村上氏、インサイダー取引認める(どうなる、投資実務の今後?) 

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村上氏が罪を認める記者会見をしたとのこと。
http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/economy/murakami_fund/?1149474186

インサイダー取引認める 村上氏、一線から退く意向
 村上ファンドのニッポン放送株売買をめぐるインサイダー取引疑惑で、村上世彰氏(46)は5日午前、東京証券取引所で記者会見し、「私自身が罪を認め、反省すべきことがある」と述べ、インサイダー取引容疑を認め、謝罪した。同日までの東京地検特捜部の任意聴取にも「ライブドア(LD)によるニッポン放送株の大量取得をある時点で知っていたと言われれば、そう取られてもやむを得ない」と供述している。(共同通信)

いやー、びっくりしましたね。
今までも、奇手・巧手含め、人が考え付かない様々なことをやってこられた村上氏ですが、しかしこれは、よく考えると非常〜にシブい一手かも知れないですね。
世間の皆さんは堀江氏のアナロジーで、誰しもが村上氏も今後一貫して容疑を否認して争うものだとばっかり思っていたと思っていたんじゃないかと思います。しかし、よく考えてみると、堀江氏は公開企業であるライブドアの社長であって、しかもそのキャラで株価を高く保っていた面があったわけで、堀江氏が事業を「やーめた」と放り出すことは極めて困難であったのに対して、村上氏は(簡単ではないにせよ、はるかに容易に)ファンドの事業から身を引くことができるわけです。(保有している資産も、非公開化した電鉄株などがまだ残っている場合等を除き、非常に流動性の高い「公開株」ばかりですので。)
自分から事業を投げ出すことで代表訴訟リスクをも負う可能性のあった堀江氏に比べて、村上氏はファンドの投資家からの訴訟さえ回避できれば、他からの民事訴訟を受ける可能性は小さいかも知れません。
聞けば、阪神株のTOBに応じれば4000億円の総資金のうち3分の2はキャッシュになるとのこと。(それだけ4000億円もの資金を回すというのは至難の業になってきていた、ということかとも思いますが)、全体として大きな利益も計上しているうちにファンドを(実質的に)止めてしまって投資家に返金しても、ファンドの投資家から訴訟を受けるリスクは小さいのではないかと想像します。
それよりも、長期に勾留されて弁護士を通してしか情報がやりとりできないような状況におかれて、ファンドの保有する株の処分に失敗して大損を出すほうがリスクは高い。
また、こういった手に出ることで、「ホリエモンに比べて、なんと潔い」というイメージも形成できるかも知れない。
積極的に自分から罪を認めることで裁判で執行猶予が付く可能性も高くなるかと思います。執行猶予が付いたら、今までどおり普通に生活もできるわけですし。(執行猶予が付くと海外渡航等も制限を受けると聞いていますが、シンガポール等外国に自宅を移している人は、その外国で生活してもいい、ということになるんでしょうか?もしかして、拠点の移動もそのへんも目的だったんでしょうか?)
今回の容疑では(詳細はよく存じませんが)、ライブドアが大量にニッポン放送株を取得したことが発覚するはるか昔(2004年9月11月とかから)の取得が問題にされているようです。
その当時、たとえ、堀江被告や宮内被告から「ニッポン放送を買収したいと思っている」と相談を受けたとしても、(後知恵で今ならそれが絵空事ではないとわかるわけですが)、2004年9月11月当時、ビジネス上の常識のある人ほど、ライブドアが800億円もの資金を調達してそんなことを確実にできるとは考えなかったんじゃないでしょうか
つまり、「ニッポン放送を買おうかと思ってる」とライブドア社の経営幹部から話を聞いたにせよ、「そんなことがライブドアの体力でできると思わなかった」というような167条の要件について争う余地も十分あるのではないかと(法律の専門家ではございませんが)思います。
しかし、それをやらずにあっさり罪を認めちゃったわけですね。
投資・買収の実務にどう影響するか?
今、罪を認めずに逮捕されて長期に勾留されたり裁判が長期化したりすると、テレビをはじめとするマスコミでは、確実に「ワルモノ」として取り扱われるのは確実。
株式を数百円で買えるまで株式分割して、一般投資家を「インベスタマー」という形で顧客層とタブらせる戦略を取っていたライブドア社の場合では、そういうテレビや雑誌を見ている一般大衆の支持を失うということは非常にまずいことだったと思いますが、
村上氏は、罪をとっとと認めて「マスコミネタとしては全く面白みのない状況」に持っていこうとされているんじゃないでしょうか。つまり、マスコミとしては、「村上氏が逮捕されて車に乗り込む瞬間」とか「勾留がとけてうなだれて拘置所から出てくる絵」とかがほしいはずですが、罪を認めて長期に拘束もされないのであれば、そういう感情的な一般庶民対策はほうっておいて、あとは冷静な大口投資家と裁判所だけを向いて合理的に対策を立てればいいだけのはず。
実際、これが裁判になったとしたら、裁判官もあまり重い罪を下すのには戸惑うんじゃないかと思うわけです。(今回の個別事情も判例の動向もよく存じませんので、無罪になるのかどうかとか、執行猶予が付くのかどうかとかは予想できませんけど。)
−−−
というのも、前述のとおり、「大量の資金を動かせる2つの投資家」がいて、一方の投資家が別の投資家に「大量に株を取得しようと考えてるんですけど」と告げるだけでもう片方が証券取引法167条[公開買付者等関係者の禁止行為]違反になるので株式の取得を中止せざるを得ないことを意味するキツい判例が出たとしたら、自分だけが有利に株を買いたいので相手に株を買うのを止めさせようと思う投資家の「言ったもん勝ち」になっちゃうので。
つまり、強敵と目される投資家がいたらランチにでも呼び出して、「実は・・・」と切り出せば、相手の動きを完全に封じることができるようになるわけですな。
(追記:誤解を招きやすい表現だったので、2つ先のエントリの終わりの方をご参照ください。ホントの事実だったら当然アウトですが、「磯崎もニッポン放送の経営権獲得を狙っております」といった、現実味に乏しい情報等によって、どこまで行動を制約しないといけないのか、という「頭の体操」のお話であります。)
実際、もし容疑がTOB等インサイダー(167条)違反だとしても、今回ライブドアはニッポン放送株をTOBすらしてないわけです。TOBする相手にだったらTOB公表後に正面からより高い価格で対抗するという手が取れるわけですが、「市場内」で購入する人から「大量に株を取得しようと考えている」と告げられるだけで購入を止めないといけないとしたら、(TOBなら株主がTOBへの応募を撤回して、より高い価格を提示した自分側に鞍替えさせる可能性も残りますが、市場内の買い付けだとT+3で受け渡しまで済んでしまうわけで、敵方にわたっちゃった分の取り戻しは困難になりますので)、ファンド等をやってる人をはじめとして投資活動に関わる人は、今後、非常に困っちゃうはずだと思うわけです。
(あとで、「やっぱ、アレ、やめました。あはははは。」と言われても文句も言えない。)
つまり、もし村上氏が、このへん冷静に考えたら争う余地があると思うからこそ戦略的に逆に罪を認めたのであれば、非常に頭がいいなあ、というか。
今までも村上氏の取ってきた手法を分析することで非常に証券取引法その他の勉強になったんですが、最後の引き際まで勉強させていただいたなあ、という気分であります。
(今後どうなるか、まだわかりませんが。)
(ではまた。)
(追記)
書き終わってみてみたら、47thさんも同様の趣旨(と思われる)エントリを書かれています。
過去のエントリでも167条関係についてまとめられてますので、ご参考まで。
http://www.ny47th.com/fallin_attorney/archives/2006/06/05-000557.php
M&Aコンサルティングのページに掲載された、村上氏による「ニッポン放送株式の売買について」というリリース
http://www.maconsulting.co.jp/PDF/060605_apology.pdf

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村上氏、インサイダー取引認める(どうなる、投資実務の今後?) ” への25件のコメント

  1. [雑]村上世彰さんが逮捕されそうだということで少し思った。

    村上世彰ってなんて読むのだろう。と。 ぶっちゃけ読めてる人は日本の10%未満だと思う。 そんなことないか…。 よしあきっていうらしいよ。 ま、で、うん、…

  2. 聞いたもの負け

    禿同、いや、皆検察に毛をむしられるのが怖くて、毛があるのに禿げしく同意を迫られるというのか。
    isologue: 村上氏、インサイダー取引認める(どうな…

  3. 世の中の動きを知らん爺どもが日本を滅ぼす

    村上「私は嫌われ者になってしまった」激白とのこと、これをみて世の中の動きを知らん

  4. 村上ファンド考 その3

    村上さんが記者会見
     調べによると、村上代表は側近らと共謀。04年11月8日、LD側からニッポン放送株(当時東証2部)の5%以上を取得するとの決…

  5. >一方の投資家が別の投資家に「大量に株を取得しようと考えてるんですけど」と告げるだけでもう片方が証券取引法167条違反
    http://www.sankei.co.jp/news/060605/kei102.htm
    与謝野金融相も同じようなことをおっしゃっているようで怖いのですが、公開買付者等関係者に当てはまらない人は規制対象外ってとこまでは崩れないんじゃないかと思うのですが・・・村上氏は4号で(証拠も固められて)アウトということで。
    (ランチミーティングで聞いたというのは4号で微妙かもですが、)少なくとも、
    「六●木ヒルズでお買い物をしていたら、偶然空から取締役会の議事録が降ってきて知っちゃった!」
    なんてケースなら100%対象外ですよね。

  6. 私は、この会見は「罪を認めた」のではなく、「責任をライブドアに押し付けた」のだと思います。磯崎さんも読んだ(そして検察の有力な資料となったいわれる)『ヒルズ黙示録』によれば、「主犯」は村上氏のはずなのに、「そういえば聞いちゃった」とか「ミステイク」だとかいうのはおかしい。

  7. 地検、公判維持できますかね。
    磯崎さんの言うように、村上がライブドアの資金調達力に疑問をもっており「千円しか持っていない高校生が10万円のブランドバックをほしがっているようなもの。実現性が無いと思った。」と主張すると、地検はライブドアの株価をてこにした資金調達力を客観評価に基づき証明しないといけない。
    一方でライブドアの事件では、彼らの株価操作を立証しないと行けない。
    これは自家撞着でしょう。同じ地検が相反する経済事象を同時並行的に立証できるんでしょうか?
    場合によれば、二つとも負けるように思います

  8. Apricotさん曰く;
    >公開買付者等関係者に当てはまらない人は規制対象外ってとこまでは崩れないんじゃないかと思うのですが
    「知っていて大もうけしたけど4号違反ではない」というのが通る雰囲気じゃなくなってきてるような・・・。
    池田さん曰く;
    >「主犯」は村上氏のはずなのに、
    複雑なルールの下で大量の資金を動かす資本市場では、「罪刑法定主義」を貫いてくれないと、怖くて取引ができないわけで、「村上氏側からそそのかしたのかどうか」に関わらず、条文によってのみで判断してくれない「不完備」なルールとか、条文によってのみ判断すると関わった投資家がみんなインサイダー取引違反になっちゃうようなルールだと、市場がうまく機能しないんじゃないでしょうか。
    かわいさん曰く;
    >一方でライブドアの事件では、彼らの株価操作を立証しないと行けない
    ニッポン放送の株価操作が容疑にあがってるわけじゃないので、矛盾してないと思います。

  9. かわいさんの仰っている事は「ライブドア株の」株価操作じゃないでしょうか?
    もし違っていたらすいません…

  10. angelusさんのおっしゃる通りです。
    東京地検はこれから、堀江・宮内というライブドア関係者とは、ライブドア株の株価が不正につり上げられていた事について争わないと行けない。
    村上ファンドのインサイダー取引を立証するためには、ライブドア株の株価が妥当であり、ライブドア関係者の資金調達能力が十分にあったと客観的に判断出来た、と立証しないと行けない。
    同時期に同じライブドア株を巡って、まったく正反対のことを立証する義務が出て来ます。
    ただし、村上ファンドが法定でどういう戦略に出るか、で異なりますが・・・

  11. 天罰

    <インサイダー取引>村上代表を逮捕 事前に株取得情報
     東京地検特捜部は5日、「村上ファンド」代表、村上世彰(よしあき)容疑者(46)を証券取引法違…

  12. かわいさん、
    株価が妥当かどうかと資金調達能力があるかどうかは基本的には別のお話ですし、そもそも「資金調達能力が十分にあったと客観的に評価」できなくても、167条は成立する(可能性がある)と思います。

  13. 村上ファンドの二つの顔

    きのうの村上氏の会見で驚いたのは、ライブドアの話を「聞いちゃった」ことが、結果的には証取法違反になる、という法解釈をみずからしたことだ。村上ファンドのウェ…

  14. 聞いちゃったインサイダー?

     個人的な好き嫌いでいえば所長は村上ファンドは嫌いである。しかし、そういう好き嫌いと今回の逮捕劇はまた時限の違う話である。今回の逮捕劇はあまりにも「筋悪(…

  15. 村上世彰さんが逮捕ということで感じたことの纏め。

    少なくとも今後5年ぐらいのターニングポイントになりそうな事案なので、各所で繰り返し気味になって食傷気味ではあるけれどもここでも村上世彰氏逮捕について感じた…

  16. インサイダー情報と選択的情報の開示の問題について

    村上ファンドの問題に絡んで、本日は、インサイダー情報と「選択的情報の開示」の問題について、述べておこうと思う。

  17. 「本石町日記」さんから伝ってきました。
    実は私も「言ったもん勝ち」と同様のロジックを展開していたのですが、それに関して二つコメントを。
    第一には、現時点ではもはや言うまでもないでしょうが、村上さんの「聞いちゃったんですよね」は単なる欺瞞工作ということが判明しつつある現在、村上さんの言ったことを真に受けてあれこれ考えても意味ないですよね。私もやられましたよ。
    第二には(こっちが重要)、47thさんのおっしゃっていることと「言ったもん勝ち」理論は真っ向対立すると思います。47thさんの理論は、(私の理解では)「プロの土俵は外形標準的でなければならない」というものであり(それはそれなりに筋が通っている話)、一方「言っちゃったもん勝ち」が暗示するのは「安易なTOB対策が乱用される恐れがあるので単に外形標準的に判断してはならない」という訳で全く逆だと思います。
    要は、イソログさんと47thさんの話は正反対だと指摘したいわけです(私にはそう読める)。
    どっちも筋が通っているように見えるので、「ノーアクションレターとかそういうのが使えないんでしょうかね」というのが次の疑問な訳ですが。。。

  18. (日本−オーストラリア戦の翌朝の不機嫌モードで恐縮ですが、)
    「外形標準的」というのが何を指しているのかよくわからないので、何をおっしゃってるのかよくわかりません。
    私が意図しておりますのは、「将来、安易なTOB対策が乱用されるだろう」という予想ではなく、(今報道されているようなことしか容疑としてあがってないのであれば)、そういうヘンなことになっちゃうので、そうはならないのではないか、という「仮定法過去」というか「背理法」の話で、47thさんと基本的には同じことを申し上げてい(るつもりであり)ます。
    (ではまた。)