租税法の勉強会に出席した件

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先週金曜日、中大ロースクールの学生から、
「租税法研究会という勉強会をやってるんですが、磯崎さんもぜひ出てください。」
と誘われて出席。
4月はじめから授業をしてきた感想として、「学生は司法試験に直結しないことには興味を示さないんじゃないか?」という仮説を持っていたので、租税法などというややこしいものをなぜやるのかしらん?、学生に租税なんて理解できるのかしらん?と、ちょっとナメた気持ちで出席してみたのですが、ディープな話をまじめに議論していたので大変ビックリした次第であります。


この租税法研究会、今年から財務省に復帰された藤本哲也氏(現在、理財局総務課調査室長)が立ち上げられたもの。数分遅れて教室に入ったんですが、私の前に座っている方が、税の本質にかかわる やたら鋭いツッコミを入れてらっしゃるので、「このオッサン、何者?」と思っていたら、今年から勉強会の顧問をやってらっしゃる同じく財務省ご出身(元財務省財務総合政策研究所所長)の森信茂樹教授でありました。
(つまり、税法作ってた側の方。知ったかぶりして恥かかなくてよかった〜。)
企業再編のスキームづくり一つとっても税務がわからないと話になりませんから、税務に強い弁護士さんというのは、もっと登場してほしいと日ごろから思っていただけに、未来の法曹をめざす学生のみなさんが多数集まって租税法を勉強しているのを見て、たいへん心強く思った次第です。新司法試験では選択科目で租税法が入ってきたそうですけど、単に試験に受かるだけなら、もっと楽な道はあるはずだと思うんですが、あえて租税法をとろうというところに感動。
また、その勉強は、実際に実務についてから大きな付加価値になるんではないかと思います。
一方で、以前、税務訴訟で有名な某弁護士氏が税理士会で講演をされた際に、「はっきり申し上げて、税務は弁護士にはわからんのですよ。細かいところは税理士に聞かないとわからない。」とおっしゃっていたのが非常に印象に残ってまして。(税理士会での講演なので、謙遜というかヨイショも込めてのご発言だったかとは思いますが)、確かに特に法人税などは会計の理解も不可欠になってきますし、実務では法令や判例だけでなく通達その他の慣行も大きく関連してきます。
私個人としては、今まで、仕訳を切る弁護士さんというのは一人しかお目にかかったことがなかったんで、税や会計にも詳しい法曹と口で言うのは簡単でも、実際にはなかなか大変なんだろうなあとも思っていたんですが、勉強会には、「私、簿記二級受かりました」という学生までいて、さらに感動。
−−−
当日のテーマは増井良啓東京大学教授の「所得税法59条と60条の適用関係」という論文をベースにしたかなりディープなお題。
ご参考まで条文を引いておきますと、以下のとおり。

第五十九条(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)
次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。
一  贈与(法人に対するものに限る。)又は相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)
二  著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。)
2  居住者が前項に規定する資産を個人に対し同項第二号に規定する対価の額により譲渡した場合において、当該対価の額が当該資産の譲渡に係る山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上控除する必要経費又は取得費及び譲渡に要した費用の額の合計額に満たないときは、その不足額は、その山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上、なかつたものとみなす。

第六十条(贈与等により取得した資産の取得費等)
居住者が次に掲げる事由により取得した前条第一項に規定する資産を譲渡した場合における事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その者が引き続きこれを所有していたものとみなす。
一  贈与、相続(限定承認に係るものを除く。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く。)
二  前条第二項の規定に該当する譲渡
2  居住者が前条第一項第一号に掲げる相続又は遺贈により取得した資産を譲渡した場合における事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その者が当該資産をその取得の時における価額に相当する金額により取得したものとみなす。

これ、たとえば持株会社に社長の株式を移したり、企業再生の際に、社長が持っている不動産などを会社に譲り渡したりするなど、ストラクチャリング等の実務上も非常に重要になってくる条文であります。
当然、実務家のみなさんは、
「その資産が非上場の株式だった場合、『その時における価額』(時価)というのは、いくらになるのか?」
とか、
「親から相続した財産で、取得価額がわからなくなっている資産についてはどうするのか」
といった実務的なことは詳しい方が多いでしょうけど、
「キャピタルゲインへの課税はキャピタルゲインが実現した際に課税するのが原則なのに、なぜ59条では無償譲渡なのに課税されるのか。」
「逆に、なぜ59条1項2号の法人への譲渡の場合には、1/2以上の額なら時価で譲渡したとみなさなくてもいいのか。」
等、根本に立ち返った質問にサッと答えの出せる実務家は、さほど多くないのではないかと想像します。
大部分の実務家にとっては、「だって法律でそう決まってるんだから」で問題ないでしょうし、そんな「本質的」なことを考え始めちゃうヤツは実務上むしろ生産性の低いやつ扱いされかねないんじゃないかと思いますが、
一方で、そういう本質に立ち返って考える力は、税法を作る立場の人はもちろん、訴訟等の紛争に携わる未来の法曹には重要だなあということを、改めて学生さんに教えていただいた、という感じです。
税や会計に強い法曹が山ほど誕生することを祈念してやみません。
ではまた。
(以下、ご参考。)

(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)
所得税基本通達59−6 法第59条第1項の規定の適用に当たって、譲渡所得の基因となる資産が株式(株主又は投資主となる権利、株式の割当てを受ける権利、新株予約権及び新株予約権の割当てを受ける権利を含む。以下この項において同じ。)である場合の同項に規定する「その時における価額」とは、23〜35共−9に準じて算定した価額による。この場合、23〜35共−9の(4)ニに定める「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」とは、原則として、次によることを条件に、昭和39年4月25日付直資56・直審(資)17「財産評価基本通達」(法令解釈通達)の178から189-7まで((取引相場のない株式の評価))の例により算定した価額とする。 (平12課資3−8、課所4−29追加、平14課資3-11、平16課資3−3、平18課資3−12、課個2−20、課審6−12改正)
(1)  財産評価基本通達188の(1)に定める「同族株主」に該当するかどうかは、株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること。
(2)  当該株式の価額につき財産評価基本通達 179の例により算定する場合(同通達189-3の(1)において同通達179に準じて算定する場合を含む。)において、株式を譲渡又は贈与した個人が当該株式の発行会社にとって同通達188の(2)に定める「中心的な同族株主」に該当するときは、当該発行会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によること。
(3)  当該株式の発行会社が土地(土地の上に存する権利を含む。)又は証券取引所に上場されている有価証券を有しているときは、財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、これらの資産については、当該譲渡又は贈与の時における価額によること。
(4)  財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、同通達186-2により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額は控除しないこと。

(ではまた。)

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租税法の勉強会に出席した件” への5件のコメント

  1. 税務に強い弁護士がもっと増えて欲しいというのは同感です。
    某租税法司法試験委員も「税法が分かっている弁護士なんてほとんど居ない」と言っていました。
    現状では、租税関係の訴訟は一部の弁護士に集中していますよね。
    税の知識がある弁護士の需要はそれなりに多いので、これから弁護士が増えていく中で、税法にも強い弁護士が増えることを願うばかりです。

  2. 耳が痛いですがそのとおりだと思います。M&Aやファイナンス案件については、関わった案件に出てくる限度で断片的に知識を身につけているのですが、体系的に勉強する機会がありません。
    総論的な租税法は勉強できるのですが、各論部分について網羅的に勉強できる教材がなかなかないなというのがこれまでの実感です。そこで各論的な知識を幅広く習得できるお勧めなどがあればご教示いただければ幸いです。比較的新しくていい教材があれば多くの弁護士が意欲的に勉強する気がします。それとも基本通達をひたすら読むのが一番の近道なんでしょうか。

  3. 米国には、Tax Lawyerというジャンルの弁護士さんがいらっしゃって、航空機リーススキームなんかを考案し、かなり稼いでいらっしゃるという話を聞いたことがあります。
    日本での航空機リーススキームは、税法と、民法(組合)や商法(組合)の両方の知識を使ったスキームですが、税法しか知らない税理士には考案できないスキームだったんだろうなと思ったことがあります。
    私個人的にも、税法に強い弁護士さんの登場を期待しています。
    教鞭、がんばってください!

  4. 先日はご参加いただきましてありがとうございました。
    重ね重ね御礼申し上げます。
    当初は、基本的には学生同士の内輪の会として始まっただけに、そういってくださると大変うれしいです。
    これからも是非ともよろしくお願いいたします。

  5. 弁護士と税理士が主体となって設立した租税訴訟学会という団体がありますので、ご関心がある方はご参加ください。
    弁護士・税理士でなくとも参加できます。
    URLは以下のとおりです。
    http://sozei-soshou.jp/