルジアって、独自の文字があるんですね。

Wikipediaによると、

グルジア文字がいつどのようにして生まれたのかについて、詳しいことは明らかでない。11世紀に書かれたグルジアの年代記は、紀元前3世紀のグルジア王パルナヴァズ(Parnavaz)がグルジア文字を創ったと伝えているが確証はない。アルメニアの史書は、アルメニア文字を創ったとされるメスロプ・マシュトツ(Mesrop-Mashtots)がグルジア文字も創ったと記しているが、これも信憑性に欠ける。

グルジアでキリスト教が国教化された4世紀初めごろに創りだされたとする説が有力である。文字の順序や、ギリシア文字に対応するべき、本来ならばグルジア語には不要な文字があることなどから、ギリシア文字を参考に創られたと推定される。また、円弧と直線の組み合わせという原則に忠実に創られていることから、何らかの別の文字が形を変えたものではなく、独自に創りだされたようだ。

と、かなり伝統ある文字のようです。

旧ソ連なのに、キリル文字に駆逐されなかったんですね。
(旧ソ連で、他に独自の文字を持つ国ってあるんでしたっけ?)

---

さて、なぜ「田中義一」というマニアックな項目がグルジア語になっているのでしょうか、ということですが。
「長年ロシアの圧迫を受けてきたので、フィンランドやトルコなどと同様、親日派だ」といったことなのかと思って、「東郷平八郎」の項目を見てみたんですが、これはグルジア語の説明はないんですね。
Wikipediaには、「東郷ビール」も「伝説」だと書いてあります。(日本人が思っているほど、日本は海外で好かれてないんでしょうね。)

田中義一の項目の下部に、「日本の歴代内閣総理大臣一覧」らしき囲みがあるので、単に日本の首相を並べただけかも知れません。田中義一はロシア留学していたそうなので、ちょっとはソ連圏で有名なのかも。

Wikipediaのグルジア語のページ一覧はこちら。

Google site:ka.wikipedia.org/wiki/


Googleで一番上に表示される項目が、これまたなぜか「Lyndon B. Johnson」です。

(ではまた。)

August 14, 2008

代々木公園ドッグラン

dog_run1.jpg

東京周辺最大とのうわさの代々木公園のドッグランに行って参りました。


dog_run2.jpg

確かに、広い。思いっきり走れ回れます。

dog_run3.jpg

(人間用ベンチは、新銀行東京寄贈。)

(ではまた。)

August 13, 2008

「会社法がない時代」の「会社」

「日本郵船と商法・会社法の歴史」シリーズで、日本郵船歴史博物館のミュージアムショップで「日本郵船百年史 資料」を見つけて、「宝のありかをしるした古地図を発見した少年のような気持ち」になっている磯崎です。

さて、大杉先生からご紹介いただいた本;

会社の誕生 (歴史文化ライブラリー)
高村 直助
吉川弘文館
売り上げランキング: 287422


が、Amazonから届きましたので、若干、今までの補足と訂正を。

  • 商法施行以前に「会社」の概念はあったか?
  • 50円額面の普及は日本郵船の設立がきっかけか?
  • 日本郵船の大株主の議決権制限は政府のインボーか?


商法施行以前に「会社」の概念はあったか?
明治26年の商法会社編の施行までは会社を規律する総合的な法律がなかったので、「法律が無いんだから、そもそも法人格や有限責任といった概念自体が存在したのかなあ?」と思っていたのですが、個別の法律や認可等で「会社」という概念はあったようです。

最も初期のものが「国立銀行条例」で、その第18条第12節で、

銀行の株主等は縦令(たとえ)其の銀行に何様の損失あるとも其の株高を損失する外は別に其の分散の賦当は受けざるべし

と、「明確に有限責任であることが規定されている。」(P43)ので、「会社」や「有限責任」という概念は、(一般人にどれだけ浸透していたかはともかく)、すでに明治5年には存在していた、ということになります。

ただし、会社についての有限責任概念については、かなりテキトーだったようで。

明治4年の廃藩置県の直後に、府県の地方官の任務を定めた「県治条例」が定められたそうですが、その細則の「県治事務章程」に「諸会社を許す事」と書かれており、「特別に法令で定められた会社は別として、一般の会社については、地方官が許可してよいと考えるか、あるいは判断に迷う場合は、処分案をつくり主務省に稟議のうえ、許可を得れば施行せよと定めているのである。」ということだったようですが(P47)、

明治10年に「神奈川県は内務省に対して、『官許』の会社でも有限責任・無限責任を規則で取り決めていない場合は無限責任と見なすべきか」との伺いを出したところ、内務省は司法省に紹介し、司法省は、

官許の有無を問はず、該社則定款又は申合規則中有無限の明文掲条無き分は、条例[会社法]発行迄は其の責任総て各自所有の株高にとどまり候儀と相心得可き旨指令致す可し

と、「無限と書いてなければ有限責任でいいんじゃない?」と回答してます。(P57)

ところが、株主の責任について第三者にちゃんと伝わってない場合に会社が倒産して、債権者に「有限責任ですからここまでしか返せません」と言ったら、当然、債権者はブチ切れるわけで、そういうトラブルもあったようで(P58)、

明治19年あたりには、社外の者に対して有限責任が適切に通知されていない場合には、たとえ府知事の認可があったとしても有限責任とは言えない、という大審院の判決が出てます。

これは、有限責任という概念自体があまり普及していなかったであろう時代の債権者を保護するにはいいですが、逆に、株主としてはおっかないことこの上無い。定款で有限責任をうたって役所の認可を受けて設立しても、倒産したら無限責任を負わされる可能性があるというのでは、怖くて出資できたもんじゃありません。

(つまり、日本郵船の設立時には西郷従道の命令書で有限責任がうたわれているので、それで安心かと思っていたのですが、商法施行までは、日本郵船の株主は潜在的に非常にリスクのある状態におかれていたわけです。)

こういう黎明期のドタバタを見ると、「会社法があるといかにありがたいか」ということがよくわかりますね。


50円額面の普及は日本郵船の設立がきっかけか?
また、国立銀行条例では第5条第1節で

国立銀行元金の株高は百円宛を以て一株となし

とあるので(P43)、この後に設立された会社は100円額面の会社が多かったようです。

同書で引用されているチェクパイチャヨン氏の「明治初期の会社企業」という論文で、明治2年〜13年までに設立された国立銀行を除く81社を分析したところ、株式を発行している60社の額面は20円から1500円までに分散されているが、次第に100円に収斂する傾向があり、明治9年から13年までに設立された32社のうち、50円額面の会社は1社しかなかった(P65)とのことなので、もしかしたら50円額面を採用した明治18年の日本郵船の誕生が、その後の50円額面という慣習に大きく影響しているのかな、とも思ったのですが、ちょっとなんとも言えません。

同じく引用されている宮本又郎・阿部武司氏の「明治の資産家と会社制度」という論文によると、明治14年〜明治25年設立の株式を発行している48社のうち、50円額面が19社(39.5%)と、100円額面の16社(33.3%)を抜いているので、このへんの時代が50円額面の普及期ではあると思います。
日本郵船設立時の資本金1100万円というのは、今で言うと多分、数千億円とか数兆円といった金額で、当時の銀行以外の会社の資本金としてもトップクラスのデカさだったので、日本郵船が50円額面を採用したことは、それなりに影響があったかも知れません。

また、明治23年施行の商法では、資本金10万円以上の会社は額面50円以上の等額額面とすることが定められ(原則は20円以上)、その後、明治32年の「新商法」施行で、すべて50円以上の額面とされたことが大きいかと思います。


日本郵船の大株主の議決権制限は政府のインボーか?
日本郵船の定款では、大株主の議決権に100個の上限が設けられていたので、これは政府の三菱イジメのための規程ではないかと思ったのですが、大杉先生もご指摘の通り、必ずしもそれだけとも言えないようです。

同じく大杉先生からご紹介いただいた


株主間の議決権配分―一株一議決権原則の機能と限界
加藤 貴仁
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によると、そもそも国立銀行条例は明治5年の最初のバージョンでは、1株1議決権を定めていたが、9年の改正で後の日本郵船設立時と同様の、大株主になるほど逓減していく方式になっていたそうです。(P6)

「会社の誕生」でも、

国立銀行条例は一株一票制を定めており、その後は一時はそれを引き写したケースが多かったものの、在来の慣行と大きく異なる制度はそのままには普及しなかったと見られるのである。(P63)

としています。「在来の慣行」というのは、みんなでよりあつまって一出資者一票的に議論していた人的な会社の慣行というイメージでしょうか。
このあたり、やはり日本社会では、放っておくと「特殊決議」的、一株主一議決権的な方向(「金持ってりゃ偉いってもんじゃねーぞ」「みんな、会社に出資する仲間じゃないか」的な方向)に引きずられる傾向があるのかも知れません。

ということで、こうした議決権の制限が、当時ユニークなものだったかというと、そうではなかったんでしょう。

しかし、私がExcelでせっせと推測させていただいたように、岩崎家(久弥+弥之助)で36.8%と、まあまあの量の株式を保有していたのにも係らず、二人とも「100個の上限」に引っかかって、議決権比率に換算すると計5%未満の議決権しかなかったわけです。

60,917株の岩崎久弥(議決権100個)と10株の株主(議決権1個)では、609倍!もの「1株の格差」があるわけですし、そもそも合併前の三菱側にはそんな規定があったとは思えないことからすると、三菱側がこの規定を喜んで飲んだとは私にはとても思えません。

もう一つ、三菱商事さんのサイト「三菱人物伝」vol.22 渋沢栄一と彌太郎で、

権限とリスクは一人に集中すべきと確信する岩崎彌太郎。多くの人の資本と知恵を結集するのが近代経営と説く渋沢栄一。明治の日本経済を代表する二人の実業家は、事業経営に全く異なる信念を持っていた。

という記述を見つけました。

一見、渋沢栄一の考え方の方が「民主的・近代的」に見えますが、現代の(特に「アメリカっぽい」)資本主義の考え方では、「株主"数"が多いほど知恵が結集される」という考え方は皆無かと思いますし、むしろ、優秀な経営者には強力な権限を持たせて、その代わりに社外取締役などがガッチリ見張るコーポレートガバナンスの方がいいとされているかと思います。

明治期の「取締役」が本当に経営者を「取り締まる」社外の識者等だったとすると、岩崎彌太郎ないし三菱のコーポレートガバナンスの考え方の方が「現代的」だったと言えるかも知れません。

ところが結果として日本ではつい最近まで、「在来の慣行」ないしは「渋沢栄一的」ないしは「人的会社」的な「利害関係者がみんなで知恵を出し合って」というコーポレートガバナンスの考え方の方が主流になっていた・・・・ということでしょうか。

以前も申し上げた通り、日本郵船の"合併"による設立においても、半官半民の「共同運輸会社」側の定款がそもそもそうした(渋沢栄一的な)議決権逓減型の規定になっており、株主も桁違いに多数いたのでしょう。
こういう場合の"合併"においては、当然、「特殊決議」的な(「少数株主が力を持てるっていうから出資したのによー」的な少額多数の株主の)力が働くので、そちらに合わせざるを得なかった、ということかも知れません。

この「合併」直前の両社の貸借対照表も「資料編」に記載があって、これがまた両社の合併前の財務状況を垣間見せてくれて大変興味深いのですが、その話はまた機会があれば。

(ではまた。)

August 12, 2008

ソニック・ヘッジホグ

最近、うちのテレビが地デジ対応になった最大の利点が「放送大学」。

画質がクリアになっただけでなく、最大3チャンネルに分割されて(つまり同時間帯に3つの授業を平行して流せるようになり)、しかも(やっと)EPG対応しました。

以前は、新聞の番組欄で「ちょっとおもしろそうだなー」と思った番組があっても、さすがに時間や分をビデオに入力して録画するのはしんどかったわけですが、今はリモコンのボタンを押すだけで録画してくれて、次回からの分は機械が気を利かせて録画してくれるのであります。

これが見出したら止まらない。

日本のテレビ番組(特にバラエティ)は世界的に見ても非常に面白いと思って拝見してるのですが、放送大学の番組の中身の濃さの前には、1回1千万円単位のお金をかけたテレビ番組も比較的中身の濃いブログも、申し訳ないですが、ちょっと霞んじゃいます。(講師の方が今までの人生でそのテーマについて学んで来た膨大な時間まで含めれば、コンテンツ制作にかけられている時間が桁違いなので、比べる方がかわいそうではありますが。)

こないえーもんがタダで見られる日本に住んでいるというのは、大変ありがたいことであります。

同時に、大学の授業というのも「情報サービス」である以上、一つのことに関しては「最高の先生による最高の授業」が一つ(とまでは言わなくてもいくつか)ありさえすれば、全国で何十、何百も同じような中途半端な内容の授業を中途半端な先生が教える必要はまったくない、と言えるかと思います。
つまり、インターネットの発達で構造が大きく変わりつつある他の情報サービス産業(テレビ、新聞、雑誌、音楽等)と同様、大学というサービスも今後数十年で大きく(つまり例えば、地域等による「fragmented」な市場構造から、特定のセグメント毎の「一人勝ち」的な市場構造の方向に)変わっていくことは間違いないでしょう。
(大学のような制度上の制約が少ない学習塾では、すでにかなり系列化が進んで来ているかと思います。)


さて。で、本日見てたのは7/31日放送の「脳科学の進歩」第15回。
神経細胞が分化していくときに働くタンパク質の名前が「ソニック・ヘッジホグ」という名前だそうで。(下図参照。)

sonic_hedgehog.jpg
(出所:Wikipedia)

Wikipediaで見たら、

The first two discovered, desert hedgehog and Indian hedgehog, were named for species of hedgehogs, while sonic hedgehog was named after Sega's video game character Sonic the Hedgehog.

・・・だそうです。(下線部筆者。)
もともと、先に2つのhedgehogという物質が見つかっていたので、シャレで3番目はセガのゲームの名前から付けた、ということですね。

(追記:cf. 他に、以下のようなのもあるようです。
ピカチュリン
ポケモン遺伝子


日本のコンテンツって、やっぱり世界的に影響与えてますね。:-)

(ではまた。)

August 7, 2008

「いしたにまさきのブロガーウォッチング」に載せてもらいました

インプレスビジネスメディアさんの「Web担当者Forum いしたにまさきのブロガーウォッチング」のコーナーで、
「第4回 底流にテーマを持つことが重要/磯崎哲也さんのブログ論」
という私めのインタビューを公開していただきました。

http://web-tan.forum.impressrd.jp/e/2008/08/07/3653

ご笑覧いただければ幸いです。

(ではまた。)

August 5, 2008

日本郵船と商法・会社法の歴史(その3)

さて、2つ前のエントリでご紹介した、1885年(明治18年)の設立時の日本郵船さんの原始定款における議決権の定め

第四十四条 株主総会ニ於イテ投票ヲ為スニ当リ其所有株数十株ニ付一個ノ投票権ヲ有ス十一株以上二十株迄ハ毎十株ニ一個二十一株以上百株迄ハ毎二十株ニ一個百一株以上千株迄ハ毎五十株ニ一個千一株以上五千株迄ハ毎百株ニ一個五千一株以上総テ毎二百株ニ一個ヲ増加シ一人ニシテ百個ヲ極度トシ其余ハ投票ノ権ナキモノトス但代理ヲ受ケタル株数ハ其ノ人所有ノ株数ニ通算シテ本文ノ例ニ拠ルヘシ

で、10株1議決権が株数が増えるごとにだんだん逓減していって、100議決権が上限ということはだいたいわかりますが、これによって、岩崎家などの大株主にどの程度の議決権希薄化効果をもたらすのか、Excelでシミュレーションしてみました。


まず、株主名簿の上位30名は以下のようになってまして、創設者岩崎弥太郎の長男久弥が1位で60,917株、株式数で27.7%を保有してます。

NYK_shareholders1.jpg


株主名簿には「三菱社長」となっていますが、なにせ当時商法も会社法もないわけですから、この「社」という概念は法律上なんだったのかよくわかりません。法律がないんだから「法人」があるわけもなし。会社としての所有なのか個人としての所有なのか、そのへんの区別を当事者が明確に有していたのかどうかはナゾであります。この後の株主名簿でも、頻繁に上位株主の氏名が変わっているのですが、当然、法人が保有する株式をオーナーに譲渡した場合に給与として課税されるとか、贈与や相続の場合に株式をどうvaluationするか、といった税法の概念もあったかどうかわからないので、結構自由に株式が移動できたのかも知れません。

二位に「大蔵省総務局整理課長」の名前が見られますが、これは三菱が合併させられた相手(政府、三井、渋沢栄一などが組んだ半官半民の「共同運輸会社」)の4割を政府が所有していたためでしょう。

もっと出資してるかと思いましたが、渋沢栄一が26位で572株(0.3%)です。
この会社、22万株で資本金1100万円ですから「50円額面」ですが、「50円額面」の風習は、この時にはすでに形成されていたわけですね!
少ないといっても、572株×50円で28,600円で、物価がざっくり1万倍として今の約3億円ですから、渋沢栄一、やっぱお金持ちですね。

「日本郵船百年史資料」に載っている設立時の株主名簿は、25株以上の株主だけで604人、202,201株で73.5%であります。25株未満の株式が17,799株あるわけです。

「日本郵船百年史資料」では、「株主数 不詳」となってますが、株数が小さくなるほど出資しやすくなるでしょうから、私が適当に仮設値を当てはめたところ、25株未満の株主が3000人くらい、計3600名くらいの株主がいたのでは?と推測されます。


さて、上記の原始定款第四十四条の「暗号」を数式に変換すると、結果、下記の表のように、最初は10株、次に20株、50株、100株、200株ごとに1議決権が発生し、12,200株で上限の100議決権になることになります。
上記の株主名簿のとおり、この100議決権の上限にぶつかるのは、上位3株主になります。


NYK_giketsuken.jpg


これをEXCELのVLOOKUP関数で各持株数に割り当てた結果を先ほどの上位株主の表にくっつけると下記の通り。株主名簿に載っている604人の株主の議決権総数は3,165個になります。
また上述の私の仮設値をベースに25株未満の株主の議決権数を推測すると、だいたい1,000個ちょっとになり、合計で4,300個ほどの議決権が存在したのではないかと推測されます。


NYK_shareholders2.jpg


岩崎久弥+弥之助で36.8%という、まあまあの量の株式を保有していたのに、二人とも「100個の上限」に引っかかってしまいますので、議決権比率に換算すると4.6%程度の議決権しかなかったと推測されます

また、上位30株主で20%を切る議決権しか持ってないことになります。
(昨今なら、「買収防衛策の導入の検討が必要」、ということになるかと思いますが。)


大杉先生のコメントに曰く;

明治時代には、本来的な意味での募集設立が行われていて、地元の名士が発起人となり、富裕層が株式引受人になっていたようです(高村直助「会社の誕生」161頁)。


会社の誕生 (歴史文化ライブラリー)
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この1885年(明治18年)の日本郵船会社の設立は、「合併」による設立ですが、その前の「九十九商会」とか「共同運輸会社」の設立時には募集が行われたんでしょうね。
会社法や金商法によって、株主の権利が保護されなかったり募集時の開示義務などが強制されないのであれば、「金をかき集められるだけかき集めちゃった方が得」なので、「株主は多ければ多いほどいい」ということになるかと思います。
現代のベンチャーの資本政策では「株主数は少なければ少ないほどいい」というのを基本にせざるを得ないと思いますが、これはまさに「規制」によって形作られたものかも知れませんね。

また、「インベスタマー(investor+customer)」という概念はホリエモンの発明と思われてますが、規制の無い資本主義という原点に立ち返ってみると、ビジネス上関係する人にインセンティブを持たせるために株をばらまこうという発想が生まれるのは当然とも言えます。

ちなみに、「日本郵船百年史資料」では、日本郵船会社設立時の株主が、元の三菱の株主なのか「共同運輸会社」の株主なのかは示されていません。

株主名簿に各株主の住所(県)が載っているのですが、不思議なのは、岩崎弥太郎の出身地である高知在住の株主が604人中、一人もいない、ということ。

ベンチャー創業者は故郷では評価されなかった、ということかも知れませんし、高知県の所得水準が低くて資金の出し手がいなかったということかも知れません。

また逆に、オーナー経営者としては持分を分散させるのは損なので、内輪だけで持分を抱え込んでいて旧三菱側の株主数はそんなに多くなかった(つまり規制がなくても株主数を減らそうというインセンティブは働く面がある)けれど、合併相手の半官半民の「共同運輸会社」の方が、後発のデメリットを取り返すために「インベスタマー戦略」をとって、日本各地の取引先に株をばらまいた(つまり、新会社の株主3000人前後の大半は旧共同運輸会社の株主だった)、ということかも知れません

博物館の資料では、「共同運輸会社の持分の4割を政府が保有していたので共倒れを恐れて」とありますが、ダンピング競争で疲弊して万が一共同運輸会社が倒産し、全国数千人の「インベスタマー」(おそらく各地の名士)にキャピタルロスが発生すると、明治政府の信用に関わる、ということもあったのかも知れません。

続けて大杉先生曰く;

議決権数のキャップは、明治政府が採用させようとしたもので、明治初期に広く見られたようですね(加藤・前掲7−12頁)。当時のドイツ法やフランス法でも可能だったようです。

その議決権数のキャップの考え方は、もしかしたら、当時のガバナンスの考え方の潮流と言うよりは、ずばり、新会社日本郵船会社における岩崎家の影響力を抑えようという明治政府の意図からスタートしたのかも知れませんね。
一方、その効果の副作用として、新会社の株式のうち明治政府が保有する52,000株(持株比率で23.6%)にもやはり100株のキャップがかかってしまって、議決権比率では2.3%程度にまで影響力が低下してしまってます。
(現代であれば、逆に「政府には拒否権付の黄金株を持たせろ」とかいいそうですが。)

株主は全国に散らばっていて、議案を細かく説明する法的な義務もなく、電子投票はおろか鉄道すらまだほとんど無い時代となれば、結局、委任状も含めても株主総会に出席する株主は東京周辺の大株主中心になり、社長に政府の息のかかった人間を社長に送り込んでおけば、新会社に対する政府の影響力も行使できると踏んだのかも知れません。

しかし、結果として後年、日本郵船は三菱グループに復帰します。旧三菱出身の役職員の結束が固くて、株式数によるガバナンスが働かなければ、当然、そっちの方向に行ってしまう、ということでしょうね。

大株主の影響力を弱める「キャップ付逓減型議決権株式」というのは、一つのコーポレートガバナンスの形態の模索だったのかも知れませんが、結果として、「会社は株主のものというより、役職員のもの」という日本のガバナンスの風習も、この明治初期に三菱・共同運輸会社が合併させられたことに源流があるのかも知れません。

(ではまた。)

August 4, 2008

日本郵船と商法・会社法の歴史(その2)

昨日の記事に大杉先生からいただいたコメント;

この議決権の定め方は、持株数が増えるとともに議決権数が逓減し、100個でキャップするというものですよね。
昭和25年改正までは法律がスカスカだったために、そのような定めも許されていて、実際そのような定款規定を置く会社は多かったようで、それによって一部の大株主によって会社が専断的に運営されにくいという安心感を一般の投資家に与えていたようです。(加藤貴仁『株主間の議決権配分』より)。
 
株主間の議決権配分―一株一議決権原則の機能と限界
加藤 貴仁
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我々現代人は「株数が議決権数に比例するのはあたりまえ」という頭になっちゃってますが、「そうでない選択肢」もありうる、ということですよね。


(このアイデアを西郷従道や日本郵船の人が思いついたとも必ずしも思えないのですが、当時のドイツでこういうのが流行ってたということでしょうか?)

ただ、この一株主当たりの議決権数にキャップを儲けると「特殊決議」的効果が出て、「3分の2の賛成が必要」というような決議を導入すると、可決が難しくなっちゃうんでしょうね。

昨日ご紹介した日本郵船百年史の資料に、日本郵船設立時の株主名簿が全員実名で載っているのですが、25株以上保有する株主だけで、なんと600人以上もいてビックリ。

今時は、証取法/金商法上の「公募」に該当しないように、設立時はせいぜい5名とか10名程度くらいまでの株主数に抑えておくのが資本政策の王道じゃないかと思いますが、募集に関する規制がないと、設立と同時に1000人オーダーの株主、ってことになるんだなあ、と。

しかも載ってる株主が1位の「岩崎久弥」以下全員個人だ!・・・・と思って良く考えたら、商法がまだない時代なんだから法人株主はいなくて当然なんだろな・・・・・と気づきました。

こういうコーポレートビジネス黎明期の資料を見ると、現代人は知らないうちに、いろんな「常識」でがんじがらめになってるんだなあ、と気づかされます。

(ではまた。)

August 3, 2008

日本郵船と商法・会社法の歴史(日本郵船歴史博物館、すごくいい!)

いつか入ってみたいと思っていた横浜にある日本郵船歴史博物館に、ついに本日行ってきました。

20080803s.jpg


(弊事務所の大家さんが日本郵船さんだからおだてるわけじゃないですが)、ビジネスをやってる人なら、この博物館は一度は行った方がいいと思います。私はかなり感動しました。

「日本郵船が日本の洋食史にどういう影響を与えて来たか」等、いろんな展示があるんですが、全部書くと膨大な量になるので、今回は、商法・会社法上の発見のみ記載します。


日本郵船の沿革の概要
単に「日本郵船は三菱グループの運輸部門」と理解してらっしゃる方も多いかと思いますが、三菱グループの創業時には、そもそも「三菱=海運事業」だったわけです。

創始者岩崎彌太郎は、1870年(明治3年)に土佐藩から分離した回漕問屋「九十九商会」の経営をまかされてましたが、翌年1871年に廃藩置県とともに会社を引きついで(つまりMBO?して)「旧土佐藩士の組合結社となる」とあります。
このあと、1874年(明治7年)には、政府から台湾出兵の軍事輸送を政府から委託され、(政府系の日本国郵便蒸気船会社は、腰が引けていた模様で)、政府から信頼と保護を得て急成長し、独占的地位を得ていきます。

しかし1881年に明治十四年の政変が起こり、伊藤博文らが、三菱と仲が良かった大隈重信を追放し、政府は一転して三菱イジメに入ったようで、
政府、三井、渋沢栄一などが組んで半官半民の「共同運輸会社」を設立し、ダンピング競争を展開。
日本海運の共倒れを心配した西郷従道農商務卿(西郷隆盛の弟)が両社を呼んで、合併を提案した、とのこと。

私は、岩崎彌太郎は三菱グループの創始者として大もうけでウハウハの人生を歩んだのだとばかり思っていたのですが、国民や政府から儲け過ぎ批判されて、「俺を国賊呼ばわりするなら、船は全部焼いて、残りの財産は全部自由党に寄付するぞ!」的なことを言い、この年、失意のうちに50歳の若さで亡くなったんですね。
(三菱グループの人には怒られるたとえかも知れませんが)、今で言えば村上ファンド的な(「国の為にやってるのに!」という)感じで、さぞや悔しかったのではないかということが、博物館の展示から伺えます。

この西郷従道の調整の結果、両社が合併して、1885年(明治18年)「日本郵船会社」が誕生します。

早稲田大学(東京専門学校)の設立は1882年ですが、大隈重信が下野したことがきっかけという意味では、日本郵船と早稲田大学は、設立の原因を一にすると言えるかも知れません。


商法・会社法の源流
さて、展示で目を引いたのが、この日本郵船会社の設立の「創立願書」「命令書」「定款」であります。

Wikipediaの「商法」を見ると、

1881年4月、外務省嘱託であったドイツの法学者で経済学者でもあったヘルマン・ロエスレルに商法起草を依頼したのである。彼はドイツの商法を基(破産法などはフランスによる)にした草案を1884年1月に完成させた。この草案を基にして1890年に成立したのが、旧商法と称される「商法」(明治23年法律32号)である。この商法は「商ノ通則」「海商」「破産」の3部で構成されていた。これを審議した元老院では、施行を翌年1月からと定めた。

とあります。

つまり、日本郵船は、商法が施行される5年以上前に(つまり商法や会社法がまだ存在しないのに)設立されたわけです。
(というか、当時の日本はまだ商法どころか、憲法も帝国議会も存在しなかった。)


ミュージアムショップで「日本郵船百年史資料」という900ページ超の古書を5000円で売っていたので、つい買ってしまったのですが、これがまたかなりディープでいい!んですが、

この本には、設立以来の資本金、株式数の推移、取締役会議事録、決算などの資料が載っていて、この「命令書」も載ってます。今で言う「合併契約」と「日本郵船だけに適用される会社法的な内容」が含まれていて感動的です。

この命令書に基づいた日本郵船の「原始定款」も載ってます。

同書の解説によると、

日本郵船の設立時の、いわゆる原始定款は、命令書にそくして命令書公布日と同じ明治18年9月29日に作成され、同年11月7日に農商務卿の許可を得たもので、銀行を除くと、日本におけるもっとも初期の株式組織会社の定款として、重要かつ歴史的意義をもつものである。(中略)
ことにこの時期には海運関係の諸法規が整備されておらず、また商法も公布以前であるので、この原始定款は、非常に広い範囲の諸規定を定款のなかで成文化しており、全9章50条に及び、内容的にも詳細なものである。(中略)
第6章「株主権利及責任」、第8章「計算」などにおいては、のちの商法会社編において法制化される諸規定が全面的に定款として記載されている。
(中略)
この商法会社編の施行(注:明治26年7月1日)に際しては、時の内閣総理大臣伊藤博文が法の規定する株式会社の企業形態のモデルとして日本郵船に多大の関心をもち、この定款の作成について明治26年10月14日逓信次官、内閣書記官長および日本郵船の社長、理事以下を招いて逐条審議したといわれる。

と、あります。
(現代では、例えば「ファンドがビジネスのvehicleとして非常に重要になってきている」ということでも、総理大臣が有力ファンドの社長を呼んで組合契約書の内容を「逐条審議」する、なんてことはないでしょうね。)


具体的に定款を見てみると、

第一条 当会社ノ名称ハ日本郵船会社ト称スヘシ

とあります。ただの「会社」だったのですが、明治26年の商法会社編の施行とともに、「日本郵船株式会社」に社名変更してます。

第三条では、

第三条 当会社ハ有限責任トシ当会社ノ負債弁償ノ為メ株主ノ負担スヘキ義務ハ株金全額ニ止マルモノトス

と、有限責任制がうたわれています。
当然、会社の定款に書くだけで有限責任が第三者に対抗できるわけもないですが、前述の西郷従道の命令書第一条に
「其会社ノ責任ヲ有限トシ負債弁償ノ為メ株主ノ負担スヘキ義務ハ株金全額ニ止マルヘシ」
と書かれているのでOKということなんでしょうね。

草案が策定されたばかりの当時、非常に「cutting-edge」な商法の草案が取り入れられた、ということかと思います。西郷従道(?)、いい仕事してます。

株主平等原則については、現在と若干考え方が違うようで。

第三十七条 総会ハ株主総体ノ権利ヲ表明スル為メ十株以上ヲ所有スル株主ノ集会ニシテ之ヲ例式臨時ノ二種ニ分ツ

というところまでは、現代の株主総会で10株1単元とした場合と同様にも思えますが、

第四十四条 株主総会ニ於イテ投票ヲ為スニ当リ其所有株数十株ニ付一個ノ投票権ヲ有ス十一株以上二十株迄ハ毎十株ニ一個二十一株以上百株迄ハ毎二十株ニ一個百一株以上千株迄ハ毎五十株ニ一個千一株以上五千株迄ハ毎百株ニ一個五千一株以上総テ毎二百株ニ一個ヲ増加シ一人ニシテ百個ヲ極度トシ其余ハ投票ノ権ナキモノトス但代理ヲ受ケタル株数ハ其ノ人所有ノ株数ニ通算シテ本文ノ例ニ拠ルヘシ

と、株数に完全比例の議決権ではなく、持株数が増加するにつれ「おまけ」が付くようなんですね。

計算や分配可能額的な考え方も取り入れられています。

第四十七条 当会社ハ総テ複記ノ法ヲ以テ明細正確ナル帳簿ヲ製シ置キ政府ノ監査官又ハ株主ノ検閲ニ供スヘシ

「複記ノ法」というのは当然、複式簿記のことでしょう。博物館には当時の帳簿のレプリカも展示されていて趣深いです。

「配当可能利益」的な記述もありまして、

第四十九条 当会社ハ毎年九月三十日限リ其ノ損益ヲ計算シ総収入金ノ内ヨリ通常海陸ノ経費並ニ左記ノ金額及ヒ毎年負債元利償還ノ額ヲ引去リ自余ノ純益金ヲ以テ各株主ニ配当スヘシ但負債元利ヲ償還シ了ル迄配当金ハ八分ヲ以テ限リトナスヘシ
第一 保険積立金
汽船帆船トモ船体保険準備トシテ一箇年ニ付各船代価ノ百分ノ七ヲ積立ヘシ
第二 大修繕積立金
当分船舶大修繕及ヒ新船購入ノ準備トシテ一箇年ニ付各総船代価ノ百分ノ十ヲ積立ヘシ
第三 減価引除金
船価年ヲ遂テ逓減スルカ故ニ各総船代価ノ百分ノ五ヲ引除ヘシ

これは、よく読むと、

  • 総収入から引く金額に、利息だけでなく元本も含まれている、
  • 保険積立金というのは、当然「保険料」のことではなくて、自分でリスクマネジメントのために船の取得額の7%を毎年積み立てろ、ということかと思います。(Wikipediaによると1879年8月に「東京海上保険」設立とありますので、日本郵船の設立より早いのですが、この東京海上の保険は利用されていたんでしょうか?船体の保険料は社外流出してなかったんでしょうか?興味深いです。)
  • 「大修繕積立金」には「新船購入ノ準備」まで含まれている

ということからも、今の会計基準の利益概念よりも、資産性のある部分まで利益から差し引いた概念とし、内部留保を厚くとれるような決まりにしていたということですね。

減価引除金(減価償却費)は、20年の残存価格無し定額法、といったところでしょうか。
当然、まだ減価償却なんて概念が一般に知られているはずもないわけで、「船価年ヲ遂テ逓減スルカ故ニ」と、定款の中で減価償却の必要性を解説しているところがカワイイ気がします。

また、以上の引当等は、最重要資