弁護士松本啓二氏のコメント

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弁護士の松本啓二氏より「(本ブログの)コメント欄に投稿したい」というご相談があったのですが、長文ですので本文の方が読みやすいと思いますし、みなさんのご参考にもなるかと思いますので(コメント欄に埋もれてしまうのはもったいないということもあり)、ご了解の上、本文の記事を立ててご紹介させていただければと思います。
(以下、引用)
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初めて投稿させて頂きます弁護士の松本啓二です。マスコミの分析・情報力を超えた議論もありいつも参考にさせて頂いております。今年の株主総会は「株主総会判断型」買収防衛策との報道が気になっており、一寸私なりの考えを司法の立場から整理してみました。


「株主総会判断型」買収防衛策
1 はじめに
 金融商品取引法によりTOB規制が、買収者側のハードルを高める方向で改正された。しかし、EUに見られるような、TOBを行う者にそれに応じる株式の全部買取義務を課していないし、TOBに対応する当事者である取締役会の中立義務も規定されていない中途半端なものである。これにより、買収防衛策は不要となったとして資生堂のように廃止する企業がある。しかし大勢においては、グリーンメーラーのような乗っ取り屋を排除するといった説明により買収防衛策の導入が相次いでいる。
会社法上の買収防衛策については、ブルドックソースの最高裁決定を一般論的に理解して、「株主総会判断型」(会社法上は、定款に定めがなければ、株主総会の判断権限に法的根拠はない— isologue 08.5.31で言う「アンケート」である。)買収防衛策(「企業価値防衛策」の用語が適切であるとのisologue 08.5.22には筆者は賛成である。)が主流になりつつあり、それに伴い株式の持ち合いが進行中であると報じられている。
 経済学的には、買収防衛策肯定論は、会社のステークホールダーは、ステークホールダーが株主のみならず、従業員や取引先であることを前提にし、否定論は、株主であることを前提にしているようである。どちらが正解であるかどうかは、現在問われている米国流の市場万能主義の賛否論と同様、学問的論議には親しまず、立法政策的論議であると思う。また、買収防衛策にも使うことができる、(世界にも類を見ない)取締役会権限により、公正な価格であれば、無制限(昔は大蔵省の指導による制限があった。)に許される、第三者割当増資(「その主要目的が経営権維持の目的ではない」とする判例法があるが。)や新株予約権の発行について、どこまで司法が認めてくれるかどうかについての法定不安定性もその背景にある。更に、日本には米国のようなクラス・アクションがないことは、既存株主による会社の利益を保護する権利を薄くしている。
2 司法判断
 いずれにせよ、紛争になった場合の最終判断権者は裁判所なので、実務の世界においては、経済・法律学者や評論家や法務省・金融庁よりも、裁判所(司法)の考え方が羅針盤になっている。日本では珍しい現象と言えよう。
 しかしながら、裁判所の決定は、個々の事案に対して行われるもので、判例として後の裁判で参考にされることがあっても、事実関係の異なる別の事案では逆の決定がなされるのが司法の世界特有の考え方である。ブルドックソースの先例を一般論化するのは危険である。
3 公開会社における株主からの受託者としての経営者
 そもそも、公開会社における考え方は、程度の差はあっても、会社の所有と経営の分離にあり、株主はプロの経営者の選解任権を持つことにより、会社の成長の夢を経営者に委託するところにある。株主は、会社の業務については素人だが、経営を委託する者を選ぶ能力はあるとの考え方が、間接統治主義を会社法が採用している哲学である。また会社は、株主総会において企業秘密のすべてを開示して判断を仰ぐわけにはいかないのである。具体的な経営政策の賛否の判断には、業界のみならず日本・世界の政治や経済の豊富な情報と経験が不可欠であり、そのベースは将来予測であり、プロの経営者の経営判断であっても、いくらリスクマネジメントを徹底しても、最終的には主観的な賭けの判断である。
4 手続法である日本のTOB法
 TOBの局面において、金融商品取引法が目指しているのは、現経営陣の経営方針と買収者の経営方針のどちらが株主一般のためになるか(企業価値を向上させるか)の判断材料を提供させることであって、その判断をするのが、取締役会か株主総会どちらであるかについては何も決めていない。株主総会に判断させるのは(1)経営判断については、株主はプロの経営陣に委託するとの前記間接統治の哲学に反するし、(2)ライブドアの高裁判決ではこのような経営判断は司法判断にも親しまないとしているし、(3)株主総会において議決権を有する株主は、過去の基準日の株主であって総会日の株主ではない、といった根源的な疑問がある。
5 現在の混乱の真相
 現在の日本の会社法と金融証券取引法の枠組の中で、理屈が一貫しているとはいえない司法の現状の裏には、取締役会による判断を、自らの生死が問われているTOBの局面においては、裁判所も株主も信頼していないという事実が裏にあるというのが正解に近いのではなかろうか。
 日本における株主型コーポレート・ガバナンスの歴史は浅い。その導入の際に、日本独自の会社モデルである終身雇用や、会社取締役を社内から抜擢する慣行を考慮して妥協せざるを得なかった事情がある。社外取締役は、米国や厚生年金基準の独立取締役の要件を全く満たしていない。そんな社外取締役を、監査役型会社では、任意に導入できるとしたのみである。また委員会型会社では、社外取締役が、その各三委員会の過半数であることを要求しているが、その取締役会全体の過半数であることまでは要求していない。いずれの場合も取締役会の独立性が期待できない中途半端な制度設計になっている。
6 現行法上も株価対策上も常識的な防衛策
司法判断と株価対策を考えると、最も常識的な買収防衛策は、会社法では要求していないが、任意に、取締役のすくなくとも過半数を米国ないし日本の厚生年金の基準に合致した独立取締役とし(取締役の属性は現在の会社法取引所規則でも開示が要求されている)、防衛策の発動の判断は取締役会に任せるという方法であろう。現在既に多数存在する買収防衛のための独立委員会の勧告は、(1)委員が株主により選任されたものでなくても、(2)独立委員会の内容を株主総会が承認(「アンケート」で賛成)しているものであり、(3)委員会の構成員が上記の独立の要件も満たし、(4)取締役会がその勧告を最大限尊重する事案であれば、次善の策として司法から肯定的判断を受けられる可能性は高いであろう。日本の実務においては、歴史・文化的に、全員一致が原則であり、独立取締役であれ独立委員会委員であれ、一人でも反対すれば、マスコミがビッグニュースとして取り上げるので、その反対に反する結論を出すのは困難である。
裁判所の判断は、各事案の事実関係全部を前提にしてなされるもので一般化することはできない。つまり、形式だけではなく、買収防衛策の策定から独立取締役の属性・選定や取締役会への付議内容とその決議に至るまでのそのすべてのプロセスと内容が司法審査に耐え得るものにすることが、現行法上最も常識的な買収防衛策ではなかろうか。
 ビジネス上、最も優れた買収防衛策は、株式の時価総額を高めることだとされている。しかし、シナジー効果を狙うような真の買収者に対しては、株価だけでは防御にならないであろう。このようなケースは、経営陣の優劣の問題は残るが、買収防衛策が否定されるべき方向に考えることが妥当であろう。

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弁護士松本啓二氏のコメント” への2件のコメント

  1. 松本大先生のコメントということで、怖気づいて書き込みできずにいました。私のブログで、近いうちに何かまとめるつもりでいるのですが、何かと忙しいことに加えて、経産省のほうがまとまるのを待ってからということもあり、さらに遅れそうです。ですので、松本先生には申し訳ない気持ちになっております。

  2. 株主や従業員といったステークホルダー以外にも、四方にも気を遣わなければならないなんて、上場企業は大変ですね。