日銀の国債引受けで、日本の銀行は「国債の投げ売り」をするか?

  • Facebook
  • Twitter
  • はてなブックマーク
  • Delicious
  • Evernote
  • Tumblr

一昨日のエントリ「日銀が国債引受けを行うとインフレになるのか?」に対して、池田信夫さんからお返事いただきました。

 

この後半はおっしゃる通りで、白川総裁のもとではどんな目標を掲げてもインフレは起こらないでしょう。しかし極端な話、亀井氏が日銀総裁になって「国債を 500兆円引き受けてインフレを起こす」と宣言したら、邦銀は急いで売り逃げ、長期金利が暴騰してインフレになるでしょう。

 

国債500兆円引き受けたらインフレが起きるかもしれない、というのは同意です。

 

ただし、「邦銀は急いで売り逃げ」ってのは無理ですね。

邦銀が持っている国債の量がもし「250円」だったら売り逃げられるでしょうけど、日銀の資金循環表を見ると「預金取扱機関」全体で持っている国債の量は、なんと「250円」(GDPの半分もの額)、金融機関全体ではGDP並み(500兆円)の国債を保有しています

250兆円もの国債を一瞬にして売買できるほど国債の市場の流動性はもちろん無いし、家計も企業も外国も、250兆円もの国債を買うような経済主体はいないわけでして。

 

では250兆円の1%(2.5兆円)でもいいから売り抜けようという銀行が現れたらどうでしょうか。
それだけでも、国債市場の価格形成には相当ネガティブな影響があるはずです。

しかし、亀井大臣はデフレは解消したいのかも知れないけど、国債をクラッシュさせたり金利を暴騰させたりしたいわけではないはずじゃないでしょうか。

このため(日本経済を壊滅させたい人ではなく)景気を良くしたい大臣を前提とすればですが、おそらくそういう事態になりそうな場合には、当局から銀行に対して、

これから国債の日銀引受け的なことが実現するかも知れないけど、慌てて売却して国債の価格形成に不健全な影響を与えるような輩が現れたら、次の検査で容赦しないから、よーく考えて行動するように。
もちろん預金で預かった資産の運用をちゃんとやるのはあんたらの責任で、「よーく考え」た結果、仮に損失が発生するようなことになっても、こっちは知ったこっちゃないから勘違いしないようにね。

といった含意を持つ通達なり連絡があるはず。
ご案内の通り、日本の銀行というのはビックリするほど当局の言う事をよく聞く業界ですから、基本的にはこの「含意」には従うはずです。

銀行も、仮に抜け駆けすれば自分のポジションがキレイにできるんだったら、抜け駆けするインセンティブが無いではないですが、どっちにしろ国債の保有量が多すぎて、全部売却するなんてとても無理。
だとすると、ここはおとなしく言うことを聞いておいた方が得。
仮にこれがアメリカなら、そんな「協調」が発生する気はまったくしないですが、日本は違う気がします。

ということで。

ブックマーク等で「インフレは起こせる。高橋是清を知らんのか。」 「アメリカではうんたらかんたら。」といったコメントをよく頂くのですが、大昔や外国の話ではなく、現在の」「日本の」「具体的数値と当事者の行動様式」を元に議論することが重要なんじゃないかと思う次第です。

同様のことは、ここ数年の不動産プチバブルとその崩壊の時にも起こっているんじゃないかと思います。

80年代の不動産バブルと今回の不動産プチバブルが違うのは、今回のプチバブルは、企業が銀行から普通に借りたお金で投資をしたわけではなく、SPC(特別目的会社)が銀行等からノンリコースローンで調達したものが、かなりの量を占めたと思います。

シコった不動産への貸付債権を持っている銀行は、我先にと不動産を処分→不動産価格の暴落、といったことが起こってもよさそうなもんですが、(数億円程度の物件は売れるものの)、100億円単位の物件については、どの銀行も驚くほど静観の構えで不動産の動きが全く無い、という状況が続きました。
この原因を推測すると、100億円単位の物件の買い手がなかなかいないということに加え、不動産の場合特に、投げ売りが発生して価格が大きく下がると、会計上の不動産の価値も下がる可能性があるということがあると思います。
つまり、不動産の投げ売り合戦をしても、銀行の決算上も得にならない。そういうことも、背後の要因としてあるのではないかと思うわけです。

80年代バブルの時と違うのは、そうしたノンリコースローンが貸し出されている物件は、「青森の原野」や「鳥取の砂丘」等ではなく、都心の超一等地の物件などが多いのではないかと思います。つまり、状況が落ち着けば、基本的には一定の収益力が見込めそうな物件なわけです。
また、もし不動産を売らないと資金繰りが回らないというならともかく、現在の日本の銀行はお金はジャブジャブにある。これらを総合すると、銀行は慌てて売り急ぐ必要もない。

同様に、国債のポジションのメインは政府の強い監督下にある郵貯を含む銀行や社会保険等にほとんどが集中してるわけですから、それらの主体による投げ売りは、(多分)発生しないんじゃないかと。

もちろん、国債の価格が下がることでポジションを自動的に調整しなければならない内規等が多くの銀行にもあったりした場合には「VaRショック」的なことが発生する可能性があるのかも知れません。しかし、仮にそういう内規があったとしても、前述のような監督官庁からの「示唆」でオーバーライドされるんじゃないかと思います。

同じく日銀の資金循環表によると、企業は「たった」6兆円、個人と海外もそれぞれ「たった」36兆円、44兆円しか国債を持ってないのですが、これらの主体にはそうした協力関係は働かないので、投げ売りに走る可能性もあり、それだけで国債市場に大きなショックが走る可能性があります。
しかし、後日、日銀の理事会が「リフレ派メンバー」に入れ替わるのだとしたら、国債を十兆円単位でジャンジャカ買いまくればいいだけの話ですから、国債価格は元に戻る。銀行は資金にまかせてナンピン買いしてもいいくらいかも知れません。だって、満期まで持っていれば額面で返って来るわけですから、確実に大もうけ。

基本的には以上のとおりだと思うのですが、もちろん、銀行は当局だけ見て仕事をしてるわけではなく、資本市場に対しても説明責任がありますし、会計基準や自己資本規制比率等もにらみながら行動しなければいけません。
このように複雑な要因が絡み合う中、異常な状況下でどのような現象が発生するかは極めて読みにくいので、この国債の日銀引受けというのが、危険な賭けだというのは、全く同感です。

 

特に、私は、上記のような状況と当局の「示唆」の下で、金融機関の国債のポジションを持ってる部門が、どのように行動するのかの情報を持っているわけではありませんので、金融機関の中の人、どなたかコメントいただけるとありがたいです。

 

日銀引受けの額はいくらなら国会を通るか?

上記のとおり、「500兆円」引受けならインフレが起こる可能性があるというのは同意します。
500兆円というのはGDP並の金額ですので、仮にこれを1年で政府がばらまいたら、つまりは我々が今の2倍働いてもおっつかないくらいのインパクトが財市場に発生するということだからです。

しかし、一昨日述べたとおり、財政支出については高速道路もスパコンもダメというケチ臭い状況が発生してます。
このため、方針を一貫させるためには、ウソでも中身をちゃんと検討したという形を取る必要があるわけですが、あの事業仕分けのノリで「ちゃんと検討」してたら500兆円どころか何十兆円単位の追加の使い道なんか見つかるわけがないし、そんなものが予算が通るとはとても思えない。(次の選挙でも勝てないでしょう。)

だから、どんなにがんばっても、追加の財政支出はせいぜい10兆円とか30兆円の規模に留まるはずです。
税金をゼロにして歳入を減らすという大技も理屈としては考えられますが、「消費税ゼロ」は全国の企業等の事務の手間が大変ですから、所得税とか法人税をゼロにするにしても、100兆円もはいらない。

もちろん500兆円を日銀に引き受けさせて、10兆円しか使わないということも考えられないわけではないです。
しかし、政府が国債で調達したお金を日銀の預金に預けておくだけでは、財市場に対してインパクトがないから、よくよく考えればインフレ期待に繋がらないはず。
(日銀が国債と政府預金の金利差で儲かるだけ。)

ということで、「日銀が国債引受けをしたらインフレが発生する可能性がある」というのは一般論としては間違いではないと思いますが、「現状の日本」で国会を通る財政支出の規模などまで考えると、実際に国債引受けでインフレを起こすのは難しいのではないかと思います。

 

同じく池田さん曰く;

この予想は根拠のないsunspotであっても、多くの人が信じたら「自己実現的な予言」になります。石油危機のときの「トイレットペーパー事件」って覚えてます?

覚えてますし、全くその通りだと思いますが、「国民全員が信じたら」何でも可能なわけです。

例えば、国民全員が「毎年2%程度のインフレが起こる。(2%以上上げるのはちょっと無理。)」と信じれば、マイルドなインフレだって可能。

問題は、「どのような内容なら、国民に広く共通の認識を持たせられるか」と「そのための現実の経済主体の行動を考えた、具体的で説得力のあるプロセス」、じゃないかと思います。

これを、ソーシャル・サービスが「キャズム」を超えるモデルのアナロジーで図解しようかとも思ったのですが、そろそろ別の原稿に取りかからないといけないので、本日はこのへんで失礼させていただいて、続きはまた後日。

 

(ではまた。) 

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

日銀の国債引受けで、日本の銀行は「国債の投げ売り」をするか?” への6件のコメント

  1. 先物のショートかCDSを思いつきますが、銀行さんはどうなんでしょうか。
    国債の相場ってシロートにはイマイチ分かりませんね。。

  2. どんな期待で価格が決まるのか、と言えば、大まかには 将来物価の期待値と将来 債権より流動性の高い資産を持ってるとどのくらいお得かの期待値かと思います。
    国債の価格が暴落するからって、売れたとして替わりに何を買えば良いんだって、話になってきますよね。
    フロア付きの物価連動債を発行して、投売りしないかわりに、そっちに交換してやるよってゆうおっ達しを出すのはどうですかね?それで、回収した国債を日銀に引き取らせるとか。

  3. ぼくは いそざきさんの いけんに どういですね。 いけださんは そもそも にんげんの しこうを たんじゅんか しすぎる きらいが ある。
    にほんには いちおくにんもの ひとびとが いて、 いちおくにんもの さまざまな しこうが あるわけです。 ものごとを たんじゅんか することほど きけんな ことは ない。
    ひらがなだけで かいて すみません。 いま、 ひろしま なおきさんに かんかされて ひらがなうんどうを じっこうしているのです。

  4. 1.将来の増税or国債の実質デフォルトを見込み、邦銀も含め、海外に投資が流出
    2.円安へベクトルが向かう
    3.が、衰退しつつある輸出企業が円安で回復する効果で多少相殺され、中途半端に回復してる為、産業構造の転換も起こらない
    4.結局ズルズルと10年以上円安と投資・人材の海外流出が続き衰退していく
    5.15年位して、ついに輸出産業も競争力を失ったところで円暴落、第3の敗戦
    こんな感じで緩慢に倒れていくというのが、最もありそうなシナリオではないでしょうか。池田先生は無理に希望のあるシナリオ(早期にご破産願いまして再出発)を描こうとして、上手く行ってない感じがありますね。