TOBの「強圧性」と「フリーライド問題」

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おとといのエントリに対して、ペンネーム「受け売り」さんからコメントいただきました。

これは強圧性の生じうる典型的な買付方法ですね。
全部買付けをしない点、過去12か月の最高価格でない点など、イギリスでは、とうてい認められないですね。

本件について、

  • 本当に強圧性があるのか、

  • 本当にイギリスでは認められないのか、
    (つまり、例えばイギリスの「パネル」が実際に、買収の是非を要件で機械的に判断しているのか柔軟に判断しているのかは、日本で欧州の買収制度を研究している研究者の方々からもよくわからないという声がある、といったお話もありますが)

  • イギリスで認められないことは(アメリカとも欧州とも買収制度の違う)日本でもダメなのか、

・・・・という話はさておき。
本日は、某ローエコ(law and economics)大好き弁護士さんの中大ロースクールでの授業におじゃまして、
「本当に強圧性というのは悪いことなのか」
というお話を聞いてきました。


 

日本では『強圧性は悪い』、という議論だけで、逆の『フリーライド問題』という視点はまったく話題に上らない。
現在の株価より高い価格で株式を購入しようという提携者は、なぜ現在の株価より高い株価で買うかというと、自分が提携することにより、その高い買付け価格以上の株価を実現できると考えているからだ。
ということは、(市場のひずみを利用して短期的に転売して儲けようというTOBや、上場廃止を前提とした二段階買収の場合はさておき)、一般の株主は、TOBに応じずにそのまま保有し続けたら、提携者が実現する価値にフリーライド(ただ乗り)できるし、TOBも成功しない可能性がある。
だから、強圧性はちょっとでもあったら即ダメというものでなく、成功するTOBにはある程度の強圧性があるはずなのだ。重要なのは、強圧性とフリーライドのバランスがどうか、そのバランスが社会的に許容される公正性の範囲を超えたものなのかどうか、ということではないか。

という内容でした。
ある提携の構想があり、その提携で新たなバリュー(シナジー)が生み出されるのであれば、(もちろん、それを100%提携しようとしている先が取っちゃう、というのはナニですが、逆に)、そのシナジーによるプレミアムを一般株主に100%差し出さないといけない、ということもない。
提携のシナジー効果を必要以上に少数株主に差し出さなければならない環境だとしたら、提携者に提携しようというインセンティブがなくなってしまう。そうした提携が発生しないと、全体として新たな価値が創造されないわけだから、結局、社会全体は(社会主義国家のように)貧しくなって、一般株主も損をすることになる。
日本では、「少数株主」の「少数」という文字を見て、「少数」→「弱者」→「保護が必要だ」という話で思考停止してしまうが、何が本当に社会のためになるかを考えたほうがいいのではないか。
・・・といったお話もありました。
(以上、聞いた内容を正確にお伝えできているかどうかわかりませんが。)
確かに、時価総額1500億円の会社の例えば0.1%を保有している株主は、「少数」株主ではあるし、もちろん議決権の差などを考えた一定の保護は必要ですが、1.5億円もの資産を持っている人は、決して「社会的弱者」ではないはず。
(それどころか、証券優遇税制については、「株を持っているような人は金持ちだから、なぜ税率を優遇する必要があるのか」といった議論も真っ盛りでして・・・。)
株式市場というのは社会福祉のシステムじゃなくて基本的には「ビジネス」なわけですから、どちらかだけが一方的に儲かればいい、という話ではなく、双方がwin-winでなければならないのではないかと思います。
(ご参考まで。)

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TOBの「強圧性」と「フリーライド問題」” への10件のコメント

  1. 上場維持なわけですから強圧性云々というお話はあれなんでしょうが、TOBが首尾よくいかなかったばわいは
    「市場で集める」ともアナウンスされております。
    4割ホルダーですもんね、もしも首尾よくいかなかったら、売り浴びせてどさーっと値が下がったところで
    買い集めに来るんじゃなかろうかとか、そうなるとこっちも売り建ててどひゃーっと儲かりゃすまいかとか、
    かくしてパンピー少数株主の心は千々に乱れるわけでしょうな。タダ乗りしたいですから。

  2. 一度、親子上場の是非について論じていただけませんか?

  3. 決して氏の作成した報告書を非難したいのではなく、この倫理観のないTOBを問題視しているだけです。ってか、いつもならこういうのを先頭に立って非難してくれる氏が、官僚並みの言い訳書を作成されているのがツライわけです。
    提携と言っても、既に多数のOB含む役員派遣を受け前回のTOBで40%以上を保有されている時点で十分提携状態にありながら、結果的にはPTSは駄目だし、システムは落ちるしと事業的には問題を露呈しまくっているのに、その経営責任を忘れ、株価が下がってるので(もしくは下げといたので)もういっちょやりますか?的なのに「モバイル・インターネットによる」なんてサイバードですらいえない言い訳で許しちゃうのが切ないわけであります。
    なぜ、このタイミングで今40%ではなく、50%以上買い増さないとモバイルインターネット(笑)ができないのかと?

  4. >提携と言っても、既に多数のOB含む役員派遣を受け前回のTOBで40%以上を保有されている時点で十分提携状態にありながら、
    ・・・とのことですけど。
    公開買付者さんはもともと一回で50%超を目指されたかったのかも知れませんが、(どこまで情報が開示されてるのか完全にチェックしていませんで、確実に公開されている情報だけでお答えするので、表現がまだらっこしかったら恐縮ですが)、前回のTOB時に他の主要株主さんが一部株式を手放されて主要株主でなくなったこと、ご案内のとおりこの11月1日から東証さんの流通株式比率の規制が緩和されたことなどから、10月31日以前に50%超を取得するのは、上場廃止になるリスクを考えると難しかった、ということは客観的に言えるかも知れません。
    これは私の個人的意見ですが、連結売上に計上されたほうが提携に身が入るというのはもっともですし、40%を上回れば連結はできるにしても取締役会で過半を取る等の必要があり、(現状では、独立性を尊重していただいてかろうじて取締役会の過半を取っている状態で)、公開買付者出身の取締役が1人欠けても連結の要件を満たさなくなるというのは、公開買付者さんが数百億円の価値の投資をしていることとの対比からすれば非常に不安定な状態だなあと考えられたとしても、これまたごもっともなことかと思います。
    また、「言い訳」というのは、最初から結論が決まっていることに適当な理屈付けをする場合に使う言葉ではないかと思いますが、前回も今回も、執行とも公開買付者とも利害関係の無い独立取締役等がゼロベースから(つまり、不賛同意見を出すとか、株主に応募しないことを勧めたほうがいいかどうかも含め)意見を考えたものです。
    個人的には、前回TOBのさらに前から、こういうケースの場合、アメリカっぽく買収防衛策をチラつかせながら、「もっと高く買え」という交渉をする手も選択肢として考慮する必要があるのではないかと思ってきました。しかし、(日本では「株主価値向上のために買収防衛策を使います」といっても、「どーせ、取締役の保身のためだろ?」といった反応になる向きが強いこともあり、)日本の環境でそうするほうがいいのかどうかは微妙な問題ですし、また、日本では実際、友好的(になる可能性がある)提携の際に買収防衛策を持ち出して交渉するという例はまだ無いと思います。
    実際、「買いたければどなたにでも買っていただける」建付けになっており、「買うな」と止める術は持ち合わせていないわけです。
    検討したすべての情報をお話できなくてすみませんが、交渉の内容等、開示できない話があるからこそ少数株主の立場を代弁する特別委員会を使う意味があるわけで、でなければ企業のことは全て株主総会や株式市場で決めればいいわけです。(が、実際はそうではないはず。)
    我々としては、どうすれば最も少数株主のみなさんの利益になるかを非常に真摯に検討したつもりなんですが、コメントをいただいて改めて、なかなか社外取締役が本当に独立性をもって適正な判断をしているということを信じていただくのは難しいんだなあ、(つまり、親会社グループ企業によるTOBの際に、親会社関係者を決議からはずし、外部の算定者も入れ、独立した特別委員会まで作って検討した例というのは今まで日本ではあまりなかったんじゃないかと思いますが、そこまでやっても、「どーせ、特別委員もグルで、大株主の言いなりに決めてるんだろう」と思われているんだなあ)、と思いました。
    他にも仕事がある特別委員のメンバーで、連日、夜中(朝方)まで検討して、なんとかこの公開買付けの性質やリスクについて知っていただこうということで報告書にまとめたんですが、当然私一人で書いたわけでなく、委員全員の意見を何十回という上書き上書きの繰り返しで盛り込みましたので、短い検討期間で表現がこなれておらず、報告書の言い回しが「官僚的」に見えたとしたらすみません。
    (といっても、少なくとも従来の意見表明書はこんな感じの表現ではないかと思います。が、他の意見表明書を読んでも、長くてごちゃごちゃいろいろ書いてあるだけで、「ホントのところ何考えてるのよ?」というところがピンと来ないのもおっしゃるとおり。今回は、そのへんが極力わかるようにしたつもりだったんですが・・・。「この価格、ぶっちゃけどーよ?」的な表現にしたほうがフレンドリーで、本当に少数株主のために検討したという信憑性も出るかも知れない・・・かどうかはさておき、もうちょっと直感的にわかりやすい意見表明書の表現について、引き続き研究してみます。)
    (非常に長くなっちゃいましたが・・・ではまた。)

  5. フリーライド問題っていっても、実際フリーライドかどうかって判断難しくないですか。だって割安だと思って株買うわけですよね。TOBに答えない理由が安すぎるからっていう人もいるかもしれないし、シナジーを十分反映しない値段で売って、フリーライドしちゃったラッキーって思い込む株主もいるかもしれないし。ちなみにとーりすがりの調査によると、無謀にバリュエーションしているアメリカの裁判例もシナジー分を買い取り請求のときに値段に加えるかどうかには一致した意見はないようですね。こういう試行錯誤って実はあとで役にたったりしないですかね。

  6. 強圧性とフリーライドの問題はなるほどなぁと思わされましたが、まあそうは言っても、キャッシュ・イズ・キングですよね。確かに、理屈から言えば、TOB価格以上の価値創造を前提として買収する訳ですが、株主としては、その価値創造にベットするのか、今確実に手に入るキャッシュを手にするのか、判断するのだと思います。つまり、価値創造の可能性(リスク)をどれだけ見込むかですよね。それにしてもプレミアムが低すぎると思うのであれば(=会社単体でももっと価値が生まれるし、ましてや買収するなら、という信念)、応募しないということになるでしょうし。ときどきですがわめく株主さんもいらっしゃいますよね。でも実際は、どのくらいの価値が生まれるかって判断が難しく、当事者でも侃々諤々の議論のはずです。だから、外部の株主は単純に自分の簿価はどう・PERがどう・プレミアムは何%だという外形的な基準で判断を迫られることが多いでしょう。
    詰まるところ、どうやら外形的な基準を満たしており(自分も変に損切りを迫られることはない)、キーとなる株主の意向や取得簿価(これは大量保有や色んなデータベースで予測するんですが)を勘案して決められれば、どうやらTOBは成立しそうだし、TOB届出書に「全部取得でスクイーズアウトします」と記載されるわけですから、現実的にはあまりフリーライドの問題(=TOB成立を阻害する効果)は発生しないような気がします。
    もしかしたらいい例かもしれませんが、敵対的な案件のときは、かなり大部分がキャッシュ対価になりますよね。(超大型案件とかを除く。)「敵対的でもやりたい→相当な価値を生む自信の表れ→株主はそれを読み取りフリーライド問題深刻化」のはずなのに、敵対的案件ではやはり多くはキャッシュです。株主にとっては、「将来へのベットより今のキャッシュ」と、買い手もアドバイザーも株主も考えていることの表れのような気がします。
    すみません、感覚論ですが。

  7. いつも素朴な疑問として思うところなのですが、
    取締役会が、
    「このTOBは企業価値を向上するものです!なのでTOBに賛同します!」
    という意見を出した場合、この意見を信じた株主の合理的行動としては、
    「そうか、じゃあ株を保有し続けたら向上する企業価値の分け前をもらえるわけだから、TOBに参加するのをやめよう」
    というものになるかと思います。
    そうすると、取締役会がTOBに賛同すればするほど、TOBが成立しにくくなるというのが論理的な結論なのではないかと思ってしまいます。
    今回のカブドットコムのケースでも、同じことがいえるのではないでしょうか。
    だからいいとか悪いとかではないのですが、なんとなく、「企業価値を向上させるTOBであれば、TOBに応募しよう」という風潮がある気がしまして。。。

  8. シナジーによるプレミアムを全部分配しなければならないとすると、シナジーを生み出す買収をするインセンティブがなくなることは、その通りです。しかし、それは、買収者が自らコストをかけて得た情報の開示を強制されないことによって達成すべきであり(達成できるのであり)、強圧性の生じうる買収方法によって達成すべきではありません。シナジーの生じない買収でも強圧性は生じうるのですから。
    加えて、MBOの場合は、そもそも会社の情報を握っている者が買収するのであり、情報探索のインセンティブを与える必要はありませんし、株主と経営者が直接的な取引関係に立つため、情報の秘匿を認めるのは好ましくありません(これを私は完全開示の原則と呼んでいます)。つまり、MBOの場合は、シナジーによるプレミアムをすべて分配しなければならないと考えるべきです。そういうMBOをどの範囲のものと考えるかは、一つの問題ですが。
    「3年目弁護士」さんの指摘は、公開買付けのパラドックスと呼ばれているものです。ですから、欧米では、取締役は「企業価値を向上させるから賛成」というのではなく、「企業価値に見合った、株主にとって有利な価格だから賛成」というのです。

  9. なんか、どんどんいろいろよくわからなくなってきました。
    公開買付のパラドクス(「受け売り」さん、どうもありがとうございます)の点では、ではなぜTOBの際に企業価値向上云々が議論されるのか、
    「強圧性」などとはいうものの、株主はTOBに応募するかしないかを決める権利があるわけですし、スクイーズアウトされるとしても適正な対価は担保されるわけですし、だったらいったい「強圧性」とはなんだと。
    TOB価格が公正かどうかなどとはいうものの、そもそも株価がいくらかは株主又は市場が判断すべきことであり、値付けされる方の立場である取締役会がそれを判断する立場にあるのかどうか、、とか。
    なんとなく、上記のような点について十分に議論がなされないまま、
    ・強圧的な買収はダメ
    ・企業価値を向上させない買収はダメ
    という事実が所与のものとなってしまっているようですね。

  10. 「3年目弁護士」さん、仰るとおりだと思います。ただ、スクイーズアウトされるとしても適正な対価は担保されるとは言えないかもしれないですね。通常、TOB価格と同じ価格が使用されるため、自分が賛同しなかった価格で無理矢理出て行かされることは確かだと思います。(もちろん、その少数株主の権利を担保するための色んな手続は一応あるりますが。)「受け売り」さんの欧米での取締役の賛同理由について、勉強になりました。ありがとうございました。