「チャリティオークション」の資金フローの設計(続編)

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アメリカなどでは、お金持ちが集まったチャリティのパーティでオークションが行われるといったことはよくあるだに聞きますが、日本ではまだ「寄付」という習慣が欧米ほどには根付いていないと思いますし、寄付の中でも(「募金」はある程度行われてきたと思いますが)、「チャリティオークション」というのが(テレビの企画などと連動して)大規模に行われたということは、まだ例が少ないんじゃないかと思います。
先日検討したチャリティーオークションの特徴をひと言で言うと、

「寄付」という行為と「売買」という行為が混在している。

ところではないかと思います。
この混在によって、いろんな処理がややこしくなってくると思われます。


 
「落札者からの寄付である」と考える場合
前回のエントリで検討した案の中では、オークションへの出品者から落札者へは絵画等の譲渡が無償で行われて、落札金額は落札者からしかるべき団体への寄付であると考えると、善意で考えた場合の落札者の意思を最も適切に反映しているし、落札者も(法人の寄附金の損金算入枠内であったり、個人が寄付した相手が特定寄付金の対象になる団体等であれば)税メリットも最も受けられるのではないか、と思っておりました。
しかし、この案にはちょっと弱点があります。
それは、この落札価格は、仮にも「オークション」というオープンな場で決定された価格であり、(みなさんマインドとしては寄付の要素が強く、かつオークションのゲーム性やテレビということもあって若干エキサイトしているにしても)、ここで決定された落札価格が「時価」ではない、「時価」からはまったく乖離しており、物品としての価格はゼロ円であるといったことを税務的に主張するのは、ちょっと無理がある場合も多いだろうなあということです。
換言すると、タレントなり漫画家なりの方から無償で絵画等が譲渡されるとすると、落札者は時価分に対して贈与税を課税されるリスクが理論的にはあるかと思います。
一般の人が1個数十万円程度までの低価格なものを善意でこじんまりやってるようなチャリティオークションであれば、(税務当局も鬼ではないので)、そこをことさらに問題にするという可能性も低いのではないかと思いますが、今回の行列のできる法律相談所の「カンボジア学校建設プロジェクト」のように、大規模で1件あたりの金額も大きく、主催者が上場しているテレビ局、出品者が高額所得者であるタレントや漫画家、落札者も所得が大きそうな自営業者や会社社長等ばかりだとすると、税務的な問題になる可能性は極めて低いとは言いにくくなってくるのではないかと思います。
「出品者の寄付」と考える場合
24時間テレビや、ヤフーさんのチャリティーオークションのページをさらっと拝見してみたのですが、どうも、税務上の取扱いについて解説したようなページは見当たりません。
(例えば、「このオークションでの収益金は、皆様からお預かりして、特定公益増進法人○○への寄付とさせていただきますので、税制上の優遇措置があります。」といった形のものなど。)
ヤフーのチャリティオークションが(仮に)ヤフオクの考え方をそのまま踏襲しているとすると、売買は出品者と落札者との間で行われてヤフーは直接の売買の当事者ではなく、落札者の支払う落札金額はヤフーさんが預り金処理して、しかるべき団体に寄付するということになるかと思います。
すなわち、寄付をしているのは「出品者」である、というのが一番素直に解釈した現状の法律関係なのかなあ、という気がします。
そうすると、島田紳助氏の絵は500万円で落札されたので、島田紳助氏の所得が500万円増加することになり、寄付した先が寄付金控除の対象とならない団体等であるとするならば所得控除は受けられないので、島田氏は累進の税率はmaxでらっしゃるでしょうから、落札額の約半分が税金でも持っていかれるという、なんともむごい結果になってしまう可能性もあるんではないかと。
落札者の会計処理も(いずれにせよ)複雑
上記のように、落札者が「寄付」をしたのではなく500万円の絵画を単純に「購入」したと考える場合、その絵画を資産計上するということになりますので、買ったときの処理はシンプルになるかと思います。
一方で、この「資産」を償却するのか否か、というのは、これまたややこしいところ。
買ったのが法人だとした場合、下記のような通達がありますね。

(書画骨とう等)
7-1-1 書画骨とう(複製のようなもので、単に装飾的目的にのみ使用されるものを除く。以下7-1-1において同じ。)のように、時の経過によりその価値が減少しない資産は減価償却資産に該当しないのであるが、次に掲げるようなものは原則として書画骨とうに該当する。(昭55年直法2-8「十九」、平元年直法2-7「二」により改正)
(1) 古美術品、古文書、出土品、遺物等のように歴史的価値又は希少価値を有し、代替性のないもの
(2) 美術関係の年鑑等に登載されている作者の制作に係る書画、彫刻、工芸品等
(注) 書画骨とうに該当するかどうかが明らかでない美術品等でその取得価額が1点20万円(絵画にあっては、号2万円)未満であるものについては、減価償却資産として取り扱うことができるものとする。

これから考えると、今回の「カンボジア学校建設プロジェクト」に出品された絵画のうち、例えば、美空ひばりさんの描いた絵、なんてのは「歴史的価値」「希少価値」はかなりありそう。
また、工藤静香さん、片岡鶴太郎さん等は、絵のプロでもありますので、「号いくら」といった相場が形成されている可能性があり、上記の「(2)」に該当してしまう気もします。
これらは、税務上、償却するのは厳しいかも知れません。
一方で、会計監査的な観点からは、経済的実態はどうか(資産性が本当にあるのか)という点が問題になるかと思います。例えば島田紳助氏の絵と言うのは、(ご本人曰く)その500万円の内訳の大部分は経済的実態が「寄付」であるとのことで、とすれば、それに沿った会計処理(資産30万円+寄付470万円[有税])とせざるを得ないかも知れません。
また、その他の「絵を描くのは初めて」といったタレントの方が書かれた絵も、税務上も少なくとも償却はできるような気がします。
資産計上時の処理について、「このうち450万円は寄附金だ」「そして、そのうちXXX万円は損金算入不可だ」といった認定をうけると税金の取り返しようがないですが、償却資産とできるものであれば、償却を通じて損金算入できる可能性もある、ということですね。
以上のように、「買った」のが個人なのか法人なのか、出品されるモノがどういった性質のものなのか、そのモノの時価がいくらと考えられるのか等によって、会計上・税務上の処理が大きく解釈が異なる可能性もあるかと思います。
(つまり、ウェブで説明しても一般の人に理解してもらえるかどうかわからないくらい、むちゃくちゃ複雑。)
「実態」の判断によって大きな差が出ますので、ヤフオクさんなどで会計や税務について触れていないのも、正解かと思います。
理想的な?チャリティオークションのスキーム
今回の「カンボジア学校建設プロジェクト」の契約関係は、前述の通り、普通のオークションでの法律関係の延長線上でやっているとすると、おそらく(というか残念ながらというか)「出品者の寄付」という帰結になる可能性が高いのではないかと思います。(ご尽力されたスタッフの皆さんも、これほど高額な落札価格になるとも想像してなかったところかと思いますので、いたしかたないところでしょう。)
今後、さらに高額の(たとえば1千万円単位の)落札価格といった事態になると、税務上のインパクトもシャレにならない額になってしまうかと思います。
税理士 柳澤賢仁氏からいただいたコメントの最後の案に近いですが、今後も、大規模にやるとしたら、

  • 個人であるタレントや漫画家が、特定公益増進法人(または認定NPO法人など、寄付金控除の対象となる先)等に対して無償で絵画等を譲渡する。
  • 特定公益増進法人等がオークションを通じて落札者に絵画等を譲渡する。

といった形にするのが、善意で応募してくださる方々を税リスクから守ることになるのでは?という気がします。

  • 特定公益増進法人等がオークションを行うことがルール上可能か?
  • 特定公益増進法人等は事務上、そういったことにフレキシブルに対応してくれるか?
  • 例えば「カンボジアに学校を建てたい」と思った時に、その目的にぴったりくる法人が見つかるか?
  • 売買が特定公益増進法人等の収益事業とみなされないか?
  • あわよくば、落札額全額を寄付金控除等の対象にできないか?

など、いろいろ検討すべき課題はありそうですね。
(ではまた。)

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「チャリティオークション」の資金フローの設計(続編)” への5件のコメント

  1. たびたびのコメント(及び以下長文乱文)、失礼します。
    私も磯崎先生に賛成で、「寄付をしたのは誰か?」となれば、なんら見返りを期待していない「絵を描いた(または提供した)人」だろうと思います。
    落札者は落札をすれば絵を必ず取得できるわけで、それは「寄付」ではなく「購入」かと思います。
    (とはいえ、おっしゃるとおり、心情的には「寄付」の部分もあると思いますので、その場合には、一旦資産計上した上で、例えば奥さんに「時価」で売っちゃって、譲渡損を出すというのはいかがでしょうか?)
    先のエントリにさせていただいたコメントで勘違いをしていたのですが、今回出品された絵には、「このチャリティのために描かれたもの」と「もともと存在していたもの」の2通りがあるのですね。
    前者ばかりと思っていましたので、それは「絵を寄付」と言いますか、厳密には「無償を前提とした有名人の「サイン」に似ているとも考えられるし、そんなのは描いてあげると決めた瞬間に所有権を放棄しているのだから譲渡でもなんでもない、課税の対象となる財産がないのだから所得など発生しないはず(私見)」と考えました。
    (所有権や譲渡という意味では、画家とパトロンの関係に似ているのかもしれません。)
    ところが後者の場合、その絵にはすでに所有者がいて、なかには価値がある程度顕在化しているものもあるでしょうから、有償を前提とした資産を無償で譲渡(寄付金)したということになろうかと思います。
    この場合には、おっしゃるとおり、出品者に譲渡所得が生じるかと思います。
    http://www.nta.go.jp/taxanswer/joto/3108.htm
    (ただし、私はやはり一旦「ボランティア団体」がかんでいると仮定しています。つまり、「絵を描いた(または提供した)人」は寄付を、「ボランティア団体」は売買を、それぞれ日テレさんに委任している。)
    そうすると、確かに「善意」の寄付者には、(特に相手が寄付金控除の対象の相手でないと、)税務リスクが生じてしまい、特に「時価」について、オークションで異常に高騰した落札額と同額と認定されると厄介です。
    おっしゃろうとされていることがようやく理解できてきました。
    だから、結論としては、その「ボランティア団体」を「特定公益増進法人等」にすれば理想的ということなんですね。
    頭がやや混乱しているので、間違った記述があるかもしれませんし、条文等の無知があるかもしれません。税理士としてお粗末な限りですが、その際はご容赦ください。
    (なお、私はそもそも寄付金は所得控除ではなく税額控除にすべきと考えています。)

  2. 横から失礼します。
    >(なお、私はそもそも寄付金は所得控除ではなく税額控除にすべきと考えています。)
    私の先のエントリーへのコメントの考えからもその結論になりますね。
    でも、累進税率の所得税のもとでは、税額控除式だと、税率で
    割り戻していくらの課税所得を打ち消すかという見方でみると、
    高額所得者の方がよりメリットを受けているようにみえるから
    ということではないかと思います。
    個人住民税のふるさと納税対応が寄附金税制一般の税額控除方式
    への移行の嚆矢になるのかもしれませんが。
    http://www.soumu.go.jp/menu_04/pdf/169_080125_2_01.pdf

  3. 柳澤様
    なるほど、「誰か」がタレント等に絵を描く「作業」を依頼したのだとしたら、作成者から落札者への「資産の譲渡」にはあたらないので、描いた人が「踏んだりけったり」にはならないだろうということですね。すみません、飲み込みが悪くてやっと理解できました。
    ただ私は、今回のスキームにはボランティア団体がかんでいるといったことは無いと想像しています。なぜなら、大変失礼ながら(売上げの大半を占める広告代理店との取引の契約書が無い、といった、テレビ局界隈でお聞きするエピソードから想像するに)、日本のテレビ局さんというのは、事前にこうしたスキームを法令、税制等の観点から丹念に検討する、といったことがあまりお得意ではない会社さんたちだと思いますので。
    ということで、もし出品者に譲渡所得が発生しない取引だと解釈されるなら、テレビ局さんが譲渡益に対して課税される可能性が高まる、ということになるかと思います。

  4. 磯崎先生、お返事ありがとうございます。
    なるほどよく分かりました。
    スキームや契約が曖昧なままエビデンスもなく本件プロジェクトがノリで進行していたとしたら、とんでもないことになりうるよ、ということなのですね。
    一連のエントリで最善策を考えるにあたり、大変勉強になりました。
    ありがとうございました。

  5. 個人から法人への寄付の税務

    今回のエントリは、たぶん、税務の専門家の方でないと難しいかもしれません。
    (すいません。)