会社法下のストックオプション(現物方式と相殺方式)

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昨日の事例URL集にもとづいて、新しい会社法のもとで、みなさんどういったストックオプションの発行実務を行われているのか、というのを見てみましょう。
まず、(Googleで一番上に表示されたこともあり)、野村総研さんの事例
http://www.nri.co.jp/news/2006/060516_5.pdf
を参考に、考えさせていただきたいと思います。
このリリースは、旧商法的な「特に有利な」というような文言も出てこないですし、取締役会への権限「委任」というような考え方でもない・・・つまり、「取締役報酬の『枠』だけ取れば、あとは取締役会権限で発行できる」と考えておられる模様。
また、(単に従業員には付与しないだけかも知れませんが)従業員向けストックオプションのリリースもありませんので、株主総会の承認は不要と考えてらっしゃるのではないでしょうか。
全体として、「会社法のノリ」をよく取り入れたリリースになっているんじゃないかと愚考いたします。

(前略)定時株主総会において、年額10億円以内(中略)とする旨ご承認いただいておりますが、かかる報酬額の範囲内で、譲渡制限付き新株予約権を用いたストックオプションの付与をおこなうことにつき、ご承認をお願いするものであります。

ということで、この部分が会社法第361条第1項第1号(報酬等のうち額の確定しているもの)の承認に相当するということだと思います。
具体的付与方式については、

ストックオプションの付与は、金銭の払込を要しないものとして新株予約権を支給する方法(現物方式、会社法第361条第1項第3号に規定する金銭でない報酬等)、または、オプション評価モデルを用いて合理的に算定された公正価格を払込金額とする新株予約権を割り当てる一方、当該払込金額に相当する金銭報酬を支給することとし、払込に代えて当該金銭報酬請求権により相殺を行う方法(相殺方式)のいずれかの方法によりおこないます。

と書いてあります。この「現物方式」(3号の金銭でない報酬等)としたストックオプションが前述の1号の枠(額の確定しているもの)の外書きなのか内書きなのかですが、前にも「かかる報酬額の範囲内で」とありますし、この続きでも、

具体的な付与数は、上記報酬額の範囲内で、固定報酬、賞与とのバランス、各取締役の職務内容等を勘案して、報酬諮問委員会への諮問を経て取締役会の決議により定めます。

と、現物方式か相殺方式かに係らず、「上記報酬額の範囲内で」と明記してありますので、これは当然、1号の報酬枠の「内書き」ということですね。
(これが無難ですし、「お手盛り」防止のためにもキレイであります。)
現物方式と相殺方式
さて、この現物方式と相殺方式ですが、平たく言うと、
「ストックオプションをタダであげる方法」

「給与天引きで購入する方法」
ということになるかと思います。
会社法の条文でいくと、前者が、
「募集新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しないこととする場合」(238条1項2号−募集事項の決定)
後者が、
「前項の規定にかかわらず、新株予約権者は、株式会社の承諾を得て、同項の規定による払込みに代えて、払込金額に相当する金銭以外の財産を給付し、又は当該株式会社に対する債権を持って相殺することが出来る。」(246条2項−募集新株予約権に係る払込み)
に対応していることになります。
(太田洋弁護士・商事法務1759号43ページ参照)
現物方式の流れ
払込み処理(会社側・従業員等側)
「現物方式」の場合には「無償」なので、払込みは発生しません。
費用計上処理(会社側)
ただ、大きく異なるのが、会社法施行以降、ストックオプション会計基準が適用されて、この新株予約権の公正価値に基づいて費用計上を行わないといけないことになった、という点。
「ストック・オプション等に関する会計基準」4、5、ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」の設例などによると、費用は「権利確定日」までの期間で月割りするなど、費用の額に対応したものを新株予約権として純資産の部に計上する、とあります。
注意しないといけないのは、社債(区分法)の場合、
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といった感じで、発行される新株予約権の公正価値「全額」が純資産の部に計上されたわけですが、新株予約権の場合、
image002.gif
といった感じで、当期の費用化分に対応する部分だけが新株予約権として純資産の部に載ってきます。
上記は、行使可能(権利確定)となるまでが2期にまたがるイメージの場合ですが(費用計上額が複数年に分散されている)、発行して即権利確定となると、
image003.gif
上図のように、新株予約権のバリューの全額が付与した期に一括で費用計上されることになります。
税務処理(会社側)
税務上は、ストックオプションが(従業員等にとって)税制適格であれば、(永遠に)損金参入不可。
ストックオプションが税制適格でなければ、権利行使日の属する事業年度において損金参入が行えます。
税務処理(従業員等側)
ストックオプションが税制適格であれば、行使時にはキャピタルゲインは発生せず、行使価格(株式の取得価額)と売却額の差額がキャピタルゲインとして分離課税。(今なら10%だけ。)
別の証券口座を作る必要があり、総合口座にはできないので源泉で税金を引いてくれず、確定申告が必要になります。
ストックオプションが税制適格でなければ、権利行使時の時価と行使価格の差が、「取得する経済的利益」とみなされて、給与所得等といっしょに(累進税率で)総合課税されることになります。
相殺方式の流れ
払込み処理(会社側・従業員等側)
相殺方式は、「給与天引き」で新株予約権を適正な価格で従業員等が購入するということです。従業員は口座振込みをする必要等はなく、給与明細に新株予約権を購入するための給与上乗せ額(収入)と、新株予約権の購入代金(引落し額)が乗っかることになると思います。
費用計上処理(会社側)
会社では、新株予約権の価値とは関係なく、新株予約権を買うために上乗せされた給与額が費用計上されることになります。
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つまり、権利行使までに複数期ある現物方式の費用が、前述のとおり複数年に分散されるのに対し、相殺方式の場合、新株予約権買い付け資金をすべて給与として支払ってしまうと、発行時(給与支払い時)に全額が費用計上されるので、利益へのインパクトは1期に集中してしまうわけですね。
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さらに、従業員等はキャッシュインがないのに給与に課税されるので、その納税資金分くらい多めに支払う必要があるかも知れません。
給与の支払額が少なければ、費用計上額は少なくなるわけで、新株予約権の公正価値が巨額になってしまう場合には、「新株予約権購入ローン」的なものを手配すれば、費用計上額は複数年に分散することができることになります。
(どうせ毎年同じ程度の新株予約権を付与していくのであれば、中長期的な費用インパクトは変わらないかも知れない。)
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税務処理(会社側)
現物方式のストックオプションと違って、給与等を費用として計上した額が、原則としてそのまま損金参入できます。ただし、役員賞与扱いになっちゃう部分とかに注意。(毎月の給料を底上げするとか、コントロールのしようはあるかと思います。)
税務処理(従業員等側)
「新株予約権の取得価額+行使価格(株式の取得価額)」と売却額の差額がキャピタルゲインとして分離課税。(今なら10%だけ。)
税制適格の要件等も関係ないので、取得半年後から行使可能にするとか、非常に自由な設計が行えると思います。また、従業員も別の証券口座を作る必要もなく、総合口座にすれば確定申告も不要なので、年末調整だけで済んで従業員にとっても楽。
まとめ
以上のように、費用計上のインパクトを複数年に分散させられるかどうかという点を除けば、「どっちにしろ同程度の費用計上が行われるなら」、相殺方式のほうが税務上も、手間の面でも楽そうです。
(以上、ご参考まで。)

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