フジテレビのデューデリジェンスの責任
先日、知り合いのファンドの責任者の方から電話がかかってきて、
「いやー、昨年磯崎さんの話を聞いておいてよかった。うちのファンドは磯崎さんのおかげで救われたよ。」
とのこと。
以前の記事に書いたとおり、昨年3月頃にライブドアの開示資料の分析をしたところ、かなり「普通とは違う」取引をしてことが明らかだったので、「こうしたことが、仮に”違法”と判断されることになった場合には、ライブドア株のバリューがクラッシュするリスクもありますよ」という話をしたところ、「それまではかなり頻繁にライブドア株を売買していたのだが、その話を聞いて、その後一切手を出さなかったので助かったよ。」とのことです。
(投資はすべてそうですが)、これもあくまで結果論の話でありまして、このままライブドアが摘発されなかったら昨年3月から12月末まででライブドアの株価は倍増していたわけで、逆に大きな機会損失になったかも知れないわけですが、ともあれ、「役に立った」と言っていただくことは、コンサルタントの何よりの喜びであります。
フジテレビのデューデリジェンス
ブログの読者の方には、「そんな情報があるなら、なんでその時にブログに書かんのじゃい!」とお叱りを受けるかも知れませんが、当然、開示資料だけから「確実に違法」ということがわかるわけもないので(今ですら、まだ判決が出たわけでもないです)、違法性があることを前提にブログを書くわけにもいきませんでしたのでご容赦ください。
(しかたがないので、昨年4月下旬に「1級デューデリジェンス士過去問題例」と、わかる人にはわかる形で問題提起させてもらいました。)
(というわけで、私のことはご容赦いただくとして)、私が密かに期待していたのは、フジテレビがライブドアとの和解で出資をするときのデューデリジェンスの作業で、もしかして一波乱あるんじゃないか、ということ。
以前のエントリでもふれたように、開示されている資料からも、ライブドアというのは売り上げや利益の大半をITではなく「ファイナンス」関連で計上しており、また、投資事業組合や営業投資有価証券の名目で「グルグル」させている可能性は見て取れたわけで、ライブドアの財務デューデリを行う方は、当然、この点も深く追求してしかるべきだったかと思われます。
もちろん、適正意見の監査報告書がついた財務諸表に対してケチを付けるなんてことは普通では考えなくてもいいでしょう。しかし、友好的な資本提携ならともかく、フジテレビさんは直前まで「ライブドアは違法性のある行為(時間外取引の件)を行う企業」ということを公言していたわけですから、通常のデューデリより、さらに懐疑的になってしかるべきだった、とは言えるかと思います。
一方で、通常のデューデリ作業で今回報道されているようなからくりまで解き明かせる可能性というのは極めて低いことも確か。
ただ、監査法人も「違法」との確証を得られなくても「意見差し控え」とか会計監査人を辞任するとかの行為に出れば、世間に対して「ライブドア、なんか怪しそう」というワーニングにはなったのと同様、ここでフジテレビさんが、「デューデリの結果、出資によって当社の企業価値を損なうことにならないという確証が得られなかった」というような理由で、出資を取りやめたら、ライブドアにはかなりの打撃となったことは間違いありません。
ただ、あの時の状況では、それをやると「人質」になっているニッポン放送株の救出が困難になったわけで、たとえライブドア株によって損失が出る可能性を認識していたとしても、これ以上の混乱が起こることを回避し、ニッポン放送株の取得コストを高めに設定したと考えれば、経営判断としては許される範囲だったかと思います。一般の企業だったら間違いなくそうでしょう。
私自身は「放送事業の公共性」というのがいまいちピンと来ないので、どちらでもいいんですが、世間の人は、「公共性の高い」(とご自分でおっしゃる)放送事業を営むフジテレビさんがライブドアに出資するというのは、法的責任はともかく道義的な責任としてどうだったのか、という疑問があるかも知れませんが。
では、また。


コメント
見抜けませんでしたと言われても株主には優しくないですね。
経営の判断としては、どちらでも正しくても。
Posted by: 匿名R : January 23, 2006 | 8:55 PM
ライブドアとフジテレビの「抗争」が長期化して企業価値が下がるのと、440億円「追い銭」を払うのと、どちらが得だったか、という話ですが。
「損益」としては、(損害賠償などでいくらか回収できるかまだ、わかりませんが)確実に440億円払った方が損だったという気もしますが、「企業価値(時価総額)」としてはどうでしょうか?今、フジテレビの時価総額が約8200億円なので、約5%のコスト。
(うーん、やっぱ、ちょっと高く付いたでしょうか・・・・。)
Posted by: Tetsuya Isozaki : January 23, 2006 | 9:44 PM
この件についてすごく気にかかっていることがあるんですが
会計や証券取引の制度上の不備をついたなどということよりも
マスコミとくにテレビへの露出がなかったらなしえなかったカラクリ
のような気がするんですが。
ある意味共犯のようにもみえてしまうのですが、どうなんでしょうか。
Posted by: おかしいな : January 24, 2006 | 11:02 AM
フジのデューデリってどこまで誰がやってたんでしょうね?
ただ、今回の特徴としては粉飾の対象となった取引が期中で行われていたようで、期末残高には残っていなかったので残高重視のDDで、見落としていたんでしょうか?
ライブドア自体がどこまでDDに対応していたのかも疑問ですが・・・
せめて過去のM&Aに関してはその評価に当たっての第三者意見とやらを見せるように要求するのでしょうけど、評価の第三者意見って通常、外部に見せないって限定つけますから、外部評価がないにもかかわらず、「外部評価を受けたけど、先方が見せることを許可してくれない」とかいう言い訳でもしたのでしょうか?
ところで、M&Aを積極的にやっていた割りには、連結調整勘定が24億円って小さいですね。
Posted by: MA-MANIA : January 25, 2006 | 11:10 PM
磯崎先生
突然失礼します。フジテレビはデューデリでからくりを解き明かせなかったろうというお言葉ですが、そういうものでしょうか?私は、財務の素人ですが、ライブドアに捜査が入った翌日、初めて同社の財務諸表を見ました。そして、事業の価値やどうしてあんな時価総額が生まれたのか考えてみました。それは、http://blog.chalaza.netの1月17日と20日に書いております。あうんの呼吸の相手がいるはずと想像しましたが、専門家の方ならすぐに分るのではありませんか?それが分れば、あうんの呼吸は犯罪めくことだと想像できると思います。私がライブドアの弁護士であったら(弁護士でもありませんが・・・)損害賠償請求に対して専門家のデューデリを踏まえたフジ側の時価総額上昇共謀説で対抗します。共謀説が通らなければフジ経営陣のデューデリ不十分責任から背任を匂わせますが・・・などと勝手に想像します。失礼しました。
Posted by: 渡辺日出男 : January 28, 2006 | 6:27 PM