新聞社の事業構造改革と「日刊新聞法」(1)

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某ブロガーの方がmixiで「友人まで公開」で書いている日記が非常におもしろいので、いつも拝読させていただいているんですが、本日の記事に新聞社の再編の話が載って興味深く拝見しました。


 
曰く、
「NなりAなりといった新聞社が今、相次いで事業構造改革に取り組み始めているが、本来、デジタル時代の今後のメディアは、『取材リソースに張り付く部隊』、複数のメディアを統合する『編集部隊』、メディアごと技術に専門性のある『メディア技術部門』の3つに整理されるべきなのに、どうしてメディア(媒体)別のカンパニー編成を取ろうとするのか?」、
という疑問を呈されていて、その理由は、 通称「日刊新聞法」と呼ばれる商法(会社法)の特例法である、

日刊新聞紙の発行を目的とする株式会社の株式の譲渡の制限等に関する法律
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S26/S26HO212.html

にあるのではないか?という仮説。(要約は筆者の文責による。)
つまり、日刊新聞法が、その第一条で、

(株式の譲渡制限等)
第一条  一定の題号を用い時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙の発行を目的とする株式会社にあつては、定款をもつて、株式の譲受人を、その株式会社の事業に関係のある者に限ることができる。この場合には、株主が株式会社の事業に関係のない者であることとなつたときは、その株式を株式会社の事業に関係のある者に譲渡しなければならない旨をあわせて定めることができる。

と定めているので、日刊新聞を発行しない純粋持株会社などがグループの親会社になったら、この「絶対にM&Aされない権利」が失われてしまうからではないか?という仮説です。
うーむ。
私がまず思ったのは、

  • 新聞社が、日刊新聞を発行する部門をグループの親会社にすえるのは「新聞がエラい」という観念が染み付いているからで、法律論とは関係ないのではないか?

  • そもそも、日刊新聞法は、今でも会社法の特例法としての意味を持つのか?
  • 会社法施行後は、別のスキームで同様の効果を生じさせることが可能なのではないか?(上場もしてないし。)
  • 各大手新聞社は、そもそもこの法律の規定を利用しているのか?

等でありました。
「新聞がエラい」という観念が染み付いているから?
これについては、私は新聞社グループの内情をよく知らないので判断できる立場に無いのですが。
ただ、ニッポン放送事件の際、某テレビ局の方から、
「ニッポン放送は、なんでそんなにフジテレビの子会社になるのがイヤがってきたんですかねえ?」
といった質問をされたので、私は逆に、
「では仮に、御社の大株主であるY新聞さんが御社の子会社になるかどうかということになったらどうですか?」
と、逆にお尋ねしてみたら、
「・・・うーん。確かに・・・それは、死んでもありえないかも知れない・・・。」
というお答えが返ってきたことがありました。
(ご参考まで。)
日刊新聞法は、今でも会社法の特例法としての意味を持つのか?
そもそも、会社法施行後の今、譲渡制限の条件として定款に、「株式の譲受人を、その株式会社の事業に関係のある者に限る」等と記載した場合には、前述の法律がなければ無効になるんでしょうか?
このへんを法学的にきれいに説明する能力は私にはございませんが、葉玉さんの「会社法であそぼ」の株式譲渡自由の原則シリーズ:

【入門】株式譲渡自由の原則(1)
http://kaishahou.cocolog-nifty.com/blog/2007/06/post_b3d2.html
【入門】株式譲渡自由の原則(2)
http://kaishahou.cocolog-nifty.com/blog/2007/06/post_c37f.html
【入門】株式譲渡自由の原則(3)
http://kaishahou.cocolog-nifty.com/blog/2007/06/post_bfe0.html
【入門】株式譲渡自由の原則(4)
http://kaishahou.cocolog-nifty.com/blog/2007/07/post_6773.html

などを拝見すると、株式会社の株主は間接有限責任なので、譲渡自由の原則は非常に重要だ、ということが強調されています。
ただ、この日刊新聞法は、譲渡を「禁止」しているわけではなくて、「ごく一般的な譲渡制限に毛が生えた程度」のものにも見えます。
また、会社法174条以下で、相続や合併などの一般承継で株主になった者に、株式を売り渡す請求をすることができる規定が加えられたこととの関係をどう読むか。つまり、そうした規定を定めることは相続や合併などの一般承継の場合のみ許される、と読むのか、「株式会社の事業に関係のない者であることとなつたとき」の規定も、定款に定めることによって有効となる、と考えられるのか、ですが。

(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)
第百七十四条 株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。

旧有限会社法19条で、社員が社員以外に持分を譲渡する場合には社員総会の決議が必要とされており、有限会社が会社法(株式会社)に吸収されたので、「同じようなことをやりたいなら定款自治で対応してね」という趣旨だとすると、同じようなことが株式会社でできるようになっていてもいいような気がします。
別のスキームでも可能なのではないか?
たとえば、

  • 株主総会の決議により、当該新聞社の普通株式を「全部取得条項付種類株式」に変更する。

  • すべての「全部取得条項付種類株式」を取得し、対価として、(株主に1株に対して1株)取得条項付株式を交付する。

取得条項は、例えば、「当会社の事業に関係のない者が本株式を取得した場合、会社は以下に定める価額の現金を対価として、本株式を取得することができる。」
・・・といった感じで。
(ちなみに、この方法なら、譲渡制限を付けなくても導入可能かと思います。)
私のドタ勘によれば、この日刊新聞法は、理論的には会社法ですべて吸収できる話であったので会社法制定の際に廃止すればよかったのだが、「それで新聞社を刺激して会社法施行に悪影響が出てもナニだなあ」(つまり、「ギャーギャーうるさそう」)という政治的な理由から、そのままにされているだけで、今やあまり意味の無い法律だ・・・・ということじゃないかという気がしますがどうでしょうか?
各大手新聞社は、そもそも日刊新聞法を利用しているのか?
朝日新聞社さんも日本経済新聞社さんも、非上場ですが有価証券報告書を提出されているのでEDINETで閲覧できるのですが、譲渡制限に関する記載は、さらっと見たところ見当たりません。
そもそも、(譲渡制限がついていない上場企業が提出することが大半の)有価証券報告書において、譲渡制限の有無について開示することになっているのかどうか存じません。
(「企業内容等の開示に関する内閣府令」をさらっと見てみたんですが、適格機関投資家以外への譲渡とか、転売制限とか、特別利害関係者等の株式等の移動など、証券取引法的な制限については記載がありますが、「ベタな会社法上の譲渡制限」を開示しろ、という条項が(今のところ)見当たりません・・・。)
これは、直接、登記簿を見たほうが早そうですので、(本日はもう「登記情報提供サービス」の利用時間が終わってしまったので)、明日にでも登記簿を見てみることにしましょう。
(続く。)

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新聞社の事業構造改革と「日刊新聞法」(1)” への4件のコメント

  1. たびたびお邪魔します。いつも勉強になります。
    >会社法施行後の今、譲渡制限の条件として定款に、「株式の譲受人を、その株式会社の事業に関係のある者に限る」等と記載した場合には、前述の法律がなければ無効になるんでしょうか?
    株式会社法では、投下資本回収の機会の保障には敏感です(といっても究極の救済方法が会社に対する株式買取請求なので迅速な救済をしてもらえそうもありませんが)。
    法の認める譲渡制限の態様を超えた制限は、定款で定めても無効です。旧商法の論点であったと思います。会社法下でも変わらないと思われます。
    >相続や合併などの一般承継の場合のみ許される、と読むのか、「株式会社の事業に関係のない者であることとなつたとき」の規定も、定款に定めることによって有効となる、と考えられるのか、ですが。
    一方的な売渡請求も法で認められた範囲が限界で、一般承継のケース以外は定款で定めても無効と思われます。株主としての地位を一方的に奪うわけですから。
    ですから、形式的には日刊新聞法の特則的な意義は失われてないように思います。
    でも、磯崎さんが仰るように「全部取得条項付種類株式」が創設された今、実質的には日刊新聞法の意義は失われている可能性があります。
    ただ、『対価として、(株主に1株に対して1株)取得条項付株式を交付する。』際に、111条1項による株主全員の同意が必要にならないのか?という疑問があります
    株主全員の同意が必要なら、日刊新聞法に基づく定款変更の方がハードルは低いので、なお同法の意義はあることになりますね。
    日経新聞は、以前内紛か何かあったときに、日刊新聞法の譲渡制限が問題になったような気がします。

  2. 譲渡制限は定款記載事項で,有報の添付文書で定款が見れますよ。
    で,見てみましたらその両社とも「株式の譲受人を、その株式会社の事業に関係のある者に限る」との記載がありますので日刊新聞法の適用のもとで譲渡制限してるみたいですね。
    ちなみに公告方法はそれぞれ自社の新聞紙にしてるところはご愛嬌といったところでしょうか。

  3. [ニュース][日記・コラム・つぶやき]“週刊ダイヤモンド”「新聞没落」を読む

    時間が取れたらブログ担当者さんの課題図書(?)“週刊ビジネス誌”「新聞没落」を入手できたので記事について何か書ければいいなと思い…