NHK土曜ドラマ「監査法人」のツッコミどころ

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本日早朝、NHK土曜ドラマ「監査法人」をビデオで拝見いたしました。
なかなかツッコミどころ満載でおもしろかったです。


「承認」と「意見の表明」
一番気になったのは、公認会計士が会社に対して、「この決算は承認できません」と告げるところでしょうか。
決算書(計算書類)を承認するのは取締役会ないしは株主総会であって、会計士はそれに「意見」を表明するだけです。
これは、会計士の責任の範囲の考え方である、「二重責任の原則」からして会計士にとっては最も重要なところですから、「この計算書類では適正意見は表明できません。」というセリフはありえても、「承認できません。」とは言わないはず。
ただ、その両者の違いは、一般の視聴者にはまったく「?」だと思います。ですから、法律用語ではなく日本語として、「承認」というのは、ドラマとしてはアリなのかも知れません。
現場での監査が終わった瞬間に監査意見が出る
スーパーで棚卸ししたり、北陸に出張して、その直後に「承認できません」と告げてますが、監査意見を形成するのには、実際にはもうちょっと時間がかかるわけです。(今回のように、あまりに「あからさまな」ケースでは、その場で講評するかも知れませんが。)
小野寺会計士(豊原功補)はホントに「厳格監査」してるのか?
昔からの親友が社長をやってる会社の監査をしちゃまずいでしょ。
会社への入ってきかたが「東京地検特捜部」みたい
もうちょっとソフトな感じで会社に来るきがします。
社長が出迎えるかな?
特定のインタビューの日以外にも社長が監査法人と密接に接する会社って少ないと思います。
従業員死亡の責任
棚卸の立会で、従業員の人にサンプル数をもっと増やせと言って死亡事故につながったというなら会計士も責任を感じるかも知れませんが、粉飾の隠蔽のために会社側が極秘裏に 深夜雨の中 従業員に作業を強行させ、それで死亡事故につながったことに対して、会計士が責任を感じて線香をあげに行くかしらん? そこは、「二重責任の原則」で(気持ち的にも)スッパリ線引きするべきではないかと思います。
「財政監督庁」
「財政」監督だったら国の業務の監督になっちゃうんでは。(苦笑)
(「財務」監督庁のほうが、まだよかったか?)
第1話では、この役所は悪者な感じはしない(非常に好感が持てる)んですが、なんで仮名にする必要があるのかしらん?第2話以降で、銀行と結託して悪事を働いていることが発覚したりするのかな?
総合的に、まあ「OK」では?
スタッフロールに、「経済考証」が八田進二教授、「会計士考証」が、越山薫氏(日本公認会計士協会東海会会長)、山田真哉氏と出ていましたが、もちろん、この方々は監査の現場の実際の雰囲気を極めてよくご存知でらっしゃるはずです。
ですから、この方々はいろいろ「意見」は言ったけど、シナリオを「承認」したんじゃない、ということでしょうね。:-)
そもそも、弁護士さんは大昔からドラマや映画でカッコよく描かれるのに対して、今まで職業会計人がカッコよく描かれることは皆無に近かった(ゴーストバスターズでリック・モラニスが演じていたような、卑屈で細かい金の話ばっかりしてる人、といったのが代表的だった)ので、
例えば刑事ドラマ等における
「一匹狼刑事が単独で犯人のアジトに潜入」
「取り調べでカツ丼が出てくる」
「裁判で負けが決まりかけた瞬間に、法廷の後ろのドアから決定的な証拠を持ったヤツが駆け込んでくる」
といったことと同様、監査論の教科書ならぬ一般向けのドラマの演出からすると、許容できる範囲なのかなーとも思います。
過去の粉飾に対する監査法人さんの責任
ところで「ビジネス法務の部屋」でtoshiさんが書かれてらっしゃる

若杉会計士に(どうか見逃してくれ、と)土下座をする北陸建設工業の社長さんが、チラっと漏らしておりましたが、粉飾決算はたった1期で巨額になるものではなく、監査法人さんの様子をみながら次第に粉飾額が増加するのが通常ですから、企業倒産が予見できる段階に至れば、その粉飾が判明することによって、監査法人自身の訴訟リスクなるものも現実味を帯びてくるはずであります。

という点ですが。
一般論としてはその可能性はあると思います。
ただし、そこは、ドラマとして視聴者に伝えるには、相当わかりづらい論点なのかな、と思います。視聴者のほとんどは、会社で働くサラリーマンとか、酒屋さんや八百屋さんとかの方々だとすると、「帳簿は1円単位でぴたっと合うもの(合わせないとヤバい)」という感覚でいると思いますので、毎年(あるいは半期、四半期毎に)税務調査が入るようなもんにも関わらず、監査法人と会社が結託まではしていないのに、会計士の「過失」で何年間も不正を見逃し続けてきてしまったというストーリーは、なかなか説明するのが難しそうです。特に、監査一般の信頼性を損ねない(社会不安を引き起こさない)ようにしながら、そういう過失も存在しうる、というあたりの話をするのは、かなりビミョーかと思います。
また、リテール的なビジネスなら「大型粉飾は1年にしてならず」な可能性が高いので、最初の大手スーパーの監査をしていた小野寺会計士(豊原功補)の責任が追求される可能性は高いかも知れませんが、「北陸建設工業」は北陸の地場のゼネコンまたはデベロッパーのようなので、全売上に対する仕事1件あたりの金額はでかいはず。不況で急激に仕事量が落ち込んだとして、更地の物件まで建設/売買が済んでいるというお粗末な手まで使うのであれば、かなりの粉飾を単年度のみでした可能性はあるのかな、とも思いました。
SPC等を使って複雑なスキームを組めばともかく、地方ですので、ややこしいスキームはそれ自体がアヤシいわけですし、そこまで頭が回る会社でもなさそうな印象。となると、建物販売の対価は、遅くとも数ヶ月以内に現金等で入金されるというのが通常の取引のはずなので、複数年にわたって架空の売上げを計上し続ける、というのは難しいのではないかとも思います。

このように考えますと、監査人の不正発見の役割と財務情報が適正であることを証明する役割との調和点を、どこかできちんと整理する必要性があると思われます。たとえば、ドラマの事例で考えるなら、売上の20%というものではなくて、1%程度に組織ぐるみの不正な会計処理が発見された場合、(不正を報告することは別として)これを調査発見した監査人としては、「適正意見は出せない」と言い切れるのでしょうか。

という点ですが。
北陸建設工業が売上高利益率5%程度の企業だとして、売上の1%の誤差がダイレクトに利益に影響するとなると、利益の20%ものインパクトになりますので、そういう場合には適正意見は出せないのは明らかです。
ただし、利益の1%の見解の相違がある、という場合には適正意見が出る余地はあるのかなとも思います。もちろん、「質的重要性」にもよりますし、監査人との間の信頼を損ねるような「だまし討ち」が行われたら他の部分の統制も信頼できなくなりますので、適正意見が出ない可能性ももちろん高いかと思いますが。
また当然ですが、この利益の1%が累積して金額的重要性が出て来てしまった場合には、(実際には、そのかなり手前の時点で)理屈としてはストップがかかるはず、です。
今年度からの内部統制報告制度の監査を考えてみると、利益の1%が違っていた場合に、「重要な欠陥」にならない可能性は極めて低そうですね。ただし、財務諸表としては適正、ということもありうるのではないかと思います。
 
いろいろ申し上げて参りましたが、私、松下奈緒さんのファンということもあり、基本的にこのドラマの満足度に関しては点数が甘めなのであります。(がはははは。)
(追記:)
「ハゲタカ」が、ちらっと映るプレゼン資料1枚に至るまで、すごくリアルだったのに比べると、「監査法人」の考証はやっぱり弱すぎかも知れません。ドラマとしての面白さを殺さずに、業界関係者も「うっ」となるような設定というのは、可能だった気もします。
(ではまた。)

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NHK土曜ドラマ「監査法人」のツッコミどころ” への19件のコメント

  1. ごぶさたしております。いろいろとご教示ありがとうございます。また勉強させていただきます。(後半部分はちょっと私の掲示した例が不適切だったようで、ご指摘のとおり「利益の1%」と記述すべきでした。)ドラマとして「かっこいい」会計士さんが描かれることを期待する反面、不正を発見できない(またはあえて目をつぶる)会計士さんの姿があまりにも否定的に捉えられるのは「世間の役割分担の法則からして、ちょっと違うのではないかな」とも思いましたので、そのあたりを少し書いてみたいと思いました。
    「パパはなんで悪い人を助けるの?」と、娘から聞かれて刑事弁護をいちから説明するのは苦労しますが、会計監査のお仕事も、「期待ギャップ」から説明するのはなかなかしんどいだろうなぁと。
    ところで、ひとつ前のエントリーもたいへん興味深いですね。反社会的勢力を行為者属性と捕らえるか、行為属性と捉えるかによって、ウラ組織の構成員とクレーマーとの関係にも影響が出てきます。行為属性と捉えるならば、構成員もクレーマーも「反社会的勢力」ですし、行為者属性とするならば違う結論になることも多いようです。(磯崎さんのご指摘のような問題があるので、企業はどうしても行為属性として捉えたいのが最近の傾向です)また、法とフェアの関係で捉えるならば、実はクレーマー対策は、ウラ組織の方々が一翼を担っていることとも関連しそうですね。また、当ブログでも検討してみたいテーマです。

  2. 脚本家の方も大変だわな、今の時代(苦笑):NHK土曜ドラマ「監査法人」・・・磯崎さんもきっちりコメントされております。

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  3. 磯崎先生、はじめまして。
    若輩者ながら“会計士考証”を仰せつかっております山田真哉と申します。
    たくさんのツッコミをありがとうございます。
    「財政監督庁」に気付かれたのはさすがですね。
    99%気付かれないと思っておりました……。
    「承認」と「意見の表明」については、おっしゃるとおりで、
    最後まで「“承認”という言葉を使うのは止めてください」とお願いした争点でもありました。
    「ハゲタカ」と違って、リアリティを追求すればするほど
    ドラマというより「NHKスペシャル」みたいになるのが、
    なかなか難問だったところです。
    「リアリティ」と「面白さ」が両立できればいいのですが……。
    監査法人の描き方については、「2002年当時の最も旧態依然とした国内部では?」
    というのがポイントでした。
    ですので、「今ならありえないよね」というのが数多くあります。
    私がいた監査チームでは、いまなら信じられないぐらいの旧態依然とした
    ところもあったので、その辺も反映されているのかもしれません。
    よろしければ、第2話以降も懲りずにご覧くださいませ。
    今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。

  4. toshiさん、
    >ところで、ひとつ前のエントリーもたいへん興味深いですね。
    あまり学術的・技術的に面白い話ではないと思いますので、大学の先生とかにはご興味を持っていただけないだろうけど、toshiさんあたりにはご興味を持っていただけるんではないかと思って書かせていただきました。:-)
    (ではまた。)

  5. 山田真哉さん、はじめまして。
    >最後まで「“承認”という言葉を使うのは止めてください」とお願いした争点でもありました。
    「最後までお願い」してもダメなもんなんですね・・・。
    スタッフロールで考証の方々がちゃんと付いてらっしゃるのを見て、「なぜ『承認』ではダメなのか」とおっしゃる制作サイドに対して、必死に食い下がるけど話がまったく噛み合ない様子が目に浮かびました。
    >リアリティを追求すればするほどドラマというより「NHKスペシャル」みたいになる
    そう言われてみると、冒頭は、ちょっとNスペっぽかったです。:-)
    >「2002年当時の最も旧態依然とした国内部では?」
    いやー、その「加齢臭が漂ってくる感じ」が、非常によく描かれていたと思います。
    こちらこそ、今後ともよろしくお願いいたします。
    (ではまた。)

  6. ドラマを楽しむ素人には、エンディングで若杉の「充足感や誇りを感じかった」との問いに、小野寺が「充足感がないかどうかは個人の感情の問題だ。現場にこそ真実があり、真実を知ってしまった限り無視する事はできない。そんな泣き言を言っている暇はない」と返すところが感動的だったのですが、先生はそういうことを仰ることはないですか(^^).

  7. そうそう、そこも「?」なところだったんですが、
    そもそも、会社側のウソを見抜いて、あれだけ大型の粉飾を未然に回避して社会に貢献し、社長が犯罪者になるのも防いであげられたのに、若杉がなんで「充足感や誇り」を感じられなかったのか、すごく不思議で、全く感情移入できなかったところなんであります。
    (ではまた。)

  8. ●このドラマで会計士の監査状況よりも気になったことは、「企業と銀行の関係」です。スーパに優良資産を売却させ、売却代金を借入金返済に充当させた、という事実関係が明かされていますが、そんなことが実際に行われますかね? 「貸し剥がしを行う悪い銀行」を表現したかったかもしれませんが… 
    ●そもそも、ここでいう「優良資産」とはどういう意味でしょうか? 借入過多で財務内容が悪化している企業が、市場性の高い保有資産を売却して借入金返済に充てるのは普通の姿だと思いますが… もしかしたらここで言う優良資産とは、収益力の高いスーパの店舗のことで、企業収益に貢献するにも関わらず、借入金を返済させるためだけに、銀行から強制されて売却させられたということでしょうか? メインバンクがそんなことをしますかね?
    ●また、北陸建設工業でも、会計士に粉飾決算の事実を密告したのは銀行、という設定になっています。社長が「粉飾しないと銀行から融資を得られず倒産してしまう」と叫ぶ場面があります。おそらくシ団ローンか何かで「財務制限条項」を付けている場合でしょうが、仮に財務制限条項に抵触して「期限の利益」を失う場合であっても、それで会社の倒産が予想される場合は、銀行団が救済策を話し合うのが普通です。また、銀行が粉飾の事実を知り、財務制限条項に違反していると認知した場合は、銀行自身が様々な資料を徴求して確認するのが普通だと思います。わざわざ会計士に粉飾の事実を密告して、いきなり倒産させてしまえば、一番困るのは貸付金を回収できない銀行のはずです。企業金融の実態をあまりに無視したドラマのような気がします。
    ●ドラマ全体が、銀行と監査法人との癒着、それに翻弄される企業とそうしたなかにあって社会的不正に立ち向かう公認会計士、という構図にこだわるあまり、現実離れしてしまった思いますが、どうでしょうか?

  9. はい。2002年の上場している建設業の会社で売上げが30%増にならないと会社がつぶれる、というのは、「ありえねー」、と思いました。
    (ではまた。)

  10. 磯崎さん、お久しぶりです。最近忙しくてお会いしてませんが(甥っ子がイソログのお世話になりました某監査法人の音楽系パートナーであります。)・・・。実は僕が過去に見た中で強烈な印象を得た「会計士像」は「モンティ・パイソン・・アンド・ナウ」の中にでていたコメディでありました。それはもう・・・ゴーストバスターズ以上に徹底的に揶揄されてました。内容は職業紹介所に勅許会計士(英国)がやってきて「会計士みたいな退屈な仕事は辞めて、ライオンの調教師になりたいっ!」というものでした。後ですね・・「Thank God It’s Friday」と言うディスコの映画でディスコのオーナーに危うく嫁さんを盗られそうになる間抜け男の職業が確か会計士ですね。ギャング系の映画でたまに組織の金の秘密を知って、狙われる役回りとして会計士がでてきますが、欧米系の人にとってはそんなシリアスな会計士像より、訳の分からん細かい話をして、融通の利かん奴らと言うステロタイプがあるみたいで、そこが笑いの種みたいですね。日本も早くコメディ系に会計士が出てくるようになれば、一般の方に知られた・・と言われるようになるんでしょうね。

  11. 磯崎さん、始めまして。
    いつも楽しくブログを拝見させて頂いています。
    NYにて監査業務に従事しています小平と申します。
    このドラマこちらでも(日本人監査人の間で)かなり話題
    になっています。
    残念ながらリアルタイムでは見ることができず、悔しい
    思いをしていますが日本での監査はこんな感じかーと妄想を
    膨らませてます。
    どうやら皆さんのコメントを見るかぎりではちょっと現実
    からはかけ離れてしまっているようですね、、、。
    監査業務も考えようによってはおもしろいドラマになると
    思うのですが、今後が楽しみですね!

  12. ドラマ「監査法人」

    私が見る数少ないテレビ番組で、大河ドラマはいつも見てますが、その他にはNHKの土曜ドラマ(お仕事ものが多い?)はよく見てる気がします。こないだ始まったN…

  13. [日記・コラム・つぶやき]テレビドラマ『監査法人』

    今、流行(はやり)なのはNHK(日本放送協会)の土曜ドラマ『監査法人』でしょうか。 [isologue(イソログ)- by 磯崎哲也事務所」 「監査法人…

  14. たしかにツッコミどころ満載のドラマでしたが、
    そもそも、あれはフィクションであり監査や会計とは無縁の多くの人が
    見ていることを思えば、いちいち「ここが違う。あそこが違う。」と
    プロ?の人が突っ込むのは大人げないと思いますけどねえ。