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October 31, 2007

個人投資家が企業を振り回す?

昨日は大阪の方で講演会の講師としてお呼ばれして日帰りで行って参りましたが、帰りの新幹線で「WEDGE」の今月号を読んでいたときに出会った記事がこれ。

wedge.JPG

■ 企業を振り回す ギャンブル化進む個人マネー
大流行の投信、先物、為替取引 ツケを払うのは誰か
「貯蓄から投資へ」--。官民を挙げたキャンペーンの末に現れたのは、堅実な投資とは似ても似つかない“丁半博打”に狂奔する主婦やサラリーマンの姿。
かねてより人気の新興国株投信やFX(外国為替証拠金取引)だけではなく、日経平均先物を小口化した「ミニ日経」も大流行だ。ギャンブル化した個人マネーが、市場の変動を激しくし、企業経営に悪影響を及ぼすなど実体経済をも振り回しはじめている。バブルが崩壊すれば、そのツケを払わされるのは個人投資家にほかならない。

例えば個人が取引するFX(外国為替証拠金取引)が外国為替市場にも影響を与えて、価格変動を増幅させ、それによって企業が迷惑している、というようなことが書かれてますが、ホントかしらん?

もちろん「個人投資家がよくリスクを理解しないで投資すると危険ですよ」というのには大賛成ですし、現在、個人投資家が行っている取引が倫理的に「悪い」というのであれば主観の問題ですので横に置いておくとしても、「企業を振り回している」かどうかとなると客観的な事実のお話。

FXは証拠金に対してレバがかかる(多ければ数十倍以上な)のでその分影響がでかくなるにしても、為替市場のような巨大な市場に、果たして個人投資家の影響力が及ぶのかというと、すんなりとは納得できないところです。

「ファンドによる投機的資金が企業を振り回している」というならわかるんですが、個人投資家ってのはどうなんでしょうか。レバなら、ファンド等もかけてるでしょうし・・・。


今現在、きちっとした反証ができるだけの知識を持ち合わせていないので、今後、以下のような点を注視したいなと思います。(文献、データ等、ご存知の方は教えていただければ幸いです。)

  • そもそも、FXで投資する投資家からFX業者や証券会社を通じて為替市場に影響を与える経路とメカニズムを私自身がよく理解していない。(株式であれば取引所があるのでわかりやすいが、FXは(取引所もあるが)単一の場所で「板」的なもので価格形成が行われているわけではないと理解しているので、「影響」を与えるプロセスのイメージが今ひとつわかない。)
  • 為替取引の全体像とFXの取引、個人投資家の取引の量の統計的データ
  • 個人投資家の行動パターンとボラティリティへの影響。(機関投資家等と考え方の異なる個人投資家が参入することは、むしろ、市場の触れ幅を滑らかにし、ボラティリティを下げる効果があるんじゃないかと想像してました。時価総額わずか数億円の小型株なら、個人投資家の大口の売買で「振り回される」かも知れませんが、はたして、為替市場を振り回す力があるのか??)

(ではまた。)

October 29, 2007

「適合性原則」的観点から見た「NOVA」と「広告」と「破たん対応」

NOVAが会社更正法の適用を申請したということで、改めてEDINETで開示されている有価証券報告書を見てみました。
(ちなみに、定款上の商号は「株式会社NOVA」ですが、EDINETには「ノヴァ」で登録されてます。つまり、「NOVA」「ノバ」で検索しても出てきません。)


主要な経営指標等の推移(一部)

nova1.jpg
 

財務構造を簡単に図示すると、下図のとおり。

nova2.jpg

「NOVAうさぎ」をはじめとして大々的にテレビなどでCMをしている会社なので、一般には「非常に好調な会社なのだろう」と思われていたのではないかと思いますが、財務データを見ると、実は2年前からド赤字であり、資金繰りは「前金」に大きく依存している会社であることがハッキリわかるわけです。

 
「誰も教えてくれない」
もし私が「NOVAで受講してみようかしらん?」と考えた場合には、十万円単位の金を先払いするわけですから、CMだけ見て決めるのではなく事前に有価証券報告書などを見たと思いますし、この財務諸表(しかも前々期で大手監査法人が退任)を見たら、「こりゃちょっとヤバい会社なんじゃないの?」と思ってやめてNOVAは避けたと思います。


「自己責任」でいいか?
しかし、では一般の人に「英会話学校で受講する前には財務諸表を見る注意義務があった。(英会話学校受講するんだったら、財務諸表くらい見やがれ。)」とまで言えるかというと、それはちと無理でしょう。


マスコミは助けてくれないのか?
では、新聞やテレビなどのマスコミが、
「NOVAって一見調子がいいように見えるけど、実は赤字ですよ。」
「前金商売なので、いざ破綻したら、お金が戻ってこない可能性がありますよ。」
といったことを伝えるべきだったかというと、(伝えるべきだったかどうかはともかく)、実際問題としてはそれもちと難しい。
そもそも一般には赤字だから悪いというわけでもないので、大口の広告主(前々期の広告宣伝費は100億円超)であられるところのNOVAの営業に悪影響があるような報道は行いにくいでしょうし、むしろ、「NOVAうさぎなどの『ゆるキャラ』が、今、街で大ブーム!」といった特集を組んで積極的に応援していた側面が強いんじゃないかと思います。


金融業界規制との対比(「自己責任」の原則どおりでいいか?)
ご案内のとおり、金商法施行で、金融業界については商品のリスクなどを事細かに説明する義務が強化されましたが、そもそも、そういう多数の一般の人からお金を預る業態は、いざというときに利用者が大損する可能性も高いので、免許制や登録制にしたり、自己資本比率を規制したり、預り資産を分別管理させたりして、そうした情報の非対称性の影響を受ける相対的な弱者が不利益を被らないようなしくみを作り上げてきたわけです。

もちろん、
「日本は自由主義の国であり、基本的には自己責任だ。財務諸表まで開示されており、今やネットでそれをタダで見られるんだから、それを見ればド赤字だってことは誰でもわかったはず。」
という考え方もできます。

一方で、こうした規制対象以外の一般業種については、多数の消費者から資金を集める構図や強く情報の非対称性が働く構造は同じであるにも関わらず、また、見る人がちょっと見れば「その会社、危ないよ」とわかるにも関わらず、30万人もの無垢な子羊たちが、ぞろぞろと死の淵に向けて行進していくのに、誰もそれを指摘する人がいないという社会の構造は、それはそれでいいんでしょうか?

(日本人は「投資」というものをどちらかというと胡散臭く思っていて、リスクがあるのを承知なはずであるにも関わらず、金融商品取引法であそこまで説明義務を強化しているのとの対比からして)、より財務的なリテラシーが高くないはずの一般消費者が保護されるしくみがないというのもなんだかねぇ、という感じであります。


未来の規制?(モーソー)
そのうち、

自己資本比率が○%未満であって、○千人以上の消費者から使用総資本の○%超かつ○億円超の資金を預かる事業者は、契約を行う前に消費者に対し次に掲げる事項(事業リスク等)について説明しなければならない。

といった条文が消費者契約法などに組み込まれたりして。

(それはそれで、一般的なビジネスの自由度を過度に制約しないか、ちょっと心配ではありますが。)

(ではまた。)

October 25, 2007

「電子債権」の未来を考えてみる(4)

昨日のエントリに、「流行らない」さんからコメントいただきました。

電子債権は、流行しないと思いますよ。
たしか、登録義務者と登録権利者が共同で登録機関に登録申請しないといけないのですよね。こんな、手形を一枚一枚登記するような制度、面倒で仕方ありません。商品を納入して得意先に電子手形を振出してもらい、それを登録する、しかも得意先単独では登録できず、仕入業者と共同申請になり、得意先としては、仕入業者の数だけ別申請をしなければならない。仕入れ業者としても、得意先の数だけ共同申請をしなければならない。
さらに、手形が支払われたときも、原則共同申請。「手形が支払われましたよ」「じゃあ一緒に決済を登録しましょう」なんてやってられない。


いえいえ、それは電子記録債権法の原則のお話であって、仮に今後、銀行業界ぐるみで取り組めば、インターフェイスは普通のネットバンキングで銀行送金をする使い勝手と同程度になりうる、ということを申し上げております。

 
ユーザインターフェイス(UI)のイメージ
つまり、A銀行の顧客からB銀行の顧客に電子債権を送る(発生させた)場合、普通のネットの送金と同様、

  • 相手先口座(銀行、支店、口座番号等)
  • 金額
  • 支払期日、その他の条件(←ここが通常の送金と異なるところ。)

を入力してOKボタンを押すだけ。(に、なりうる。)

法的には、それぞれの銀行はそれぞれの顧客の「代理」として、全銀で決めたプロトコルに従って電文を電子債権記録業者に自動送信するだけです。
つまり、個別の顧客は、電子記録債権法も電子債権記録業者とのインターフェイスも知らなくていいわけです。


zengin.jpg


導入のシナリオは?
第1段階としては、各銀行の裁量で導入を決定でき「ネットワーク外部性」が働かない手形貸付について電子債権に移行するニーズが見込めるんじゃないでしょうか。
少なくとも印紙代が節約できますので、それでシステム修正費用もまかなえます。
(例えば、10兆円分で1bpとすると10億円)

第2段階として、ファームバンキングのメニューを整えて手形利用の大口顧客からセールスを開始。

最後に、次第に利用者が増えてきたところで、手形の廃止をする期日を決めて電子債権に全面移行・・・・てな感じで。

企業も、手形よりコストが安く、紛失の心配もなく、大量の手形を扱う企業ではパソコンで一元管理も容易になるわけですから、導入のメリットはあると思います。

銀行も手数料収入が入るし、実質的に他の電子債権記録業者は採算的に成立しにくくなる。(銀行の様式に基づかない紙の手形を利用するよりも、銀行の様式に基づかない電子記録債権を利用する方がさらに困難かと思います。)
つまり、こうした業務に関する利益を業界内で抱え込めます。

(差別的取扱いの禁止)
第六十一条  電子債権記録機関は、特定の者に対し不当な差別的取扱いをしてはならない。

とありますが、全銀協さんが設立する電子債権記録機関が「当機関は、別途定める場合を除き、銀行等または銀行等を代理人とする請求しか受け付けない」としても、必ずしも不当な差別的取り扱いにはならないかと。

−−−

上記のようなシナリオを前提とした場合、私の予想では、地デジよりかなり容易に普及するのではないかと。ETCやSUICAと同じかそれ以上のペースで導入が進む気がします。

(ではまた。)

October 24, 2007

「電子債権」の未来を考えてみる(3)誰が損/得をするか。

電子債権のわかりやすいメリットとして、手形では必要であった印紙が不要になるということがあります。
手形と(金銭)消費貸借証書の印紙税額と、それをベーシス(0.01%)換算したものを表にまとめてみますと以下のとおり。

inshi.JPG

 
(私、融資実務の経験がないのでハズしてたらご教示いただければ幸いですが)、手形貸付のメリットの一つは、このように金銭消費貸借証書で貸付をするより手形で貸付するほうが印紙税が安いことだと理解しております。

上記のとおり、手形貸付の場合、概ね2bp〜4bp(手形金額の0.02%〜0.04%)の印紙税コストになっていると考えられますので、例えば電子債権の手数料が1bp〜2bpで納まる体系にすれば、借入する企業にとってもメリットだし、上記手数料を銀行と電子債権記録業者でシェアするビジネスモデルにすれば、銀行にもメリットになります。

つまり、銀行業界がこぞって取り組んだ場合の電子債権は、「国の印紙税による歳入を減らして、銀行と電子債権記録業者に気前よく分けてあげる制度」、と言えるかも知れません。

平成19年度の国の印紙収入の予算は1兆2千億円くらいのようですが、当然、何号文書に張られた印紙か内訳はわからないので、以下、ドタ勘で推測しますと;

平成18年の手形交換高は500兆円、現在の国内店銀行勘定の残高が長期短期等含めて460兆円程度ですが、仮に毎年の手形発行額が手形貸付その他交換されないものも含めて800兆円くらいあるとして平均3bpの印紙税がかかっているとすると、手形に関わる印紙税合計で2400億円くらいになるでしょうか?
手形が完全に撤廃されたら、財源不足がどうのと言っている時代に、(死ぬほどではないにしても)そこそこな税収減になる気もします。

電子債権で平均1.5bpくらいの料金体系にすると仮定すると、1200億円を全銀協さん+銀行業界で分け合い、残り1200億円が一般企業に対する実質的な減税、というイメージでしょうか。
軌道に乗せれば、結構、おいしいビジネスかも知れまへんなー。

(非常に粗い推測で恐縮ですが、ご参考まで。)

「電子債権」の未来を考えてみる(2)

昨日のエントリに対して、「茶々姫」さんからコメントいただきました。
長文になりましたので、こちらでお返事させていただきます。

さて、電子債権については、全銀協さんが本気でやりたいかどうかはともかく、上記のような落しどころになってほっとしてます。経済産業省主導で議論が進んでいた時は、「カネだけ集めて、海外へ高飛び!」のビジネスモデルがいくらでも沸いてでる!と、知人の法学者と酒の肴にしながら、大騒ぎしていましたので。

でも、過去を振り返ると、電子債権の議論がはじまった当初から信金中金には独自開発した電子手形システムがあったわけで(確か、沖縄で実証実験???)、そう考えると、いろんな審議会で活躍されている法学者を大勢集めて何年間も議論したことって、何の意味があるんだろう???とか考え込んでしまうわけです。

以下、雑談風に。


>全銀協さんが本気でやりたいかどうかはともかく

少なくとも、以前はあまりやりたそうじゃなかったですよねえ。:-)


>経済産業省主導で議論が進んでいた時は

そもそもは、電子債権というのは「資金調達が困難な中堅中小企業を助けるため」といった美しいお題目があったかと思うのですが、これだけ資金がジャブジャブにあって金融不安もそこそこ落ち着いていれば、それなりの企業にはそれなりに資金が回るはずなので、(新銀行○京などがうまくいかないのと同様)、それでも資金調達が困難なような企業にビジネスベースでお金を回そうというのは、そもそも経済的に無理があるはずです。

ただ、「美しいお題目」で法律を通して、(もし仮に)これが(ゆうちょを含む)銀行業界のバランスシートをマクロレベル(100兆円単位)で是正するようなしくみに育つんだとしたら、結果としてよかったですね、ということになるかも知れませんね。
1ベーシス程度の手数料になるとすると、残高100兆円単位の事業規模になったら、やっと事業の年間売上が100億円単位になると想定されますので、法律を一つ作った意味もあったと言えるようになるんじゃないかと思います。


>「カネだけ集めて、海外へ高飛び!」のビジネスモデルがいくらでも沸いてでる!

法律的にはいろいろ考えられるのでしょうけど、そもそも「ネットワーク外部性」が強く働くことに加えて、

電子記録債権法
(電子債権記録業を営む者の指定)
第五十一条  主務大臣は、次に掲げる要件を備える者を、その申請により、第五十六条に規定する業務(以下「電子債権記録業」という。)を営む者として、指定することができる。
(略)
五  定款及び電子債権記録業の実施に関する規程(以下「業務規程」という。)が、法令に適合し、かつ、この法律の定めるところにより電子債権記録業を適正かつ確実に遂行するために十分であると認められること。
六  電子債権記録業を健全に遂行するに足りる財産的基礎を有し、かつ、電子債権記録業に係る収支の見込みが良好であると認められること。
七  その人的構成に照らして、電子債権記録業を適正かつ確実に遂行することができる知識及び経験を有し、かつ、十分な社会的信用を有すると認められること。

のあたりで実態的な審査が行われることを考えれば、むしろ、そんじょそこらの会社が電子債権記録業の指定を受けるのは難しいんじゃないかと思います。
(取引量、残高、手数料体系、システム投資、人員等を実際にExcelに落として収支計画を立てるとなると、整合的でかつ実現可能性がありそうな計画を作るのは、実際、至難の業だと思います。)

ちなみに、昨日ご紹介した日経新聞の記事で、「システム開発に四十億―八十億円かかるとの試算もあり」というのは、確かに、○○○○−タさんとか○○○研さんに、「システムはしろうとでよくわからないので適当に作ってください」とお願いしたら、そんな見積もりも出てきそうな気もしますが、当初、(10億円かどうかはともかく)20億円も出せば、セキュリティやBCMまでちゃんと考慮したシステムを組めるところはある気がします。


>独自開発した電子手形システム

システムがイケてるかどうかではなくて、「みんなが使うかどうか」がポイントだったわけでして、仮にすごくイケてるシステムであったとしても、みんなが使う気にならなければ、まったく意味がなかったわけであります。


>法学者を大勢集めて何年間も議論したことって、何の意味があるんだろう???

これで仮に全銀行が「電子債権やってみようかな」という機運になった場合には、利用者からは基本的にファームバンキングのインターフェイスが見えるだけで、その背後にある「電子債権記録機関」とのやりとりは直接には見えないし、そういうことでないと普及しないと思うので、「はじめから全銀行が相談してれば、法律なんか作らなくても同じようなシステムは作れたはずじゃん」という気が一瞬してしまうのは確かであります。

しかし、紙の手形においても(銀行の様式に従わない手形は現在ほとんど存在しないでしょうけど)一般的な手形法があってはじめて銀行の実務が成立するように、この法律も(平時にはあまり気にしなくていいが、たとえば銀行の破綻処理の場合とか、銀行と係争が発生した場合など)特殊な状況において、単なる銀行間の契約で同様のものを運用するのと、電子債権法という法律が存在するのとでは違うことにもなるのではないか、という気もしますので、無駄ではなかったのかも知れません。

(ではまた。)

October 23, 2007

「電子債権」の未来を考えてみる

以前、「電子債権って、イケてないのでは?」ということを申し上げましたが、

http://www.tez.com/blog/archives/000735.html
「電子系の法律」について考える(電子債権のパブコメ募集関係)
http://www.tez.com/blog/archives/000737.html
「電子系の法律」について考える(登録機関の事業性、ほか)

そういえば、法律も制定されたらしいけど、その電子債権は、今どうなっているのかなあ、と思ってちょっと調べてみました。

直近の記事は(日曜日なので、1面なのに見落としてましたが)これです。(2007/09/23)


電子版手形交換所設立へ、全銀協09年にも稼働――分割でき印紙不要。
(略)
 全銀協が設立する電子版手形交換所(記録機関)は、債権額や支払期日、当事者の氏名などをコンピューター上のデータベースに保存。取引を一元的に管理する。債務者や債権者は自社のインターネット端末を通じて取引に参加する。電子記録債権法が今年六月に成立、企業はネット上に記録するだけで、譲渡などの手続きを完了できるようになった。
 紙の手形は、決められた期日に額面の代金を支払うと約束する有価証券で、企業の資金調達手段として長年活用されてきた。しかし、紛失や盗難の恐れがあり、保管に手間やコストがかかるため、流通量は年々減少している。電子債権の中核機能を担う電子版の手形交換所が設立され、電子手形が利用されるようになれば、紛失などのリスクがなくなるほか、印紙代も不要になる。
 現行の手形は分割できないが、電子手形は小口化して一部だけ譲渡したり、複数の相手に譲渡することもできるようになる。(中略)
 記録機関は資本金五億円以上で、専業の株式会社であることが条件。システム開発に四十億―八十億円かかるとの試算もあり、手数料収入により採算がとれるか不透明で、設立に名乗りをあげる企業や団体が出てくるか懸念されていた。(以下略)


この「記録機関」という事業、法律では「民間で手を上げれば(要件を満たせば)誰でもできるよ」という建付けになってますが、この事業の特性として、

  • 「ほかの人も使ってないと使うメリットがない」というネットワーク外部性が強力に働く
  • 手形発行がシュリンクしている環境下でもあり、印紙税との対比で手数料率はかなり低め(額面の1ベーシス[0.01%]以下くらい?)にならざるを得ない
  • 逆に言うと、取扱う債権残高は売上高の1万倍(以上)の非常に巨額なものになり、セキュリティに払うコストはかなり高くなりそうだ

といったことを考えると、電子債権の記録機関の事業性として、「純民間」でこれをやるのは無理なんじゃないの?と想像していたわけですが、全銀協さんが乗り出す(しかも、既存の手形は廃止するかも)、となると、「準公的」なハナシになり、事業成立の可能性も出てくるかと思います。

全銀協+大手銀行さんでどういった話し合いがもたれているのか全く存じませんが、利用者側からすると、各銀行の通常のファームバンキングの画面にメニューが一つ増えて、現金を送金する代わりに電子債権を”送金”する(銀行が代理となって電子債権の登録機関に登録する)、といったものになれば、一番使い勝手がいいのではないかと思います。


つまり、「電子記録債権法」だけからだと、(いろんなことができるように想定されていて)、非常に多くの設計が考えられて頭がこんがらがるわけですが、

  • 支払場所 (銀行、支店、[種別]、口座番号)
  • 送り先口座(銀行、支店、[種別]、口座番号)

と、銀行口座を債務者・債権者を特定するキーにするということに決め打ちするのであれば、非常にシステムの全貌の見通しもよくなるのではないかと思います。


換言すれば、一般の投資家から証券会社の口座は見えるけど保振の口座は直接見えないのと同じで、

  • 顧客の目から見えるプレゼンテーション層(銀行 [のファームバンキング])、
  • ミドルウェア的な全銀の電子債権の情報交換に関わる新しいプロトコル
  • 物理層(電子債権記録業者)

を分ける(アンバンドル)する、という整理であります。
こうすることにより、電子記録債権に関する複雑で詳細な法令をユーザーが猛勉強する必要もなく、プロ(銀行、全銀協)にまかせておけばいい、ということにもなります。


しかし、ここまでやったとしても、現在、一般には資金が非常にダブついているので、ちゃんとした企業には融資が容易に付くでしょうし、ちゃんとしていない企業の電子債権は証券化等どんな手法を使ったところでいかんともしがたい(マクロで見るとサブプライムローンの構造と同じになっちゃう)ので、そもそもそうした「電子債権」での支払いが、手形の代わりにガンガン延びていくとは考えにくい。
韓国では、通貨危機もあって電子債権が世界一普及しているらしいですが、金がジャブジャブの日本で、どこまでそうしたニーズがあるんでしょうか?

一方、よく考えると、手形がなくなるということになれば、現在銀行が行っている手形貸付は全部電子債権化されることになるのではないかと。つまり、当然、「不渡り二回で銀行取引停止」という規律も、電子債権の上に移行されるのでしょうから。

仮にそうなるとすると、(おそらく)最大の電子債権者は銀行ということになります。ショボい手形のマーケットなんかと違って、残高も百兆円単位ということになり、これを流動化して銀行のバランスシートを圧縮するニーズというのが、電子債権利用の最大のビジネスになるかも知れませんね。

地銀と都銀の預貸のギャップを埋めるとか。「ゆうちょ」も結局生き残ることになっちゃったので、その巨額の資金の運用先としても有望かも。

(逆に、一般の製造業やサービス業で手形の利用が減少していることから考えると、そういう「コマい」一般企業の債権を寄せ集めてきて流動化させるというのは、結局、コスト的に難しい気がします。)

以上、全銀協さん等での検討の内容をまったく存じ上げずに勝手に想像(妄想)している内容ではありますが、ご参考まで。

(ではまた。)

電子記録債権法
http://law.e-gov.go.jp/announce/H19HO102.html

October 21, 2007

イマドキの教育はこれでいいのか?、と思った件

テレビでジブリアニメ「おもひでぽろぽろ」を見ていて、主人公の女性の小学校時代(昭和)の教室の掃除の回想シーンになったとき、小学生の息子2人が「このシーン、おかしい」と言いだした。
「だって、掃除をサボってるやつがいる。」

 
「掃除くらい、サボるやついるだろ。」
と言うと、
「いや、いない。たいてい先生が見張ってるし、見張ってなくてもサボるやつはいない。」
ですと。

ちょっと待て。小学生の掃除なんてのは、男子がホウキを持って「スモークオンザウォーター」弾いてたり、堅物の女子が「ちょっと。男子もちゃんと手伝いなさいよ!」とか言ったりしてるもんじゃなかったのか?

なあ?と奥さんにきくと、
「そうそう。私も、ワックスまいたところに向こうから勢いつけて走ってきて、『ツー』とか、やってたわ。」

・・・女子にもアホなやつはいたようです。

もちろん、全員ちゃんと掃除してるほうがコンプライアンスが徹底された「いい」状態なんでしょうけど、なぜかブキミな感じがしてしまうのは私だけでしょうか。

(ではまた。)

October 19, 2007

「2つの包括利益」(論文)

本日届いた今月11月号の「会計・監査ジャーナル」に掲載されている、早稲田大学商学部 辻山 栄子 教授の論文「2つの包括利益」を拝読しましたが、非常にわかりやすく、読むと頭がスッキリする すばらしい論文ではないかと思いました。

現在、IASB(国際会計基準審議会)とFASB(米国会計基準審議会)とのジョイント・プロジェクトで検討されている「包括利益」の概念や報告形式についての性質、その問題点などがコンパクトに解説されている上、ヒックス流の経済学的所得と利益の関係、「収益費用アプローチ」と「資産負債アプローチ」の関係、「投資リスクからの開放」と利益の認識との関係、利益と自己創設のれんの関係など、

そもそも「利益」や「資産」とは一体何ぞや?

という本質的な疑問に、ズバーンと直球でお答えいただいている内容ではないかと思います。

筆者は、早稲田大学教授のほか、各種会計・税務関係の審議会委員等を努められておられますが、変わったところでは、プライバシー侵害と表現の自由について争われた柳美里氏の処女小説「石に泳ぐ魚」事件に関連して、モデルになった女性とともに、柳美里氏側に小説を出版する企画を中止するよう強く求めた旨、地裁の判決文にも登場されています。
(きっと「頼られキャラ」でいらっしゃるのではないかと推測いたしますが)、ノーウォークで開かれたIASB/FASBの世界円卓会議などでも意見を発信されているようで、会計基準の国際的なコンバージェンスの影響を受ける日本の会計界にとって頼もしい存在でいらっしゃるのではないかと思います。

(ご参考まで。)

October 18, 2007

従業員持株の譲渡 (新聞社の事業構造改革(6))

以前のエントリに対して、通りすがりさんから、コメントいただきました。

日経新聞の社員持ち株制度では入社1-3年目ぐらいに1000株程度買わされるという話を聞いたことがあります。 1株100円で売買しているので10万円程度ですが、一株純資産で見るとざっと総額1000万円分(2006年12月期連結で計算)の株式を10万円で買っていることになるかと思います。 (類似会社比準法では計算していません。配当還元法だと配当利回りが20%程度(!)なので割引率の設定しだいでは相当高額になるかと思います)

過去のブログでは

>ただし、時価と100倍(1株あたり1万円)くらい差があっても、社員数が多いため1人あたりが譲り受ける株数が少なければ、贈与税の基礎控除額110万円に達しないから申告不要なことがほとんど、なのかも知れません。
>(ただし、今後、団塊のおじさまたちが大量に退職しはじめると、申告が必要になるケースが生まれる可能性も増えるのではないかと思います。)

と書かれていましたが、上記の話が本当だとすれば基礎控除額は余裕で超え、500万円くらいの贈与税が発生しますよね(株の移動が個人→個人と仮定した場合)。
もちろん払っていないでしょうから、日経新聞の社員は新入社員のときから脱税状態になっちゃっているのでしょうか?

とのこと。

この日経さんのケースをもとに、以下、社員持株制度での社員間の株式の低額譲渡について考えてみたいと思います。

 
(ご注意:この記事は、株式会社日本経済新聞社の株主の個別の税務について検討することを目的とするものではなく、持株会的な制度の運営の一般論について、事例として、開示されている株式会社日本経済新聞社のケースを参考とさせていただいて検討するものです。具体的な税務処理については、顧問税理士等にお尋ねください。)


私も、当初、「日経の社員株主さんたち、贈与税は大丈夫かしらん?」という不安がちらっと頭をかすめたんですが、結論的には以下のとおりで、個人間で譲渡する場合には、あまり心配ないのではないかと思います。


相続税法上の原則
まず、贈与税の対象となりうる財産の評価については、下記の相続税法第22条の規定が原則となります。

(評価の原則)
第二十二条  この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。

この「時価」というのがわかるようでわからないので、贈与税算定の実務上は、「財産評価基本通達」に従って解釈されることがほとんどになっているかと思います。

この「財産評価基本通達」上、日経さんのように、上場しておらず気配相場もない株式で、しかも同族株主にあたらない株主の場合には、下記の「188-2」の規定により評価されることになると考えられます。


(同族株主以外の株主等が取得した株式)
188 178≪取引相場のない株式の評価上の区分≫の「同族株主以外の株主等が取得した株式」は、次のいずれかに該当する株式をいい、その株式の価額は、次項の定めによる。
(以下略)

(同族株主以外の株主等が取得した株式の評価)
188−2 前項の株式の価額は、その株式に係る年配当金額(183≪評価会社の1株当たりの配当金額等の計算≫の(1)に定める1株当たりの配当金額をいう。ただし、その金額が2円50銭未満のもの及び無配のものにあっては2円50銭とする。)を基として、次の算式により計算した金額によって評価する。ただし、その金額がその株式を 179≪取引相場のない株式の評価の原則≫の定めにより評価するものとして計算した金額を超える場合には、179≪取引相場のない株式の評価の原則≫の定めにより計算した金額によって評価する。

haitou_kangen.jpg

(注) 上記算式の「その株式に係る年配当金額」は1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の金額であるので、算式中において、評価会社の直前期末における1株当たりの資本金等の額の50円に対する倍数を乗じて評価額を計算することとしていることに留意する。


まず、上記の数式の「年配当金額」ですが、下記の「183」

(評価会社の1株当たりの配当金額等の計算)
183 180≪類似業種比準価額≫の評価会社の「1株当たりの配当金額」、「1株当たりの利益金額」及び「1株当たりの純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)」は、それぞれ次による。
(1) 「1株当たりの配当金額」は、直前期末以前2年間におけるその会社の剰余金の配当金額(特別配当、記念配当等の名称による配当金額のうち、将来毎期継続することが予想できない金額を除く。)の合計額の2分の1に相当する金額を、直前期末における発行済株式数(1株当たりの資本金等の額が50円以外の金額である場合には、直前期末における資本金等の額を50円で除して計算した数によるものとする。(2)及び(3)において同じ。)で除して計算した金額とする。
(以下略)

のとおり、株式を50円換算した場合の1株あたりの配当の2年間分の平均額です。
 

日経さんの事例に当てはめて考えてみると
以上をもとに、有価証券報告書の記述、

(平成19年3月期)当事業年度の配当については、普通配当12円、特別配当7円に加え、創刊130周年記念配当3円、1株につき合計22円としました。
(平成18年3月期)当期の配当については、1株につき19円としました。

を考えると、この全部が「188−2」でいう「将来毎期継続することが予想できる金額」と考えたとしても、数式は結局、(1株あたり資本金等の額と50円が分子・分母で通分されて)、50円換算前の直前2期平均1株あたり配当額20.5円の10倍(割引率10%の逆数)=205円になります。

よって、1,000株の評価額は20万5千円。これを10万円で譲り受けた場合の贈与の額も10万5千円程度ですから、これだけなら基礎控除額には満たず、贈与税も発生しないものと考えられます。

「通りすがり」さんのコメントでは、「配当利回りが20%程度(!)なので割引率の設定しだいでは相当高額になるかと思います」とありますが、上述のとおり、税務上の割引率は10%で、そもそも1株20.5円の配当しかもらえない株なわけです。
100円を分母とするから20%ものリターンになりますが、たった2万円の配当しかもらえない株が1000万円もの額で評価されるというのはあまりに高すぎて酷、と考えると納得できるかと思います。


有価証券報告書の大株主第3位以下10位までは個人株主で、45万株から18万株の株式を保有されてますが、これも(シニアな社員の方として)数十年にわたって毎年ちょっとづつ譲り受けてきたものだとすると、それだけで毎年の基礎控除額を上回るということもなかったのかも知れません。

もちろん、この「財産評価基本通達」は、あくまで「通達」であって「法律」ではない。相続税法第22条の規定は、あくまで「時価」です。

現在法廷で争われているように、100円で譲渡せずに抜け駆けする人が現れ、万が一この株式の「時価」が1株あたり数千円であるという判断が下ったりすると、日経株式を譲り受けたすべての従業員等にリスクが降りかかることにもなります。
(ただ、一般の株主は100円でしか売却できないのが実態だとすると、これを1株数千円で評価というのはあまりに酷かとも思います。このため、実務上の原則どおり、配当還元方式でOKという可能性もかなり高いんじゃないかというのが私見です。)


先日ご紹介した本

新聞の時代錯誤―朽ちる第四権力
大塚 将司
東洋経済新報社 (2007/02)
売り上げランキング: 9142

の著者大塚氏(先週、日経さんから訴えられたそうですが)は、同書で「1株あたり純資産が1万円もする株式を100円で売買しているのはおかしい」という主張をされてましたが、以上のように見てくると、個人間で「額面」での売買するのは、なかなかうまいしくみではないかとも思います。


「法人」が介在するとリスクは変わってくる?
それよりも、それぞれ5%前後の株式を保有する1位2位株主の「日本経済新聞共栄会」、「日本経済新聞福祉会」を介した取引のほうが微妙かも知れませんですね。

名前からして、この2つのエンティティは、てっきり従業員持株会のたぐいで、民法上の組合であり、税務的にはパススルーなんだろうなあと考えていたのですが、大塚氏の著作によると、組合というよりはもしかすると「人格なき社団」的な性質を持っているのかも知れません。(よく存じませんが。)

「仮に」人格なき社団だとすると、以下のとおり法人税の課税対象になります。

(人格のない社団等に対するこの法律の適用)
法人税法第三条  人格のない社団等は、法人とみなして、この法律(別表第二を除く。)の規定を適用する。

(追記:「銀猫」さんにコメントいただきまして、取り急ぎ削除させていただきます。コメント欄、ご参照のこと。)

例えば(普通に考えた)時価1株5,000円の株式を1株100円で買い取って、これを個人株主に100円で転売していた場合、1株あたり4,900円が「受贈益」とみなされ、時価1株5,000円の株式を1株100円で売却したことによる損失4,900円のほうは「寄付金」とみなされたりすると、「踏んだり蹴ったり」で、丸々「4,900円×取引した株数」分に法人税が課せられることになるリスクもあるかと思います。

「法人」から株式を譲り受ける個人のリスクのほうも変わってきますね。

見かけとしてはほとんど同じような話ですが、人格なき社団を通すのではなく、全社員株主が組合員である民法上の組合である持株会などを通じて売買を仲介するほうが、税務上のリスクが低いかも知れません。


(ではまた。)

October 17, 2007

「エクストリーム株主総会」

「日本初(?)の『空中株主総会』について考えてみた」には、たくさんのコメントありがとうございました。

最近、「エクストリームアイロニング」が脚光を浴びているので、「エクストリーム シェアホルダーズ ミーティング」というのもあってもいいかも知んないですね。

 

  • エベレスト山頂で株主総会
  • 南極で株主総会

あたりを最高峰として、普通の人でも努力すればできそうなところでは、

  • スカイダイビングで落下しながら株主総会
  • 沖縄のダイビングスポット(海中)で株主総会

比較的お手軽なあたりでは、

  • 皇居一周ジョギングしながら株主総会
  • 山中湖でスワンボートを漕ぎながら株主総会

などが考えられるかと思います。


(ではまた。)

October 16, 2007

減資にまつわる不思議な風習

ちょっと前、ある未公開会社で、ベンチャーキャピタルさんが減資に反対するのを見て、ちょっとびっくりした話。

「減資」というのは、一般的に、会社が絶好調のときにはあまり発生しないはずなので、「聞こえがよくない」のは確かなんですが、一方で、(大昔の商法のように資本金と株式の関係がリンクしてない)改正前商法や今の会社法では、資本金の額の減少や準備金の額の減少は、単に帳簿(または登記)上の「資本金」とか「資本準備金」「利益準備金」といった数字が減少するだけの、「バーチャルな」手続きにしかすぎなくなってます。

 
欠損の額がたっぷりあるのに資本金が何億円もあって外形標準課税が発生していたり、会計監査人や監査役3名超(含む常勤監査役)などを設置しないといけないというのは負担も大きいので、減資するのが合理的な場合も多いわけです。


減資で株主は迷惑を受けるのか?
特に、資本金や準備金の減少で困るのは株主ではなく債権者のはず
「分配可能額」がプラスになると配当できるようになりますが、取締役会や株主総会の決定で配当されて会社財産が減少するので、債権者保護手続も行わないといけないことになっているわけです。(ただし、会社法では449条1項ただし書参照。)

というわけで、合理的な判断に立てば、株主として資本金の減少に反対する理由はあまり無いはずなのですが、先日のケースでは、当該企業に投資しているベンチャーキャピタルさんから、

「すぐには、なんとも賛成できない。」
「別の会社でも減資する検討が行われたが、投資して間もないということもあり、(投資契約でVCが持っている拒否権を使って)、遠慮していただいた。」

といった発言が相次いで、ちょっと口がアングリ開いてしまいました。


別の上場企業さんで、経営がうまくいかなくなった取引先の再生のために数億円のDES(Debt Equity Swap:債務の株式化)を計画したとき、やはり、資本金が大きくなりすぎちゃうので同時に資本金と資本準備金の減少をしましょうか、というような話になったときに、

「減資すると、せっかく出資した優先株の価値が下がるんじゃないか?」

というご質問をいただきましたが、「大丈夫ですよ。資本金の減少というのは、単なる数字上のものにすぎないので、(増えた処分可能額を分配して社外流出が発生しない限り)、種類株式の性質が変わる、ということはありません。」と申し上げて安心していただきました。

その上場企業の担当の方は、エクイティ・ファイナンスの専門家ではいらっしゃらなかったのでいいとしても、ファイナンスの専門家であるベンチャーキャピタルの方々が、未だに前述のような判断をされているとは、えらく驚いた次第であります。


日本のベンチャーキャピタルをファイナンスの専門家と考えていいか?
前述の企業で、取締役が「こちらのほうが合理的な選択肢なのに、なぜだめなのか?」という理由をVCの担当者の方に尋ねたのですが、どうもよくわかる答えが返ってこない。掘り下げて伺ってみると、「減資といった事態に至って申し訳ない」的なことを一筆欲しい(つまり、「減資するなら詫びを入れろ」)、ということのようで・・・。
(投資した時点からかなり大きな欠損があったので、「なぜもっとすぐに減資してムダな費用を削減しなかったのか」と怒るならまだ話はわかるのですが・・・。)

理由を考えて見ると、日本の大手ベンチャーキャピタルは(海外のVCと違って)、大勢の人数が働いている大組織なので、担当者個人は合理性を理解していたとしても、上司や同僚が、「おまえの担当の会社、減資なんかしちゃって、大丈夫?」という目を向けるとすると、合理的でない選択肢も取らざるを得ないこともある、ということなのかも知れません。

また、ベンチャーキャピタルの業務拡大で、銀行などから転職してきている人が担当だとすると、減資とセットになった債権カットなどで苦い思いをしたトラウマで、減資と聞くだけで何かいやな気持ちになるのかも知れません。(しかし、通常、VCというのはデットの出し手ではなく、エクイティの出し手なわけです。)

または、本当に、資本金を減少させると株式の価値が下がる、と思ってらっしゃるのかも知れません。

−−−

ベンチャー企業は、ベンチャーキャピタルに投資していただく際に、当然、「ファイナンス的に合理的な判断をする投資家であるはずだ」という前提で投資していただいているわけです。投資契約についても、合理的であろうという前提のもとに、簡略化できるところは簡略化しているわけで。

しかし、こういう経済合理的なのかどうかわからない行動をされる例を見かけると、例えば投資契約書や種類株式に定める拒否権や事前相談事項のキメに際しても、資本金や準備金の額の減少については、拒否権や事前相談義務をつけない(つけるにしても、少なくとも当面予想される減資はきちんと記述する)ことがお勧めになってしまいます。

(というか、そういった合理的行動を必ずしも取らないと想定されるVCさんは、怖いので、ベンチャー企業にご推薦申し上げられないことになります。)

(ではまた。)

October 15, 2007

談合の課徴金減免制度とゲーム理論 (と、ジャック・バウアー)

日曜日の日経新聞朝刊の1面トップにも載っていましたが、談合を自主申告した場合の独禁法上の課徴金を減免する制度が「拡充」されるそうです。

これは、先日の週刊ダイヤモンド誌の編集長氏の巻頭コラムにもあったとおり、一種の「司法取引」なわけでして、村社会の日本にそういうノリが通用するのかしらんという事前の予想に反して、大企業までもが次々に談合を「自白」して課徴金を免れているとのこと。

 
この制度、「囚人のジレンマ」を連想させますが、(私、ゲーム理論の専門家ではございませんが)、ゲーム理論の入門書にでてくるシンプルな囚人のジレンマよりは、ちょっと複雑な話かと思います。

例えば;

  • 入門書的なケースでは、相手が自白して自分が自白しないとより罪が重くなりますが、この課徴金減免制度では、早く名乗り出る方がより課徴金の額が少なくなるだけなので、「ジレンマ度」は少ないのでは。(それとも、やはり囚人のジレンマの一種だと考えていいんでしょうか。)

  • 特定の談合が、「公取委の調査でいつかは発見される話だ」と考えるのか、「全員がしゃべらなければ公取委が調査してもバレない話だ」と考えられるのか、にもよるかも知れません。

  • 名乗り出た企業も出遅れた企業も今後も同じマーケットで競争をしていくわけなので、「繰り返し型」の囚人のジレンマと考えればいいのか。それとも、「繰り返させない」ことが目的であって、実際、先に名乗り出た企業に対しては、「三○重工のヤロー・・・」という怨念がたちこめるので、制度の意図したとおり、とても二度と仲良く談合する雰囲気ではなくなるのか。(実は、名乗り出る順番も談合で決めたりしていたら、トホホ・・・ですが・・・。)

  • 上場企業であれば、株主代表訴訟で「先に名乗り出れば少ない課徴金で済んだのに、そうしなかった」点を突かれると負ける可能性も大いにあるかと思います。すなわち、法人の負担の問題だけでなく、直接談合に関係しない取締役個人にまでトバッチリが来る可能性があり、法人内の利害も一枚岩ではないはず。


等。


「大盤振る舞い」過ぎないのか?
記事では、

  • 別々とみなしていた親子会社を1社としてカウントする。(結果として、高い減免率が適用される企業が増える)
  • 今までは、名乗り出た順に3社までしか減免の対象にならなかったが、これを5社までに増やす
  • 公取委の立ち入り検査後の申告でも減免される企業数を増やす

といった内容を検討中とされていますが、これって、「悪いことをした会社」に対して「大盤振る舞い」過ぎないでしょうか?

「24 -TWENTY FOUR-」 で、極悪人のテロリストが捕まって、核爆弾とか細菌兵器等の大量殺戮兵器のありかを握っている場合に、「written and bindingな大統領のpardon」を要求して大統領が応じるシーンが1シーズンに何度も出てくるのですが、日本人的には、「数十万人を助けるためとはいえ、極悪人を無罪にするとは・・・」というところに非常に違和感があるかと思います。(もちろん、アメリカ人にも違和感があるからこそ、「24」がウケているんだと思いますが。)

記事では、「公取委が入手する違反情報を増やすため」とありますが、それやこれや考えると、1社名乗り出れば、談合の情報や証拠としては十分ではないんでしょうか?ましてや3社も減免すれば十分で、なぜ5社にもする必要があるのか。
(ジャック・バウアーと違って、実際の調査では、なかなか一つの手がかりを糸口に全体像にたどり着く、というのは難しいのか?)

この制度では、「違反行為を強要した場合等には適用を受けられない」(独禁法第七条の二12項3号)ので、談合を常時仕切っていた「悪玉中の悪玉」は名乗り出るインセンティブが無いから、もしかすると、名乗り出てくるのは相対的に「小物」な会社だけで、小物3社では証拠固めが難しい、ということでしょうか?(・・・ちょっと常識的には納得しがたいですが。)

ローエコ(law and economics)的観点がほとんどないといわれる日本の法体系の中にあって、珍しく「経済学的な」制度だと思っていたので、これが、前述のようなゲーム理論とか法改正後の実務の問題点等を詳細に検討した上で再改正を検討しているのか、その他の要因によるものなのかどうか、非常に興味あります。
まさか、公取委さんに限って、「課徴金に差がつく現状は、先にチクった企業だけ得をしてズルい」といった村社会の圧力が働いたための変更・・・ということではないとは思いますが・・・・。

3社から5社に増やすことによる年間の追加的減免額の総額予想が例えば5億円なら、年間5億円分の人員を拡充して調査機能を強化したほうが、世間が考える「公正さ」はアップするんじゃないでしょうか。

今後出てくるであろう、再改正の理由について注目してみたいと思います。
 


以下、ご参考:

「ここがポイント!“改正”独占禁止法」
http://www.jftc.go.jp/kaisei/kaiseileaflet.pdf


私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
第七条の二  事業者が、不当な取引制限又は不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際的協定若しくは国際的契約で次の各号のいずれかに該当するものをしたときは、公正取引委員会は、第八章第二節に規定する手続に従い、当該事業者に対し、当該行為の実行としての事業活動を行つた日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間(当該期間が三年を超えるときは、当該行為の実行としての事業活動がなくなる日からさかのぼつて三年間とする。以下「実行期間」という。)における当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額(当該行為が商品又は役務の供給を受けることに係るものである場合は、当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した購入額)に百分の十(小売業については百分の三、卸売業については百分の二とする。)を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。ただし、その額が百万円未満であるときは、その納付を命ずることができない。
一  商品又は役務の対価に係るもの
二  商品又は役務について次のいずれかを実質的に制限することによりその対価に影響することとなるもの
イ 供給量又は購入量
ロ 市場占有率
ハ 取引の相手方
(中略)
7  公正取引委員会は、第一項の規定により課徴金を納付すべき事業者が次の各号のいずれにも該当する場合には、同項の規定にかかわらず、当該事業者に対し、課徴金の納付を命じないものとする。
一  公正取引委員会規則で定めるところにより、単独で、当該違反行為をした事業者のうち最初に公正取引委員会に当該違反行為に係る事実の報告及び資料の提出を行つた者(当該報告及び資料の提出が当該違反行為に係る事件についての調査開始日(第四十七条第一項第四号に掲げる処分又は第百二条第一項に規定する処分が行われなかつたときは、当該事業者が当該違反行為について事前通知を受けた日。次号及び次項において同じ。)以後に行われた場合を除く。)であること。
二  当該違反行為に係る事件についての調査開始日以後において、当該違反行為をしていた者でないこと。
8  第一項の場合において、公正取引委員会は、当該事業者が第一号及び第三号に該当するときは同項又は第四項から第六項までの規定により計算した課徴金の額に百分の五十を乗じて得た額を、第二号及び第三号に該当するときは第一項又は第四項から第六項までの規定により計算した課徴金の額に百分の三十を乗じて得た額を、それぞれ当該課徴金の額から減額するものとする。
一  公正取引委員会規則で定めるところにより、単独で、当該違反行為をした事業者のうち二番目に公正取引委員会に当該違反行為に係る事実の報告及び資料の提出を行つた者(当該報告及び資料の提出が当該違反行為に係る事件についての調査開始日以後に行われた場合を除く。)であること。
二  公正取引委員会規則で定めるところにより、単独で、当該違反行為をした事業者のうち三番目に公正取引委員会に当該違反行為に係る事実の報告及び資料の提出を行つた者(当該報告及び資料の提出が当該違反行為に係る事件についての調査開始日以後に行われた場合を除く。)であること。
三  当該違反行為に係る事件についての調査開始日以後において、当該違反行為をしていた者でないこと。
9  第一項の場合において、公正取引委員会は、当該違反行為について第七項第一号又は前項第一号若しくは第二号の規定による報告及び資料の提出を行つた者の数が三に満たないときは、当該違反行為をした事業者のうち次の各号のいずれにも該当する者(第七項第一号又は前項第一号若しくは第二号の規定による報告及び資料の提出を行つた者の数と第一号の規定による報告及び資料の提出を行つた者の数を合計した数が三以下である場合に限る。)については、第一項又は第四項から第六項までの規定により計算した課徴金の額に百分の三十を乗じて得た額を、当該課徴金の額から減額するものとする。
一  当該違反行為に係る事件についての調査開始日以後公正取引委員会規則で定める期日までに、公正取引委員会規則で定めるところにより、単独で、公正取引委員会に当該違反行為に係る事実の報告及び資料の提出(第四十七条第一項各号に掲げる処分又は第百二条第一項に規定する処分その他により既に公正取引委員会によつて把握されている事実に係るものを除く。)を行つた者
二  前号の報告及び資料の提出を行つた日以後において当該違反行為をしていた者以外の者
(中略)
12  公正取引委員会が、第七項第一号、第八項第一号若しくは第二号又は第九項第一号の規定による報告及び資料の提出を行つた事業者に対して第一項の規定による命令又は次項の規定による通知をするまでの間に、次の各号のいずれかに該当する事実があると認めるときは、第七項から第九項までの規定にかかわらず、これらの規定は適用しない。
一  当該事業者が行つた当該報告又は提出した当該資料に虚偽の内容が含まれていたこと。
二  前項の場合において、当該事業者が求められた報告若しくは資料の提出をせず、又は虚偽の報告若しくは資料の提出をしたこと。
三  当該事業者がした当該違反行為に係る事件において、当該事業者が他の事業者に対し第一項に規定する違反行為をすることを強要し、又は他の事業者が当該違反行為をやめることを妨害していたこと。

October 11, 2007

日本初(?)の「空中株主総会」について考えてみた

先日、株式会社磯崎哲也事務所(一応、そういうvehicleもあるんです)の株主総会を開催。ちなみに役員は私のほか、奥さんと私の実家の両親。株主私一名のみ。

いつもの、「当社本店会議室において、第○期定時株主総会を開催した。」ではつまらないので、今回はちょっとうまいと評判の中華料理店の個室で開催することに。

 
(「ハワイで株主総会開催」というならちょっと議論が分かれるところかも知れませんが、年一回、合計で数万円(の下のほう)であれば、十分常識の範囲内で、「税務上、これは取締役に対する報酬だ。」とか、「会社法上、これは株主に対する利益供与だ。」といったことにはならないのではないかと思います。)

株主総会の議事録にもその旨開催地を記載したところ、登記をお願いした司法書士さんから、
「中華料理店での定時総会、いいですねぇ。来年は海上でディナークルーズでもいかがでしょう?(笑)」
というご意見をいただきまして。
それなら、いっそのこと「日本初(?)、ヘリで空中株主総会」というのはどうか、と考えた次第であります。

ご案内のとおり、旧商法では定款で定めない限り本店所在地もしくは隣接地でしか株主総会が開催できませんでしたし、株主数がそこそこ多い会社が、移動する船とか飛行機で株主総会をやるとなると、遅れて入場したい株主の権利をどうするか、といった話にもなるかも知れませんが、株主が私一人ならどうとでもなります。

ちなみに、個人的に考えた議事録の記載案は、

平成○年○月○日午後7時00分から、千葉県浦安市千鳥14番地 浦安ヘリポートから離陸し、港区、渋谷区、新宿区、・・・等上空を通過して再び浦安ヘリポートに戻る○○航空のヘリコプター○○号機内において、第○期定時株主総会を開催した。

・・・てな感じであります。
(意外にも、平日なら一人1万円台の前半からでヘリに乗れるようです。)

ちなみに、非常勤取締役および非常勤監査役であられるところの私の両親に、「来年は、ヘリで総会っての、どう?」と打診したところ、

「絶対イヤだ。」

という一言で却下。
ということで、私の夢は実現しそうにもありませんが、どなたか日本初(?)の空中株主総会にトライしてみていただけるとうれしいです。

−−−

もう一点。定時総会における事業報告などの、

議長は、第○期における会社の状況を事業報告書に基づき詳細に報告した。

といった部分。

一人株主が代表取締役(株主総会議長)もやっている会社の場合、

「議長オレ。株主オレ。」

なわけですが、それでも、やっぱり口頭で事業報告書の内容を報告したほうがよろしいでしょうか。


議長は、「脳内転送、開始!」と述べた後、脳内転送により、第○期における会社の状況を事業報告書に基づき詳細に報告した。

という議事録も、一度作ってみたい衝動にかられております。

(ではまた。)

October 10, 2007

買収防衛策導入、400社に

本日の日経朝刊17面より。
こうした傾向をまとめていただくのは、大変ありがたいですが、

「買収防衛策導入、400社に、法的な効力なお不透明」
(中略)
ただ、「発動時に株主意思の確認」かつ「議決権の三分の二以上の賛成」を要件とする企業がない状況は、買収を仕掛ける側から見ると、まだスキがあるといえそうだ。

いえそう、かなあ?

October 9, 2007

なぜ「会計」本が売れているのか?

・・・というタイトルの、税務経理協会さんから送っていただいた本日発売の本。

なぜ「会計」本が売れているのか?―「会計」本の正しい読み方
友岡 賛
税務経理協会 (2007/09)
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今まで「売れない」ということで定評のあった会計系の本がなんで売れるのか?について、慶應義塾大学の友岡教授が書かれた本です。

私もかねがね、この「会計本ブーム(?)」については「なんでだろ?」と思っていたんですが、私なりの解答の一つは、みんなが「なんで?」と思うようなちょっとした疑問を、素直に疑問形でそのまま本のタイトルにしたから、ではないかと思っております。「会計をガチで勉強したい」というのではなく、1000円弱の出費で数時間で読めて、ちょっとした「なるほどね」という発見があって、ちょっとだけ賢くなった気がする、というニーズの結構でっかい鉱脈が存在した、ということかと思いますが、本書も、まったく同じ手法をタイトルに応用しているのであります。

また、ご案内のとおり、税務経理協会さんの本というのは、ほとんど堅苦しそうな装丁の本ばっかりなわけですが、どうです、このピンク色のシマシマ。

この装丁を採用したという勇気だけでも、褒めて差し上げたい気持ちでいっぱいです。

内容については、他の「なぜ?系会計本」と同じく、私をターゲットにした本ではないと思いますので、コメントは差し控えさせていただきますが、ご興味のある方は、書店等で手にとってご自分で見ていただければ幸いです。<(_ _)>

(ではまた。)

October 3, 2007

やっと出た!「三角合併」(と、日本企業の未来)

本日、日経1面。

米シティ、日興を完全子会社化、来年1月にも上場廃止、初の三角合併方式。
 米シティグループは二日、傘下の日興コーディアルグループを完全子会社化すると発表した。(中略)
子会社化の手法では日興株主にシティ株を割り当てる株式交換方式を採用。五月に外国企業に解禁された三角合併の事実上、初の事例となる。シティは本体が東証に上場する計画も明らかにした。(中略)
 三角合併は国境をまたいだM&A(合併・買収)をする際に、合併や買収の対価として現金ではなく、株式を使う手法。

(国境をまたがなくてもいいですけどね。)

「初の事例」に、「事実上」、が付くというのがどういう意味なのか、というところですが、未公開企業などで今年5月以降、三角合併を使ったところはあるんでしょうか?

 
最近、日本のベンチャー企業のマインドもグローバル化が進んできまして、
「日本で起業したが、やっぱり世界を目指してアメリカに本拠地を移して、アメリカのVCから投資を受けたい。」
てな相談を受けることもポツポツ出てきました。
(いいぞ!Boys, be ambitious!)

自分ひとりでコツコツ何かやってただけなら、「移せば?」というだけの話なのですが、すでに、そこそこのキャッシュフローを生む事業が立ち上がっていたり、valuationの違うラウンドで既にベンチャーキャピタルから資金調達しちゃってたりすると、法人にも創業者にも投資家にも税金がかからないように海外の法人に実質的にその事業を移すというのが難しくなってきます。

そういうときに、
「ジャーン!今年5月からは三角合併が使えるようになって、一定の要件を満たせば、税務上も適格になるんですよ。」
と言いたいところではありますが、弁護士さんも税理士さんも司法書士さんもやったことが無いということは、作業時間がその分増えるということでして、作業時間が増えるということは、フィーも高くなるということで。日本とアメリカでそれぞれ数人ずつ弁護士や税理士が付いて何ヶ月も作業、といったことになると、とても駆け出しのベンチャー企業が払える金額ではなくなって来ますので、結果として、「他の方法を考えるほうが現実的だ」、ということになります。

今後は、シティさんや日興さんから出るプレスリリース等をつぶさに読み込むことで、どのへんがコツなのか、どういう問題が発生するのか?等が徐々にわかってくるでしょう。
そうした「スキーム構築コスト」が下がれば、日本でそこそこ育ってきたベンチャーが、アメリカのVCから投資を受けて世界で羽ばたく、てなケースもちょっとは出てくるかも知れませんね。

ま、実務が定着してくるのは少なくとも1年以上先になるでしょうし、外国の会社になったから必ず成功するというわけでもない。
マスコミや世間はそういうケースが出てくると、「優秀な企業の『国外流出』」てなことを言い始める気もします。
でも、「流出」じゃなくて「グローバル化」であって、「世界に羽ばたく」ってことですよ。

「日本の中だけでしか商売する気なし」なんて企業しか出てこない世の中だったら、北○鮮とさして変わらないわけでして、どっちにしろ21世紀に残れる国にはなるわきゃない。
(ちょっと気が早いですが)今後は、ガチンコで「制度間競争」して、より使いやすい会社法、証券法がある国、より企業が仕事しやすい仕組みがある国が生き残る、ってことじゃないかと思います。

買収防衛策を導入するのに株主総会決議をとらないといけない国、次々に新しいことをやる活気のある会社ほど自社株買いやストックオプションの株を売却がインサイダー取引になっちゃう国、何百ページの法律を読み込まないとファンドも作れない国・・・・というのが、はたして生き残る国になるんでしょうか?

(ちなみに私、うちの小学生の息子2人は、ぜったいアメリカの大学に行ってもらうつもりでおります。昨今の日本の状況を見るにつけ、「孫の代」まで幸せに暮らしてもらうには「外の空気」を吸ってもらうことは不可欠だと思われるので。)

(ではまた。)

October 2, 2007

「活力ある法化社会へ」の議事録

ちなみに、日経新聞さんのサイトに、先日行われたシンポジウム「活力ある法化社会へ」の議事録が全文公開されています。

http://www.nikkei.co.jp/hensei/comp07/

 
以前のエントリでご紹介した、村上事件判決の「書きすぎ」に関しては、このへんhttp://www.nikkei.co.jp/hensei/comp07/20070905sfa95001_05.html
に掲載されています。

また、本日も某マネー雑誌のライターの方に(先日、株式併合と超大量の新株予約権を発行した)某社の件でインタビューいただきまして、

「これって違法じゃないんですか?」
「政府としては、今後、どういう対応を取っていけばいいと思われますか?」

などと質問されて、どう答えたもんかと「うーん・・・・」だったんですが、、、

この議事録を読み返してみて、改めて、証券取引等監視委員会総務課長 佐々木清隆氏の以下の発言を、大変味わい深く噛み締めさせていただいた次第であります。


すなわち、ここ数年のインサイダー取引や株価操縦等々の問題は、基本的に株式市場の流通段階での問題でもあるわけだが、その流通市場の問題が、実は発行市場に根本的に基因するケースが非常に増えている。

 例えばよく言われる事例として、ある経営の傾いた企業を反社会的勢力なり一定のグループが乗っ取り、その企業を使って第三者割当増資、(株価によって条件が変わる)MSCB等々のファイナンスをする。ファイナンス自体は基本的に証取法の世界で直接規制の対象にはなっていない。証取法上、会社のディスクロージャーの問題はあるが、商品なりファイナンス自体について違法かどうかという判断をする法律の体系にはなっていない。

 証取法は世界中どこでもそうだと確信しているが、基本的に流通市場段階での株価の公正な決定を助けるための法律なので、インサイダー取引や株価操縦等々、基本的に「流通市場の段階での不公正取引」と規定されている。監視委員会に与えられている権限も、そうした流通市場の段階での調査、摘発ということになっている。

 他方、発行市場でのファイナンスについては、これはどう見てもおかしいと思っても「違法」とは言えない。だから、我々はその段階で直ちに「違法だからやめろ」「違法だから調査する」とは言わないし、できない。しかし、当局が直ちに調査なり摘発ができないという隙を突いて、いかがわしいファイナンスをした後に、それが流通市場の段階で株価操縦やインサイダー取引として顕在化する。しかし、その段階で我々が出て行っても、すでに被害や損害が生じ、市場の安定性にも問題が起きているというケースが少なくない。

 このように発行市場との問題が非常に増えてきている。そういう意味で、基本的な方針の中でも「発行市場、流通市場全体に目を向けた監視を行っていく」と言っているのだ。


以上のお言葉に期待すれば、某社については、今、SESCさんで「ガン見」されてらっしゃるんでしょうね。
株式総会も通ってしまって発行自体はできたとして、その後、行使、取得、決算といった局面で様々な開示が要求され、そうした開示の前に売買したらインサイダー取引に該当するケースもあるでしょうから、それらをすべて適法にクリアしていくのは、なかなか高度な知識が必要かと思います。

一方で、佐々木氏もおっしゃってましたが、国際間にまたがったりペーパーカンパニーが介在する取引では、違法の疑いが濃くても、実際に調査、摘発できるかどうかは、また別、だとのこと。

こうした状況の中で、国際間の証券監視当局の情報交換も、想像以上に密になってきていることが、議事録にも書かれています。

http://www.nikkei.co.jp/hensei/comp07/20070905sfa95001_05.html?p=2

(ではまた。)

「村上ファンド事件 地裁判決」

ロースクール卒業後、NYで研修中というkmtn1011さんからいただいたトラックバック。

http://onair2007.exblog.jp/7096051/

マスコミやブログなどでも取り上げらることの多かった

徹底した利益至上主義には慄然とせざるを得ない。

など、村上ファンド事件 地裁判決についてコメントされており、(法的解釈の妥当性等について私はコメントする能力もございませんが)、大変興味深く拝見しました。

トラックバックどうもありがとうございました。

(ではまた。)

日経・朝日・読売が業務提携(新聞社の事業構造改革(5))

本日の日経新聞朝刊より。
すでに週刊ダイヤモンド誌などでも取り上げられていた構想ですが、

 二〇〇八年初めのサービス開始を目指し、三社共同出資で事業主体となる民法上の任意組合を設立する。
初期投資額は合計数億円規模となる見込みで、出資比率は三社均等にする。

「有限責任事業組合(LLP)で」なんて言わずに、民法上の任意組合で「無限責任、どーんと来い」というところが実に男らしい。

 
というか、メディア系企業だと、映画の製作委員会方式など「ただの組合」のほうがなじみがあるのかも知れません。

また、三社の財政状態からすると、合計で数億円規模の投資なんてタバコを買うようなもんで、そのvehicle自体がdebtで資金調達する必要もないかと思いますし、事業の性質上、あまり予想外に大量の債務が発生してしまうといった性質のものでもないのかも知れません。

肝心の事業内容ですが、

 ネット上の共同サービスの閲覧は無料とし、広告を収入源にしていく案を軸に検討中だ。各社が現在運営しているニュースサイトはそのまま独立して存続させ、新サービスとはリンクなどを通じてそれぞれが連携する。
 そうした状況をにらんで共同サービスはネット空間での新聞情報全体の存在感を高めることに主眼を置く。三紙の論調の違いを読み比べできるサービスは新聞各社サイトの集客力を上げる一つの試みとなる。

というところまではまだmake senseですが、

 三社は新サービスを「ポータル(玄関)サイトではなく、むしろ各社のニュースサイトを入り口にして利用してもらうもの」と説明する。

というあたりになると、「??」ですね。
(事業センス的にイケてるかどうかはともかく)「ポータルです」と言い切っていただいたほうがまだわかりやすいんですが、どういうビジネスモデルを意図されているのか、この記事だけからでは不明であります。

−−−

始まるまえからケチを付けるつもりは毛頭ございませんが、成功した世のイケてるネットのサービスというのは、非常にトガったセンスの持ち主(実質的に個人または数人)が中心になって一気に作り上げたものがほとんどで、意思決定が遅くなりがちな大企業がしかも「共同で」作り上げて成功したものというのは、ちょっと例が思い浮かびません。

もしかすると、実際には各社ともネットなんてどうでもよくて「販売・配達面での提携」にしか興味がないんだけど、それではあまりにドロドロしたオジサン的世界の話にしか見えないので、「ネット」を前面に押し出してサワヤカさを演出しようとした、ということなのかも知れません。

実際、金額的なインパクトから言ったら、販売店問題のほうがはるかに重要かと思いますし、ネットの広告収入で新聞社の収益に影響を与えるほど(少なくとも十億円単位)の収入を稼ごうというのも、当面かなり難しい話かと思います。

−−−

独禁法的観点からはどう解釈できるか(もちろん、主として販売面の話)にも非常に興味がありますが、ちょっと知識不足につき、また機会があったら考察してみたいと思います。

(ではまた。)

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