「電子系の法律」について考える(第2回:パブコメ募集と脊髄反射的ツッコミ。)

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さて、本日8月1日付で、法務省から「電子登録債権法制に関する中間試案」に関するパブコメの募集が出ました。
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=300080002&OBJCD=&GROUP=

電子登録債権法制に関する中間試案
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1030&btnDownload=yes&hdnSeqno=0000012563
電子登録債権法制に関する中間試案の補足説明(補足といいつつ、こっちの方が長い)
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1030&btnDownload=yes&hdnSeqno=0000012564

上記は、(法務省の文書なので あたりまえですが)、「意思表示」とか「質権」とか「信託」など、法律的なお話が中心なので、とっつきにくいかも知れません。
これとは別に、今年の3月27日に経済産業省から、「電子債権プログラム−次世代産業金融インフラの構築を目指して」というペーパーが出てます。
http://www.meti.go.jp/press/20060327006/20060327006.html

【概要】
http://www.meti.go.jp/press/20060327006/denshisaiken-gaiyou-setpdf.pdf
【報告書本体】
http://www.meti.go.jp/press/20060327006/denshisaiken-houkokusho-set.pdf

電子債権の利用法や金融の現状が想定されているので、こちらの方が読みやすいかも知れません。
電子債権検討の経緯
もともと、某系統金融機関さんが「電子手形」なるシステムをウン十億円出して作ったけど、誰も使わなかったので、「手形の電子化」という観点から法制化を図る検討がはじまったと聞いています。
手形の取引量が激減する中、それをただ電子化しても誰も使わないのが目に見えているので、シンジケートローンなど、他の債権の譲渡にも使えるように、仕様を拡張してきた・・・という経緯のようですが、しろうとながら、全体に「つぎはぎ感」が漂っている気がするのですが・・・。
認証のレベルとネットワーク外部性
【概要】を読むと、「4.電子債権の管理・流通インフラの在り方」で、

�本人確認の方法については、セキュリティの強度とコストとはトレードオフの関係にあり、一律に高いセキュリティを課すのは現実的ではなく各商品の性質と利用者のリスク許容度に委ねる部分も必要である。

というようなことにも一応、配慮されてはいます。いつの間にか1億円の債権が他人のものになってました、というのは困るので、そういうのはID・パスワードでは、ちと怖い。
先日のe-Taxの話とは逆に、実際問題として、認証のレベルはかなりに固くしないといかんのではないかという気がします。
現在、商業登記や不動産登記も電子登記が行えるようになっているんですが、当然、認証は固いし、固くなくては困る。
結果として、どの司法書士さんに聞いても、「ちゃんと使ってる人は見たことがない。」
「だって、全員の住基カードとかもらってまわるより、ハンコ押してもらった方が早いじゃないですか。」
「e-Tax」の場合には、申請者(と税理士)の電子署名があればいいので、やる気になればできないこともない。しかし、多数の当事者がからむ登記実務では、全員が住基カード持ってるという確率は今のところほぼゼロなので、誰も使わないわけですね。
さらに、電子債権の場合には、基本的に債権が手形のように転々と譲渡されることを想定してますから、「ネットワーク外部性」は、さらに強力に働く。つまり、当初の当事者がその電子登録債権を使う気になればいいというだけじゃなくて、その譲渡先と想定される投資家等も、それを使う気になるということが期待されないと、そもそも当事者が使う気にならないわけです。
結果として・・・まったく普及する気がしません。(よね?)
グローバルな取引はどうするんでしょうか
この管理機関は法令で政府の監督下に入ることになるんでしょうけど、その場合の実装として、「電子署名法の認定認証事業者」が認証した鍵でないとダメというようなことになると、実質的に、国外の投資家との取引では使えないんじゃないかと。法務省の中間試案はもちろん、経済産業省の電子債権プログラムでも、基本的に「国際取引」という視点が全く存在しないんじゃないでしょうか。
唯一、経済産業省の電子債権プログラムに、
「東アジアの域内資金調達市場としての『国際電子債権市場』などを将来的な構想として考えられるのではないかという意見もあった」
てなことが書いてありますが・・・なんで東アジアに限るのかナゾですし・・・債権流動化の実務においては、欧米の投資家が想定できないんじゃ、話にならないのではないかと。
下請けイジメ?
【概要】に曰く;

国や地方公共団体が支払人となる売掛代金債権は非常に多い(官公需契約実績額は平成15年度で約10兆円)。官公庁から民間企業に対する支払を電子債権によって行うことは、電子債権の普及に拍車を掛けるとともに、(以下略)

これはすごい構想!
電子調達などで、政府が代金を銀行振込する代わりに「電子債権で払うから」とやられちゃったら、これは究極の電子債権普及策かも知れません。断れないでしょうから。
が、支払われる民間企業は、うれしいでしょうか?

未確定分についても、率先してできるだけ抗弁付き電子債権として登録し、(譲渡)担保とすることを認めることで、国の保証や利子補給等の直接的支援によらない、中小企業等の資金調達環境の整備にもつながるとの指摘があった。

これで銀行のファイナンスが付きやすくなるんだったら、メリットあるかも知れませんね。
(「中間試案」で、「抗弁」というのが具体的にどう実装されているのかは、よく読み取れません。)
ただし、完了していない政府への納入担保なら金を貸してくれるが、政府との契約書を見せても金を貸してくれないという企業も、微妙な線ですね。
電子債権が担保にされる実務が増えたら増えたで、(特に、政府向けの売上が多い企業などは)、他の一般債権者は、かなり劣後した立場に置かれるかも知れませんね。
金融商品取引法との関連
今度施行される金融商品取引法では、従来、証券取引法で規制されていたものよりも、かなり広範な概念として「有価証券」をとらえてますが、「中間試案」では、この電子登録債権が金融商品取引法とどういう関係になるのか、ということについて、全く触れられていません。
証券取引法等の一部を改正する法律
http://www.fsa.go.jp/common/diet/index.html

(定義)第二条
この法律において「有価証券」とは、次に掲げるものをいう。
(中略)
2 (略)次に掲げる権利は、証券又は証書に表示されるべき権利以外の権利であつても有価証券とみなして、この法律の規定を適用する。
(中略)
七 前各号に掲げるもののほか、前項に規定する有価証券及び前各号に掲げる権利と同様の経済的性質を有することその他の事情を勘案し、有価証券とみなすことにより公益又は投資者の保護を確保することが必要かつ適当と認められるものとして政令で定める権利

現在、上記の「政令で定める権利」に指定される方向なのかどうかはわかりませんが、少なくとも、電子登録債権で資金調達して一般投資家に迷惑をかけるヤカラは絶対出てくるでしょうから、指定されるのは間違いないところ。
銀行だけで完結するようにすれば「公募」として重たい開示が求められるということもないのでしょうけど、銀行方面では、電子債権の議論にシンジケートローンの話が取り上げられてること自体、「ふざけんな!」と憤ってらっしゃる方もいらっしゃるとも聞きます。
(引き続き、勉強してみます。)

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「電子系の法律」について考える(第2回:パブコメ募集と脊髄反射的ツッコミ。)” への3件のコメント

  1. 電子登録債権について採り上げていただきありがとうございます。
    担当者として,誤解のないよういくつか,コメントさせていただきます。
    電子登録債権を利用する人の認証の問題は,この構想が持ち上がったときから「電子署名を義務づけるようなものでは,コストが高くなるし,利便性も害されることになる。」という意見が強く,これを義務づけないというのが多数意見です。コストと利便性の観点から,管理機関ごとに顧客の特性に応じて,自己のリスクで認証をしてよいこととされており,管理機関にファックスや電話で申請し,それを管理機関側で登録することも可能であるという意見も有力です。
    電子登録債権の利用は,全くの任意なので,コスト削減と利便性というメリットがなければ,誰も使わないという意識で議論されておりますので,御懸念のようなことはないのではないかと思います。
     また,シンジケートローンについて,これを利用するかどうかも自由ですが,シンジケートローンの実務を担当されている方も法制審議会で積極的に発言されており,指名債権譲渡方式で行われているシンジケートローンの問題点を克服するための工夫も盛り込まれています。
    それから,金融商品取引法について中間試案に触れていないのは,この中間試案が法務省の法制審議会のものだからであり,金融庁関係の問題は,金融審議会でも議論されているところです。
    世界でも類をみない新しい法制であり,既存の枠に囚われない工夫をすることができるものなので,少しでもユーザーが使いやすいようなものを作るため,皆さんのご意見をお待ちしているところです。磯崎さんも,よろしければ,一言,法務省宛にご意見いただければ幸いです。