「仲間で始めるベンチャー」と取得条項付株式

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昨日、相談を受けてひらめいた、思いつきベースのアイデア。
(夜書いていて頭がハイ気味なのかも知れませんが、わりとイケてる気がします。)
頭の整理のために、メモっておきます。


 
やめるリスクのあるメンバーが大株主だとややこしい
ベンチャー企業を始めるときには、明らかに卓越したリーダーがいて他のメンバーは”そこそこ”(株は主に社長が持つ)ということも多いですが、一方で、数人の仲間が集まって営業・財務・技術などを分担して経営していこう(それぞれのメンバーがかなりの比率の株式を持つ)ということもよくあります。
しかしまた、後者のケースの場合、しばらくしてから経営方針の違い等でメンバーが抜けるということもよくある。
抜けたメンバーが仮に20%の株式を持っていて、それをそのまま保有し続けるとすると、「他の経営陣ががんばったから上場までこぎつけたのに、初期に抜けたやつが大量のキャピタルゲインの恩恵にあずかるというのは『やめ得』じゃないか」ということで、残されたメンバーとしても納得しがたいところ。
一方、企業価値も上昇していると、残されたメンバーで辞めたやつの株を買い取ろうにも資金が足りないことも往々にしてあり、また、ベンチャーだと剰余金の額も少ない(創業期には赤字のことも多い)ので自己株式として取得するというのも難しいことが多い。(減資とか準備金取り崩しも、外づらが悪い。)
そんなこんなで、「仲間で株を持つ」という形ではじめたものの、仲間割れその他の事情で資本政策的に苦境に陥っているベンチャー企業というのは、わりとよく見かけられます。
では、ストックオプションを付与してべスティングをつけ、働いた期間に応じて普通株に変えていけばいいじゃないか、ということも考えられますが、たとえば、社長以外の人たちに仮に(fully-dilutedベースの)50%のインタレストを持たせようという場合、発行済株式数の100%もの潜在株式を発行しないといけないわけですが、こんなに潜在株比率が高いと(行使が進まない限り)上場はほぼ絶望的になります。
(また、安易にストックオプションを発行し、潜在株比率が高すぎて、公開直前で行使資金が足りなくて苦境に陥っているベンチャーというのも、これまた非常によく見かけます。)
基本的アイデア
ということで、種類株式(取得条項付株式)を使って普通株式とストックオプションの中間的な性質の株式を設計し、こういった問題が将来発生することを避けられないか?というアイデアなんですが;


  • 「当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること(会社法第108条1項6号)」を定める。
  • 一定の事由(108条2項6号イ→107条2項3号イ)を、「(別途当該種類株主と締結する契約に基づき)取締役会により取得が決議されること。」とする。
  • 上記の事由が生じた日に株式の「一部」を取得することとする。株式の一部の決定方法は、取締役会の決議による(基本的には退職した人のべスティングされてない部分)。(107条2項3号ハ)
  • 別途締結する契約で、詳細を定める。
  • べスティングされた部分については、当該種類株式を1株を取得するのと引き換えに普通株式1株(当初)を交付する。(108条2項6号ロ)また、株式公開やバイアウトの直前にも普通株式1株に引き換えられる。
  • べスティングがはじまってない部分については、取得は無償(または非常に安い対価)で行う。

など。
ポイントは、基本的には普通株式と似た性質だけど、取得条項がついている。ただし、(法的リスクの検討にもコストがかかるので)定款や登記簿には必要最低限のことだけが書いてあって、詳細は契約書(通常のストックオプションの付与契約書と同様)で定める、というものです。
こうしておけば、もし創業メンバーが辞めた場合、会社が株式を引き取ることができるので、前述のような、「やめ得」や「買い取り資金不足」で悩むことはない(または悩みが小さくなる)かと思います。
以下、思いついた論点。
当初の株価
ちゃんと勤めていればいずれは普通株式になるものなので、当然、タダに近い金額ということではないが、一方で、辞めたら返さないといけない株式なので、普通株式よりは安い金額に設定されるべきかと思います。
取得の場合の会社側の会計処理
退職等の事由が発生して会社が種類株式を無償で取得した場合の処理は、

自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準(企業会計基準第一号)
「取得した株式は、取得原価をもって純資産の部の株主資本から控除する。」
33「例えば以下の方法によっても取得される(会社法第百五十五条参照)が、取得の方法によって会計処理を区別する理由はないと考え、すべての自己株式の取得に同様の会計処理を適用することが適切であると考えた。
(1) 取得条項付株式において条件の達成により取得する場合(以下略)」

によれば、純資産の部への影響ゼロでいいのではないかと思います。
対価として普通株式を渡す場合も、

自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第二号)
「自社の他の種類の株式を交付して自己株式を取得する場合の当該自己株式の取得原価は、以下のとおり算定する。
(1) 他の種類の新株を発行する場合
自己株式の取得原価は、ゼロとする。(以下略)

ということで、影響ゼロかと思います。
無償取得の場合の会社側の税務
一方、税務上の扱いはややこしい。
例えば、自己株式取得によってみなし配当が出てしまうと、面倒であります。

法人税法第二十四条(配当等の額とみなす金額)
 自己の株式又は出資の取得(証券取引所の開設する市場における購入による取得その他の政令で定める取得及び第六十一条の二第十一項第一号から第三号まで(有価証券の譲渡益又は譲渡損の益金又は損金算入)に掲げる株式又は出資の同項に規定する場合に該当する場合における取得を除く。)
法人税法施行令8�二十
法第二十四条第一項第四号から第六号までに掲げる事由(以下この号において「自己株式の取得等」という。)が生じた場合の取得資本金額(次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める金額(当該金額が当該自己株式の取得等により交付した金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額を超える場合には、その超える部分の金額を減算した金額)をいう。)
イ 当該自己株式の取得等をした法人が一の種類の株式を発行していた法人(略)
ロ 当該自己株式の取得等をした法人が二以上の種類の株式を発行していた法人である場合 当該法人の当該自己株式の取得等の直前の当該自己株式の取得等に係る株式と同一の種類の株式に係る種類資本金額を当該直前の当該種類の株式(当該法人が当該直前に有していた自己の株式を除く。)の総数で除し、これに当該自己株式の取得等に係る当該種類の株式の数を乗じて計算した金額
第六十一条の二(有価証券の譲渡益又は譲渡損の益金又は損金算入)
11  内国法人が次の各号に掲げる有価証券を当該各号に定める事由により譲渡をし、かつ、当該事由により当該各号に規定する取得をする法人の株式又は新株予約権の交付を受けた場合(当該交付を受けた株式又は新株予約権の価額が当該譲渡をした有価証券の価額とおおむね同額となつていないと認められる場合を除く。)における第一項の規定の適用については、同項第一号に掲げる金額は、当該各号に掲げる有価証券の当該譲渡の直前の帳簿価額に相当する金額とする。
 取得請求権付株式(略)
 取得条項付株式(法人がその発行する全部又は一部の株式の内容として当該法人が一定の事由(以下この号において「取得事由」という。)が発生したことを条件として当該株式の取得をすることができる旨の定めを設けている場合の当該株式をいう。) 当該取得条項付株式に係る取得事由の発生によりその取得の対価として当該取得をされる株主等に当該取得をする法人の株式のみが交付される場合(その取得の対象となつた種類の株式のすべてが取得をされる場合には、その取得の対価として当該取得をされる株主等に当該取得をする法人の株式及び新株予約権のみが交付される場合を含む。)の当該取得事由の発生
 全部取得条項付種類株式(ある種類の株式について、これを発行した法人が株主総会その他これに類するものの決議(以下この号において「取得決議」という。)によつてその全部の取得をする旨の定めがある場合の当該種類の株式をいう。) 当該全部取得条項付種類株式に係る取得決議によりその取得の対価として当該取得をされる株主等に当該取得をする法人の株式のみが交付される場合又は当該取得をする法人の株式及び新株予約権のみが交付される場合の当該取得決議
所得税法第五十七条の四(株式交換等に係る譲渡所得等の特例)
 居住者が、各年において、その有する次の各号に掲げる有価証券を当該各号に定める事由により譲渡をし、かつ、当該事由により当該各号に規定する取得をする法人の株式(出資を含む。以下この項において同じ。)又は新株予約権の交付を受けた場合(当該交付を受けた株式又は新株予約権の価額が当該譲渡をした有価証券の価額とおおむね同額となつていないと認められる場合を除く。)には、第二十七条、第三十三条又は第三十五条の規定の適用については、当該有価証券の譲渡がなかつたものとみなす。
一  取得請求権付株式(略)
 取得条項付株式(法人がその発行する全部又は一部の株式の内容として当該法人が一定の事由(以下この号において「取得事由」という。)が発生したことを条件として当該株式の取得をすることができる旨の定めを設けている場合の当該株式をいう。) 当該取得条項付株式に係る取得事由の発生によりその取得の対価として当該取得をされる株主等に当該取得をする法人の株式のみが交付される場合(その取得の対象となつた種類の株式のすべてが取得をされる場合には、その取得の対価として当該取得をされる株主等に当該取得をする法人の株式及び新株予約権のみが交付される場合を含む。)の当該取得事由の発生
三  全部取得条項付種類株式(略)
四  新株予約権付社債についての社債(略)
五  取得条項付新株予約権(略)
六  取得条項付新株予約権(略)が付された新株予約権付社債(略)

この点を考えると、完全に無償で取得するのではなく、(MBOなどのときの全部取得条項付株式のケースと同様)対価として「おおむね同額」と考えられる量(例えば普通株式0.1株)」などを渡す方がいいのかも知れません。
退職時に退職金代わりで普通株に転換されていない部分の10分の1程度の株を渡すというのは残りのメンバーも納得できる水準ではないかとは思いますが(種類株10%持っていたとして普通株1%程度になってしまう。)
ただ、ベストされて1株に対して1株もらう場合と、退職して1株に対して0.1株もらう場合で、「おおむね同額」という量が大きく変わるところが難しい(工夫する必要がある)ですね。
しかしそもそも、退職したら1株に対して0.1株しか普通株をもらえない性質(オプション性)を持つ株式なんだから、退職した時点での価値は10分の1になっていて、それは「おおむね同額」なんだ、というロジックは、要項や契約書の工夫次第では可能性があるんじゃないかという気もします。

将来の株価
20%持っているメンバーが退職することになったが、これを全部無償で取得してしまうと、VCなど外部株主の持株比率が高くなりすぎてしまうという場合、やはり、他のメンバーが引き取る必要が出てくる場合もあるかと思います。
その場合も、タダに近い金額とはいかないが、普通株式よりは安い金額で譲渡していいはず。この場合、要項や契約書で定める条件によっては株式の価値も小さく考えられるかと思いますので、退職メンバーにあまり過大な資金がいかず、残るメンバーの負担も少ないようにできる可能性があるのではないか、という気もします。
(これも税務等、要検討。)
−−−
儲かっているか、損しているか、公開直前か、公開が絶望的か、等によっても話が変わってくるので、会社法的な設計はフレキシブルにいろんな手段が取りうるようにしておいて、その時にもっとも適当な方法で処理ができるようにしておくことが望ましいかも知れません。
少なくとも、いっしょに仕事したことない連中が単なる普通株式で大量の株式を持ち合うよりは、適切な取得条項をつけておいたほうが、つけないよりは(複雑になるという点を除けば)今回のケースのような問題を防げる可能性がある気がします。
(ではまた。)

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「仲間で始めるベンチャー」と取得条項付株式” への5件のコメント

  1. こんにちは。いつも楽しく拝見させていただいています。
    磯崎さんがご指摘されるケースは、本当によく見かけますね。したがって、VCが抜けたメンバーの旧株取得をしたり、生株を時価で旧株取得をして(行使価格の安い)新株予約権行使資金を提供したり、資金をねじ込みたい先には資本政策の穴をついたファイナンスを結構やっている気がします。
    掲題の件ですが、追加取得的な手法だと「設立時の資金繰」の問題があるのではないか、とふと思いました。まあ、役員が株式ではなく貸付て置けばいいんでしょうが…
    個人的に考えたのは、設立時に役員持株会を設立し、持株会規約に「未公開時の退会(退社)は取得価額(これは純資産価額等でも可)で買い取る」等の条項を設定しておけばいいのではないでしょうか。従業員持株会の運用は上記のようなものが一般的かという気がします。ただ、税務上の問題は悩ましいところではありますが…

  2. 参考にさせていただいております。
    これってたとえば役員が2対2に割れたような場合、片っ方の派閥にこのような実務に詳しい人間がいた場合、もう一方の派閥を追い出すために悪用されることはないですかね?
    上場後のトラブルはこのような事例で回避されるかもしれませんが、悪意を持った追い出しに利用されるのは何かおかしいような気がします。

  3. コメントありがとうございます。
    取得の条件を、
    ・取締役が退任した場合、解任された場合
    など、実際に、どう詳細に定めておくか、ということで、問題は回避されるかも知れません。
    (ではまた。)

  4. isozakiさま
    回答ありがとうございます。
    まさに今この状況に直面しております。
    取得の制限の条項を設けることにより濫用を防げるのですね。
    結果が出ましたら、またご報告させていただきます。

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