倒産距離 – distance to default (DD)

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今朝の日経新聞の経済教室欄「金融機関再編の効果測定指標『倒産距離』活用が有効」(原田喜美枝 中央大学准教授)に、興味を引かれました。


自己資本比率やCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)で信用リスクについて考えるのは、いろいろ課題もあるとのことですが、

そうした欠点を補うものとして、近年、金融機関の健全性を表す指標として倒産距離の利用が進んでいる。
(中略)
企業の将来のある時点(通常は一年後)の資産価値(株式時価総額と負債の合計)は、過去の情報を基にボラティリティー(変動率)を計算することである範囲内に分布として描くことができる。一方、企業の短期負債が資産価値を上回って債務超過状態になると債務が履行できなくなる(これをデフォルト地点という)。
資産価値の分布を図示し、その分布の中心とデフォルト地点までの資産金額を資産変動の標準偏差で割ったものが倒産距離である。

資産価値として帳簿上の総資産(借方、左側)ではなく、負債・資本の時価(貸方、右側)を使うことで、「将来の業績予想も織り込」んで資産価値を考えられるところがミソですね。

繰り延べ税金資産の計上や、逆さ合併に代表される会計処理など、会計情報の信頼性が損なわれる手法が採用されていたため

と言っちゃうと、当該銀行の方や監査した会計士は、「信頼性が損なわれてるんとちゃうわい!」と怒ると思いますが、確かに、会計上の資産のデータは単純に比較するのには向いてないかと思います。
英語の「distance to default (DD)」だと、いくつも論文等がヒットしますが、日本語の「倒産距離」で検索しても、Googleでは一件もヒットしません。(この記事が初、ということになりましょうか。)
元の論文(英文)のURLも記事中に書いてありますが、
http://www.nber.org/papers/w14518
ここで5$で購入してダウンロードできます。
(論文の方は、日本の個々のメガバンクごと等の、より詳細な分析も載ってます。)
具体的にどこの数字を持って来ているのか、経済教室の記述だけではよくわからないところもある(例えば、資産の定義が時価総額+長期も含んだ負債だとすると、時価総額>0、負債>短期負債だから、その意味での資産価値が短期負債を下回ることは絶対にないはず、とか)ので、時間があったら論文の英文の数式と格闘してみたいと思います。
(追記:)
メガバンククラスの破綻懸念が出て来ると、日本経済全体の先行懸念が強くなって株式市場全体が下がり、銀行の資産の時価の見積もりも下がるので銀行の株価が下がり・・・というポジティブ・フィードバックがかかり、破綻懸念が和らぐと反対のプロセスで株価も回復して資産の時価も大きくなるので、結局、倒産距離分析を大銀行に応用すると、「みんなが大丈夫と思ってれば大丈夫」という度合いが強くなる気もしますね。
(銀行とは、まさにそのようなもの、とも言えるかも知れません。)
また、少数のプロの間で取引されるCDSの価格より、おじいちゃんおばあちゃんも含む個人投資家まで含めた株価で資産の時価を考えるという方が、銀行の本当の力を正しく反映する・・・とも言えるかも知れません。
(ではまた。)

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倒産距離 – distance to default (DD)” への8件のコメント

  1. 格付け会社も、財務諸表の係数を用いて格付けをはじき出すロジック/モデルをもっていますよ。それが最終的な格付けになる訳ではありませんが。
    金融機関の場合は政府の関与する度合いが大きいのでそもそも格付けを語るのに財務諸表だけでは何も分からないと思いますが、「健全性」なる意味不明なものをはかるにはいいかもしれません。
    倒産距離うんぬんについてはこの先生の研究テーマみたいです。経済教室は、どうやらパブ記事ですね。
    (中央大学の教員データベースに「デフォルト距離」の言葉が見えます。格付け会社ではまあ普通の用語です)

  2. ごぶさたしてます。
    倒産距離という用語が定着しているかどうかは定かではありませんが、私が前の職場でDDを業務で使い始めたのは90年代前半でした。もちろん、当時から金融機関用だけではなく、むしろ普通の事業法人のデフォルトリスクについて評価するためのツールでしたし、今でも広く実務で使われていると思います。
    97年頃の金融危機のときにも、この概念を用いて算出した推定デフォルト確率が1%を超えるかどうかをガイドラインにして金融機関の間の資金が絞られたりしていましたから、今頃なぜ?というくらいの感じです。
    ちなみに、DDの計算はそれほど難しくないんですが、DDを用いて実務的に使える、納得感のある水準のデフォルト率を導き出すのが大変です。

  3. どうも、みなさんコメントありがとうございます。
    「ぬえ」さん、おひさしぶりです。
    私も、「ぬえ」さんの職場(とか、倒産モデルやってらっしゃる会社さん)では、どういうモデルを使ってきたんだろうなあ、と思いながら読んでましたので、コメントいただけてラッキーです。
    資産価値を計算するのに株価を用いるということは、多くの未上場会社の倒産予想には使えないから、一般的な企業の倒産モデルは、財務諸表の数値(のみ)を引っ張って来ており、株価を使うというのはめずらしいのかなあ、と思って読んでました。
    それにしても、専門家の間では「今頃なぜ?」でも、ネットに(日本語で)は出てない概念てのは、まだまだあるんですね。(とおりすがりさんご指摘の「デフォルト距離」という用語では、もうちょっとヒットしましたが、それもほんのわずか。)
    「エクイティ側」のvaluationとか買収防衛策の話なんかは、はるかに「オープン」だと思うんですが、倒産モデルとか企業再生とか、「デット側」の世界の話って、なかなかまだまだネット上では情報収集しにくいんでしょうね。
    そういえば今思い出しましたが、私も昔の職場に入社してすぐ(80年代中盤)、倒産モデルの研究にちょっとだけかり出されたことがありました。他の部署で上場企業の財務諸表データ売ってたので。もちろん財務諸表データ(のみ)を使って、ですが。まだおじさんたちはそろばんとか電卓で計算してる時代だったので、N88-Basicで(!)プログラム組んでグラフを表示したらちょっと感心されたりして。(笑)
    (ではまた。)

  4. どもです〜。
    未上場企業のDD、デフォルト率の推定は、財務情報から(あまり正確な言い方ではないですが)想定株価・ボラティリティを導き出して行う方法が結構昔からあります。これも10年近く前からじゃないでしょうか。率直なところ、昔はあまり精度が高いとは思えませんでしたが、モニタリング目的で利用している金融機関はそれなりにあると思います(未上場企業であっても世の中の株価が下がるときには危ない、という発想ですね)。
    このやり方、基本部分は特にみんなが秘密にしているというほどでもないですし、この分野のアカデミックな世界では多分常識に近いと思うんですが、まあ、派手さはないし、世間的にはマニアックな感じがして、あまり注目されないんでしょうかね。

  5. 先日は有難うございました。
    懐かしい単語が出てきたので、思わず飛びついてしまいました。
    このデフォルト距離、倒産確率推定のオプションアプローチと密接な関係があり、倒産距離は、ブラックショールズ式のN(d2)のd2にあたるものなのですよね。そのおかげで、オプションアプローチが感覚的にもすごくわかりやすかった記憶があります。
    ただ、倒産距離も、実際に推定するとなると、期間の取り方が非常に悩ましいのですよね。。期間によってかなり大きな違いが出てきてしまうので。だから、ロジットモデルを使う会社が大半を占めている、という話を聞きます。

  6. >想定株価・ボラティリティを導き出して
    これも、「エクイティ側」の世界でも、未公開企業のストックオプションのvaluationなどで使うことは使いますが・・・。
    >世間的にはマニアックな感じがして、あまり注目されないんでしょうかね。
    いやー、やっぱ「デット側」の世界は、カルチャー的に「オープン」じゃないんじゃないかなあ、と思ってるんですが。(偏見?)
    (ではまた。)

  7. Taejunさん、
    先日は、こちらこそ、どうもありがとうございました。
    >倒産距離は、ブラックショールズ式のN(d2)のd2にあたるものなのですよね。
    なあるほど。
    どうもありがとうございます。
    (ではまた。)

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