「労働組合」との対比で考える「買収防衛策」(株主の「団体交渉権」を認めよ)

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マスコミの方から、「来週あたり買収防衛策について意見交換しましょう」、というお申し出があったので、私の頭の整理のために、いくつかエントリを書いてみたいと思います。
まずは、先日5月28日の日本経済新聞「大機小機」欄の「株主総会判断型防衛策への疑問」(腹鼓氏)について。
タイトルの「株主総会判断型防衛策への疑問」があるというところは同感ですし、結論の「本当に買収防衛策が必要な場面であれば、善管注意義務を負う取締役会の責任で発動し、その評価は司法判断に委ねるべきであろう。」というところも、スジ論としてその通りだと思います。
しかし、途中の論理展開にはちょっと「?」なところも。

「株主総会判断型」の中には、定款変更は行わず、株主総会ならぬ「株主集会」で防衛策の発動を決める乱暴な設計のものもある。

「乱暴」かなあ。

「株主総会判断型」を入れる会社は、「具体的な買収提案を前にして防衛策を発動するかどうかを株主に判断させるのだから、経営者の保身とは無縁な良い防衛策である」と言う。しかし、これは額面通りには受け取れない。
(中略)
株主総会は、買収者よりも経営者に有利な戦場なのである。

これは、おっしゃるとおりかと思いますが、

 そもそも、上場会社株式は個々の投資家の資産である。買収に応じるか否かは個々の株主の判断によるのが原則であるはずだ。株式の自由譲渡性は株式会社制度の根幹であって、定款上の根拠があればまだしも、個々の株主が「株主集会」の多数決によって売却機会を奪われる法的根拠は薄弱である。
(中略)
 本当に買収防衛策が必要な場面であれば、善管注意義務を負う取締役会の責任で発動し、その評価は司法判断に委ねるべきであろう。

と、ここのところがよくわからない。
ある弁護士さんが、
「定款変更を伴わずに株主総会で買収防衛策について決議するのは会社法上の意味は無いので、いわば『アンケート』のようなものだ。
とおっしゃっていたのですが、非常にうまい説明ではないかと思います。
取締役会が善管注意義務を果たすために、株主の方々に「みなさんはどう思われますか?」と確認するのは、確認しない場合よりも「絶対いい」とまでは言えないにしても、少なくとも悪いことだとは思えないのですが。
この「腹鼓氏」が、「取締役会の決議だけで売却機会を奪うとはけしからん。」という主張をしているなら首尾一貫してますが、取締役会の決議でもOKとしながら、「アンケート」をとると法的根拠が薄弱になるというのはナゾであります。
法学的な議論ではなく、「ぐちゃぐちゃ言い訳の資料を作ってないで、男らしく取締役会だけで決めやがれ!」というノリの話だとすれば、ある意味非常に共感いたします。
私はそもそも、「株主総会判断型防衛策」の方が「取締役会判断型」より優れているんだ、といった論調になることに大反対なのであります。
「労働組合」に例えて考える「買収防衛策」
さて、

上場会社株式は個々の投資家の資産である。買収に応じるか否かは個々の株主の判断によるのが原則であるはずだ。株式の自由譲渡性は株式会社制度の根幹

という部分ですが、ここは、

職業選択の自由は憲法で保証されてるんだから、ある条件で個々の職業に就くかどうかは個々の労働者の判断によるのが原則。

という主張と非常によく似ています。
我々は「原則」を食って生きているわけではないので、労働組合を作って団体交渉したほうがみんなの給料が高くなるんだったら組合を作った方がいいし、買収者がそのままTOBかけたら直前の株価にプレミアムが20%つかないところが、団体交渉したら50%のプレミアムになるんだったら団体交渉した方がいい。
最も重要なのは組合の委員長や幹部が交渉上手な頭の切れる人物なのか、アホな交渉して個別に交渉するよりかえって悲惨な結果に終わるアホなのか、というところでしょう。(つまり、「組合をつくると必ず悪い結果になる」とは限らないわけです。)
「買う側の人」は「団体交渉なんかすると、皆さんも損しますよ」とさかんに宣伝してるわけですが、日本はアメリカから資本主義の歴史が四半世紀遅れているわけで、まだ、こうした「団体交渉」をやったこともないし、買収者との交渉の経験が絶対的に不足しているわけです。
売買が成立しないのは「売る側」も「買う側」ももちろん困るわけですが、「買う側」は、団体交渉されて買値があがるのも困るわけです。
せっかく株価が下がっていて売買益を得るチャンスがあるのに、激しく団体交渉されて「仕入れ値」があがったら、おいしい商売ができなくなっちゃうわけですから。
戦後、労働組合が解禁された時に、当初は労使ともに団体交渉というものがよくわからなかったし、非常に過激で結局労働者のためにならない組合活動も多々あったんじゃないかと思いますが、日本人もアホではないので、労使お互いに得になるのはどういう運営なのかというのは、しばらくやっていればだんだんわかってくるはずだと思います。
買収防衛策も日本で始まってからまだ2〜3年しか経ってないのに、「すべての団体交渉はマイナスに働く」といった主張を真に受けて団体交渉権を放棄してしまうのが、本当に長期的に見て投資家や市場のメリットになるんでしょうか?
四半世紀遅れているんだから、少なくとも10年単位の未来を考えて、どういう姿が本当に投資家のためになるのか、というビジョンを持たないといけないのではないかと思います。
それはすべての会社で「労働組合」が作られている未来でもなければ、すべての労働者が団体交渉権を放棄している世の中でも無いはず。
「アメリカでは買収防衛策を撤廃する企業も増えているのに、日本では逆に導入がはじまっているのはヘンだ。」といった論調も非常におかしな話。
団体交渉権が社会的にきちんと認められている社会で明示的な「労働組合」を作らないというのと、団体交渉権がまるで今まで認められてこなかった国で「労働組合を作るな」というのとは、まったく違う話だと思うわけです。
現代の日本人が「労働組合活動って、あまり激しくやると労使ともに疲弊するケースも多いよねー。」という感想を持つからといって、ミャンマーの人に「労働組合を作る権利を認めさせるのもどうかと思いますよ。」というのは、違うでしょう。
同様に、アメリカで買収防衛策を撤廃する企業が出て来たからといって、日本も買収防衛策を撤廃した会社の方がエラい、と考えるのは物事を単純化して考え過ぎなのではないかと思います。
(ではまた。)

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「労働組合」との対比で考える「買収防衛策」(株主の「団体交渉権」を認めよ)” への4件のコメント

  1. 日本の会社で買収防衛策を導入/発動するときに、買収条件の改善なんか本気で考えている、経営者っているんでしょうか?
    全てが、経営陣の保身のためでしょ、と言いたいのではなくて、良心的な経営陣の念頭にあるのは、株主以外の利害関係者、具体的には従業員、業者、顧客等の権利の擁護、というかそれらに対する信義を守れるかどうか、のような気がします。
    契約書に依存せずに、阿吽の呼吸で廻してる日本の社会(Change of Contorlクローズが入った契約書なんか、まずお目にかからないですよね)において、株主以外の利害関係者の権利を買収者から守るのは、意味の有ることとは思いますが、買収防衛策の目的に、「買収条件の改善」を持ってくるは、ちょっと無理筋ではないでしょうか。 「何でこの株を、こんな安値で売らなきゃいかんの」って株主が怒るのは、現実には友好的買収の時ですよね。
    買収防衛策導入にあたっては、「本買収防衛策の導入で、敵対的買収を事実上不可能にすることにより、取引先/従業員との関係を一層強固なものとし、中長期的な成長を達成して、株主の皆様の利益を確保します。(その代り、TOBがかかって、ガツンと儲かる可能性が低くなるのは覚悟してね。)」と、整理した方が、現状に即していて、すっきりするのではないでしょうか。
    根拠のない、思い込みばかりのコメントで申し訳ありません。

  2. コメントありがとうございます。
    獏さんのおっしゃる見方が「現状」にも即しているし、世の中の方の9割以上は、そう思ってらっしゃるのも確かでしょう。私もそう思ってました。
    ただ、その「現状」というのは、結局、「終戦直後の労働組合」と同じなんじゃないか?、というのが今回の趣旨であります。
    終戦直後の「組合の委員長」たちが、「(本当に日本経済全体にプラスになる)あるべき組合の像」をよく理解していなかったとしても、それは(今にして思えば)無理からぬところじゃなかったかと。
    つまり、今吹き荒れている「買収防衛策バッシング」というのは、戦後の「レッドパージ」「逆コース」と同じようなもんで、(確かにその状況を野放しにしておいたほうがよかったとも言えないが)、その段階で「労働者の団体交渉権」自体を完全に踏みつぶしてしまっていたほうが、社会のためになったのか?ということです。
    労働者の団体交渉権は、弾圧を受けながらも、イデオロギーとしても非常に強く、なにより「憲法」で保証されていたわけですが、
    「株主の団体交渉権」というのは、イデオロギー的にも法的にも、まったく風前の灯火じゃないかと思われます。10年単位の未来を考えれば、ここで「株主の団体交渉権」を抹殺してしまうのは、経済にとっても投資家にとっても決して得策ではないのではないか、ということです。

  3. その団体交渉権=ライツプランなのですが、似たような効果が金融商品取引法のTOB規制でも出来るのではないでしょうか?
    迂闊なTOBをすると、質問攻めに合ってしまいますよね。
    取締役会は意見表明する義務があるので、この段階である程度株主の受任者たる取締役が団体交渉する書記長の役割を果たすのかなあと。同時に質問できる権利があり、買収者はその質問に5営業日以内に回答する義務が生じますよね。
    ライツプランで団体交渉を突破して、TOBでまたもう一回交渉することになるのかなあ、などと最近考えたりします。
    ライツプランはざっくり言えば自主ルール(株主総会での取り決め法によりますが)で金商法は法律でしたよね。
    この辺の買収者の2重の苦労なんてのは話題にならないのかなあ。最初の団体交渉のハードルがあまりにも高いので、そこまで事例がないのも事実ですし。

  4. 「金商法ができたから買収防衛策は不要だ」というのも、最近 巷で流布しているお話ですが、買収防衛策で通常規定している「20%以上の取得」と、TOBで取得しなければならないケースは、一致しませんよね?
    金商法は「プロセス」を規制していて、買収防衛策は20%という「結果」で判断しており、目的が違うので差異が発生するのは当然。「法律が守って?くれる」と思っていても、ライブドアのTOSTNETのように、法律が自分が想像してたのと違う動きをしたらアウト。(こんだけ複雑な法令になっちゃうと、誰も、自分の会社のケースで、どこにどういった穴が存在するか、というのはわかんなくなっているのではないでしょうか。)
    また、金商法は「企業価値」を守ってくれるのでしょうか?確かに質問はできるかも知れないけど、「質問には答えてもらったけど結局安く買われちゃった」ということだと、既存株主は結局損するわけで。
    規制が複雑だから買収者が苦労するのもご苦労ではありますが、「だから買収防衛策なんかとっぱらって株主の個別判断しか認めません」というのも、ナニではないでしょうか。
    (どっちかというと、ややこしすぎる強制TOB規制を取っ払う方が、よっぽど買収者[のみならず、普通に株を買う人]も戦略が立てやすいんじゃないかと思います。)
    (ではまた。)