「無職」はキャピタルゲインが事業所得になるのを避けるためか?

  • Facebook
  • Twitter
  • はてなブックマーク
  • Delicious
  • Evernote
  • Tumblr

2つ前のエントリ「みずほ証券誤発注で儲けた27歳無職男」に対して「しろうと」さんからコメントいただきました。

素人の疑問ですが、投資家と名乗っていると、税務当局から、キャピタルゲインでなく、事業所得とか認定されて、税金が高くなるおそれとかないのでしょうか?

これは「素人の疑問」というより、税理士の方でもそう思われている方がよくいらっしゃるので、なかなかいいご質問ではないかと思います。(以前申し上げたように、個人の株の申告をやってる税理士さんというのは、意外にもほとんどいらっしゃらないんじゃないかと思いますし、株の税金というのは奇々怪々なので。)
なお、毎度のことながら、以下は単なる思いつきで、私の税務上の意見を形成するものではありませんし、私が関与するいかなる法人・個人の見解を代表するものでもありません。また、このエントリに基づいて行動されて損害が発生した場合等でも当方は一切責任を負えませんので、念のため。
事業所得と分離課税、どっちの適用が先か?
租税特別措置法第三十七条の十(株式等に係る譲渡所得等の課税の特例)では、

居住者又は国内に恒久的施設を有する非居住者が、平成十六年一月一日以後に株式等の譲渡(証券取引法第二条第二十項に規定する有価証券先物取引の方法により行うものを除く。以下この項、次条から第三十七条の十一の二まで及び第三十七条の十二の二において同じ。)をした場合には、当該株式等の譲渡による事業所得、譲渡所得及び雑所得(第三十二条第二項の規定に該当する譲渡所得を除く。第三項及び第四項において「株式等に係る譲渡所得等」という。)については、所得税法第二十二条(iso注:「課税標準」)及び第八十九条(iso注:「税率」)並びに第百六十五条(iso注:「総合課税に係る所得税の課税標準、税額等の計算」)の規定にかかわらず、他の所得と区分し、その年中の当該株式等の譲渡に係る事業所得の金額、譲渡所得の金額及び雑所得の金額として政令で定めるところにより計算した金額(以下この条及び第三十七条の十一において「株式等に係る譲渡所得等の金額」という。)に対し、株式等に係る課税譲渡所得等の金額(株式等に係る譲渡所得等の金額(第六項第五号の規定により読み替えられた同法第七十二条から第八十七条までの規定の適用がある場合には、その適用後の金額)をいう。)の百分の十五(iso注:租税特別措置法第三十七条の十一(上場株式等を譲渡した場合の株式等に係る譲渡所得等の課税の特例)で上場株式等については7%[+地方税3%=10%]。平成十九年十二月三十一日まで。)に相当する金額に相当する所得税を課する。

ということで、事業所得と譲渡所得を分ける以前に、まずは分離課税の税率が適用される、と読めます。
必要経費が所得の計算上控除できるか
事業所得とみなされると、税率も分離課税(の低い税率)のままの上、必要経費を控除できるメリットがある可能性もあります。
前にもご紹介しましたが、昨年平成16 年6月14日付けで経済産業省大臣官房審議官(産業資金担当)から国税庁課税部長に対して「事前照会」がかけられてまして、(個人ではなく、投資事業有限責任組合等の場合ではありますが)、株式のキャピタルゲインの所得区分や経費の取扱いについて、かなり詳細な質問が行われています。
http://www.nta.go.jp/category/tutatu/bunsyo/02/houzin/2633/02.htm

国税庁課税部長 西江 章 殿
経済産業省大臣官房審議官(産業資金担当) 桑田 始
投資事業有限責任組合及び民法上の任意組合を通じた株式等への投資に係る所得税の取扱いについて(照会)
 
 ベンチャー企業は、新規産業の担い手であり、(前置き以下略)
 投資事業有限責任組合に係る税務上の取扱いについては、民法上の任意組合と同様の取扱い(法人税基本通達14−1−1、14−1−2及び所得税基本通達36・37共−19、36・37共−20)が適用される(平10課審4−20、課審3−41)こととされておりますが、ベンチャー投資等を行う投資事業有限責任組合や民法上の任意組合(以下「投資組合」という。)を通じて得た所得に関し、個人投資家が、所得税基本通達36・37共−20(任意組合の事業に係る利益等の額の計算)に記載されている(1)の方法により所得金額の計算を行っている場合において、その所得区分及び投資組合の運営から発生した諸経費の取扱いについて、それぞれ下記のとおりで差し支えないか、ご照会申し上げます。
 
                               記
 
1. 投資組合を通じて個人投資家が得た所得の所得区分
 個人投資家がベンチャー投資等を行う投資組合を通じて得る所得には、株式等の譲渡に係る所得をはじめとして利子所得や配当所得等の様々な所得がありますが、各投資家における所得の金額の計算上、投資組合において発生する所得をその属性に応じて所得税法に規定する各種所得に区分することが必要となります。
 ところで、個人投資家が得た株式等の譲渡に係る所得が、株式等の譲渡による雑所得(以下「株雑所得」という。)若しくは株式等の譲渡による事業所得(以下「株事業所得」という。)に該当するか又は株式等の譲渡による譲渡所得に該当するかについては、租税特別措置法取扱通達37の10−2(株式等の譲渡に係る所得区分)において、当該株式等の譲渡が営利を目的として継続的に行われているかどうかにより判定することとされております。
 ベンチャー投資等を行う投資組合は、株式公開をめざすベンチャー企業等の株式等に対して投資し、これを売却することによるキャピタルゲインの獲得を目的として組成される共同事業体であり、組合存続期間にわたって、複数のベンチャー企業等に対して投資及びその回収を行っており、営利を目的として継続的に株式等の譲渡を行っているものと考えられます。
 従って、下記の全ての要件が充足され、かつ、投資組合契約書等に記載されている場合においては、出資者が共同で営利を目的として継続的に行う株式等の譲渡を行うものと位置づけられ、個人投資家が当該投資組合を通じて得た株式等の譲渡に係る所得は、株雑所得又は株事業所得(以下「株雑所得等」という。)に該当するものと考えられます。
    (1) 株式等への投資を主たる目的事業としていること
   (2) 各組合員において収益の区分把握が可能であること
   (3) 民法上の任意組合が前提とする共同事業性が担保されていること
   (4) 投資組合が営利目的で組成されていること
   (5) 投資対象が単一銘柄に限定されないこと
   (6) 投資組合の存続期間が概ね5年以上であること

つまり、経済産業省さんは、「組合の場合でも、共同事業性等が担保されているなど『営業』としての実態があれば、所得区分は『株雑所得』又は『株事業所得』とみなしてもいいですよね?」、と聞いているわけです。
つまり、税務上パススルーの組合で共同事業として株式等の譲渡をやってる場合にOKであれば、個人がフルタイムで営利を目的として継続的に行う株式等の譲渡を行っているのであれば、同様に「株事業所得」とみなせると考えるのが素直かと思います。
で、経済産業省さんが、なぜ、こんなことを聞くかというと、

2.個人投資家における投資組合の運営経費等の税務上の取扱い
  個人投資家が投資組合において発生する所得の属性に応じて区分した各種所得から所得税法に規定する必要経費を控除するに当たって、株式等への投資を主たる目的事業とする投資組合が上記1のからの要件を充足する場合、当該組合から発生した株式等の譲渡に係る所得は株雑所得等に該当し、個人投資家は当該組合の運営上発生する経費を所得の金額の計算上、必要経費として控除することとなります。(以下略)。

ということで、今まで、ファンドの管理報酬や成功報酬は、株式等を譲渡した所得から必要経費として差し引けるかどうかがよくわからなかったわけですが、「必要経費は所得から差し引いてかまわないんだ」ということを明確にしたかったからだと考えられます。
もしファンドの場合にOKなのであれば、同様に個人でも営利を目的として継続的に行う株式等の譲渡を行っている人であれば、そうした株式等の譲渡を行う上でかかる経費(例えば、ネットへの接続費用やパソコンのリース料等)も、必要経費にできる可能性はあるということになると思います。
ただ、必要経費にはできるけど、ご質問のように「株事業所得」となることで、税率自体がアップしてしまうのでは、元も子もないわけですが、冒頭で述べたとおり、事業所得だから総合課税ではなく、まず租税特別措置法で分離課税の税率が適用されることになると、考えられます。
(経済産業省は、ベンチャー投資等のファンドの組成をバックアップしたいわけで、わざわざ「事業所得として高い税率になりますよね?」というヤブヘビな質問をするわけもないですし。)
ちなみに、この「事前照会」に対しては、国税庁より、「投資事業有限責任組合及び民法上の任意組合を通じた株式等への投資に係る所得税の取扱いについて(回答年月日 平成16年6月18日)」という回答が出ており、
http://www.nta.go.jp/category/tutatu/bunsyo/02/houzin/2633/01.htm

標題のことについては、ご照会に係る事実関係を前提とする限り、貴見のとおりで差し支えありません。
 ただし、次のことを申し添えます。
(1) この文書回答は、ご照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答ですので、個々の納税者が行う具体的な取引等に適用する場合においては、この回答内容と異なる課税関係が生ずることがあります。
(2) この回答内容は、国税庁としての見解であり、個々の納税者の申告内容等を拘束するものではありません。

と、「原則OKですよ」という回答が出ています。
もちろん、前述の通り、これは投資事業有限責任組合等の場合、ということで照会したものに対する回答ですし、個人が他に仕事をしないでデイトレをしている場合にどうなるかについては、(その様態によって、ケースバイケースで判断されるとは思いますが)、「事業所得」としたほうが有利になるということも多いかと思います。
(年間60億円もキャピタルゲインが出たら、年間数百万円程度の必要経費が認められようがられまいが、どっちでもいいでしょうけど・・・。)
(ご参考まで。)
以下参考通達:
措置法第37条の10《株式等に係る譲渡所得等の課税の特例》関係通達
http://www.nta.go.jp/category/tutatu/kobetu/syotoku/sanrin/1273/37_10/01.htm#02
(株式等の譲渡に係る所得区分)
37の10−2 株式等の譲渡(株式等証券投資信託等(租税特別措置法第37条の10第4項に規定する株式等証券投資信託等をいう。以下この項において同じ。)の終了又は株式等証券投資信託等の一部の解約を含む。以下この項において同じ。)による所得が事業所得若しくは雑所得に該当するか又は譲渡所得に該当するかは、当該株式等の譲渡が営利を目的として継続的に行われているかどうかにより判定するのであるが、その者の株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上、次に掲げる株式等の譲渡による部分の所得については、譲渡所得として取り扱って差し支えない。(平16課資3−3、平17課資3−7改正)
(1)  次に掲げる株式等(以下「上場株式等」という。)で所有期間が1年を超えるものの譲渡による所得 (略)
(2)  上場株式等以外の株式等の譲渡による所得
(注)  この場合において、その者の株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上、信用取引等の方法による上場株式等の譲渡による所得など上記(1)に掲げる所得以外の上場株式等の譲渡による所得がある場合には、当該部分は事業所得又は雑所得として取り扱って差し支えない。
(株式等に係る譲渡所得等の金額の計算)
37の10−3 株式等に係る譲渡所得等の金額の計算は、次に掲げる順序によって計算することに留意する。(平14課資3−9、平15課資3−2、平16課資3−3、平17課資3−7改正)
(1) 措置法令第25条の9第6項の規定により、株式等に係る事業所得、譲渡所得又は雑所得の金額の計算上控除する損失の金額がある場合には、まず、それぞれの所得ごとに控除する。
(2) 株式等に係る事業所得、譲渡所得又は雑所得の金額のいずれかに、その金額の計算上生じた損失の金額がある場合には、措置法令第25条の8第1項及び第25条の9第5項の規定により、当該損失の金額を他の株式等に係る事業所得、譲渡所得又は雑所得の金額から控除する。
(3) 「特定投資株式の取得に要した金額の控除等の特例」の適用を受ける場合には、当該特例を適用する。
(4) 「特定投資株式に係る譲渡所得等の課税の特例」の適用を受ける場合には、当該特例を適用する。
(5) 「上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除」又は「特定投資株式に係る譲渡損失の繰越控除」の適用を受ける場合には、当該繰越控除に係る譲渡損失の金額を控除する。
(6) 所得税法第71条《雑損失の繰越控除》第1項に規定する雑損失の金額がある場合には、同項の規定による控除を行う。
(注) 上記(1)から(4)までの計算に当たっては、措置法令第25条の8第1項、第25条の9第5項及び第6項の規定により、まず、それぞれの譲渡を次の区分(以下「譲渡区分」という。)ごとに行うことに留意する。
�「公開等」
「特定投資株式に係る譲渡所得等の課税の特例」の適用がある株式等の譲渡に該当するもの
�「上場」
 措置法第37条の11第1項各号に掲げる上場株式等の譲渡(上記に該当するものを除く。)に該当するもの
�「未公開」
 上記及び以外の株式等の譲渡に該当するもの

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

「無職」はキャピタルゲインが事業所得になるのを避けるためか?” への3件のコメント

  1. いつもこのブログを読んで勉強させていただいております。
    ベンチャー企業への共同出資というのは分離課税&必要経費算入可との認識を得ました。
    ところで、上場株式への共同出資というのはどのような扱いになるのでしょうか?いわゆる投資信託を身内にかぎって任意組合方式でやるというものです。
    みたところ分離課税は適用されそうですが、5年以上の投資に該当しないとあれば必要経費算入はできないと見なせるとおもうのですが、どうなるでしょうか?

  2. 匿名組合(商法)において、個人(出資者)の税制は雑所得でしょうか? それとも、株式投資に目的を限定し、5年以上運用する場合、株所得(分離)になるのでしょうか?
    よろしくお願いします。

  3. ブログ楽しく読ませて頂いています。
    質問です。
    組合から、無限責任社員が受ける「成功報酬」は、その社員の所得税では何所得にあたるでしょうか?