Yomiuri Online連載第9回目:「お笑い」で考える「仲間との起業」

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Yomiuri Onlineに連載させていただいている「磯崎哲也の『起業案内』」第9回目が掲載されました。

http://www.yomiuri.co.jp/job/entrepreneurship/isozaki/20110712-OYT8T00732.htm (今はリンクが切れています)

 

今回のテーマは”「お笑い」で考える「仲間との起業」”。

「アメリカでは『共同創業者』数名で起業するパターンが多いのに、日本の大成功したケースではなぜ、1人を中心に起業するケースが多いのだろう?」

という話です。

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今回は、「仲間と起業すること」について考えてみたいと思います。

アメリカにYコンビネータ(Y Combinator)という会社があります。(Yコンビネータのウェブサイトは、こちら。 http://www.ycombinator.com/
この会社は、設立して間もないベンチャー会社に資金提供を行っています。(「『まどか☆マギカ』で考える『インキュベーター』の役割」、という回でご紹介した「インキュベーター」という業態に相当しますが、ウェブサイトを見ても、彼ら自身はインキュベーターとは名乗っていないようですね。)

この会社を共同創業したポール・グレアム(Paul Graham)氏は、「我々が起業家に何を求めるか(What We Look for in Founders)」という記事の中で、「友情」を起業の重要な要素として掲げています。

経験的に言うと、たった一人で事業を始めるのは厳しい。ほとんどの大成功したベンチャー企業は、2人とか3人の起業家によって創業されている。そしてこの創業者たちの絆は強くなければならない。創業者たちは、お互いに相手のことが本当に好きで、いっしょによく働かないといけない。

なるほど、確かにアメリカで大成功している企業を考えてみると、友人同士でいっしょに起業しているケースが多いですね。
例えば、アップルはスティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアック。ヤフーはジェリー・ヤンとデビッド・ファイロ。グーグルはラリー・ペイジとセルゲイ・ブリン。フェイスブックはマーク・ザッカーバーグの他数人のハーバードの仲間達、といった具合に。

ところが、最近の日本の起業を考えてみても、この「友人といっしょに起業する」といったパターンで大成功した企業が、それほど思い浮かびません。当然のことながら、会社は一人ではできないので、創業間もない頃でも何人かの役員や従業員はいますが、「共同創業」というよりは「一人の傑出したリーダーがいる」というパターンが多い気がします。
もちろん現代の日本でも共同創業的な例が無いわけではないですが、戦後間もない時期には、ソニーが井深大氏と盛田昭夫氏らの仲間で創業された、といった例がもっと多かった気もします。

ここで、この「仲間といっしょに何かを始める」ということを、「お笑い」の世界になぞらえて考えてみましょう。

日本は現在、世界の中で最も「お笑い」が発達している国ではないかと思います。これは一つには、吉本興業の「NSC」をはじめとする、芸能プロダクションが立ち上げた若手養成スクールの存在が大きそうですよね。つまり、日本の現在のお笑い界の繁栄は、過去のお笑いブームの影響もさることながら、アメリカのベンチャー界におけるY Combinatorのような若手養成機関の出現によってもたらされたのかも知れません。

加えて、現在の日本のお笑いは、一人で舞台に立つ「ピン芸人」より、お笑いコンビのような複数人のユニットの方が圧倒的に主流です。(アメリカでは逆に、漫才といった形式は無く、ピン芸人が主流じゃないかと思います。)
そして、日本で成功しているお笑いコンビ等は、お笑いで成功する目的のためのビジネスライクな関係というよりは、例えば「ダウンタウン」のように、子供の頃からの友達同士であったり、学生時代に同じクラブで苦楽を共にしたり、兄弟だったりと、元々信頼関係がある仲間どうしが組んでいるパターンが多いように思われます。

ベンチャー企業と同様、お笑いも、成功出来るかどうかの不確実性が大きい世界です。スクールという現代的な仕組みが出現したことで、徒弟制度時代より随分敷居は下がったはずですが、それでも最初の一歩を踏み出すのは、なかなか勇気がいるはず。そんな時、昔からいっしょにアホなことをやって遊んだ親友に「いっしょにお笑いやらへんか?」と声をかけて、共にスクールの門をくぐることができたら、何より心強いですよね。漫才コンビは2人の呼吸が合っていることが重要ですし、頭をハタいたりハタかれたりもするわけで、本当の「絆」が存在しないと、なかなか関係を維持することが難しいんじゃないかと思います。

ベンチャー企業の共同創業者達も、お笑いと同様、「お客にウケないと明日が無い」という厳しい世界にいます。言いたいことが素直に言えない関係だったり、ちょっと口ゲンカしただけで仲が壊れてしまう関係では、ベンチャーの共同創業者としていっしょにやっていくのは難しいのではないかと思います。

余談になるようですが、なぜアメリカではピン芸人が多くて、日本では漫才といった形式が多いのでしょうか?「文化の違い」といってしまえばそれまでですが、アメリカのように多様な文化に支えられている国では、比較的シンプルなネタでないと多くの人に共通する笑いにならないということがあるかも知れないですね。逆に日本は、国民の間に共通する文化や知識が多いために、よりヒネったネタにしないと面白さにつながらない。「ボケ」がイノベーティブであるほど、それだけでは浮いてしまいかねないので、それを「ツッコミ」が補完することで、レベルの高い笑いがテンポを緩めず、より多くの人に理解しやすくなるのかも知れません。お笑いの世界の競争も日本の方がより厳しいと思われます。

お笑いの世界と反対に、日本のベンチャー企業は社長が「ピン」で創業するケースが多いのに、アメリカでは「コンビ」や「トリオ」での起業が多いというのも、アメリカのベンチャーのおかれている競争環境が日本よりはるかに激しく、シンプルなネタでは勝負できないから、ということがあるかも知れませんね。

また、シリコンバレーでの起業は、最初から「どう世界展開するか」ということが投資家から求められます。しかし、日本の場合には日本の市場だけを想定するといった、相対的に「小粒」なパターンが多いと思います。
例えば、誰も手をつけていない数億円のニッチ市場を見つけたとしましょう。年間数億円の売上が立つというのは、普通の学生やサラリーマンの感覚からするとすごいことです。しかし、日本のGDPは500兆円もありますので、年間数億円の売上というのは、その日本経済全体の100万分の1程度にしか過ぎません。この程度のニッチなら、まあ結構ゴロゴロしているわけです。(・・・といっても、それを見つけるのは大変ですし、見つけた人は、何も考えずにサラリーマンやって給料もらってるよりは、はるかに立派であります。)

ところが、数億円の市場と言っても、従業員を雇ったり原価や経費が発生したりすると、利益はそれよりはるかに小さくなります。そうした小さなパイを数人の創業者で山分けすると、あまりおいしい話にはならなくなっちゃいそうですよね。
こういう場合には、他の人を事業に誘うのははばかられることになります。「他のやつに分け前をやるのが惜しい」という利己的な心のせいのみならず、「ちゃんと就職すれば年収1000万円もらえそうな優秀な友人を、リスクがある事業に誘って年収800万円で働かせ続けるというのでは申し訳ない」といった相手への配慮からも、友人を誘うのがためらわれることになります。

しかし、例えば会社の企業価値が百億円、1千億円、1兆円になるような壮大な夢を描いて起業する場合には、なにも一人で儲けを全部ガメる必要はありません。気のあった友達がいっしょにやってくれて企業価値が何倍にもなるんだったら、自分にも相手にもメリットがあることになります。

よく、「経営者は孤独だ」と言われます。一人でリスクや困難に立ち向かうというのは、精神的にもつらいので、苦楽をともにできる仲間がいれば、心強いことこの上無い。また、一人で考え込むよりも、本音をぶつけあえる仲間とディスカッションする方が、いいアイデアも出て来るはずです。

加えて、外部から見た場合にも、共同創業者数名によって創業された会社は、安心感があるかも知れません。
例えば、優秀そうな創業者が一人で事業を切り盛りしている場合、確かに優秀そうだけど、その人がコケた場合のリスクがあります。また、優秀そうでも、その人の事業見通しが本当に当たっているのかどうか、一抹の不安があるかも知れません。しかし例えば、共同創業者が、大企業での有望なポジションを捨ててその事業に参画したということであれば、その事業が本当に有望そうだという判断にもつながるかも知れません。共同創業者が本当に友達なら、事業の夢や見通しについて本音を語っている可能性も高いはずだからです。
また、いざというときに強烈なツッコミを入れられる共同創業者がいるなら、安心してより「トガった」方向を目指させることができるかも知れません。

つまり、一つの仮説として、今後、日本のベンチャー界に大成功する企業が増えるには、「友達と共同で起業する」というパターンを増やす必要があるかも知れません。
もちろん、前述のとおり、「友達同士で起業する」というのは、大成功の「原因」というよりは、大きなビジョンがあることの「結果」とも考えられます。大きなビジョンを持ってない起業家が、友人と起業したらうまくいくというものでは無いかも知れません。
また、起業は少なくとも一生の一時期を賭けることですので、現在の日本でも本当にこうした共同創業パターンが向くのかどうかについては、個別のケースごとに慎重に考える必要があります。特に、日米の資本市場の性質の違いや、資本政策の観点からよく考える必要があると思います。

そうした「仲間と起業する」場合の課題や注意点について、また来週以降に考えてみたいと思います。

(ではまた。)

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