「財務及び会計に関する相当程度の知見」とは

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さて、三月期決算の上場会社の総会担当のみなさまは、初の会社法対応の定時株主総会の準備に追われているのではないかと思いますが、個人的に大変興味があることのひとつとして、会社法施行規則第121条(株式会社の会社役員に関する事項)第8項で事業報告に記載すべきこととされている「監査役又は監査委員が財務及び会計に関する相当程度の知見を有しているものであるときは、その事実」というのを、私について書いていただけるのか?、書いていただけるとしたらどういう風に書いていただけるのか?(笑)、ということがあります。


 

(株式会社の会社役員に関する事項)
第百二十一条  第百十九条第二号に規定する「株式会社の会社役員に関する事項」とは、次に掲げる事項とする。(中略)
八  監査役又は監査委員が財務及び会計に関する相当程度の知見を有しているものであるときは、その事実
(以下略)
(公開会社の特則)
第百十九条  株式会社が当該事業年度の末日において公開会社である場合には、前条各号に掲げる事項のほか、次に掲げる事項を事業報告の内容としなければならない。
一  株式会社の現況に関する事項
二  株式会社の会社役員(直前の定時株主総会の終結の日の翌日以降に在任していたものであって、当該事業年度の末日までに退任したものを含む。以下この款において同じ。)に関する事項(以下略)

会社法上の公開会社(株式の譲渡制限がついてない会社)は典型的には上場会社であり、上場会社のほとんどは会計監査人設置会社でしょうから、その監査役や監査委員は会計監査については基本的には会計監査人におまかせしているはずで、なぜことさらに財務および会計に関する知見だけをクローズアップするのか、(米SOX法などを配慮してということが大きいんでしょうけど)立法趣旨がよくわからないところ。
本来、日本の会社法上の公開会社(≒会計監査人設置会社)の監査役や監査委員は、適法性の監査が中心になるわけですから、「法令に関する相当程度の知見を有しているものであるときは、その事実(を書け)」といったことこそ条文に書いてあってしかるべきだと思うんですが。
経団連さんのひな型;

会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2007/010.pdf

では、

4-5.財務及び会計に関する相当程度の知見
[記載方法の説明]
監査役又は監査委員が財務及び会計に関する相当程度の知見を有している場合には、その内容を記載する。
「相当程度の知見を有している場合」の範囲は、公認会計士資格や税理士資格など一定の法的な資格を有する場合に限定されず、「会社の経理部門において○年間勤務した経験を有する」といった内容でも構わない。

とあるので、「公認会計士」「税理士」である監査役等については、(よほど「こいつ、なんも知らねーな」と思われてない限り)、書いていただけることはほぼ「当確」ではないかと思います。
また、「経理部経験者」も例示としてあげられてますので、(経理部出身の常勤監査役さん等も多いでしょうから)ほとんどすべての上場会社では「財務及び会計に関する相当程度の知見のある監査役(監査委員)がいる」と記載されるのではないかと思います。
問題は、公認会計士、税理士、経理部経験者以外の、経団連ひな型に出てこない監査役(監査委員)について、どこまでを「財務及び会計に関する相当程度の知見を有する」とするのか。
たとえば、銀行出身の方などは、(会計はさておき)財務については「相当程度の知見」をお持ちの方も多いと思います。ただ、「財務についてはかなり詳しいと自負しているが(減損やらストックオプションやら会社法での変更やらで急速にややこしくなっている最近の)会計はちょっと・・・」という場合に、「財務及び会計に関する」に該当するのか?(すなわち、「及び」というのは、論理学で言うところの「OR」なのか「AND」なのか。つまり、どちらかを知っていればいいのか、両方「相当程度」知らないとまずいのか。)
また、(もちろん「弁護士」すなわち「財務及び会計に関する相当程度の知見を有する」とは必ずしも言えないと思いますが)、内部統制とかM&Aとかファイナンス等に関わる仕事をされてらっしゃる弁護士さんは、「財務及び会計に関する相当程度の知見」を有する方も多いのではないかと思います。
前掲の経団連ひな型に明示的な例として出てくる場合はともかく、上記のような判断に迷うケースの場合、(特に、監査役や監査委員をやられている方は、謙虚な方も多いでしょうから)、必ずしも、「オレは財務及び会計に関する相当程度の知見があるぞ」と御自分では強く主張されなさそうなところも悩ましいところですね。
ただ、前掲の条文を見ると、会社法施行規則第119条では「次に掲げる事項を事業報告の内容としなければならない。」となっているので、監査役や監査委員に「財務及び会計に関する相当程度の知見」があるにも関わらず、(遠慮して)それを事業報告書に書かないと、(固いことをいえば)法令違反ということになるんでしょうね。
ただ、他の法令違反の可能性については厳しく指摘される真面目な監査役等の方々も、「自分のこと」となると、なかなか「オレも載せないと法令違反だぞ」とは言いづらいんじゃないでしょうか。
この会社法施行規則案についてのパブコメとして、日本弁護士連合会が意見書
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/data/2005_71.pdf
を出されているんですが、やはり、

[意見]
第3項第7号における「監査役又は監査委員が財務及び会計に関する相当程度の知見を有しているものであるときは、その事実」との規定は削除ないし再考すべきである。
[理由]
「財務及び会計に関する相当程度の知見」という規定の意味するところが抽象的であり実務を混乱させるおそれがある。

と、おっしゃってます。
(このパブコメに対する法務省の回答を探したんですが、ちょっと見当たりませんでした。)
ということで、実務は混乱している・・・かも知れません。
(まったく悩んでなかったのに、悩ませてしまったとしたらすみません。<(_ _)>)
その他ご参考URL
●ビジネス法務の部屋(山口利昭弁護士のブログ)
http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/cat5839298/index.html
(ではまた。)

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「財務及び会計に関する相当程度の知見」とは” への1件のコメント

  1. isologue – by 磯崎哲也事務所

    公認会計士をされている磯崎さんが、ネットやビジネス、経済に関わることについてコメントしているブログサイトです。