「ITゼネコン構造がイノベーションを阻む」(池田氏、月刊アスキー記事)について

  • Facebook
  • Twitter
  • はてなブックマーク
  • Delicious
  • Evernote
  • Tumblr

いつもアスキーさんから「月刊アスキー」送っていただいてまして、ありがとうございます。KIOSKで売ってる「週刊アスキー」じゃないです。popな記事が多い「週刊」に対して、こちらの月刊のほうは(ほうも)、なかなか読みごたえのある記事が多いんですが、この8月号
60.jpg

池田信夫さんの「『特別寄稿』ITゼネコン構造がイノベーションを阻む」という記事が載ってました。


日本のIT系の市場構造に「競争」が不足している、というご主張は大いに賛同するところであります。
また、

イノベーションを「技術革新」と訳したのは、「もはや戦後ではない」という言葉で有名な’56年の「経済白書」だといわれるが、これは誤訳である。英語のinnovationは「新しいものを導入する」(ウェブスター)という意味で、技術という意味は含まれていない。シュンペーターの定義では、それは新市場の開拓や組織改革などを含む業務全体の革新である。

 
というのも納得感があります。確かに日本って、「技術(単体)」に、ありがたみを感じすぎるきらいがあるというのも同感です。(「Googleがなんかすごいらしい」となると、「検索技術でGoogleに追いつけ!」みたいな。ちゃうやろ、と。)
 
ただ、「閉鎖的なファイナンスや規制」という項目については、いくつか気になった点があります。

ウェブにはこうしたゼネコン構造はなく、消費者に直接売り込めるので、新しいベンチャーが出てきてもいいはずだが、ここでも日本のベンチャーは全滅に近い。その最大の理由は、新しい企業を創立する資金調達が困難で、ベンチャーキャピタル(VC)のようなリスクマネーの供給が少ないからだ。

 
アメリカなどに比べると、資金供給の総量は確かに少ないですが、ベンチャー企業(startup)1社あたりが必要とする資金量に対する調達量は、結構多いんじゃないかと思います。つまり、「チャレンジするヤツ」が非常に少ないわりに、大量の資金がジャブジャブうなっている。シリコンバレーでVCから資金を出してもらうのに比べたら、日本で資金を調達する方がはるかに楽という感じがします。少子化ならぬ「少startup」なので、非常に大事にされているというか甘やかされているというか。
もちろん、業種にもよるかも知れません。ウェブ系のビジネスなどは、「ムーアの法則」的な恩恵を被って、今時はほとんど投資もかからず、Googleなどの広告を使えば最初から小銭も得やすいので、必要とされる資金が一般的には非常に少ない(というか不要なことも多い)んですが、バイオとか通信系など数十億円・数百億円の投資をしてくれ、なんて話を持って行ったら、そう簡単には話は決まらないかも知れません。(当然と言えば当然ですが。)
 

日本でVCと証する企業のほとんどは銀行・証券系で、事業の内容や技術についての知識が乏しく、不動産などの担保や大企業の紹介がないと相手にされない。つまりファイナンスも系列構造になっているのである。

(事業の内容や技術についての知識が乏しいかどうかはさておき)、銀行・証券系が多いのは確かなんですが、VCが不動産の担保を取って投資しているという例は聞いた事がないです。(「担保付きの株式」というのも見た事がない。)大企業の紹介も、もちろんあるにこしたことはないでしょうけど、大企業の紹介でVCが企業に投資するというケースは比較的少ないんじゃないかと思います。
シリコンバレーだと、「起業」というのは「就職」と並列で、企業家がビジネスプランを持ってVCのところに詣でる就職活動と同じ光景が展開されているようですが、日本だと、新聞や雑誌やウェブでちょっとでも面白そうな記事が紹介されると、VCさんの方からベンチャー企業のオフィスまで「営業」に来てくれます。昨今は、市況もよく無いので、VCさんの財布のヒモもちょっとは固くなっているようですが、それでも「資金供給圧力」はまだかなり強いんではないかと。
VCは確かに独立系が少ないですし、中で働いている方の多くが「サラリーマン」なので、どうしても「他が投資するならうちも投資します」的な横並び的なことになりがちで、「他のVCが目もくれない画期的な事業にドーンと投資する」といった例は少ないですが、ベンチャー企業というのはたいてい「独立系」な(ファウンダーが株式のかなりの部分を持っているの)で、「ファイナンスが系列構造」というのは、あまり実態を言い当てていない気がします。

日本で「ITベンチャー」がもてはやされたのは20世紀末のITバブルの時期だが、そのころ生まれたベンチャーでそれなりの企業に育ったのは、楽天ぐらいだろう。これもマザーズ上場の際に調達した資金のおかげで、事業そのものはありふれた電子モールだ。

 
楽天さんのモールという業態は(いいか悪いかはさておき)世界的に見ても「ありふれ」てはいないと思うんですね。むしろ、ウェブの店舗というのは、技術的には誰でもインターネット上にサーバを立てれば出せるはずなのに、池田さんがおっしゃるように、日本の場合IT産業全体が「ゼネコン」的な系列構造になっていたので、中小規模の事業者が自社サイトを構築してビジネスをする手伝いをしてくれる業者の層が非常に薄かった。それが、こうした「世界に類を見ない業態」がここまで大きくなった理由ではないかと思います。
つまり、楽天さんのビジネスモデル自体が、日本の「ITゼネコン」的な産業構造の中でインターネットビジネスが普及するための一つのブレイクスルーであり、解だったんじゃないかと。
「これもマザーズ上場の際に調達した資金のおかげ」というのも、ちょっとナニな表現ですね。
企業が成長するのに資金調達するのは当たり前です。バブっている市場で資金調達した金をうまく使い切れずに自己資本利益率(ROE)が低いとか、赤字が出ているのに過去に調達した資金のおかげでなんとか生き延びている、というなら批判されても仕方ないですが、楽天さんは、毎期ちゃんとキャッシュフローも獲得し、連結ROEも約20%という決して低くない利回りを確保されているわけです。
(追記:よく考えたら楽天さんが公開してるのはマザースじゃなくてJASDAQですね。)

(中略)資本効率の低い日本企業に対する外資系ファンドの挑戦も、イノベーションのきっかけになりうる。ところが企業買収となると、ブルドックソースのような中小企業でも大事件になり、600以上の企業が買収防衛策を導入した。このような閉鎖的な資本市場も、イノベーションを阻害する大きな要因だ。

 
ファンドの買収がイノベーションのきっかけになりうるのはそのとおりだと思いますし、買収防衛策を導入した企業が多数現れたことは、「日本の経営者に閉鎖的なマインドの方が多いことの現れ」だとは思いますが、買収防衛策自体が閉鎖性の象徴とか、日本の資本市場が閉鎖的だとまでは言えないと思います。
たぶん、池田さんも、また買収防衛策を導入した多くの経営者の方々も、「買収防衛策」というのは、敵対的な買収者をはねかえしてくれる「イージスの盾」みたいなものを想像されていると思います。(「買収」「防衛」策という名前なんだから、そう思うのも当然。)
しかし、「買収防衛策」は、証券取引所さんとの事前相談もありますので、「どんな場合にも必ず敵を追っ払ってくれる」ような買収防衛策は今や導入できませんし、一応は第三者的な判定が入るしくみになっているから、明らかに買収された方がいいのに有利な買収条件を蹴る、ということは、できるとは限らないようになっているかと思います。
「買収防衛策を入れたから安心」と思ってる経営者も多いと思いますが、実際には、いつも「保身」がまかり通るとは限らない。池田さんもおっしゃるように、企業買収となると「大事件」となり、世間の注目も集まりますので、今後、あまりにも経営者に都合のいい話がいつでもまかり通ると思ったら大間違いだと思います。
買収防衛策も、企業価値を安定させるための「イノベーション」であり、(少なくとも理屈としては)少数株主が個別に買収者との取引に応ずるとゲーム論的に考えて損する場合において、株主が集団交渉するのと同様の効果を持たせることによって少数株主の利益を保護する効果があるわけです。
おそらく、買収防衛策導入の「動機」は多分に保身的な要因に基づくものが少なく無いと思いますが、上述の通り、実際の試練にさらされてみると、経営者の思った通りにいくとは限らないはずだし、経営者の思った通りに行くべきでもない。
広報合戦、委任状闘争や裁判で買収された方がいいケースについては、経営者側が負けるケースも出てくるべきだし、実際に出てきていると思います。
「イノベーション」というのは、(一瞬で発生するものも無くはないでしょうけど)、多くの場合には、そうした事件やプロセスを経て市場の認知を得ながら成立していくものだと思います。
(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

「ITゼネコン構造がイノベーションを阻む」(池田氏、月刊アスキー記事)について” への5件のコメント

  1. いい加減さの最適化

    今月の『月刊ASCII』に書いた原稿について、磯崎さんからコメントをもらった。彼の批判は、要するに「日本のVCは、質量ともにそんなに悪くない」ということだ…

  2. この話題に関しては、どちらかと言うと池田さんの意見に賛成です。
    私も大手企業を退職後、個人で起業しましたが、まず一番苦労したのは、お金集めです。
    仮にどれ程優れた事業計画を作ろうと、名も無いVCには、国も銀行も簡単には融資(*)してくれません。
    社会的信用、担保がないとまず無理です。
    ※融資を審査担当者と話をしていると、質問もなく、本当に彼らに審査能力があるのかとも思いますが・・・
    ※地方自治体の融資枠も小さいものです。
    今回の話を見ていると、理論(机上の数値)−実践、貸し手−借り手、大手−VCといった立場の差を感じます。
    楽天の話も出ていましたが、楽天出店者の立場としては、楽天自身は儲かっているでしょうが、中にいる店舗は
    ほとんど赤字・・・ 儲かっているのは10%もいないと思いますよ。
    逆に楽天からは、高い出店料と(馬鹿高い)広告枠のセールスがありますが。

  3. いえ、(上場等を目指すベンチャーではない)普通の起業の場合に資金が付きにくいのは、私もよく承知しております。
    (私も自分で事務所始める時に、公認会計士協会関連の紹介で銀行からお金融資してもらおうと思ったら断られました。)
    (池田さんも)私も、イノベーションを引き起こすような事業(将来、上場企業規模に成長するようなポテンシャルを持った事業)にVCがお金を出してくれるかどうか、ということを議論させていただいております。
    (ちなみに、「VC」というのは、お金の「出し手」であるベンチャーキャピタルで、お金を投資してもらうベンチャー企業のことではありません。)
    (ではまた。)

  4. 総論として磯崎さんの見解が実態だと考えます。
    但し、「どういった主体がイノベーションの担い手足りうるか?」、「日本のベンチャー投資をどう考えるか?」の議論は、R&Dに対する「(大)企業-政府-VB(ベンチャー企業)」の関係の中で捉えられるべきだと考えます。この三位一体の関係性は、日本と欧米(特に米国)では大きな隔たりがあり、この“役割分担”が整ったエコ・システムへの信任が、VBへの資金流入を促す(VCファンドへの信任)ものだと見るのが経済活動全体からの“俯瞰”として正しいのではないでしょうか?
    日本も欧米も、先進各国の置かれた状況は共通しています。急速な経済のグローバル化と、新興国の飛躍的な発展が進むなか、産業の空洞化を回避し、経済成長するには、更に付加価値を上げ、新たな市場を創出し、競争力を維持する以外に根本的な解決策は取れません。技術革新と市場ニーズの変化のスピードが加速する中で、「技術開発」にもスピードが求められる状況です。
    この課題に対して、日本と欧米における「R&D投資とVCの投資環境」の違いに顕著です。
    欧米企業は、コア・ビジネスへの集中、研究開発のアウトソースという「選択と集中」で対応し、競争力を維持する方向に動いてきました。企業のM&Aやコーポレート・ベンチャリングも増加しています。政府はベンチャーの研究開発投資を手厚く支援、その結果、「R&Dの担い手」としてのポジションを得たベンチャー企業の事業リスクは軽減され、活躍の機会が広がる好循環となっています。ベンチャー企業の事業リスク低減と出口の多様化が図られたシステムは信任を得られ、年金を始めとして層に厚みを加えながら、VCファンドへの資金流入が拡大しています。
    これに対し、日本では企業の「選択と集中」が十分に進んでいるとは言えません。局所的に大企業間の連携は見られるようになってはきましたが、往々にして「消極的な」、換言すれば「仕方なく」取られた行動であり、欧米のような「積極的な経営判断」の色彩は薄いものです。
    日本の研究開発費は決して少なくありませんが、大企業の負担部分が大半を占め、自社のリソースに依存したR&Dが進められています。M&Aもコーポレート・ベンチャリングも活況とは言えません。研究開発への政府資金供給は小さいままとなっており、大企業の姿勢とも相まって、ベンチャー企業は「R&Dの担い手」としての地位を確保できず、事業リスクは高いままに放置されています。
    こういった状況ですから、ベンチャー企業を中心に置いて見た場合のシステムは信任を得られず、ファンドへの資金の出し手は限定され、日本のVC投資は欧米との大きな隔たりを解消できずに低水準で推移しています。
    今般のMOF/METIで進められている「イノベーション創造機構」設立の動きに、VCサイドとしても期待し、日本においても適正なイノベーション・サイクルが形成されることを願ってやみません。
    http://www.mof.go.jp/kentoukai/gyouseiunei/santouwt/siryou/200306_02.pdf