「チャリティオークション」の資金フローの設計(疑問編)

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「行列のできる法律相談所」の「カンボジア学校建設プロジェクト」という企画で、有名人が描いた絵をオークションし、その資金を元に学校を建設しようと番組内でオークションしたところ、5076万2000円もの資金が集まりましたね。500万円もあれば立派な学校が1つできるとのことなので、大成功というところではないかと思います。

こうした「善意」の資金をうまくまわすために、税務その他の制度上、どのような点を考える必要があるか、この「カンボジア学校建設プロジェクト」に関連してちょっと考えてみました。
「オークションで得た資金をカンボジアの学校に寄付する」という極めてシンプルに思える話が、考え始めると非常に深い・・・というか、非常にややこしい。

(寄付関係の制度は、いろいろ複雑で法律もあちこち分散しているので、私もすべての制度を完全に理解して書いているわけではございません。お気づきの点等ありましたら、ご教示いただければ幸いです。)

誰が売買の主体なのか?
当然、「行列」なので日テレさんがオークションの主催者だと考えるのが素直です。しかし、本企画の発端はアグネスチャンさんで、番組内でも「日本ユニセフ協会大使」と紹介されていましたので、もしかしたらユニセフがオークションの当事者になっているんでしょうか?
というのも、「株式会社」というのは寄付を取り扱う主体としては税務その他の制度上あまり優遇されていないので、日本ユニセフ協会のような特定公益増進法人が主体になるほうがいいはず。

・・・と思って調べてみたのですが、番組のスタッフロールにもユニセフの名前は見当たりませんし、ユニセフのホームページにもオークションのことは触れられていません。(もちろん、スタッフロールに表示したりホームページに書くかどうかではなく、実態として誰がオークション(というか、売買・譲渡)の当事者になっているかで課税関係が変わってくると思います。)

ちなみに、日テレさんはご案内の通り、「24時間テレビ」というのもやってらっしゃいますので、こうした寄付の処理についてはかなりノウハウがおありかも。Wikipediaの記載を見ると、

24時間テレビチャリティー委員会や参加局は、社会福祉法第73条および同施行規則14条・15条に基づき、厚生労働大臣の許可を得て募金活動・慈善活動・資金配分などを行っている。

とあります。
2007年8月の24時間テレビでは約10億円の寄付が集まったようですが、日テレさんの平成20年4月期の有価証券報告書を見ても、「24時間テレビ」は大型番組企画として名称が紹介されているだけで、会計処理等については言及されてませんし、10億円を超える営業外収入の営業外収入の科目等も見当たりません。
結局、この「24時間テレビ」に関わる資金の流れは、日テレさんの帳簿外で(または収入ではなく預り金等として)処理されているという可能性が高そうです。

チャリティ・オークションの会計処理(法人が主体の場合)
チャリティ・オークションは、出品者からは(おそらく)タダでモノを出品してもらって、それをオークション参加者が競り落とし、それが寄付されるという流れになってます。

「仮に」、オークションが法人の「仕入・売上」として行われているとします。
島田紳助氏の絵が500万円で落札されましたが、紳助氏自身が「なんぼ高くても30万円ですわ。」と謙遜されてたので、この絵が仮に時価30万円だとすると、出品者からの「仕入」の取引は、建前としては、

(借方)資産  30万円 (貸方)受贈益  30万円

となり、500万円で落札された結果、

(借方)現預金  500万円 (貸方)売却益  470万円
                  資産    30万円

となります。
この現金を寄付すると、

(借方)寄附金  500万円 (貸方)現預金  500万円

ということになります。

この場合の問題の第1は、寄附金の損金算入限度額を超える額は、日テレさんの会計上、損金に算入できないので、日テレさんは収入のかなりの部分が課税されてしまう可能性がある、という点です。

第二に、上記の仕訳では受贈益を区分しており、こうした市場で流通していないものの「時価」をいくらと判断するかという作業が非常に面倒。(しかし、「受贈益+売却益」は、必ず競り落とされた金額になるので、結局、法人が売買の主体となる場合には、1、2の仕訳をまとめて、

(借方)現預金  500万円 (貸方)売却益  500万円

とだけしても、この第二の点は、会計上も税務上もあまり問題にはならないかと思いますが。)

以上のように、24時間テレビで推測した処理ともあわせて考えると、とにかく、法人が寄付の受け手や出し手になるのは、あまりうまい方法とは言えなさそうです。

出品者の会計処理(オークション主催者が仲介者として売買する場合)
ということで視点を変えて、「ヤフオク」と同じように、日テレさんは単にオークションの主催者として出品された品を紹介し現金の収受等の手伝いをするだけで、実際の売買は出品するタレントと落札者の間で行われると考えてみましょう。つまり、出品者(タレント等)がそれによって得た資金を寄付するわけです。

その場合、出品者の会計処理としては、下記のようになると考えられます。

(借方)現預金  500万円 (貸方)売却益  500万円

そして、この500万円を寄付すると考えるわけです。
すると、寄付した相手方が「特定寄附金」になる相手であれば所得金額から(5000円を超える部分が)控除されますが、そうでないと、売却益だけが課税されて、踏んだり蹴ったりなことになります。

島田紳助氏が「我々の手で必ずカンボジアに学校を建てます」と宣言されてましたが、「我々」というのが日テレさんとか島田紳助氏やアグネスチャン個人だったりすると、当然、「特定寄附金」には該当しないということになっちゃいます。
出品者はみなさんタレントや漫画家の方で、課税所得や税率も高そうなので、この違いは大きいでしょう。

落札者が直接寄付している、と考える場合
3番目の考え方として。
500万円で出品された品を落札しているように見えますが、これはヤフオクなどでの落札とは違って、名目上「モノ」は介在するけど、その出品されたモノはタダで出品者から落札者に譲渡されただけで、実態は出品者の「寄付」なのだ(オークションしているのは、そのモノをタダでもらう代わりに寄付をする権利であって、モノ自体ではない)と考えてみます。

この場合、オークションを主催する日テレさんや出品者の方への課税リスクは小さくなりますね。

また、お金を支払った相手が特定公益増進法人等で特定寄附金として所得から控除できるのであれば、それだけ落札者の負担も軽くなるというもんです。
(もちろん、落札者は、所得控除をあてにして落札しているわけではないのではないかと思いますが。)

また、落札者は、時価30万円のものをタダで譲り受けたとすると、贈与税が課税される可能性がないわけではない。しかし、この時価の算定は容易ではないので、税務調査等で指摘される可能性があるかというと、あまり無いのではないかと思います。
ただし、漫画家や歌手などの大物で、「この人の絵ならいくらくらい」という相場が確立しているものについては、「寄付ではなく、落札額で絵画を購入した」と認定されるリスクが無いではないかと思います。

——————-

「カンボジアに学校を作る」というのは誰が見ても「いいこと」のように思えます。しかし、それは「日本国外」のことでもあり、税務などの日本の制度上、そのままで「いいこと」として優遇されるとは限らない。へたなスキームを組むと、関係者に想定以上の負担をさせてしまう、ということになるかと思います。

以上、「カンボジア学校建設プロジェクト」をベースに、「チャリティ・オークション」というものをどのようなスキームで設計すればいいか、ちょっと考察してみました。

(ではまた。)

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「チャリティオークション」の資金フローの設計(疑問編)” への5件のコメント

  1. コメント失礼致します。
    チャリティー・オークション、確かに全体像を眺めてみると、複雑でややこしいですね。
    会計や税務は事実を前提とするのでしょうから、当事者間でどのような契約がされていたのかを知りたいところです。
    私もすべての寄付金制度を完全に理解しているわけではありませんし、本件に関与しているわけでもありませんので、あくまでも想像ベースですが、日テレさんがカンボジアの学校建設の発注主になるというのは可能性として低いのではないかと思います。
    そこから考えると、日テレさんは集めたお金を現地のボランティア団体に配分するというような役割なのではないでしょうか(wikipediaでいうところの「募金活動」と「資金配分」)。
    そうすると、やはり預り金で処理というのが正しいのかなと思います(誰に対する預り金かというのがやや不明瞭ですが)。それこそファンドやSPCに近いものまで可能性としてはあるのかなと思います。
    その上で、誰が寄付をしたことになるのか、というのはおっしゃるとおり大変難しいですね。絵を描いた人かもしれないですし、お金を出した人かもしれません。
    仮に絵を描いた人が寄付をした人になって「踏んだり蹴ったりなこと」になると一番イタイですよね。
    また、仮にお金を出した人が寄付をした人になって寄付金控除も可能なのであれば、番組でその旨事前に告知していたんじゃないかと思います。ただし、おっしゃるように、本件ではお金を出して絵をもらっていますから、純粋な寄付とは考えられません。
    本件を単純に考えると、人がボランティア団体に(日テレさんを通じて)絵を描いてあげた(無償)。それをボランティア団体が(日テレさんを通じて)人に売った(有償)。ということになるのかもしれません。
    そう考えると、このチャリティー・オークションでは、絵が寄付されたのであって、本件には寄付”金”がないのかもしれません。
    そうすると、誰にも寄付”金”控除の話が出てくることはなく、絵を買った人もその資産を売ったりしたときに損益を認識するのかなあと思います。

  2. なるほど、会計士さんや税理士さんにさえ、難しい問題が含まれているのですね。
    アグネスが「こんなに大きなプロジェクトになって・・・」云々と言っていたのを聞いた時には、「絵を書いて売るだけなのにそんなに大きいかな?」と思ってしまったのですが、こちらのブログを読んで、大きさの一端が垣間見られた気がします。
    ただ、芸能人の格付けのようになってしまっているのは、残念でした。
    また、紳助が自分の絵を10万円からスタートさせたのにも驚きました。

  3. 私は、この問題は、カンボジアにおいて建設された学校の所有権が帰属する相手に対する寄付と考えます。
    もし、カンボジア政府であるなら、しかるべきエビデンスがあれば寄付金控除が可能となる。日テレ初め中間に介在した人たちは、預かり金の処理で正しい。
    学校の所有・運営主体が民間であった場合、その民間に受贈益としての課税がなされるかは、カンボジアの税制による。
    私は、以上のように考えました。

  4. 寄付の税制に不案内なのですが、例えば所得税法第78条2項1号や法人税法第37条3項1号の「国又は地方公共団体に対する寄付金」というのは、カンボジア政府も含む、と解釈するのでしょうか?
    (日本の税制の寄付にたいするシビアな解釈からすると、外国政府だからといって、「どうぞどうぞ、控除・損金算入してください」というほど気前良くないような気がするのですが・・・。)
    他に、外国政府に対する寄付金は優遇します、といった規定があるのでしょうか?
    (取り急ぎ)

  5. 国税庁の事務運営指針にでていますよ。外国政府に直接に
    寄附するのは一般寄附金にしかならないということです。
    放送局等が仲介する場合についても指針に書かれています。
    http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/jimu-unei/hojin/020225/01.htm
    国等に対する寄附金又は災害義援金等に関する確認事務について(事務運営指針)
    三 海外の災害に際してきょ出する義援金等の確認
    (募金団体に対する対応)
    「国等に対する寄附金」というのは日本の政府・地公体が行っても
    おかしくない事業に寄附するのは直接に財政負担しているのと
    同じ、という趣旨だからではないかと。
    外国の事業に直接の寄附だと、日本政府としてガバナンスの目が
    届かない(憲法89条にいう「公の支配に属しない慈善・博愛の
    事業」)ということが問題になるのだと思います。
    (参考)東大・増井教授のコラム
    http://www.j.u-tokyo.ac.jp/sl-lr/02/papers/v02part12.pdf