西濃運輸とイー・アクセスの企業買収防衛策比較

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(以下、さらっと考えてみただけで、後から調べ直して内容が変わる可能性がありますので、ご注意下さい。)
本日は、西濃運輸さんの信託型企業買収防衛策と、イー・アクセスさんのそれを比較して見てみたいと思います。
これも、先日の「税務編」と同じく、すべて「どーせ実際に発動されることはないんだから、発動後の細かいことはどーでもいいじゃん」ということかも知れませんが。

信託型ライツ・プラン導入のための新株予約権の発行について(西濃運輸)
http://www.seino.co.jp/seino/news/pdf/20050517_news_lights.pdf

スキームを図示すると、以下のようになると考えられます。
image002.gif
両者の条件の概要を表にまとめると、以下の通り。
image004.gif
「SPC型」か「直接型」か
西濃さんは、SPCを使わずに直接、新株予約権を信託する形にしています。
この方式は先日述べたような税務上の違いだけでなく、
・「信託に対して発行」とは言うものの、発行会社が自分で自分の新株予約権を保有する形になるのではないか、という点
・投信法に抵触しないか、という点
などが課題になると言われていたようですが、後者は5月12日の自民党企業統治委員会への金融庁の回答で払拭されましたし、前者も新株予約権は自己株式のような商法上の保有規制がそもそもない上 実際には自分で使えないわけですから、どーでもよさそうです。
西濃運輸さんのリリースでは「当社は、委託者としての地位に加え、受益者としての地位も有しますが、信託財産を構成する新株予約権については何らの権利も有せず、またこれを取得することもありません。」と注釈されています。
「SPC型はSPC設立のコストがかかる」というような説明が行われることがありますが、有限責任中間法人一つ作る正味の設立費用は、せいぜい50万円以下でしょうし、理事等に支払う報酬(決算・税務申告込み)も、せいぜい年間2〜3百万円程度?でしょうから、トータルのコストを考えれば、それほどべらぼうな差があるわけではないと思います。(他にSPC型の場合にかかる何か大きなコストってありますでしょうか?)
コストの差を厭わなければ、スキームをトータルで考えて(イー・アクセス型のままというわけではなくて、ですが)「SPC型」の方が多少いい感じなのかな、という気もします。税務上も、SPC型の方が有利になることはあっても不利になることはほとんどなさそうですし。
「時価発行」か「有利発行」か
イー・アクセスの場合、新株予約権の時価を1円として取締役会の権限で発行し、株主総会でスキーム自体の承認を(任意で)得る形を取ってます。
これに対して、西濃運輸の場合、無償(有利)発行として、株主総会の決議で発行する形をとってます。
どっちでも同じなんでしょうね。どうせ近々開かれる株主総会で了承を得るんだったら、あえて時価発行として取締役会決議で先行して発行するメリットは何かあるんでしょうか?(「買収の危機が迫っていて、一刻も早く防御したい」、というのではないとすれば。)
買収者に交付するかしないか
イー・アクセスの場合、そもそも買収者には新株予約権を交付しないんですが、西濃運輸は買収者を含めて新株予約権を交付し、新株予約権の条件で買収者は新株予約権を行使できないことにしています。
つまり、買収者を新株予約権交付の段階で差別するのか、新株予約権の条件で差別するのか、ですが。
理屈としては、SPC型だと発行会社から資本関係や人的関係が切れている第三者のSPCが新株予約権を交付するので、「その第三者が株主を差別しようがしまいが勝手だろ?」と言えるということなんでしょうか?
直接型だと発行会社と信託とはまだ「へその緒でつながっている」ので、買収者を含めた全株主に交付して株主平等原則っぽい配慮はしつつ、「新株予約権の条件がもともと違うので買収者は行使できませんが、決して株主様自体を不平等に扱っているわけじゃないですよ、てへへ」、という形をとってるということなんでしょうか?
(これも、どっちでも同じ気がしますが、上記のような理由だとすると、なんとなくSPC型の方がブロックが堅くなる気もします。)
付与する個数
イー・アクセスの場合、株主の持つ1株に対して新株予約権1個を交付し、その1個が1.5株を取得可能となっているんですが、西濃運輸の場合、(何個割り当てるのか記述がさらっと見た限りよく読み取れないのですが、発行済み株式数の2倍の個数発行されるところを見ると2個?交付されて)、新株予約権1個が1株を取得可能となってます。
どっちがいいんでしょうか?
また、株式分割等の際の株数の調整ですが、イー・アクセスのは「調整の結果生じる1株の100分の1未満の端数株式は、これを切り捨てるものとする」となっているのに対し、西濃運輸の方は、「調整の結果生ずる1 株未満の端数は切り捨てる」となってます。
西濃運輸の方は、1単元1000株ですから、より細かい調整ができるかというとそうではなくて、例えば1.9分割すると、新株予約権1個あたり発行できる株式数は1.9の小数点未満切り捨てで1株。つまり、実質約2分の1に減ってしまうわけです。だから西濃運輸さんは新株予約権の個数を多めに2倍発行してあって、実際には株主の持ち株1株に対して1個しか交付されないということなんでしょうか?
なぜイー・アクセスは2割払い込ませるのか?
買収防衛策発動後の行使価格ですが、イー・アクセスの場合、時価の5分の1のキャッシュの払込が必要ですが、西濃運輸の方は1円で行使できます。
株主にしてみれば、持株の時価の20%も払い込まないといけないというのはそれなりに負担なはずです。なぜイー・アクセスは、そういうスキームにしたんでしょうか?(有利発行と解されると株主総会決議を経ないと発行できないわけですが、それ以外の理由で。)
買収者は新株予約権をもらえないので議決権比率は薄まるが、他の人が2割払い込んでいて企業価値はアップするので、買収者からの「著しく不公正な発行だ!」等という理由での差し止めが成功しにくいから、ということなのかなとも一瞬思ったのですが、
ただ、先日申し上げたとおり(下記に数式を再掲)、2割の払込があっても買収者の株式の価値は40%以上下落すると考えられますので、「経済的損失が少ないから不公正ではない」ということはいずれにせよ言いにくいんじゃないかと思いますが・・・。
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(そもそも、買収者が経済的に損失を被るようにしないと、買収防衛策としての意味がないはず。)
ということで、2割だけ払い込ませるというのは、なんか中途半端な気がするんですが。
株式自体を交付しちゃうのはダメか?
株主に新株予約権を送りつけて「行使してください(行使しないと、あんたにとって損だよ)」と、なかば行使を強要するというのではなくて、SPCないしは信託が新株予約権を自分で行使して、取得した株式を株主に交付する、というのではダメでしょうか?
ポイント1:原資
2割も払い込ませるというイー・アクセスの方式ではSPCや信託に行使の原資がないから無理ですが、1円で行使できる方式ならSPCや信託に数百万円程度現金を持たせておけばいいわけですから、原資的にはスキーム構築可能なはず。
ポイント2:株主・信託銀行双方の事務コスト
株主にややこしい新株予約権の書類を送りつけても、これだけ複雑な内容だと、「意味がよーわからん」という株主は多いと思われます。(おそらく信託銀行が代行するであろう)事務処理説明窓口(コールセンター)の説明負担とか、想定する電話回線の本数や人員等の体制のコストにも大きく影響しそうです。
株主も、たとえ「1円」であっても、書類を書いたり払い込みしたりしないといけないわけですしね。
税務上も、全付与対象株主の取得時の時価を一つにそろえられるわけですから、翌年2月くらいになって、「税務申告のやり方がわからん」等の質問に対応するコールセンターの説明負担もその分かなり楽になりそうです。(システム上、株主毎の行使日のlookup等も不要。)
ポイント3:苦情対応、一般株主からの訴訟リスク
また、行使しない株主に希薄化を発生させるのが目的のスキームですから、万が一、何かの理由(長期に不在にしていた、郵便物が書類の山に埋まっていた、病気になってどたばたしていてそれどころじゃなかった、等)で期間内に行使できなかった一般株主にも非常に大きな損失が発生しちゃいます。それらの苦情や訴訟への対応を考えただけでも気が重くなりそう。
複雑な数回のやりとりを株主に強いるより、最初から最終的な目的物である株式が送られてくる方が、株主にとっての負担ははるかに楽だし、親切ではないでしょうか。
ポイント4:強制転換との比較
新会社法では、発行会社側から強制転換条項を付けられるようになるようですが、信託型ではニレコ方式と違って、せっかくSPCや信託という一括処理できる主体を使ってるので、現行法下でもそのへんまで気を利かせられる気がします。
(良く存じませんが)、仮処分等の事務手続きとして、バラバラの株主が各自勝手に新株予約権を行使するよりは、SPC等がまとめて新株予約権を行使する方が差し止めされやすい、等の「解毒」の問題に関係するんでしょうか?行使の意志決定者が1人に特定されることで「解毒」されやすくなるんだったら、新会社法で発行会社側から強制転換させるスキームも差し止めされやすそうですが・・・。
ポイント5:税務
税務上も、以下のように株を直接交付しても特に問題ないどころか株主にとってもリスクが抑えられるメリットがあると思いますが、どうでしょうか。
(1) SPCが有利発行の新株予約権の付与を受けた時の受贈益について課税を受けることになるが、新株予約権1個あたりの時価を例えば1円程度と設計しておけば、発生する受贈益は数百万円程度に抑えられ、中間法人の理事等に支払う経費(数百万円)と相殺されて実際には課税はほとんど発生しないはず。
(2) 発動時に新株予約権を行使しても利益は発生しない。それを株主に交付した時に「株式数×(株式の時価−行使価格1円その他1株当たり取得費)」分の譲渡益が発生するが、交付によりほぼ同額の費用又は損失が発生するので、行使してすぐ(同一年度内に)譲渡すれば結果としてSPCに課税は発生しない。(新株予約権の場合の国税庁の見解と同じ)
(3) 受け取る株主側としても、先日触れた「時価にタイムバリューが含まれるのか?」「新株予約権の本源的価値は、希薄化分を調整すべきかどうか」といった、税務上明確でない形而上学論争的リスクを背負わなくて済む。
(行使によって株価は希薄化分の調整を受けるはずなので、譲渡される株式の時価は明確になるはずである。)
前述の通り、バラバラの日程で新株予約権が行使する場合と違って、全株主の新株取得日と取得価額が統一されてわかりやすいということもあります。
マニュアルやQ&Aは作ってあるのか?
いざプランが「発動」した場合の事務手続きマニュアルとか株主からの質問に対するQ&A、送付する手続き解説資料なんかはもう作ってあるんでしょうか?
作ってないといざというときあわてる気がしますし(ただでさえ慌ただしいはず)、一方で、どーせ使わないものをあらかじめ作っておくというのは経費のムダ、という気もします。
「いいとこどり」案
以上をまとめて、両者のいいとこ取りをすれば、
・ SPC型とし、
・ 行使価格→有事には1円、発行価格→無償(時価は1円とか)の「有利発行」として株主総会で決議
・ 有事の際には、SPCまたは信託が新株予約権を行使して行使した株式を買収者以外の株主に交付
というあたりが、(万が一、プランを無視して買収者が一定以上の株式を取得した場合にも)、一番、株主にも会社・信託側の事務処理的にも負担が少ない方式のような気がしますが、どうでしょうか?
(注:この2社以外の信託方式の中身は、まだよく見ておりません。)
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以上、先日の税務編と同じく、「どーせ使わないんだから、使った時の細かいことはどーでもいいじゃん」ということかも知れませんが、ジャスト頭の体操まで。
(ではまた。)

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西濃運輸とイー・アクセスの企業買収防衛策比較” への2件のコメント

  1. 公認会計士・磯崎哲也氏は知っている

    isologue −by 磯崎哲也事務所 December 16, 2004 切込隊長と木村剛氏(元金融庁顧問)の論争に関するエントリに、 「ども。切込隊長です。」と切込隊長からコメントが入る。 >ども。切込隊長です。 (わーい、切込隊長様から返事が来たよー) コメントありがぎ..