「年金をもらう権利」雑感(民間との対比で無理やり考えてみる)

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(以下、アナロジーを用いたヨタ話が書いてありますので、「オレは厳密な議論しか認めん」という方には読むのをオススメしません。「たとえ話」というのは、所詮限界がありますので。)


たとえば、下記のような種類株式があると考えてみてください。

1.配当金
(1) 当会社は、B種種類株式を有する株主(以下「B種種類株主」という。)に対し、それぞれの事業年度ごとに、1株につき金○○万円を支払う。
ただし、当社が別途定める規程(以下「配当金支払規程」という。)に基づき、累計で25年以上B種種類株主であったと当会社が認めた場合のみ、配当金支払規程で定める日から支払いを開始するものとする。
(2) 当会社は、取締役会の決議により、配当金支払規程及び前項の配当金の額を変更することができる。

2.残余財産の分配
B種種類株主は、残余財産の分配権を有しない。

3.議決権
B種種類株主は、株主総会において議決権を有しない。

4.取得条項
当会社は、取締役会において取得するB種種類株式を決定し、B種種類株式を無償で取得することができる。

法律的な権利
もし、こういう種類株式があったとして、これは「権利」か?と聞かれたら、「うーん」ですね。純粋な法律論に言えば、たぶん権利。(ただし、株主側の権利だけでなく、会社側からの権利(コール等)も付いてますが。)
だけど、例えば消費者問題をやっている弁護士さんのところに「こんな権利をくれると言っている会社があるんですが・・・。」と相談しにいったら、おそらく、
「こんなのは権利とは呼べないですよ。だって、先方の都合で、勝手に金額も変えられるし、支給開始の日も先方の取締役会決議でずらせるんですから。25年というのも、あまりに先の話で、その時にその会社や取締役会がどうなっているかもわからないですよ。」
と言うのではないかと。
で、「ジャーン。この『当会社』というのは、実は国なんです。」と告げたら、「うーん(それならちょっと信用できるような気もするし・・・・信用できない気もするし・・・)」と困ってしまうかと。
以上、株主というのが「国民」で、普通株主としては「議決権」をもっており、そこで選ばれた取締役(国会議員)で取締役会(国会)が構成されているところが、普通株主にB種種類株式を割当てたら・・・という例え話でありました。
経済的な権利
また、経済的な「権利」として、この株式の価値を算定してくれ、と言われても、算定を依頼された会計事務所なども、困ってしまうはずであります。
「価値はマイナスとかゼロではないと思うので、タダでもらえるんなら損ではないとは思うんですが・・・」「(えっ、タダでもらえるんじゃない?)」としか言いようがないかと。
通常の民間の契約や証券などであれば、「どういうときに、どうなる」という話は、通常、非常に細かく取り決められているし、リスクファクターについても説明されています。例えば、いろいろコベナンツがついていて、「これこれの条件をヒットした場合にはデフォルト」と定められていれば、そうした条件を組み込んだモンテカルロ・シミュレーションとか多項モデルなどで、その証券のバリューはある程度割り出すことができるはず。ただ、上記のように、どういうときに減額されるかなどの条件がまったく明確でない場合には、どうにも算定しようがない。
年金は詐欺なのか?
ネットのブログやブックマークなどで、「年金って、国による詐欺じゃねーの?」的な書き込みを結構たくさん見かけましたが、逆なんでしょうね。「民間がやったら詐欺にしか見えない話」だからこそ、国がやる意味がある。(のかも)
だけど、「国がやってますから安心です」だけで信用が築けると思われても困る。民間であれば、開示とか監査とか内部統制とか格付けとか、信用を構築するためのしくみを、必死になって作り上げているわけで、それよりも基本的にアヤシイ話なら、民間以上に厳しくしくみを作り上げないと、まずいでしょう。
確かに、「当会社」の側も、当然、なんでもかんでも株主の権利を損ねていいわけではないのはあたりまえでして、そんなに急に「権利」の内容が激変するとは限らない。
買収防衛策の議論で、特定の株主(企業価値を損ねると考えられる買収者など)が行使できない新株予約権を全株主に割当てて、その「特定の株主」だけが「権利」を失うことになる場合には、独立委員会等できちんと検討されるなど、それなりの手順と理屈が必要なはずなのと同じく、国の場合も、憲法に反することができないのは当然。
ただ、その手順や理屈が妥当かどうかということを判断するための常識や周囲の環境も、数十年の歳月の間には、大きく変わっていくのは間違いないかと思います。(少子化、高齢化、国の債務の増大、増税できるかどうか、等で。)
買収防衛策だって、つい数年前までは、特定の株主だけの権利を損ねるようなことは株主平等原則に反するという考え方が主流だったかと思いますし、昨日の会見でもスティール・パートナーズさんは、そう主張されてますが、大きな流れはそういった買収防衛策を容認する方向で考えられてきているのではないかと思います。
年金のガバナンス
また、年金というのは、ある意味、ライブドアのMSCBとかファンドを経由した自己株取得の問題や日興コーディアルのEB債の問題と似ていて、話が非常に財務的に高度でわかりにくい。そこで、「ガバナンス」がどうなっているかが重要になってくるし、株主(国民)から選ばれた取締役会(国会)でしっかりチェックをしないといけないけど、年金数理とか法律とかややこしい話が出てくると、普通の日本人は頭のヒューズが飛んでしまうわけで、財務に詳しい人(厚生労働省の専門家とか宮内CFOとか日興の子会社社長とか)とチェックする人との間で、非常に情報の非対称性が大きくなっちゃう。
日本国の場合、取締役会メンバーまでが関わっていたライブドアのケースというより、取締役会は一通りのチェックをやっていたが子会社の話が見抜けなかった日興コーディアルのケースのほうに近いんでしょうけど・・・(社外取締役(野党議員)もいるし・・・)。
先日も述べましたとおり、政府の仕組みにおいても(政府の仕組みこそ)、こういった財務的にややこしい話の「内部統制」をどう構築するか、という話をもっと考えるべきだという気がします。
(ではまた。)

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「年金をもらう権利」雑感(民間との対比で無理やり考えてみる)” への8件のコメント

  1. これが問題なのは払い戻し金の半分に勝手に税金を使うことです。どっちにしても株主の負担は重くなるばかり。
    ぼったくり商品を40年の間買わせて、その利益の一部を
    少しだけ返してくれるといった感じでしょうか。

  2. 世間では権利云々を指して詐欺と言っているわけではなく、
    ずさんな年金管理を指して詐欺と言っていると思うのですが。

  3. ども、お初です。面白いエントリ興味深く読みました。
    今回の騒動については、年金がもらえないことそのものより、「お上の記録が信頼できなくなったこと」が本質なのではないかと思います。シモジモの者からは、お上が年金を払いたくないので意図的に記録を破棄したようにしか見えません。
    その挙げ句、年金を払い込んだ記録として年金手帳を出しても門前払いで領収書を提示せよといっていたんですよね、では全ての領収書を死ぬまで保管しておけというのでしょうか。
    次は戸籍謄本が定期的に破棄されて、年金受給年齢以上になったことが国民の側からは一切証明できなくなったりして ;-p
    (真面目な話、国民総背番号制を導入すべきだったのだと思います。反対意見が多くて潰されましたけど。)

  4. 平成16年の「100年安心の年金改革」の中身とは?

    私達そこそこ若い世代の公的年金は 一体 どの程度の給付額なのか?
    今のままでは、だいたい 今の円の価値では、厚生年金を含めても、8万か13万程度の給付額…

  5. HHさん、コメントありがとうございます。
    民法134条関係の判例を見ると、「単に債務者の意思のみに係るとき」の範囲は非常に限定的に解釈されているようで。これが広く認められるすぎると、債務者側からのコールなどの権利はすべてダメということになっちゃうので、かなりの契約とか、デリバティブ、ストックオプション、買収防衛策などが無効ということになっちゃいますが、そういうことにはならないんでしょうね。
    (年金は「契約」じゃないんでしょうけど、仮に契約だとしても、)国も全員の権利を一気に消滅させるようなことは当然できない。(民法というより、憲法の財産権の侵害や、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利の侵害、ということにもなると思います。)
    一方で、5年間隔で「まあしょうがないか」という変更を5回くらい繰り返して25年くらい経つと、当初想定していた「権利」とはまったく違う内容に変わっている可能性もあるんではないかという気がします。