昨日のエントリについては、多数の方からコメント・トラックバックいただきありがとうございます。
1月30日に出た日興コーディアルさんの特別調査委員会レポートについての感想を述べていなかったので、以下、
株式会社日興コーディアルグループ特別調査委員会 調査報告書
http://www.nikko.jp/GRP/news/2007/pdf/070130.pdf
をベースに、日興さんの「悪さ度合い」と上場維持が妥当なのかどうか、(微力ながら)考察してみたいと思います。
(以下、結構 長文です。)
なお、今回の件については明確にバックデートをしてるわけで、悪いか悪くないかで言えば当然「悪い」に決まってますし、「上場維持が当然」てなことも申し上げてませんので念のため。
また、こんなおもしろい(興味深い)文書はなかなか読めるものじゃないので、時間があったら、今回の上場維持に意見のある皆さんは、ぜひ、一度目を通されることをオススメします。
特別委員会の構成(第I部、第1章第2節)
元検事の弁護士の方、大学教授、弁護士など、法律系の方4名で構成。
それぞれ立派な方々ですし、調査対象からの独立性(公平に見れる立場)は十分にある方々ではないかと思います。
会計系の方がいらっしゃらないんですが、後述のとおり「なり手」がなかったのかも知れません。また、今回の件の本質が会計の話ではないということ(後述)を考えれば、会計系の委員はいなくてもよかったかも知れません。
調査の内容(第I部、第1章第3節)
ヒアリング延べ54時間、抽出のもとになったメール延べ50万件超(!)ということで、かなりガッチリ行われた印象。もちろん、メールはキーワードやFrom、Toなどで検索をかけたもので全文読んだわけではないはずですが、「過去削除されたメールも可能な限り復元し」とあるので、テクノロジーに詳しいスタッフがかなりガンバられた印象もあります。ヒアリングの内容も、(「要旨です」と断ってはいますが)、明らかにテープから起こした模様で、「ここまで出しますか?」というくらい詳細な内容。
当然、金融庁や証券取引等監視委員会(以下「SESC」)等の検査がかける時間(人日)には敵わないでしょうけど、企業が独自に行ったこの手の調査としては過去最も徹底的な内容のものの一つではないかと思います。(これだけやりゃ必ず許される、というもんじゃないと思いますが、今回、こうした徹底的な調査を行って詳細に開示したことは、上場廃止とならなかった要因の合わせ技の一つにはなっているのではないかと思います。)
また、ライブドアの場合もそうでしたが、「メール(だけ)が重要な証拠となる」というのも、従来型の粉飾の発覚や調査とは違う様態になっているところかと。
調査委員会の基本認識(第II部、第2章第3節)
昨年12月のSESCの課徴金5億円納付命令の勧告の際には、(1) 問題となったSPCであるNPIホールディングス(以下「NPIH」)を連結に含めず、(2) EB債の発行日を遡らせたということが並べて書いてあって、「だから違法」という結論になったわけですが(3ページ)、この特別調査委員会の報告では、「連結からはずしたことや、EB債を発行したことなどは、それだけではただちに不正とはいえない」としてるところが、ちょっとSESCとニュアンスが違うところかと思います。
(SESCの文章は、「そもそも連結しなかったこと自体も悪い」とも読めますし、「バックデートと合わせ技で一本」とも読めないこともない微妙な表現ですが・・・。)
「NPIの評価益とNPIHの評価損が対になっている」という部分についても、「会計観の問題に帰着してしまう」として、それ自体を不正と決め付けてないところも注目されます。
本件が「悪い」のは、そういう個別の要素ではなく、評価益を水増しするという「全体の絵」が最初から書かれていて、それに合わせてEB債を使って意図的な操作が行われた、というところ、としています。
このへんの特別調査委員会さんの基本認識と比較して、以前の私めのエントリ
日興コーディアルのSPC取引を考える
http://www.tez.com/blog/archives/000809.html
日興コーディアルのSPC取引を考える(基準がどうの、という細かい話じゃないんじゃないの?)
http://www.tez.com/blog/archives/000810.html
日興コーディアルのSPC取引を考える(ホントに第三者間では行われないような取引か?)
http://www.tez.com/blog/archives/000811.html
会計基準激変の時代に必要とされる開示姿勢とは、どんなもんでしょ?(日興コーディアルのSPC取引を考える)
http://www.tez.com/blog/archives/000815.html
で書いた内容は、さほどハズしてなかったかな、と思います。
「チェーンメール」(その1:P28〜、その2:P32〜)
(ちなみに、[どうでもいいですが]、「チェーンメール」という用語を「一連のメール」というような意味で使われているようですが、なんでそう書かなかったんでしょうか。通常、チェーンメールというと「不幸の手紙」という意味で使うかと思うんですが・・・。「当社を不幸に陥れたメール」という意味かしらん?)
平成18年7月11日からはじまったSESCの検査で発見された「チェーンメール(その2)」などのメールの内容を詳細に掲げています。
この部分は、(バックデートを真似しろということではないので誤解しないでいただきたいですが)、こういったデリバティブ的なややこしいスキームを実行しようとする際に、企業が、監査法人や法律事務所、税理士法人などと、どのようなやりとりをしてスキームを固めていくかという検討過程がこれ以上ないというくらい生々しく表面化している部分で、めったに目にすることが出来ないものでもありますので、こうしたことに興味があるがなじみのない方(将来、投資業務などに関わることを考えてらっしゃる学生さんなど)は、ぜひ一度お読みになることをオススメいたします。
個人的に意外だったのは、このEB債のスキームは、はじめから少なくとも検討の俎上には上っていた、ということです。(私は9月中間期末が近づいてから全く後付けで利益欲しさに考えられたスキームなのではないかとの疑念を持ってました。)
後から利益が欲しくなってバックデートしたわけじゃなくて、合併とか売却とかEB債とか、何らかの方法で含み益を顕在化する意図は最初から(良かれ悪しかれ)存在して、どのスキームが合法的に利益を出せるかを監査法人や法律事務所などに確認しながら、スキームを詳細に検討していてドキュメンテーションが遅くなっちゃったという面もある、ということです。(もちろん、ホメられた話じゃありません。)
また、関係者も6名程度の少数のようなので、(かなり前から報道等で本取引についての疑念が報じられていたので)、ホントに「悪だくみ」でやっていたのなら、これらのバックデートを示すメールは申し合わせてとっくに消していてもよさそうなもんだったと思うんです。
(これも、隠蔽を推奨する意図は全くないことを念のため申し添えておきますが)、今回、このメールさえ発見されなければ、課徴金とか監理ポスト入りは、行われなかった可能性もあるんじゃないかとも思いますので。
よく考えてみると、これは日本の商法上の社債でもなく新株予約権が付いているわけでもない(デリバティブ的ではあるが自社株(新株予約権)でなく「他社株式」と転換する権利がついているだけなので)でしょうから、登記など「外部のタイムスタンプ」が記録として残るところがどこにもないスキーム。
NPIHは非公開企業ということもあり、取締役会も株主総会も、今回責任が指摘されている少数の関与者だけで行うことになりますし、当初から大枠は決まっていたので、当人たちも、議事録等さえ最終的にちゃんと整備しておけばさほど違法な行為だとは認識していなかったんじゃないでしょうか。証券会社は金融庁やSESCの検査が絶対入るし、メールも閲覧されるので(実際に昨年の検査でもそれで発見されたわけで)、本当に悪い事をしているという認識があれば、あらかじめヤバいメールは消しておくという行動に出たんじゃないかという気もします。
ということで、議事録や社債要項などは、「ペーパーワークさえちゃんとやっとけばそれでOKじゃん?」と思っていた可能性は大 → つまり、本人たちは(当然、利益が大きくなることを意図していたわけではありますが)、法律違反になるという認識はあまりなかったんじゃないかという推測もできます。(「悪いという認識がなければ悪くない」とは言っておりませんので、これも念のため。)
これも誤解を怖れずに言えば、日本の企業300万社の大半では実際この程度の認識ではないかと思いますし、
「ウチワだけだから、ペーパーで取締役会やったことにしちゃいますよ」とか、
(細かいことまで決めずに)「ま、だいたいそんな感じで議事録作っといてよ」とか、
「役員がなかなかつかまらなくて議事録の押印が1ヶ月くらいずれちゃった」、
てなことはママあるんじゃないかと思います。
しかし、普通はさほど悪辣な不正行為ということにはならなくても、非公開とはいえ「公開企業の連結子会社」がこれで「利益を上乗せする目的」で「資金調達まで」しちゃえば、証券取引法第172条1項(重要な事項につき虚偽の記載がある発行開示書類に基づく募集等への課徴金)に該当するとみなされてもしょうがない・・・かと思います。
作られた議事録や要項が実際に作成された日時を特定するのは非常に難しいので、今回の件が「不正」とみなされたかどうかの分水嶺は、まさに「これらの一連のメール」のみだったということになるかと思います。
ベルシステム24への投資(第II部第1章第1節 P21〜)
ベルシステム24の価値をどう見るか、ですが。
少なくとも市場価格やTOB価格がベルシステムの公正な価値を反映していると考えれば、実際に当該9月中間期末で「含み」は出ていたわけです。(これも、含みが出ていたから利益出していい、というわけではありません。)
コメント欄や他のブログでも「ライブドアとはどこが違うのか」という議論が行われていますが、微妙なところをあえて説明を試みるとすれば;
ライブドアは投資組合を使った取引の全貌が判明すれば、おそらくほとんどの会計士が「それは資本取引でしょ」と言うであろう取引を隠蔽して利益(売上)として計上していたのに対し、日興のケースでは、取引の全貌(ただし、ドキュメンテーションのタイミングは期末までずれこんだ)はすべて会計士にはオープンになっていたし、将来、ベルシステムを他社に(その値段以上で)売却すれば会計上もちゃんと実現する取引が、前倒しで利益として認識されるかどうかの問題だった。(永久に資本取引になる取引を損益取引として認識したものではない。)(また、仮装の可能性もなくはないが、実際に第三者にその価格で一部売却もできている模様)、ということはあるかと思います。
(まあ「目くそ鼻くそ」の話でして、目くそだから鼻くそよりはあまりきたなく無いのでは、と言うのはキビシイですが)、監査法人や弁護士などと検討していたドキュメンテーションがもうちょっと早く固まっていれば、グレーだけど違法ではない、という結論になった可能性もあるところが、違うといえば違うところ、かと。
「TOBで、意図的に価格を吊り上げたんじゃないか?」という疑念もぶつけてますが、直前の株価とプレミアムや、経済産業省への問い合わせからして、必ずしもそういう意図でTOBが行われたとは言えない、としています。(むしろ、少数株主の利益を考えるなら、TOBするべき。)
会計処理のセカンドオピニオンについて
また、ライブドアとの違いをもう一つ言えば、ライブドアの場合、社内でも投資組合を使った自社株売却のスキームの全貌が完全に伏せられていたのに対し、日興のケースは(ドキュメンテーションが遅れた部分以外は)社内ではオープンになっており、国税出身者や大手法律事務所のパートナー弁護士などのビッグネームの方々も含めて社内で何度も何度も繰り返し専門的で真面目な検討が行われてきたし、CFO等にも何度も確認したり交渉したりしていた(報告書参照)、という違いはあるかと思います。
また、今回、改めて認識したんですが、「会計処理については意見書が取れない」という恐ろしいリスクが存在するんですね。
法律や税務については、取締役が判断がつかない専門的な話については弁護士や税理士から意見書を取るということで善管注意義務を果たすことが可能かと思いますが、報告書には、会計処理の適切さについて他の会計士や日本公認会計士協会に相談しても、意見書を書くことについてはすべてネガティブな反応が返ってきたという生々しいやりとりが掲載されています。
つまり、監査・監督をする取締役や監査役の立場からすると、自分たちだけでは判断できないこうした専門的な会計上の「ややこしい話」に出くわしてしまったら、いくら真面目に検討しようとしても、「お手上げ」だ、ということであります。
会社法(商法)上、監査委員会や監査役に求められているのは「会計監査の相当性(≒監査法人が明らかにダメな監査をやってるわけではない)」のチェックまででしかないので、それでいいじゃん(だからこそ「相当性」なんだから)、という考え方もあるかと思いますが、ブラックボックスである監査法人にすべてを投げて、その監査法人も「相当かどうか」しかチェックしないとしたら、投資家からみると、恐ろしいことこの上ないかも知れません。
逆に言えば、ビジネス上合理的な範囲でチェック機能を構築しようとしたら、一般にはその程度が限界かも知れません。「死ぬ気」でやれば、もちろんそれ以上のことができないわけではないと思いますが・・・(それは「ビジネス」を超えた領域かも。)
内部監査部門の責任は?
読んでいて一つ気づいたのは、「内部監査部門」について報告書では一言も触れられていない、ということ。
ただ、通常の企業の内部監査部門は、弁護士や公認会計士またはそれに準じた知識を持つ内部監査部員がいるところというのは少ないでしょうから、こういったややこしい(従来型の処理からはずれる)取引について内部監査しようと思っても、ほとんどの場合、かなり難しいかも知れません。
「削除されたメールも可能な限り復元」てなところまでやろうとしたら、コンピュータに対する知識も相当に必要でしょうし、50万件ものメールから特定の条件のものを抽出するにはコンピュータの知識だけじゃなく、前述のように、何が問題なのかを認識して当たりをつける能力も必要だと考えられるわけでして。
日興さんクラスであれば、コスト的にはそういう態勢が構築できないこともないとは思いますが、そういう態勢を構築していなかったからダメだったとまで言えるかどうか。
ただし、(SESC等に発見される前に)社内でこれを発見できるとしたら、外部のプロジェクトチームを組織して権限を与えるというような通常よほどのことがないととらない方法以外には、内部通報制度か内部監査部門の調査くらいしかありません。
前述のように、法令違反をしようという「悪気」があったとは必ずしも言えない事例ではあるかも知れませんが、上場が維持できるからには、同様のことが発生したときには対処できることが重要なはずで(改善報告書の提出も求められているので)、どうするんでしょうか?(どこまでの態勢を構築すれば許してもらえるのか、非常に興味あります。)
「何かあったらメールを全件スクリーニングされる」というのが決まっていたらいたで、「ホントに悪いヤツ」はそういうメールは証拠として残さないようにするでしょうから、今回のようにメールを検索して何かが発見できる可能性は減るのでは?(いたちごっこ。)
調査委員会の結論(第II部第2章 P85〜)
マスコミやブログなどでは、「報告書でもトップや組織的関与を認めている」と書かれたりしていますが、本報告書を読んだ私の感想としては、それは子会社であるNPIのトップまでを指していて、日興コーディアルグループのトップまでを含めた隠蔽が行われていたということは必ずしもいえないというのが結論ではないのか、と思います。
金子元会長、有村元社長については、(もちろん監督責任はあったわけですが)内容はよく理解されてなかったことが伺われますし、監査委員会メンバーについても「(真面目に検討して)少なくとも開示は認めさせており、本件につき非難を加えることは難しい」としています。
NPIの平野社長は「張本人」ではあり子会社のトップではあるものの、開示企業であるNCCの経営陣ではありません。
一番の鍵はおそらく山本CFOで、調査委員会は、「これを知りながら黙認した疑いが強い」「積極的な関与の疑いも否定できない」としてますが、メール等をスクリーニングした限りでは、山本CFOが積極的に関与しているエビデンスは発見できなかった、ということでしょう。
しかし、他の重要なメールが(無邪気にも)残っていたことを考えれば、山本CFOにcc:がついた決定的なメールだけが意図的に削除されたのかなあ?という気もします。
(「あの人、どうせメール読んでないから」とか「細かいメールでCCをつけると嫌がられるから」ということで、CC:が付けられない方だったのかも知れませんけど。)
ということで、もし今回、この山本CFOの関与を示す決定的な証拠があれば、「グループの経営陣までが関与」ということで上場廃止の可能性はグンと高まったのではないかとも思いますが、自ら非を認めた宮内氏が財務の責任者だったライブドアと、ここ(「企業ぐるみ」「経営陣主導」とまで言えるかどうか)もちょっと違うところかと思います。
上場維持で重要なのは内部統制レベル(のはず)
それはそれはキビシイ金融庁やSESC、証券取引所、証券業協会等の検査が年中入っている日興さんであれば、内部統制のレベルは全上場企業の中でも上位数%に入る程度にはちゃんとしていたということは十分、推測されます。
今回は、(監査委員会等が以前からそれなりに時間をかけて真面目に検討したにも関わらず)、日興の内部統制システム自身では不正を発見することができなかったわけですが、だからといって1万人を超える従業員を抱えるグループ全体の内部統制状況が全否定されるものでもないのかな、とも思います。
この点、ライブドアの場合には、社外取締役もおらず、東京地検が入るまでは港陽監査法人しか外部の目が入ってなかった(その後の訂正報告書の数を見ても、監査法人の監査が付いてないことからも)、ライブドアの開示資料の正確さに大きな疑問が残るのはやむをえないところで、「日興は上場維持なのに、ライブドアは上場廃止というのはアンフェアだ」と同列で判断することは、必ずしも適当ではないかも知れません。
また、「上場廃止したら投資家の迷惑になるといっていたら、上場廃止にできないじゃないか」というのはそのとおりだと思います。しかし、上場廃止したら投資家全体には(流動性プレミアム分)損失が発生するのは確かだと思いますので、上場廃止するのも、単に「悪いことしたから」とか「ペナルティのため」とかではなく、「今後、不適切な資料を開示する恐れがあるかどうか」を中心に判断すべきじゃないかと思います。
以上、長くなりましたが、私が、「上場維持という東証さんの判断は、『えこひいき』とか『政治力』だけからのものとは言えないのではないか」と印象を持った理由について、特別調査委員会の報告書をもとにコメントしてみました。
(ご参考まで)