「なぜ世界は不況に陥ったのか」池田信夫さん お返事編

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池尾 和人・池田 信夫著「なぜ世界は不況に陥ったのか
なぜ世界は不況に陥ったのか 集中講義・金融危機と経済学
 
をご紹介した昨日の記事に、池田さんから早速お返事いただきました。

おかげさまで、『なぜ世界は不況に陥ったのか』は、発売1週間で3刷になった。(中略)
いろいろ書評も出てきたが、いちばん手強いのが磯崎さんの批判だ。


 
(いえ、素朴な「疑問」でして、「批判」なんておそれ多いもんじゃないんですが・・・)、
 
「時価総額経営」について

テクニカルな話は省いて、大事な点だけ簡単にお答えしておく。

ITバブルのときに、多くの人が頭がバブっていたのはそのとおりだと思うのですが、「問題が利益じゃなくて時価総額だ」というのは、特に間違っていたわけじゃなくて、現在でも通用する話かと思います。

これは「効率的市場仮説」を信じる経済学者の意見で、よく批判を浴びるものだ。市場が未来の出来事を完全に織り込んでいれば、時価総額=企業価値と考えていいが、バブルのときは明らかにそうならなかった。

確かに、「問題は利益じゃなくて企業価値だ」と言った方がお上品な表現かとは思います。
しかし、「事後的に」見れば「明らかにバブってたじゃん!」と言えることでも、経営判断原則的に、当時の時点でどう考えられたかという観点から見ると、時価総額が企業価値を適切に反映しているかどうかは2つの部分に分解されるんじゃないかと思います。
つまり、「経営者にもわけのわからない株高」の部分と「その時点で、それなりの前提で作った経営計画から計算される企業価値」の部分です。
「うちの株、なんでこんなに高いの??」と企業の経営者も首を傾げるような株価だとか、または、「みんなが上がると思ってるから上がる」「同業の株価が高いからという理由だけからしか説明できない株価」であれば、当時でも明らかなバブルと言えますが、当時、それなりに経営者が考えて作った中長期計画から説明がつく時価総額になっていた部分については、少なくとも当時は(「事前」には)バブルかどうかはわからなかった。
例えば、不動産ビジネスのような堅いビジネスであれば、あまり急速に賃料が上昇するという想定は無理があるので、不動産価格の急激な上昇は不動産の利用価値の変化だけからは説明がつかない場合も多いわけです。しかし、それと対照的なネットビジネスの場合、ビジネスの自由度や可能性は非常に大きかったわけで。
例えば、当時はYahoo!もExciteもGoも「どうせウチは負け組だ」なんて考えていたわけはなくて、どの企業も「ポータル1位を目指すぞ!」という意気込みだったでしょう。
(特にアメリカのベンチャーは、日本の多くのベンチャーと違って、最初から世界マーケットを想定しているわけで、触れ幅もでかい。)
後知恵で考えれば「ポータルがいくつも同時に存在できるわけないよ」とわかりそうなもんですし、当時で考えても、すべてが「1位になる」前提で作った事業計画は、マクロ的に見ると同時には成り立たつわけがない。(つまり、マクロ的に見るとバブルを含んでいる。)
しかし、個別企業をミクロに考えてみると、高い企業価値はそれなりに合理的に説明できるし、時価総額が企業価値から乖離しているかどうかは、少なくとも「事前」には明確にわからない。
ですから、「市場が未来の出来事を完全に織り込むとは限らない」「時価総額=企業価値とは限らない」というのはおっしゃるとおりなわけですが、じゃあ「企業価値がある時点で正確に計算できるのか?」「時価総額が企業価値から乖離しているのがわかるのか?」と言えば、それもわからないわけです。
明確に言えるのは、当時のタイミングで、時価総額が財務諸表に大きな影響を与える会計基準に変わったということと、時価総額が高ければ時価発行や合併時にも有利である、という事実だと思います。
ですから、「(企業価値ではなく)時価総額が問題だ」というのは、それなりに見識ある言葉だと思います。
 
米国の投資銀行に対する規制について

本書では言及するのを忘れたが、投資銀行にも自己資本規制はある。SECのNet Capital Ruleという自主規制で、当初はリスク資産が自己資本の12倍までというBIS規制に近いルールだったが、投資銀行のロビー活動によって30倍まで拡大され、表のように各投資銀行はその限度いっぱいまで資産を保有していた。この「規制の失敗」が今回の危機の重要な原因だと指摘する専門家は多い。

どうもありがとうございます。よくわかりました。
 
「正規分布」と金融機関のリスク管理について

正規分布でも、裾野の確率はゼロじゃないと思います。[・・・]「100億年に1回」は言い過ぎじゃないかという気がします。

「裾野の確率はゼロ」という表現は荒っぽかった。学問的な本なら「0と1の近傍では確率は限りなくゼロに近い」ぐらいにすべきだった。しかし「100億年に1度」はむしろ控えめな表現だ。

シティグループが2002年に調べたところによると、ドル、ユーロ、円、ポンド、ペソ、ポーランド・ズオチ、ブラジル・レアルなど、どの通貨の交換レートを見ても異常に大幅な価格変動があることがわかりました。[・・・]1日に7.92%も下がったこともあり、こちらは10.7σに相当します。正規分布にしたがっていた場合にこのような大変動を観測するためには、シティグループが150億年前のビッグバンとともに創業していたとしても、ほぼ確実に現在までに一度も起こっていないほどの異常さなのです。(マンデルブロ『禁断の市場』)

 

禁断の市場 フラクタルでみるリスクとリターン
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(「0と1の近傍では」ではなく、正規分布の確率密度関数の値がゼロに近づくのは「無限大またはマイナス無限大では」だと思いますが、それは本筋の話ではないのでさておき、)
偉大な数学者のマンデルブロ先生に意見申し上げるわけにもいかないですし、私も市場の統計的処理の専門家ではないので自信はないですが、それはもしかすると、「時間を細かく見すぎることによるパラドックス」なんじゃないでしょうか?
引用されている部分には書かれていませんが、その「σ」というのが日次の標準偏差だとすると、月次の標準偏差の√30倍(=約5.5倍)、年次の標準偏差の√365倍(=約19.1倍)で効いて来るわけですから、10.7σといっても、月次標準偏差に換算すると2σ程度、年次の標準偏差換算だと0.56σ程度で、そんなにすごい変動という感じはしなくなります。
逆に、日次でなく、1時間刻み、分刻み、秒刻みと、どんどん細かくしていくと、株価が1%動いても「正規分布的に考えるとすごい変動」になっちゃう可能性があるわけですが、だからといって「金融関係者は、そういう変化は100億年に1度しか起こらないから、ほとんど考えなくていい前提でやってきた」かというと・・・・・そうではないんじゃないかと思います。
(ではまた。)

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「なぜ世界は不況に陥ったのか」池田信夫さん お返事編” への4件のコメント

  1. >いちばん手強いのが磯崎さんの批判だ
    そりゃそうですね。色んなしがらみに晒されながら実務の世界で動いている人とママゴトの世界の人とでは説得力が違います。

  2. いえ、「色んなしがらみ」があったらブログなんか書けない(だから「色んなしがらみ」が多い日本の社会では、ネット上での実名での意見が少ないんだと思います)ので、私も社会人の平均からすると、「色んなしがらみ」が無い「ママゴト系寄り」のほうだと思います。
    (ではでは。)

  3. >なぜ世界は不況に陥ったのか
    これまで何回も金融危機を経験しながら、これに懲りずに一部の経済学者は、何故重ねて金融立国論を展開するのか、ここら辺に日本の今の根深い問題点があるのではないでしょうか。

  4. >これに懲りずに一部の経済学者は、何故重ねて金融立国論を展開するのか
    日本は高齢化していくけど、カネ(個人金融資産)だけは1500兆円もあるので、(利回りが仮に1%違えば15兆円も身入りが違ってくるわけで)、「カネも大事ですよ」=国全体がもうちょっと金融的な意味で頭がよくならないといかん、というのは真実だと思います。
    振り込め詐欺で騙される人が後を絶たないように、ただ他人を素直に信じきってしまうだけでは、せっかくの資産もどっか持って行かれて終わりなので。
    また、第二次世界大戦開始前に、もし「少なくとも大国同士は戦争をしないような社会を作ろう」と言ったとしても空虚に響いたであろうのと同様、資本的に「開国」してしまって、他の国は「攻めて来る気」まんまんな以上、こちらもなんかしとかないとね、というのはこれも真実だと思います。
    今回の金融危機が「第二次世界大戦」だったらいいんですけどね。(「第一次世界大戦だった」という気もします・・・。)
    (ではまた。)