« 「営業投資有価証券」の怪 | メイン | 「会計のルールの穴」についての若干の補足 »

January 19, 2006

会計ルールの「穴」

47thさんから大変おもむきぶかいコメントをいただきましたので、取り上げさせていただきます。

なるほど、単体決算がどうのこうのだけじゃなく、CFまでいじっていたわけですか・・・ここまで来ると、ある意味、それはそれでよく考えられていますね。ただ、次の問題は、これは「違法」なのか「ルールの穴をうまくついた取引」だったのかというところですね。こちらは、相当難問な気がします。


「キャッシュフローまでいじっていた」か?
「単体決算がどうのこうのだけじゃなく、CFまでいじっていたわけですか・・・」という部分ですが、(当然、推測の域を出ませんが)、私は「逆」なんじゃないかと思います。

会計がちょっとでもわかっている人なら(特に、決算の見せ方を真剣に考えている人なら)、ある取引が貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)にどう反映されるかは真っ先に考えるはず。一方で、その取引がキャッシュフロー表(C/F)にどう反映されるかまで考える人は、日本だとまだ極めて少数派なんじゃないでしょうか。

おそらく、取引がB/S、P/Lにどう反映されるかというのは熟慮して、「営業投資有価証券売却売上」とか「営業投資有価証券」というような、株をグルグル回して売り上げを立てているというような痕跡は全くB/S、P/Lには出ないように考えたんだと思うんですけど、キャッシュフロー表にどう表示されるかまでは考えが及んでいなかった。(だから、そのへんに痕跡がちらっと残っちゃった。)・・・というあたりが真実じゃないでしょうか?

私も、これについて、ライブドアさんの有価証券報告書をパラパラ見ていて気づいたというわけではなくて、一番売上構成比の高いイーファイナンス事業を構成すると考えられる数字をどう積み上げても総額と大きな差が出てしまうので、「もしや子会社で投資業をやっていて、営業投資有価証券の売却を売り上げに立ててるのでは?」と思いさらっと見渡してみても見つからないので、pdfファイルの全文検索をかけたところ、キャッシュフロー表でその科目を発見した、というわけです。


「違法」か「ルールの穴」か?
「これは「違法」なのか「ルールの穴をうまくついた取引」だったのかというところですね。こちらは、相当難問な気がします。」という点についてですが。


私は、非常にシンプルに考えてまして、(もし報道されているような取引を意図的に行ってたのだとしたら)明確に「アウト」だと考えてます。

誤解を恐れずに大胆なことを言えば、「会計に『ルールの穴』なんか無い」、と言えるかと思います。

会計というのは、国・地域や業種業態によって異なるあらゆる取引をすべて最終的に「利益」とか「自己資本」などの数字に落とし込む行為なわけです。つまり、人間様が森羅万象についてのルールをすべて詳細に先回りして作っておくのはそもそも不可能な性質のもの。

このため、商法でも「公正ナル会計慣行を斟酌スヘシ」ということで、「公正なる会計慣行」に「あとはよろしく〜」とフっちゃってるわけですが、
で、「公正なる会計慣行」とはいったい何かというと、「企業会計原則」をはじめとする会計の諸規定などとされており、それでも全部の事象がルール化できるわけがないですから、ある処理や表示が「公正なる会計慣行」に準拠しているかどうかというのは、まさに監査法人や公認会計士という訓練を受けた「人間」が判断をすることになるわけです。

で、この企業会計原則の初っぱなが、

1.真実性の原則
企業会計は、企業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告を提供するものでなければならない。
(略)
3.資本取引・損益取引区分の原則
 資本取引と損益取引とを明瞭に区別し、特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない。

会計原則でいう「真実」とは、「絶対的な真実」とは違って、業種・業態や人間の判断によって若干ゆらぐ性質の「相対的真実」である、てなことが言われ、「罪刑法定主義」とか「租税法律主義」というのとは違って、(明文の)ルールに沿っているかどうかが問われるのではなく、会計の目的(大原則)にそっているかどうかが問われると考えます。もちろん、「相対的真実」なので、人によって若干考え方が違う面はありますが、「企業の財政状態や利益を適正に表示すること」は大原則中の大原則。にもかかわらず資本取引と損益取引を混同して利益を大きく表示しようというのは、会計で最も避けなければならないことなわけです。つまり、財務諸表論の1時間目で習うようなお話。

いくら明文のルールに書いてなくても、会計士100人に聞いて100人ともが「なんじゃそりゃ?」と言う会計処理や表示は、「公正なる会計慣行」とはいわないと思います。

私は、今回報道されているように、ライブドアが自分が実質的に支配する投資事業組合を通じて売買した自社株を利益として計上して利益が何十%も上乗せされるような処理を、「ま、いいんじゃない?」という会計士は、通常の時でもまずゼロに近いと思います。(なぜなら公認会計士というのは、普通の人より格段に細かくて保守的な人が多いので。w)

しかも、検察が入って処理に粉飾の容疑がかかっている状況で、「あれは正しい処理だった」と主張する会計士は確実にゼロだと思われますので(笑)、よって、その処理は「公正なる会計慣行を斟酌したもの」ではありえないですし、ということはすなわち、いくら明文の規定のどこに書いて無いにしても、その処理や表示は確実に「法律違反」かと思います。

(ではまた)

コメント


何度かトラバさせていただきましたが、ご迷惑でなかったでしょうか?
それにしても流石本職の方の分析は違いますね。
営業投資有価証券がBSに計上されていない点は私も気づいていましたが、
確証はありませんでした。
ちなみに2005年9月期の有価証券報告書からは流石に営業投資有価証券はBSに載っています。CFは決算短信と有価証券報告書で数字が違うのですが。(笑)

今後とも鋭い分析を楽しみにしています。^^

 こんばんは。 何度かトラックバックさせていただいております。

 とても素朴な疑問なのですが、なぜ
 ・「ルールの穴が無い」会計制度において、
 ・会計士の100人中100人が「なんじゃそりゃ?」と言うような会計処理であっても、
 事が明るみになるまで、これくらいの時間を要してしまうのでしょうか? 

 もっと早く明るみになっていれば、早いだけ被害者の数も少なかったと思われるので、残念でなりません。

>何度かトラバさせていただきましたが、ご迷惑でなかったでしょうか?

とんでもないです。ありがとうございます。
仕事もあるのでなかなか個別のトラックバックにリプライさせていただけませんが、拝見させていただいてますので、よろしくお願いいたします。

ではまた。

>事が明るみになるまで、これくらいの時間を要してしまうのでしょうか?

企業が開示している情報以上に、企業から詳細を強制的に聞き出せる制度が今のところないんじゃないかと思いますので。米国などだと、民事訴訟を起こせばdiscovery等で、掘り起こされる可能性があるのかも知れませんが。

というわけで、私がかすかに期待したのは、フジテレビさんがライブドアに出資する際のデューデリジェンス。今回のように開示されている資料から分析してもかなり怪しげなことをやってそうだということがわかるようなケースでは、そこのところをとことんまで掘り下げていただければ、もしかしたらフジテレビは出資もしなくてよかったかも知れないし、ライブドアの不正(まだ有罪になったわけでもないので、仮定の話ですが)も、「フジが出資しなかった」ということで、もっと早く表面化した・・・かも知れません。

ご参考:「1級デューデリジェンス士過去問題例」
http://www.tez.com/blog/archives/000429.html

なるほど。「目からうろこ」とは、このことです。
ただ、あえて考えてみると・・・磯崎さんが仰るように「検察が入った今」なら、会計士100人が100人とも「粉飾」と断言されると思うのですが、フジテレビのデューディリが入ったという、その前の時点において、その会計処理を「粉飾」と断言される方は、やはり100人中100人なんでしょうか?
聞き方の問題というのがあると思いますが、「自分ならかかわりたくないが、他の会計士が適正というなら、あり得ないわけではない」という見方をする方もほとんどいなかったんでしょうか?(保守的というのが、Risk Averseということだとすれば、「粉飾かどうか」という客観的な判断と「自分がかかわるかどうか」は別という行動原理を指す可能性もあるような気がします)
法律家として気になるのは、「検察の捜査が入ったから皆が粉飾だというもの」を「粉飾」というのであれば、結局のところ、グレーな部分のシロクロを決めるのは捜査機関ということになってしまわないかという辺りです。
同列に扱ってはいけないのかも知れませんが、金融商品会計が制定される前に、リスクの移転がなされていない(買戻条項が付されているとか、もっと怪しげなものでは海外のいくつかのエンティティを通すとか)資産譲渡をオフバランス化するというのも、「真実性の原則」からいえば「望ましくはない」(それ故に会計基準の設定で塞がれた)けれど、「粉飾」と断言することはできないというものもあったんじゃないかと・・・(外からの見方なので、事情が違うのかも知れませんが)
その意味で、やはり私は「ルールの穴」というのはあるし、ちょっと逆説的な言い方をすれば、少なくとも法律上の責任や罰則との関係については、その存在を認めなくてはいけないんじゃないかという気がしています。

ラ社のプレスリリースによれば、今回の玩具というか道具は、自社の株ではなく、子会社(バリュークリック社)株だったようなのですが、これを信じる前提でも、揚がり(許されるべきでない揚がりだとは思いますが)はP/L経由でを経由せずB/Sに取り込むのが正しいのでしょうか。
素人ながら、マネーライフ社の件に限れば、投資組合の揚げた利益は、ラ社としては、損益取引と認識するのが正しいように思います。

私も、当初の報道では、どこでもやっているようなことや、些細なミスを扱って、まったくの誇大調査だし、有罪にできんでしょ、とおもってましたが、
やっぱり特捜部、お得意の別件捜査だったわけですね。

「実質的な自己株取引を売上に計上していた」というところで、真っ黒と思いました。

でもまたTVなんかは、
自己株取引が悪いとか、分割が悪いとか、ファンドが買うのはまずいとか、子会社の利益を2億付け替えたのが粉飾だとか、
そういう話に終始していて、あとは訳のわからない精神論ばかり言ってますね。

「実質的な自己株取引を売上に計上していた」という、本質の本質を報道したテレビは見てません。一部新聞ではそういう指摘も乗ってましたが、テレビはアホなのか・・

とにかく、株式分割や、普通のM&Aや、まっとうな投資ファンドまでが悪者にされかねないので、ちゃんとした知識でただして貰いたいと思います。

> 会計士の100人中100人が「なんじゃそりゃ?」と言うような会計処理


a.100人中100人が「確実にクロ」と言える会計処理
b.100人中100人が「シロとは断言できない」と言う会計処理


の間には、かなり広い「灰色ゾーン」が広がっていると思います。
推測ですが、私は、今回の件はb.ではあっても、a.ではないと思いますね。

フジテレビがやったデューデリで見つけられなかったのか疑問なのはそうですね。
あとフジはライブドアに金を振り込むとき、例えば
・ライブドア、および関連会社に重大な不備が見つかったとき取引を無効にする
みたいな条項は入れてなかったのか。もし入れてないとすると
非常勤役員まで送り込んでおいて、ちょっと爪が甘すぎると言われても
したかがないのではないでしょうか。もし詳しいところを知っておられたら解説お願いします

磯崎さんはそれとして仰有っておいでではありませんが、
「倫理(感)」の問題なのでは、と思っております。

個人ではなく企業体であった場合、
またその組織が成長というか肥大していくプロセスで
倫理感だの矜恃だのもあったもんじゃないのかも、とも思いますが、
「おてんとさまに顔向けできねえ」
という価値観が摩滅だか消滅した時点にあっては、
嫌われてもそれを敢えて言う父性の体現者が必要であり、
公認会計士というのはそういうお仕事であるのだろう、と思われます。

オレが倫理だ、と言った時点でお話が終結する(ことにされる)ので、
それを回避するために穏当な言い回しに終始しかねない、
という現状の要請もおありでしょうが、

何卒踏ん張ってください。

外野からシロウトが失礼いたしました。

コメントを投稿

週刊isologue

Powered by
Movable Type 4.261