監査役制度改造論(旬刊商事法務2007/4/5日号)

  • Facebook
  • Twitter
  • はてなブックマーク
  • Delicious
  • Evernote
  • Tumblr

(中大ロースクールで授業をいっしょにやらせていただいているので持ち上げるというわけでは全くございませんが)、
先週末に届いた旬刊商事法務の最新号(2007/4/5日号)に載っている大杉謙一中央大学教授の「監査役制度改造論」は、非常に面白いと思います。

監査役制度については、明治時代にドイツの制度を参考にできた、ということは多くの方がご存知かと思いますが、ドイツでは監査役会が完全に取締役会と株主総会の間に入っている(どちらかというと、監査役会というよりは「委員会設置会社における取締役会」に相当するような位置づけ)なのに対して、日本ではなぜ「現状のような感じ」になっちゃってるのかしらん?というあたりは、多くの人が疑問に思っていながらあまりよく理解されていないところではないかと思います。
監査役制度の歴史的経緯やアメリカ等他国との比較を踏まえた立法論としての大上段な議論というのは、商事法務に掲載される論文の中でも珍しいんじゃないかと思いますし、非常におもしろく拝見させていただきました。
−−−
実際、海外からお客さんが来た場合に、「社外監査役です」と自己紹介するというのが、なかなか実務としてはシンドイんであります。
単に「Auditor」というと、「ああ、会計の、ね」という顔をされるので、もひとつ別に日本監査役協会さんが推奨している「Corporate Auditor」と説明することが多いんですが、これだと、「業務監査的なものまで含みます」的なニュアンスは出るものの、やはり「なんじゃそりゃ?」感はぬぐえない。
アメリカ人向けには「a board member」(…kind of…)と名乗るのが手っ取り早く、かつ、ちょっとかっちょいい感じもしますが、取締役会での議決権を持たないことを考えると、一種の虚偽申告的な後ろめたさはぬぐえないところであります。

一方で、日本の監査役制度の問題点は、大杉先生の論文のような「法的な」制度論の問題というよりも、むしろ「監査役」という言葉に染み付いたイメージや「手垢」のほうが問題なのかなあ、という気もしてます。
例えば、論文で指摘されている「適法性監査」と「妥当性監査」の境目ですが、ここ数年、「監査役監査基準」が、取締役の善管注意義務履行の判断基準として経営判断の原則が前面に押し出される形で改定されてきたこともあり、従来は「妥当性監査」の範囲に入ると解されていたようなことについても、取締役の意思決定過程が適法かどうかという観点から考えれば、ほとんどのものが妥当性監査に含まれて来うるので、実務上、問題になることがあるのかな?という気もしております。

(少なくとも私は、社外監査役である場合でも、妥当性の判断とも考えられる点について、「○○といったこともありうるが、取締役はそういう視点からの検討は十分行っているのか?」という観点から取締役会でも遠慮せずに質問させていただいてますので、[嫌がられてるかどうかはともかく]、現行の法令の解釈上、「妥当性監査か適法性監査か」といった法令上の境界線の解釈で実務上困った、ということが、あまり無いもので・・・。)

つまり、監査役の権限についての法令解釈の問題というより、「やる気」のある監査役を就任させる人事をするかどうか、の問題じゃないかという気がします。
監査役の人事について、従来「監査役」という言葉から一般的に想定されていた人物像・・・すなわち、誤解を恐れずに言えば、「人格者である(つまり、平たく言うとエゲツナイことやトンデモナイことをしでかすタイプではない)一方で、あまり積極的に企業価値の向上に寄与するタイプとも必ずしも言えない(つまり、平たく言うと おとなしそう)」というような人・・・では、今後は必ずしも望ましくないんだろうなということは一般の上場会社においても理解されはじめているのではないかと思う一方で、では今後の日本のコーポレートガバナンスにおいてどのような監査役の人物像がピッタリはまるのか、というイメージが明確に描けてない企業も多いのではないかと思います。

イメージしやすい、という面では、(「欧米か!」と言われることを覚悟すれば)、大杉先生提案の、「監査役が取締役を兼務する」という方法よりは、シンプルに「取締役(や執行役)だけが役員となる」ほうがイメージは沸きやすいかと思います。
監査役がいない機関設計の類型に「委員会設置会社」があるわけですが、それがなぜこれほどまでに普及しないのか?、ということを考えてみると、それはずばり、日本企業のほとんどの会社(特にトップ)が、「会社の業務をろくに理解してもいない社外の取締役ごときに、役員の人事や報酬の決定権を握られるのは耐えられん!」と考えているから、ということに尽きるのではないかと思います。
つまり、問題は委員会設置会社とその他の機関設計の溝が(「人事」という最もデリケートな部分の決定プロセスを強制しているという意味で)、あまりに深すぎることではないかと。

会社法で、せっかく「監査役がいない取締役会設置会社会社」も認められたわけですから、もう一押しして、「委員会設置会社」と従来型の「取締役会+監査役会設置会社」の中間の類型として、(例えば)、
「取締役会+監査委員会」(+会計監査人)
という類型を認めるだけでうまく機能するような気がします。
(つまり、そんなに役員人事権と報酬決定権を社外取締役に握られるのがイヤなら、指名委員会、報酬委員会は作らなくてもいいですよ、と。)

今、経済界に携わっている方のほとんどすべては、戦後の「監査役」のイメージしか持ち合わせていないわけで、「監査役」のしくみをいくらいじっても、その「手垢」は、多少の工夫では落ちないはず。
一方、上記のアイデアは、取締役会での議決権や明らかな妥当性監査権限を持つ取締役が監査機能も持っているわけで、大杉先生ご提案の「監査役が取締役を兼務する」というアイデアとほぼ同様の機能になるんではないかと思います。
また、大杉先生は、監査役が取締役を兼務することで、監査役が役員人事権を握ることを重視されていますが、日本で委員会設置会社制度を導入した企業の運用でも、監査委員が指名委員を兼務するという運用にはあまりなっていない気もします。(監査する人と人事権を握る人は別のノリの人がやることが多いのではないでしょうか?[要検証。])

もう一つ、現行の監査役制度の問題は、監査役の権限が小さすぎることより、「独任制」のせいで監査役一人ひとりの権限があまりに強大なことに起因する部分が大きいような気がしてます。
監査役が「暴走」すると誰もそれを止められないほど権限や地位が強力なために、逆に、監査役には「あたりさわりのない、おとなしい」人を持ってこざるを得ない。(・・・と考える会社も多いのではないかと。)
一方、監査委員会という「会議体」で監査をするしくみにすれば、「暴走」のリスクも押さえ込むことができるので、多少「個性的」な取締役でも安心して監査委員に選任できるし、そういう人にガンガン発言してもらう方が、結局、企業価値向上にもつながるかも知れない。

選定監査委員(会社法405条2)を選定すれば、監査役的要素を取り込んだ設計にもできます。
こうした、従来型の機関設計と委員会設置会社の中間的な機関設計を認めるようにしたらどうか?という意見は、会社法施行前に日本取締役協会さんなどでも検討された経緯があったように記憶していますが、会社法が施行された今、以上のように考えてくると、「取締役会+監査役会+会計監査人」という機関設計が認められて、「取締役会+監査委員会+会計監査人」という機関設計を認めない、という理由はあまりないように思われます。

外国の人にも、「I’m a director and corporate auditor」と説明して「ぶも?」という顔をされるよりは、「a board member 」(・・・で、もしツッコんで聞かれたら、「… and also a member of the audit committee」)と答える方が、すんなり理解してもらえそう・・・という意味でも、「取締役会+監査委員会型」のほうがいいんじゃないかという気もします。:-)

(正直なところ、個人的には「監査役 兼 取締役」という名刺は、あまり持ちたい気がしない・・・。外国だけでなく、日本人にも説明が難しそう・・・。)
また、「取締役会+監査委員会」という中間類型を設けることで、結果として(完全な)委員会設置会社に移行する企業も増えるのでは。いきなり、「幅3mのクレバスを飛び越えろ!」というよりは、「幅1.5mのクレバスを2回飛んでね。」という方が、飛ぶ気になる会社は多い気がします。

(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。